巻き込まれました
俺たちはギルドの接客室に隔離されていた。
ギルドの待合室には『渡り鳥』のメンバーが全員揃っている。
竜騎士たちが去った後、俺たちは街で好奇の目にさらされることになった。
ある者は俺たちに質問を投げかけ、ある者は握手を求めてくる。
収集がつきそうにならない騒ぎになりかけたとき、冒険者ギルドと衛兵たちが介入して騒ぎを収める。
それでどうにか騒ぎは収まったものの、
俺たちは当事者ということで冒険者ギルドの接客室に隔離されてしまっていた。
当初、衛兵たちが連行し、事情を聴くという話もあったが
そこはゼームスとジャックが話をうまくつけてくれたらしい。
俺は遅れてやってきたオズマに今まで起きた経緯を話していた。
セリアはエリスと何やら話し込んでいるし、
クラスタとアタは窓の近くまでソファを持っていき寝そべっている
ちなみにゼームスはサクヤを連れてどこかにいってしまっている。
「そんなわけだ。
話を聞き終えたオズマは俺に向かって頭を下げてきた。
「申し訳ありません。まさか私のいない間にそんなことになっているとは…私が残ってさえいれば」
オズマは俯き、眉間にしわを寄せ、申し訳なさそうにしていた。
「オズマのせいじゃない。成り行きだよ」
『魔眼』の疑いをかけられたのも、セリアが攫われたのも俺の考えの甘さが招いたことでもある。
オズマがいてくれればもう少しうまく立ち回れていたかもしれないが、もう済んだことである。
すべて後の祭りだ。
「ですが…」
「とにかく済んだことだし、結果的にすべて丸く片付いた。この話はここで終わりだ。
それでオズマの方は終わったのか?」
幾らなんでもオズマがここまで早く戻ってくるのは不自然だとは思う。
プラナッタの案件がこんなに早く解決するとは思えない。
「実は…」
「よう、待たせて悪かったな」
オズマが何か言いかけたところでゼームスがジャックとリティを連れて待合室に入ってくる。
その気さくに話しかけてえ来る様は、先程の竜騎士たちに対する威圧的な態度が嘘のようである。
「サクヤは?」
「サクヤは俺の知ってる宿に泊まってもらうことにしたよ」
「大丈夫なのか?」
サクヤに何かあればあの五人と七匹の竜が黙ってはいないだろう。
「安心しろ。このキャバルで最も安全な場所を選んだ。
万一サクヤに何かあれば東の竜王国に喧嘩を売ることになるしな」
最も安全な場所ってどこだろう。
俺はこの時ゼームスなら隠れた宿とか知ってそうだなと安易に考えていた。
「竜王国?」
初めて聞く名である。
「サクヤの出身地だ。この大陸の東の果ての島国にその竜王国はある。
竜王国には今は竜王がいなくてもそれに次ぐ四界竜が存在する。
こいつらは一体一体が上位神にも匹敵する力を持っている。そんなのが四体いる。
さらに数は少ないが一騎当千の竜を何頭も抱えていると聞く。
そんな国に喧嘩を売ったのなら人間の国なんぞあっと言う間に焦土だ。
ま、実際のところ、お宝目当てに侵略を仕掛けようとと船団を組んで戦いを挑むも
一晩で船団はすべて海の藻屑になったという話もあるぞ」
俺は思わず喉を鳴らす。
上位神に匹敵って…いろいろと半端ない。
「大丈夫なんですか?」
「俺も先代の竜王には世話になったし、互いに争うようなことにはしたくねえ。
俺なりにできるだけ丸く収めるようにしたい。そのためにもあんたらには協力してほしい」
ゼームスの言葉に俺たちはそれぞれ無言で頷く。
元々逃げつもりはないし、事を荒立てる気もない。
良くも悪くも俺がきっかけになってるみたいだし、いろいろと巻き込んでしまった感が半端ない。
「ま、一番の解決法はあんたがサクヤ姫と結ばれることなんだが…」
「…それはちょっと」
俺は固辞する。そもそももう俺には時間が残されていない。
結ばれたとしても後二年後には俺はこの世から消えている。
「断る理由が正直俺にはわかんねえな。
まだ少し若いがあんなにきれいな女性と結婚できるってのによ?」
ゼームスの言葉に俺は押し黙る。
ゼームスにはこちらの事情は話せない。
言えば自身が魔族であることや女神の呪いのことまでしゃべらなくてはならなくなる。
話しても信じてくれるとは限らないし、信じられても危険物扱いになるだろう。
迂闊なことを言わないためにも口を閉じておくに限る。
ゼームスは俺の背後を見て、何か察したような表情になる。
「もし後ろの二人に気を使っているのならカタチなりとも王族だ。
結婚後側室とか第二夫人とか抜け道はいくらでも…」
「な、なんでっそういう話になるんです」
「わ、わひゃしはそういうのではな、ない」
