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後処理です

「それにしてもすごい手際だな」

ジャックはただ感心していた。

一時間も駆けずにオークの集落を殲滅してしまった。


「仲間の力が凄いんですよ」

俺はそう言って愛想笑いをしつつ確認する。

『天の目』を使ってみたが周囲三キロにオークが残っていない。

二次被害の恐れはなさそうだ。オークの討伐はこれで完了と見ていいだろう。


「大丈夫そうだな…」

そう言って俺は『ルート』から手を離した。俺は壁で囲まれた村の跡に向かって歩いていく。

残っているのは後処理だ。このままオークの死体を放置しておくことはできない。

もし放置しておけば周囲の動物がその亡骸を食し、より強力な魔物が出現する場合もあるし、

また体内に留まっている魔素によりアンデット化する可能性もあるという。


「セリアは…」

俺は俺の横を歩いていくセリアに語りかける。


「いつまでも私を半人前あつかいしないで」


「…わかった」

出来ることならセリアにはこういう現場には立ち入ってほしくなかった。


俺は集落に足を踏み入れる。虐殺でも起きたのかというぐらいオークの血で赤く染まっていた。

噎せ返るような血の匂いが辺りに立ち込めている。

四方を岩の壁で覆っているために空気が留まっているのだ。

少しだけ嘔吐感を覚える。人間の躰だったら間違いなく吐いていただろう。

セリアが心配だったがどうやらそれは杞憂だった様子。

もともと料理で魔物の肉はかなりの量捌いている。


村の家々はぼろぼろになっていた。オークの死体とは別に白骨が散らばっている。

人間のものか家畜のものか判別しにくいが、オークの食糧にされたと思われる。

周囲には鍬などが落ちているものもあり、村人が抵抗した後も見て取れる。

あまりにひどいありさまだと思った。

俺は供養のために白い骨に向かって手を合わせる。


「珍しい弔い方だな」

ジャックが俺の背後でつぶやく。


「俺の故郷の風習です」


「…放置しておけばもっと被害が増えただろう。倒してくれたことに感謝するよ」

そう言ってジャックは奥に歩いていく。


「…第一級隔離指定生物か」

その惨状をみて俺はつぶやく。

前世の世界でも動物が人間に危害を与えたというケースは確かにあるが、

これほどのものは中々存在しないだろう。俺は改めてここは異世界なのだと実感する。


「…それにしてもこれから行う後処理のことを思い少し憂鬱だよ。

ただ、これだけの量集めて燃やし尽くすとなるとかかなりの骨だな」

苦笑いをしながらジャックが言う。


「それなら大丈夫ですよ」

俺は事も無げに言う。


「大丈夫?」

言っている意味が解らずジャックは首をかしげる。


「セリア、オークは食用に使えるか?」

俺は立ち上がり、セリアに聞いてみる。


「肉は筋肉質ばかりでかなり硬いかな。野生の獣の方がまだましって聞くわ。

オークの肝は酒漬けにつかえるとか本で読んだことはあるけど…」


「うん、それは止めよう」

俺は断言する。男性陣は皆一様に頷く。

人間と同じ二足歩行の動物から肝を切り離すとかちょっと嫌だ。


「ジャックさん、売れる部位とかあります?」


「…うーん、魔石以外にはないな。しかし、そんなこと考えている暇ないぞ?」

目の前にはオークの死体が所狭しと倒れている。

これからこの死体の山を処理しなくてはならないのだ。


「これから見ることは他言しないでもらえます?」


「ああ…」

ジャックは俺の言っている意味が解らない様子。

この人、口は堅そうだし、見られても別にいいだろう。

どうせここはただの通過点に過ぎないのだから。


「この一帯にある魔石を収納せよ」

収納の指輪が輝く。オークたちに入り込んでいる魔石を回収出来た様子。

収納の指輪は魔物の死体を物と判断する。

あの食器と同じように体にある物だけを取りだすことは十分に可能である。


「よし、かなり手に入れられたみたいだな」

魔物たちがもつ魔力の結晶の魔石は魔法に使える。

俺たちのパーティで魔石を使うのは俺とセリアのみである。

これだけの魔石を手に入れれば魔法に関してはしばらくは困ることはないだろう。

その上、魔石は売るにしてもかなりの額で売れる。取っておいて損はないのである。


「なんだ?何をした?」

ジャックは何が起きたか解らない様子。


「オークたちの死体を収納せよ」

その一言にパッとオークたちの死体が消え失せる。


「この場所にオークの死体をまとめて出せ」

山のようなオークの死体の山が積みあがる。

ジャックは言葉も出ない様子。ただ茫然とこちらを見ている。


「収納の指輪は本来、普通武器や食料を入れるモノのはずだ。

しかし…これは…効果範囲も収納量もあまりにかけ離れ過ぎている。

もう別物だと思った方がいいのかもしれないな…」

ぶつぶつとジャックは呟いている。


「セリア、これ任せてもいいか」


「任せて」

セリアが詠唱すると火柱が立ち上り、オークの死体を焼き尽くした。


最後に俺は穴を掘り人間の骨を集め、墓を作る。

人骨はかなり広範囲に散らばっていた。

収納の指輪の力を借りなければ集めるのは困難だったかもしれない。


「これで少しは供養になるといいんだが…」

俺は作った墓の前で手を合わせる。


「ユウ殿はなんというか…律儀だな」

横でエリスが感心している様子。


「エリスは無駄とは言わないんだな」

俺は穏やかに微笑む。ちなみにクラスタからは無駄と言われている。


「いや、死んだものに対する敬意を払うのは当然のことだ。

そ、その在り方はとてもこ、好ましいとも思うぞ」

最後照れながら言ってくるエリスさん。


「ありがとう」

俺は素直にその感情を口に出した。


「そ、それとだな。今回は私の我儘を聞いてくれて…か、感謝する」


「気にするな。仲間だろ」

俺の一言にエリスはしばらく呆然とした後、顔を真っ赤にして俯く。

エリスのこういう不器用なところは可愛いと思ってしまう。


「あー、エリスばっかりずるい」

セリアが口をとがらせる。

セリアさん?何がずるいのか全く分からないんだが?


「わ、私は別に…」

セリアとエリスの口喧嘩がはじまる。いつもの日常がそこにはあった。

なんだかんだ言って二時間ほどですべて片付いてしまった。まだ日もあるし、少し移動できる。

さすがにオークの血の海のクタの村跡で野宿するとかちょっと嫌だ。


「いろいろと聞きたいことは山ほどあるが…」

ジャックをオズマがギロリ睨む。何も言わせない様子。

…番犬ですかね?


「助かったよ」

ジャックは考えることを放棄し、記憶の奥底に封印した様子。

ギルドマスターとなる人はやっぱり話が通じるね。

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