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彼女の言い分です

「よう」

キャバルの冒険者ギルドの執務室、窓からゼームスがジャックに向け声をかける。


「ずいぶんと早いお帰りですね」

ジャックは振り向くことなくペンを走らせる。


「今の時間、正面から来るといろいろまずいだろ。有名人はつらいところだぜ」

ゼームスは『星見』を手で転がす。

『星見』は緊急用でAランク以上の冒険者の居場所を特定する道具である。

有事の際にAランクの居場所を知っていなければ対処できないためだ。

そのために冒険者ギルドは大きな支部には必ずと言っていいほど一つは置いてある。

本来なら目の飛び出るような高価な代物であるが、ゼームスはそんなこと気にしていないようだ。


「『星見』の返却だけで仕掛けた罠を解除されるこっちの身にもなってください」


ジャックのところにゼームスがやって来たのは昨日だ。

プラナッタに向かったはずがどういうわけか『星見』を借りたいとやって来たのだ。

プラナッタから一番近いキャバルに来たのはわらなくはない。

ただ、ゼームスが『星見』を使うとなれば目的は大方の予想はつく。


「それでオリシアはどうでしたか?」


「奴は今回使えない。奴を除いた九人でことにあたることにする」


「『十天星』が九人?国家を滅ぼすつもりですか?」

ジャックはゼームスの声にペンを止め、振り返る。

ゼームスの表情は真剣そのものだ。Sランク冒険者は一人でも国の一軍にも匹敵すると言われる存在だ。

それを九人も集めるというのは前例がほとんどない。

記録に残っている『偽帝』の討伐でも六名である。


「ある意味でそう言える。プラナッタの件、少々まずい段階まで来ているようだ」


「はあ…」

聞かなければよかったとジャックは後悔する。


「そう言えば『黒の塔』がなにやらやらかしたんだって?」

ゼームスはにやにや笑みを浮かべながらジャックに問う。


「どこからそれを?」


「あれだけ騒げば嫌でも俺の耳に入ってくるさ」


「ファイが『渡り鳥』のリーダーのユウが魔眼保有者かもしれないという疑いを利用し、

『渡り鳥』の魔法使いを保護と言う名目でさらったのです」

ゼームスはそれを聞いて危うく『星見』を落としかける。


「そりゃ、一大事じゃねえか。『渡り鳥』の連中無事か?」

ゼームスは少しだけ驚いた素振りを見せる。


「一大事も何もあなたがいない間にすべて解決しましたよ。

『黒の塔』から正式に訴えを取り下げると連絡が来て終わりです」


「ファイが訴えを取り下げた?嘘だろ?あのプライドの塊が…」

ゼームスは驚愕の表情をした後、腕を組み、ぶつぶつと独り言をつぶやく。


「あなたでもそんな顔をする時があるんですね」

ジャックはゼームスとは長い付き合いだが、こんなにゼームスの驚いた表情は見たことはない。

ゼームスは窓枠から降り、ソファに腰を下ろす。


「…その話、詳しく聞きたい」




「ユウ、何か言い残すことはあるかな?」


「嫁を拾ってくる節操なしだとは思わなかったぞ」

背後からは二人から殺気交じりの視線を向けられている。


俺もわかりません。


通りの人間からはロリコン認定されている。

俺は今すぐここから逃げ出したいところが、両脇をがっちりホールドされているために逃げ出せない。


「あの何で俺、こんな状況になっているんですか?

