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暗黒時代の話です

キャバルを歩いていると声をかけられる。一夜ならぬ一時間ほどですっかり有名人になってしまった。

どこに行くにしても視線とひそひそ声がついて回るし、見知らぬ人から声をかけられる。

道を歩けば視線が俺たちを追ってくるし、凄く落ち着かない。

そんなわけで俺たちはたまらず食事をとることもなく宿に戻っていた。


宿の一室で俺たちは遅れた昼食をとることにした。

幸い、食堂に行かなくても十分な量の蓄えは収納の指輪の中にはある。

それらを取り出したモノをいくつかの皿に乗せるなどして俺は昼食の用意していた。

取りだした食事からは湯気が立ち上っているものもある。『収納の指輪』の力に感謝するべきだろう。


「オズマ、相手の竜騎士というのはどんな戦い方をするんだ?」

食事の用意をしながら俺はオズマに問う。


「竜騎士になれる竜人は私の記憶が確かならば二十四名。

以前、彼の国をさすらったことがありましたが、竜人は人でありながら竜の力を宿しております。

竜力とそれを我々は分類しており、個体によりその能力に差はありますが、魔族と同等の力はあるかと」


「普通の人間が勝つのは難しいか」


「普通の人間ならですね。我々『渡り鳥』のメンバーならば互角以上に渡り合えるかと」

『渡り鳥』の者たちは普通の人間とはかけ離れた力をもっている。

さすがにカルナッハやファイみたいなのが竜騎士にいれば話は別だが。

出来合いのものを収納の指輪から引き出す作業だ。オズマと話しているうちに食事の用意も済んだ。

俺たちは座布団の様なものに座って食事を取り囲んだ。


「食事の前に明日の戦う順番について決めておきたい。順番に対して願望とかあるか?」

俺はゼームスからもらった紙を取り出し、記入し始める。

五つ欄があり、そこに名前を書くようになっている。


「私が先鋒となり勢いをつけましょう」

言い出しは意外にもオズマだった。


「私は二番手だな。オズマ殿のつけた勢いをさらに大きなものにしてみせる」


「二人とも早ええって。じゃ、俺は三番手な」

勢いで次々に決まっていく。俺が反対する理由はない。

そもそも相手の竜騎士について知らないわけだし、作戦など立てられないのだ。


「それなら俺は副将でも…」

三連勝でできれば終わりだが、もし一敗でもすればセリアに手番が回ってくる。

実戦経験のないセリアに戦闘などできることならさせたくない。


「総大将はリーダーが行うべきです」

オズマの声に皆が頷く。皆に押し切られ半ば無理やり総大将にさせられる。

どうやら決定権は俺にはないらしい。我ながらお飾りリーダーだなあと思う。


「それじゃ私が副将ね」

お茶を入れているセリアが言う。


「でもな…」


「大丈夫、私だって私も強くなったんだから」

セリアには自信があるようだ。

セリアと口論になっても勝てる自信がない。


(セリアはやる気だが実戦経験に不安がある。クラスタまでに終わりにするってことで)

俺の目くばせにセリアを除いた皆は頷く。


「ちょっと何を…」

察しのいいセリアは何か気付いた様子。


「こ、この組み合わせで問題ないな」

セリアが俺に話しかけるのを遮り、俺は名前の書いた紙を皆に見せる。


先鋒オズマ

次鋒エリス

中堅クラスタ

副将セリア

大将ユウ


「異議なし」

全員一致で話はまとまる。


「さて、食事にするとしようか」

これ以上決めることが無いし、食事が冷めてしまうのでそのまま食事をはじめる。


「あの男、英雄ゼームスっていったっけ。セリアもエリスも知ってるみたいだけど有名なのか?

