黒髪の美少女と出会いました
冒険者ギルドの執務室。
俺の両脇にはエリスとセリアが座る。
俺の目の前にはジャックがこちらを覗き込むように見ている。
まるで何かの面接の様な息苦しさを感じる。
「ふー。とにかく『黒の塔』はユウ君への『魔眼』の疑いを取り下げてきた。
ユウ君はどうやって取り下げさせたんだ?」
「さあ?」
ジャックは前のめりになって俺に聞いてくる。俺は笑ってとぼける。
ここでとぼけきれるかどうかが人間界に残れるかどうかの正念場と言ってもいい。
俺はいろいろとまずいことを行っている。
先ずは飛行魔法。セリアによれば飛行の魔法は不安定なモノらしく、高所の移動には適さず、
速度も熟練した魔法使いでも馬と同じぐらいの速度なのだとか。
ここから黒の塔までの距離は直線距離でざっと見て二百キロ以上はある。
それを俺は一時間足らずで行き来した。馬の速度ではなく、飛行機の速度である。
この世界の文化レベルではまずありえない。
次に『黒の塔』攻略。それに対しては言うまでもない。
『黒の塔』はうまくもみ消してくれただろうか。
少なくとも殺人はしてなかったはずだからもみ消すのは容易なはずだ。
ただ俺たちに他の嫌疑をかけてきたりはしないか、その点が少し怖い。
ギルドの手は長く広い。サルア王国の辺境にすらその支部があったのだ。
当然、人間界のほぼ至る所にその支部はあるだろう。
もし冒険者ギルドのブラックリストにでも載ってしまえば、人間界の大部分へ行くことは厳しくなる。
ほとぼりが冷めるまで待つしかないが、俺の寿命はそんなに残されていない。
もし魔族だとばれれば人間界での活動は文字通り終了、チェックメイトだ。
『極北』の地で魔族たちと暮らすことになる。
もちろん人里から離れて逃げ回る様に旅をすることもできるだろうが、それはそれで違っている気がする。
「…問い詰めたいことは山ほどあるが、結果だけ見れば最良の結果になったともいえる。
この件、俺は何も知らないし、関与していなかったとする」
緊張した面持ちの俺に向かって、ジャックは疲れたような表情でそう言ってきた。
つまりは今回の一件は闇に葬るということで決着したようだ。
俺は安堵する。こちらとしてはもっとも望んだ結果でもある。
実際に全容を話せばジャックが卒倒しそうな内容である。
ところでジャックの背後にいるリティさんが俺に対してどこか怯えた様子なのは気のせいだろうか。
あまりこのことについてジャックが首を突っ込まなかったのは、
下手に事実を知ってしまうと『黒の塔』を敵に回すことになりかねないというジャックなりの考えもある。
何かあったのはわかるが『黒の塔』はこの件について早々に幕を引こうとしている。
奴等の手は広く長い。睨まれるだけで仕事がしづらくなる。
またユウという存在を冒険者ギルドから手放すというのも大きなマイナスだ。
旅をして気付いたことだが、ユウと言う存在が『渡り鳥』の要となっている。
オズマは言わずもがな、エリス、クラスタ、セリアのそれぞれはユウとの結びつきが強い。
要が無くなれば分裂は必至。
冒険者チーム『黒豹』と渡り合えた事実を考慮すれば、
冒険者チーム『渡り鳥』の戦力は現状で少なくともAランクでは上位に位置すると判断できる。
冒険者ギルドは魔物を討伐するのが本来の目的である。
その目的のためにも多少の眼は瞑ってもいいかとジャックは考える。
諸々の事情によりこの話は知らないほうがいいとジャックは判断した。
ジャックは元の職業柄上そう言ったことからは一線を引くという考え方をしている。
「セリアちゃん、すまなかった。結果的に俺は君に何もしてやれなかった」
ジャックはすまなさそうにそう言ってセリアに対し深々と頭を下げる。
「いえ。今回は相手も相手です。それに本来なら私がどうにかするべき話でした。
気になさらないでください」
ユウは思い返す、今回の発端はおそらくイーヴァの一件が発端になったのかと思われる。
俺たちが『黒の塔』と初めに接点を持ったサウルス・リザードの討伐。
あれの時にファイに目をつけられていたのだろう。
それで『黒豹』との衝突により発覚した『魔眼』の疑いで
それを機に行動に移したとも考えられないだろうか。
事件が終わってから見えてくることもある。
「私がその場に居たならな。次からはこうならないように…
『黒の塔』みたいな場所だと難しいかもしれないが…するよ」
ジャックにしては歯切れの悪い言葉である。
『黒の塔』というのはそれだけ強大な組織なのだろう。
「そうそう、ドタバタして渡せなかったけどこれ」
俺は依頼完了報告書をジャックに差し出す。ドタバタしていて出すのが遅れてしまった。