セリアもエリスもゼームスの言葉に顔を赤らめ大声で反論している。
ちょっとは好意を寄せてくれてもらえてるかなとか淡い期待もあったが。
ここまで強く反対されると俺としては結構ショックではある。
「そういうのではなくてですね…」
「ま、そんな気はしてたけどな」
「…どうしても勝負しないとまずいですか?」
俺としてはなるべくならば戦闘は避けたいというのが本音だ。
「勝負に持ち込んだのは竜族古来からの作法だ。
竜王国の戦士連中は最後は決闘とかそう言った手段で白黒決めるのを好む傾向がある。
もう相手も承諾済みだし諦めるんだな」
その言葉を聞いて納得はできないが納得するしかない様子。
「よく知ってますね」
「そりゃ、前にガラムがちょくちょく遊びに行ってたからな」
ゼームスは天竜ガラムというドラゴンと同化しているという。
後で知るがそれは演劇の題目になるぐらい有名な話だという。
「ガラムってドラゴンですよね。失礼ですが、同化しているのは本当ですか」
セリアがゼームスに話しかける。セリアにとって興味があったらしい。
「ああ」
「同化するってどんな感じなんですか?魔法使いとして興味があります」
セリアが目を輝かせながらゼームスに質問する。
「うーん、初めのうちは衝突したりしてたけど、最近は二人で一人って感じになってるな。
互いに互いの領分は知ってるし、無理には踏み込まないようになるしな」
「なんか長年連れ添った夫婦みたいですね」
「はは…あいつと夫婦か…あっちもオスなんだが」
セリアの言葉にゼームスは複雑そうな表情を浮かべる。
ここでジャックが手を上げる。
「ゼームス、話を戻しますが、私も戦闘をすること自体反対です。
冒険者ギルドは魔物を倒すための組織と定義したのはあなたでしょう。
それにユウ君たちは仕事を終えてきたばかり、
そんな彼らに人前での戦いを強いることには賛同しかねますね」
ジャックは納得してない様子。
俺はジャックを仰ぎ見る。少しだけ戦闘回避の希望がでてきたことに俺は内心小躍りする。
「ジャック君。こっちへ」
ゼームスは手招きし、ジャックと部屋の隅で何やらひそひそ話を始める。
「ジャック君、オークの一件とかいろいろ臨時の出費がかさんでるだろ。
ここいらで一発大金を手にしたくないかね」
「…ええ、まあ」
ジャックは歯切れが悪く返事する。
オークの大量発生で人を集めるためにかなりの金額をばらまいている。
「竜騎士と新進気鋭のAランクなんてカードめったにない好カードだ。
娯楽に飢えた民衆なら飛びつきそうなネタじゃないか。
そんな賭け試合を冒険者ギルドが仕切ればすれば、
ギルドの当面の資金不足解消にもつながるんじゃないのかね」
ごにょごにょとあくどい表情でゼームスがジャックに囁いている。ちなみに俺は聞こえない。
しばらくジャックはゼームスと話しこんだ後こちらに戻ってくる。
「そうですね。私の依頼を受けたのもユウ君とエリスさんの二人ですし、
二人は目立った外傷もありませんし、三日ほどの休養を取っています。
あとは本人たちの意志次第ですが」
ジャックはちらりとエリスの方を見る。
あれ?ジャックさんの言っていることが違う。
「大丈夫だ」
力強くエリスとクラスタ。
…そう言うと思った。
「それじゃ。俺たちはこれで。業務も滞っているので」
ジャックが退散したら誰がこの流れ止められるの?
「ユウ君、健闘を祈る」
ジャックはそう言って俺の肩をばしばし叩き、にこやかに俺にとどめを刺す。
そして、リティを連れて部屋を出ていった。
「リティ、Cランク以下の冒険者をありったけかき集めるぞ」
廊下からジャックの気合の入った声が聞こえてきた。
ゼームスさん、いったい何をジャックに吹きこんだのか。
「他に反対する奴はいるか?」
にこやかにゼームスは俺たちに向けて問いかけ見渡す。
ジャックがあっち側になってしまってもう戦闘を回避することはできなくなったことを俺は悟る。
「いないな。なら具体的な勝負方法について決めようか。
五番勝負で三本取った方が勝ち。制限時間は無し。
武器は生物以外なら何でもあり。勝負はどちらかが戦闘不能もしくは負けを宣言するまで続ける。
順番を書いた紙は直前に俺が預かる形にする」
「私から一ついいか?」
「なんだ?」
「生物以外ということは竜騎士相手にドラゴンに騎乗することを禁ずるのか?」
エリスの一言に俺はぎょっとする。
俺はエリスなら騎乗するように相手に言い出しかねないことに気づいたからだ。
え、エリスさん?まさかドラゴンと竜騎士両方相手取るつもりですか?