あのジャックが敬語だったのにはびっくりした」

食事をしながら俺は語る。あのゼームスに終始振り回されっぱなしだった気もする。


「ああ。英雄ゼームスっていえば大陸東部では知らない者はいないんじゃないか」

エリスは手に串焼きを数本手にしてした状況で答える。


「私は親から伝え聞きいたよ、はいお茶」

セリアはお茶を皆に配っている。


「ありがとな。オズマたちも知ってるのか?」

セリアに礼をいい俺はお茶を受け取る。


「私も名ならば聞いたことならあります」

オズマは骨付き肉を頬張る。


「うーん、俺は知らねえな」

肉まんもどきを口に入れながらクラスタ。


「同じく」

食事をくちばしでつつきながらアタ。

オズマは人間界に居つつ人間社会との接点があったが、

クラスタやアタに関しては人間界との接点は希薄である。知らなくても当然とも言えよう。


「暗黒時代を勇者とともに終わらせた英雄の一人ゼームスっていえば演劇の題目にもなるぐらい。

この間までキャバルの街でも彼のことを題材にしたものを演じてたわよ」


「え、まじ?それは行ってみたかったな」

脚色されているのだろうが、知ってる人間が演劇に出てるとかちょっとわくわくする。


「なら今度一緒に行こう」

セリアはそう言って席に座る。


「ふがふが」

エリスは口に物のある状況で頷く。

行儀は悪いが、いつもの光景ですでに日常の一コマと化している。


「気になってたんだがそもそも暗黒時代ってなんだ?」


「東の大陸から強力な魔物が大挙して押し寄せてそのまま大陸西部

伝え聞いた話では巨大な魔物が何体も飛来し、ここの周辺の大陸の西部に壊滅的な被害与え、

六十年ほどの間大陸西部に居座った。その期間を人間の社会では暗黒時代と呼んでいます」

俺の問いかけにオズマが説明してくれる。


俺は食事をしながら考える。今から五百年前か。

人から見れば相当な年月だが、魔族と言う種族からすれば短い期間。

サクヤは竜王が不在であることを嘆いていた。ならば竜王は元々存在したということだ。

ゼームスとサクヤは関係があるというなら…。


「ひょっとして、竜王がいないのとその辺なんか関係あるのか?」

俺の何気ない一言にオズマとクラスタの食事の手が止まる。


「俺何か変なこと言った?」

俺は慌てて二人に確認する。


「その通りです。暗黒時代という時代が起きたのは五百年前、

竜王リースが狂化し暴走したのが間接的な要因となります」


「狂化?」

これには俺もエリスもセリアも固まった。


「ししょー、いいのか?」

俺の言ったことは意外にも的を射ていたようだ。


「主殿には知る権利がある」


「暗黒時代が竜王リースの狂化が原因だと?初めて聞いたぞ」

エリスは食事をするのを止めてオズマに問う。

エリスが食事の手を止める辺り相当珍しい。


「一から説明しましょう。今いる大陸を含め三つの大陸に人間は存在しているのは知ってますね」


「それは知ってる」

今いる大陸が北にあり東西に伸びており、他の二つはその下に南に東と西に一つずつ。

その周辺にある島々、そこが人間の住む大陸とサルアにいたときにゲヘルたちから聞いている。


「この星にはそれとは別に東と西の大陸が存在しています」

俺は頷く。何となく話題には出ていた。

この星には五つの大陸があってそのうち二つは人間たちの住むことのできない大陸なのだという。


「かつてこの星は竜族のみが住まう星だったと聞いています。

その前に創造主が現れ、竜族に我々も一緒に住まわせて欲しいと頼み込んだと。

その際に竜族の長である竜王は我々を受け入れる代わりに創造主と

大陸の一つは手をつけてはならないという約束を取り交わしたと聞きます。

そのために東の大陸は竜王との原初の契約のため、東の大陸は原初のままの大陸であり、

巨大な竜が闊歩しているといいます」


「それが東にある大陸か」


「はい。そのために東の大陸は不可侵の大陸とされ、人間はおろか神や魔族にいたるまで入れぬ

絶対の不可侵領域になっております」


「へー、なら西は?」


「西の大陸は…瘴気にまみれた大陸であり、怖ろしい魔物が跋扈していると聞きます」

オズマは少しばかり言いずらそうである。俺はその原因は知っている。

『黒の塔』に行ったときファイが西の大陸で魔族と人間との諍いがあったと聞いている。

それが原因で西の大陸から人間たちが逃れてきたと。

オズマは言いにくそうにしているし、今聞いているテーマとは違うので今回はスルーする。


「現在その二つの大陸とこちらの大陸を隔てるために東と西の大陸には

ゲヘル様の先代であるサーラム様が張った結界が張られており行き来できなくなっております。

目的は西の大陸とこちらの大陸を隔離するためです」


