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幕間 ファイとドリア2

俺は森の前の木の上で酒を飲みながら

幸いなことに兵隊の奴等は俺を恐れて近寄ってこない。


若い男が一人の従者を引き連れてやってくるのが見えた

ドリアの前を通り過ぎて行こうとする。


「止まれ、そのマントの下に来ている紋様のついた服はアルメキアのものだな?」

その子供は足を止める。


「その年でお前偽帝の息子だろ」

従者がドリアとの間に立ちふさがろうとするが、背後の子供がそれを推しとどめる。


「ファイリスターナ=アルメキア=カルナンだ。私は名乗った、次は貴様も名乗れ」

その子供は生意気にもドリアに名前を聞き返してくる。


「ドリアだ」

呆気にとられながらドリアは自身の名を言う。

その子供の眼にしては強い瞳だと思った。意志を持った生意気なガキ。

それがドリアの第一印象だった。


「…戦場の悪鬼ドリアか。手薄だからと思って選んだが、とんでもない怪物がいたものだ。

ここを通してくれないか。私はここで死ぬわけにはいかない」

そう言って金でできた装飾品をドリアの足元に向けて放る。


「悪いが、俺は戦争の火種が無くなってくれりゃそれでいい。

あんたがここで逃げたとなりゃ、またお前を担いで反乱を行う輩がいるかもしれねえ。

ここでお前を摘み取っておけば少なくともそんな心配はねえ。

そうすれば俺は戦場に駆り出されることはねえ、自分の仕事に没頭できる。

要するにあんたは邪魔なんだよ。俺の都合のためにもとっとと死んでくれや」

ドリアは背後にある魔道具に手をかける。


「なるほどな。金品目的ではないということか。なら話せるか」

子供はフードを取り、ドリアを真っ直ぐな眼差しで見る。


「ドリア、私はこれ以上の反乱を起こすつもりはない。戦乱の火種にはなりはしない。

我が父が多くの部下を従えられたのは『魔眼』の恐怖によるものだ。

私についてくる人間は従者一人ぐらいだ」


「…」

この王子は嘘は言っていない。


「それに私は戦争は行わない。国盗りを行うのであればもう少しうまくやるさ。

次があるのであれば冒険者ギルドの手を煩わせないことを約束しよう。

目の前の男がそれに信用に足ると思わないのであれば斬って捨てるがいい」


「お前さ、自分の立場をわかってるのか?それとも俺をなめてるのか?