ジャックは差し出されたそれを受け取る。
「よくやってくれた。これで一つ肩の荷が下りたよ」
「今後、こういうネタは勘弁してくれ」
「ユウ君たちでなければ頼まないさ。それに今回は指名だったしな」
「指名?」
俺は意味が解らずジャックに問うが、ジャックは応えるつもりはないようだ。
とにかくこれで休み中の一連の出来事は終結したのだ。
「…これからこの国はどうなる?」
少しだけ気になっていることだ。
「あとは第一王子と第四王子の王座争いだ。
王弟派もこれで立場を明らかにしなくてはならなくなった。
近いうちにこの国で何らかの大きな動きがあるだろうな。
ただし、それは王宮内でのことだ。冒険者ギルドとは関係がない。勝手にやってもらうつもりだ。
宮廷の古狸どもが場外戦をしかけてくるならばこっちにも考えはあるがね」
昏い表情でジャックさん。この人のこういうところが怖いと思う。
国相手でも怖気づかないジャックが恐れるユニオンという存在が気になった。
「もう一ついいか?そもそもユニオンってどうしてあるんだ?」
「冒険者ギルドであり国家の縛りを受けないためさ。
冒険者ギルドはどうしてもその土地の国家に縛られるからな。これがいい例だ」
ジャックは机に置いてある依頼完了報告書を指さす。
「魔物の討伐のために国家に縛られず、独自の裁量を持った機関が必要とされた。
設立されたのは偽帝の戦乱の後だったか。
冒険者ギルドは当時は国の下の機関と言う意味合いが強くてな。
ひどいところだとゴロツキの集まりとみなされていたらしい。
そこで国家的な縛りを受けない独立性の高い組織が必要だった。
それで作られたのがユニオンという制度。
ユニオンは国家的な束縛を受けず、ギルドの中でも独立した地位を持っている。
現在では『ブルースフィア』『ブラディロア』『黒の塔』の三つが存在している」
「なるほど」
国家的な束縛を受けない超法規的な集団。それがユニオンということらしい。
「もっとも今回の場合は『黒の塔』にユニオンの独立性をいいように使われてしまったわけだがね。
何事もうまくいかないものさ。他に質問はあるかい?」
「いいや」
「それじゃ、今日はここまでだ。冒険者ギルドの仕事についてだが、
今のところコルベル連王国全体を見ても君たちが必要な案件はない。
この時期だと一か月後の魔の森の討伐任務ぐらいだが、参加するかい?」
「いいや。いろいろあって疲れたし、骨休めにしばらくキャバルでのんびりするよ。
それにもう少ししたら南のカロリング魔導国に向かうつもりだしな」
南に向かう船の確保とか手つかずのままだ。
「そうか。ならゆっくりしていくといい。キャバルで何かあったら声をかけてくれ」
にこやかにジャックさん。
「クラスタ」
「ありがとうございました」
クラスタは棒読みで頭を下げる。その様子がおかしくてその場にいた人間の表情が緩む。
日常に帰ってきた感じがする。
俺が執務室から出るとエリスとセリアががっちりと俺の両脇を捕まれる。
両手に花であるように見えるが、実際は違う。
エリスとセリアにがっちりと両脇をホールドされている。
両腕の身動き一つ取れない状況である。連行されていると言っても過言ではない。
「…あのエリスさん、セリアさん?」
「今日こそは私たちに付き合ってもらうからね」
「そうそう」
示し合わせたように二人は俺にくっついて離れない。
俺は二人に対し白旗を上げ、されるがままになる。
背後からは頭の後ろに手を回し、アタを肩に乗せたクラスタが距離を取って歩いてくる。
クラスタはあまり関わりたくないらしい。
待合室は針のむしろだった。ひそひそ声で何か噂されるのはまだいい。
あからさまに俺に対して殺気を向けてくる者すらいる。
キャバルの冒険者ギルドを出ると一人の女性が道端にいた。
俺はその姿に思わず目を奪われた。道行く誰もがその姿に見とれるほどの輝くような美少女である。
黒髪で真珠のような黒い瞳。年齢は十六歳ぐらいだろうか。
あどけなさが少し残るも、あと二年でもすれば成熟し、絶世の美女ともいえる容姿になるだろう。
その中でも特段俺の眼を引いたのは、その容姿が昔俺の居た世界の人間の特徴とかぶっていたからだ。
この世界において黒髪と言うのは希少である。
ただ、これほど黒く艶のある長い髪となれば元いた世界でも滅多にお目にかかれるものではない。
道行く人々は足を止め、その美少女に魅入っている。
その美少女と目が合うなり、その美少女が俺に向けて駆け寄ってくる。
「やっと見つけた。私の旦那様」
美少女が両脇を二人の美女にホールドされている俺に抱き着いてくる。
ピシッ
世界が割れる音を聞いた様な気がした。