「隔離?なぜそんなことを?」


「東と西の大陸から魔物が人の住む大陸にやってくるのを防ぐためです」


「その話だと魔族が人間を護っているということになるが…」

エリスが怪訝な表情でオズマに問う。


「結果的にはそうなりますね。大陸を隔離する結界がなければ西の大陸からやってくる魔物に

滅ぼされていることでしょう」

淡々と怖ろしいことをオズマは告げる。


「なぜそれが正しく伝わっていないのだ?」


「為政者や宗教上の都合もあるのでしょう。魔族を悪者にしておけば何かと都合がいいですからね」

その場にはいない誰かに罪をなすりつけること、それは人間為政者の常套手段である。

『極北』のみに存在する魔族は都合のよい存在なのだろう。


「…今までの常識がひっくり返った気がするよ」

エリスは肩を竦め、再び食事を始める。


「それまで結界は機能し、西と東の大陸は人の住む大陸と分断されていました。

ところが五百年前、ある出来事が起きました。それが竜王リースの狂化です」


「狂化?」


「狂化というのは魔素を摂取し続けたことによる弊害であり

ある日突然狂うという…人間でいうところの病気です。竜王リースはそれに発症し、狂いました。

狂った竜王リースは本能のままにその絶大な力を振るい、破壊をまき散らしました。

竜王の狂化を重く見た神と魔族はお互いに手を取り合い、その戦いに辛うじて勝利しましたのです。

ですがそれで終わりと言うわけではなかったのです。

竜王リースは討伐されたもののその被害は大きく、結界の管理者たるサーラム様が

狂化した竜王リースの手にかかり亡くなってしまったのです」


「…サーラムって結界を張ってる魔族だろ?それってやばいんじゃ…」


「そうです。サーラム様が亡くなってしまったことにより、

東と西の大陸に張られた結界が不安定となり、二つの大陸から強大な魔物があふれ出しました。

東の大陸からあふれ出た魔物は竜族、魔族、精霊たちの手により海上でどうにか駆逐できましたが、

西の大陸からあふれ出た魔物はこの大陸に上陸してしまいました。

それが五百年前のこの世界の人間の言う暗黒時代のはじまりとなったのです」


「西の大陸の魔物はそこまで警戒するほどの相手なのか?」

魔道具とかもあるはずだし、人間たちが一方的に無抵抗にやられるとは思えない。


「話によれば人間たちは一方的に蹂躙されたと聞きます」


「一方的な蹂躙…西の大陸にいる魔物はそんなに強力な魔物なのか?」


「西の大陸には魔力の濃度をさらに濃くした瘴気にまみれた大陸です。

その大陸には我々でも相手にならないほどの力をもった個体が多数存在していると聞きます。

現に五百年前に上陸した魔物は一体で人間の都市をたやすく滅ぼしたと聞きますし、

結界の歪みからやってきた魔物はほんの一握りと聞き及んでいます。

ですがその一握りでも人間界を蹂躙するには十分だったのです」


「伝承ではその魔物の圧倒的な力に魔道具の類も全く通用しなかったと聞く」

エリスは食事の手を止めて頷く。


「この大陸の西部を拠点とする天竜ガラムはあまりの混乱ぶりにそれを嘆き、

それらを倒すために人間の中から一人の男を選び契約しました。それがゼームスという人間です。

後のことはエリスの話通りとなります」

その後、ゼームスは勇者アリエスと協力し、西部にいる魔物を駆逐するに至ることになる。


「…それが五百年前の真相だと」

エリスが複雑な表情でつぶやく。


「そうなります」


「途方もない話だな」


「ええ」

俺の言葉にオズマが相槌を打ってくる。

あまりに話が大きくて実感は湧かないが、ただ納得はした。

ゼームスが六十年にも及ぶ災害に終止符を打ったならば英雄とあがめられるわけだ。


話し終えたところでコンコンと部屋をノックする音が聞こえてくる。


「いいよ、俺が出てくる」

俺は立ち上がろうとしたオズマを押しとどめる。

誰から来たのかは心当たりがある。ゼームスから戦う場所が決まったら知らせると言われている。

おそらくそれだろう。


俺が部屋のドアを開けるとそこにはリティさんがいた。

リティは一瞬だが俺を見てびくっとした。


「食事中すみません。ぜ、ゼームスから書状です」


「ありがとうございます」

リティは俺にそれを俺に渡すとそそくさと去って行った。


この間からリティさんからはなにか怯えられてるっぽい。俺は何かしただろうか。

少し落ち込みながら俺は渡された手紙を開く。それを見て俺は眩暈を感じた。


「闘技場…嘘だろ?」

ゼームスの指定してきた場所は俺の予想の斜め上をいった場所だった。

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