ここは命乞いするところだろうが」

ドリアは殺気を振りまき、そのふてぶてしい子供の首元に短剣を当てる。

従者からは小さな悲鳴が上がるも子供はこちらの眼を見据え、微動だにしない。

普通死を目の当たりにればどんな人間でも変化はある。


ガキの考えることじゃねえ。


こいつは大物か。それともただのくわせものか。

ドリアは判断しかね、子供から手を放し、近くの岩に座り込む。


「…一つ聞く、何でお前は俺から逃げようとしねえんだ?」


「お前の武器は遠く離れた相手にも届くと聞く。それを知っているからだ」

その子供の言うことは当たっていた。

逃げ出す素振りを少しでも見せればドリアはその子供を即殺すつもりだった。


「それで何で俺を口説く気になった?」


「背を向けて逃げるよりも交渉した方が生き残る可能性が高いと判断したからだ」

その子供は嘘を言っていない。

ドリアは自身に対して対等に話しかけてくるその子供に興味を覚えていた。

ドリアにここまではっきりとモノを言ってくるのは同じSクラスの連中以外にはいない。


「それでこれからお前はどうするつもりだ?」


「考えていない。商人になるのもいい。私には魔法の適性もあるらしい。私は自由だ」

ドリアはその子供を見て何やら考え込む。


「ファイリ…呼びずらいし、ファイでいいよな」


「?」


「お前、冒険者になるつもりはねえか?」

二人は怪訝な表情でドリアの顔を見つめる。



その日の晩の会議。


「お疲れ様、ドリア」

一人の女性がドリアに声をかけてくる。外見上は二十歳ほどの美女。


「イーリス、偽帝は?」

ドリアは声をかけてきた女に問う。


「偽帝は最後粘ったみたいだけど、ゼームスが倒して終わり。

これで新生アルメキア帝国は滅亡確定。ゼームスはいつもいいところ持ってくわよね。ほんと。

とにかくこれにて冒険者ギルドの今回の仕事はお仕舞い。

私やゼームスは戦後処理で残らなくちゃいけないけど、ドリアは明日には帰ることができそうよ?」

イーリスはドリアの肩をたたく。


「…おもしれえ奴を拾った」

ドリアはそう切り出す。


「偽帝の息子か」

ゼームスの呟きにテント内の雰囲気が一変し、ドリアに視線が注がれる。


「さすがに情報が早いな」


「似た子供と従者がドリアが一緒にいるのを見た人間がいる。何故拾った?」

ゼームスはドリアから視線を外さない。


「そいつを殺してこの血みどろの争いはきれいさっぱり終わらせましょ。

火種は元から断っておくのが一番よ」

横からイーリス。


「そいつを冒険者にするってのはどうだ?」

ドリアの言葉にその場にいたゼームス以外がざわめく。


「ドリア、本気で言ってる?それとも『魔眼』でも受けたの?」

イーリスは眉をひそめる。


「ドリアは『魔眼』の影響は受けて無いようですよ」

ムーアはドリアを一目で分析したようだ。


「なるほど。『魔眼』使いを冒険者ギルドに引き入れるのも面白いな」

ゼームスは乗り気になった様子。


「ゼームス、あんたまた突拍子もないことを。ジルド、ムーア、この馬鹿に何か言ってやって?」

イーリスは振り返り二人に声をかける。


「フム、わしはどちらでもかまわんがの」


「私はいいかと思いますよ。もし私たちの敵に回るなら倒せばいいだけの話ですし。

同じ冒険者ならば今回みたいな回りくどい方法もないでしょう」


「やだもう、この脳筋集団。ファロットはどう?」


「…どうでもいい」

ファロットは興味なさげな声で返す。

イーリスは額に手を当て、頭を横に振る。


「…あんたに聞いた私が馬鹿だったわ。国のトップ達と約束したんじゃないの?

もし偽帝の息子をかくまったとなれば、今回の介入でまとまりかけてた条約の話も

ご破算になる可能性もある。そんな爆弾抱えるべきじゃないわ」


「冒険者ギルドの各国常設の件ですね。そもそもアレは同盟に加盟することが条件ですし、

デリスの様な例外も存在し、すべての国を包括しているとは言えませんね」


「それでも条文化されれば今までよりはずっとましになる。

今まで私たちをただのならず者の武力集団とかみなす国家もあった。

直接交渉の矢面に立たないムーアにはわからないでしょうけど」


「イーリス、既に幾つかの国家とはすでに冒険者ギルドとの取り決めはあるでしょう。

今回ので冒険者ギルドの存在は各国は見逃せないものになりました。

そこまで条文にこだわる必要はないと私は言っているのです」


「この場合は条約でこれから発足する同盟にその存在を各国に認められることが重要なの。

人間なんて代を変えるごとに考え方を変える。そのたびごとにくるっくる手のひらを返すわ。

今回の騒動も百年後にはもう忘却の彼方よ。ファルファ事件をもう忘れたの?

あいつらの忘れっぽさはある意味であたしたちの想像の斜め上を行くんだから」

二人の言い争いは次第に熱を帯びていく。


「わしらはこの戦で人を殺し過ぎた。これ以上の殺生はわしは好まぬ」

ジルドのつぶやきが二人の議論を推しとどめる。


「…」

ジルドの言葉にイーリスとムーアは押し黙る。

その点に関しては二人は同じ思いだったようだ。


「偽帝の息子は俺たちが保護する。面に出さない。ただし、すべての責任はお前がもて。ドリア」


「…わかった」

ゼームスの言葉にドリアは頷く。

こうしてファイは名を冒険者ギルドに籍を置くことになる。

この時、その場にいる誰一人として、ファイが自分たちと同じ場所に立つ仲間になることなど

考えもしなかった。



現在、『黒の塔』100階、執務室。


「あー終わったぜ」

机に座ったドリアはそう言って背伸びをする。

ドリアの机には大量の書類の山が置かれている。


「お疲れ様でした」

クロトが横で頭を下げ、書類を手にする。


「クロトは怪我してなくてよかったぜ。クロトがいなけりゃ。この書類の量俺じゃ捌けなかった」

このクロト、あの時ファイと一緒にいた従者の子孫である。

それで二百年以上たった今でも代々ファイに仕えてくれている。今でもあの時の男の面影がちらつく。

ドリアはあの時見逃した男に奇妙な縁を感じずにはいられない。


「御謙遜を。ドリア様も中々ですよ。どうです?このままファイ様の補佐をするというのは」

書類をまとめながらクロト。クロトはいつでも笑みを顔に絶やさない。


「よしてくれ。がらじゃねえよ。鍛冶屋は何処まで行っても鍛冶屋だ」

ドリアは苦笑いを浮かべる。


「…なあ、クロト、奴と戦ってみたかったか?」

ドリアはクロトを見ながらぽつりとつぶやく。


「そうですね。欲を言うのであれば」


「すまねえな。俺が戦うなと命じたばかりに」

ドリアが謝ったのはクロトと言う戦士から戦うことを取り上げてしまった罪悪感からだ。

ドリアはクロトのことを子供のころから知ってるし、稽古もつけたことがある。

その上でドリアはクロトを一人の戦士として認めている。

一人の男として、戦士として見たこともない強者が現れたのなら腕を試してみたいというのが本音。


「いえ。ファイ様のお役に立てているのを実感できる今こそが私にとっての至上の歓び。

あの時ドリア様に命じられて良かったと思っております」

クロトの場合、ファイという存在は崇拝に近い。

一族通してファイに対しての感情はそんな感じである。


「そうかい。ならいいがな。俺はもう寝るぜ。慣れねえ事務仕事はさすがに堪えた。

戦場なら別なんだけどよ。ファイの代わりなんかもう二度としねえ」

そう言ってドリアはドアノブに手をかける。


「おやすみなさいませ。ドリア様」

クロトはそう言って一礼すると、執務室の扉が閉じられた。

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