そもそもあなたとは初対面のはずでしょう?人違いじゃないんですか?」


「人違いではありませんし、初対面でもありません」


「それならいつあなたと私は会ったのでしょう?」


「半年前。思えばあの出会いは衝撃的でした…」

倒錯的な表情で美少女は語り始める。

俺がこの世界にやってきた時と合致する。ただこんな美少女と出会った記憶など断じてない。

そもそもこんな美少女と出会っていたら絶対に忘れない。


「…げっ、黒竜姫サクヤじゃねえか」

後ろから覗いたクラスタが声を上げる。


「サク…」

アタの口を俺は咄嗟にふさぐ。

こんなに人目のある場所でカラスの姿でしゃべられるのは勘弁してほしい。

喋るカラスなど混乱に油を注ぐようなものだ。


「おや、あなた、ネイアさんのところの連れですね」

どうやらクラスタとサクヤは顔見知りの様子。

ネイアと言う名は魔族の六柱の一人であり、俺に『天の眼』をくれた魔族である。

ネイアさんの名前が出てきたことで俺は察する。なるほど、これは魔族関連のネタらしい。


「場所を変えよう。ここは人目があり過ぎる」

というか俺に対する周囲の視線が痛い。とても痛い。

何を言われているのかは大体察しが付く。最近こんな役回りばっかりだ。



俺たちはサクヤを連れて人通りのない路地を進む。

両脇のエリスとセリアは離れてくれそうにもない。

セリアの方は…置いておいて、エリスの方は柔らかな胸の感触が伝わってくる。

エリスって意外と…。


俺は煩悩を振り払い、移動中クラスタに小声で問う。

「クラスタ、彼女のことを知ってるのか?」


「黒竜姫サクヤって言えば竜王の愛娘。元魔神の一柱で、竜王といえば魔神の六柱と同格の存在です」

クラスタの方に乗るアタが説明してくれる。


「ま、七柱目だな」


「…七人目っていたのか」

あの魔族の六柱にはもう一人いたらしい。


「ああ。うちら魔族の取りまとめ役はもともと七人いてそのうちの一人。

竜王のおっさんは精霊側にも顔が効いたし、神の園に発言権をもつ調停者だったんだが、

五百年前…ちょいとな。それで今空座になってるわけなんだが」


「…これは六柱の誰に相談すればいい?」

目下、最大の問題である。この話はどこに持っていけばいいのか。


「うーん…わかんねえな…」

クラスタは考え込む。


「そうなのです。現在竜族には竜王が不在なのです」

気が付けばサクヤが俺の背後にやってきていた。

少しびっくりしつつ、人目もなくなったので俺は足を止めてサクヤに向き合う。

サクヤはそこでゆっくりと語り始める。


「現在、精霊たちからの話では日に日に『極北』への不満は高まるばかり。

もちろんそれは一方的な言い分であり、根本的な原因は神と魔双方、

双方をつなぐ存在が欠落しているためでもあると私は考えます。

それというのも原因は五百年の長き間、竜王は不在となったためです。


竜王は神と魔の両方を兼ね備える存在。従来より創造主よりその役割を任されてきました。

ですが現在竜王の座は空座となっております。

このまま調停者の居ない状況が続けばいずれ神と魔の対立の溝は深まり、戦うことになりかねません。

世の安寧のためにも竜族の七柱目の復権が一刻も早く望まれているのです」

サクヤは徐々に会話のトーンを上げていき、最後はぐっと拳を握る。

なんかめちゃくちゃ話のスケールが大きくなってきたぞ。

それにゲヘルたちが横暴とか…間近であっている俺からは想像つかないんだけどな。

奴等は奴等なりに筋を通してるだけだ。話し合う機会がないのが原因だと思う。


「あんたが竜王じゃだめなのか?」

俺の問いにサクヤの表情がかげる。


「竜族の中で竜王を名乗れるのは黄竜のみ。…私では竜王を名乗れません」

サクヤの表情から彼女が苦悶してきたことが読み取れた。

力にはなってあげたいとは思う。


「…それで何でユウなの?」

俺の横にいるセリアが声を上げる。


「私ははじめて会った時、あなたに投げられそれにふさわしい力を兼ね備えていると感じました。

私の伴侶はこの方しかいないと」

頬を染めながらサクヤは俯く。投げられた?記憶に全くないのだが。

俺はいつこんな美少女を投げたという。


「直感?…それにしても投げたって…」

じとめでセリアが俺を見てくる。


「人違いじゃないのか?あんたを投げた覚えはないぞ?」


「いいえ、人違いではありません。その内から放たれる力。あなたで間違いありません」

サクヤは俺を見て断言する。その瞳には迷いが感じられない。

この間の双子の時もそうだったが、魔族関連には人を特定する能力とかあるのかもしれない。


「あんたの力になりたいとは思うが…旦那様はちょっと」


「…でしたら私と子作りを」

頬を赤く染めてサクヤ。


「おいっ」

そういう結論になるのかい。


両脇からはセリアとエリスの殺気の籠った視線を二つひしひしと感じる。

両脇を見るのが怖い。ここで同意してしまったら違う意味で俺の寿命が縮まる。

修羅場。まさにその言葉通り。


「私では…その…ふさわしくないでしょうか」

泣きそうな顔でサクヤは俺に詰め寄ってくる。

この相手の場合、下手に気を回すよりも直接言った方がよさそうだ。


「ふさわしくないとかいう以前にそういうのは好き会った者同士でするものだろう。

少なくとも俺はそう考えている。あんたは見ず知らずの男と結ばれるとなかいいのか?」


「私はサクヤという個である前に竜王の娘です。私個人の感情など問題ではありません。

物心ついたときより覚悟しております。私はそのために今まで生かされてきたのです。

旦那様が望むのであれば私は愛人でも側室でも構いません」

エリスとセリアに視線を向けるサクヤ。

サクヤからは全くと言っていいほど身を引くという気配は欠片も感じられない。

一途と言うか、思い込みが激しいというか。


本来ならばこんな美少女に好かれて喜ぶべきところだが、サクヤの言葉に俺は少しだけいらっときた。

自分の居た世界の在り方とあまりにもかけ離れていたからだ。

こんないたいけな少女にそんな覚悟させねばならないしくみが気にくわない。

これではまるで生贄ではないか。


「だ…」

俺が何か言いかけると、通りの方から悲鳴が聞こえてくる。


その日、数匹の竜がキャバル上空に飛来した。

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