「当然だ。二体一になるし、フェアじゃねえだろ。そもそも人間が空を飛べる連中にどうやって戦うと?
竜騎士の連中もその辺は当然汲んでるだろうよ」
ゼームスが断言してくれたことに俺は胸をなでおろす。
やはり対空戦になると不利な状況は否めない。
「本物の竜騎士と戦えると思っていたが、少し残念ではある」
エリスはしぶしぶながらあきらめてくれたようだ。
「安心しろ。竜族は竜の血を引いている者たちのことを指す。
竜騎士となれば竜族の中でも相当な実力者でなければなれねえ。
力を色濃く受け継いだ者が多いって話だ。少なくともあんたの期待を裏切るものではないだろうよ。
どうしても納得がいかないっつうんなら終わった後で個別に戦いを申し込めばいい」
「ああ。そうだな」
「他にあるか?」
ゼームスが俺に向けて話しかけてくる。
「場所はどこです?」
俺はゼームスに問う。
「場所は今俺が手配をかけてる。近くだが少し人目がある場所になるぞ」
ゼームスさん、仕事早い。
「うーん、できれば人目があるのは…」
俺が懸念したのは人目のある場所では全力が出せないことだ。
特に俺やクラスタ、オズマは魔族であり、
俺はもともと身体スペックが異様に高いし、オズマは武術の達人でもあるから心配はないが、
クラスタに関しては身体的な能力は人よりも強いぐらいであり、
武術と言う点でも最近オズマに習い始めたばかりである。
事実、この間見知らぬ相手にぼこぼこにされている。今回の相手は竜騎士という未知の相手でもある。
そんな相手に切り札となる魔力が使えないのは致命的である。
できることなら魔力を使えなくなる状況は避けたいというのが本音だ。
「撤回はされたが『黒の塔』から『魔眼』使いの疑いがかけられた経緯もある。
Aランクにいきなり上がったんだ。ギルド内にも多少の不満が渦巻いてるだろ。
その払拭のためにも皆の前で実力を示すいい機会だと俺は思うぞ」
「たしかに…」
ゼームスの言うことにも一理ある。俺たちはジャックの推薦により、Aランクに昇格した。
他の冒険者たちはそれを快く思わない連中も多いだろう。
その上、『魔眼』の疑いも『黒の塔』からかけられている。
その払拭と言う点でこの話は都合がいいと言っても過言ではない。
「だろ、あんたらにも少なからず利はあるはずだ」
ゼームスの考えはわかる。
「わかりました。それでいいです」
俺は観念し白旗を上げる。半分投げやりだ。どうしても戦う以外の選択肢はなさそうだ。
ゼームスは俺たちに順番を記入する紙を手渡してくる。
「ちなみに場所は今調整中。決まり次第連絡することにする」
冷静に考えてみればこちらにも利はある。
『魔眼』の一件を払しょくするためにも力を見せるのはありかもしれない。
俺は前向きに考えることにした。
「じゃ、俺もいろいろと話つけてこなきゃなんねえからここで。
場所は決まり次第、宿に連絡すっから。じゃーな」
ゼームスは窓に足をかけて手を振ると、窓から颯爽と飛び出て行った。
「…あの人、当然のように今窓から出てったぞ」
「英雄ゼームスは天竜と同化していると聞く。
そのために魔法使いなどより早く空を翔けられるそうだ」
「へー」
そういう規格外が俺だけじゃなくてちょっと安心。
普通に飛んでも奇異の目で見られない点に関しては少し羨ましい。
「なんか嵐のような人だったね」
セリアが呆気にとられてこぼす。
「だな」
俺は振り返り皆に顔を向ける。
俺はゼームスと言う冒険者ギルドきっての問題児を全く理解していなかった。
なぜここでもっと強く抗議しておかなかったのか。俺は半日後、ひどく後悔することになる。
「みんな、俺の事情にみんなを巻き込んだみたいですまない」
俺は皆に向けて頭を下げる。今回の騒動はそもそも俺が発端になっているっぽい。
「いいや。あの伝説の竜騎士と戦えるとは心躍る」
エリスは物騒な闘気を体から立ち上らせている。
「腕が鳴るぜ」
クラスタは指をぽきぽき鳴らす。
エリスとクラスタはいつも通り闘志をみなぎらせている。
「私もがんばる」
セリアは張り切っている様子。セリアに関しては不安しかないが。
俺はいい仲間に恵まれたと思う。
「どうしたオズマ?」
俺はぼおっとしているオズマに声をかける。
「あ、私も良いと思います」
オズマは心ここに非ずと言った様子である。
「主殿。この一件が終わったら少し話したいことが」
オズマは真剣な表情で俺に言ってくる。
「?わかった」
オズマの抱えている一件がどれほど重いことだったのか。
それを知るのは竜騎士たちとの戦いを終えてからだ。




