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黒の塔の主

九十階ではドリアとローファンの戦闘が続いていた。

ローファンはドリアの火力の前に一歩も引かずに対峙していた。


「黒霜剣カルフィスタ」

ドリアは光線で周囲を取り巻く黒の杭が何本も出現し、ローファンの姿を覆い隠す。

ドリアはそれを『光塵』ですべて焼き払う。

するとその場所にいるはずのローファンはその場にいなかった。

ドリアは周囲を見渡す。するとドリアのすぐわきの死角にローファンが弓を構えていた。


「視界を遮ることが目的か」


「ご明察」

ローファンはドリアの至近距離から紅貫弓パルミッサを放つ。

ドリアはそれを『光塵』の力の放出の反動を使いぎりぎり躱した。

ドリアの上腕から血が流れる。


「自分の血を見たのは久しぶりだぜ」

滴る血をぬぐい楽しげにドリア。


「さすがですね。あの距離の紅貫弓パルミッサの一撃から身をかわしますか。

今ので腕の一本ぐらいはいただくつもりでしたが」

傾いたシルクハットを直しながらローファンは感嘆の声を上げる。

既に紅貫弓パルミッサは手にはない。


「お前さ、幾らなんでも手があり過ぎだろうよ。魔道具を複数、収納空間に入れんのは反則だっての。

普通はそんなことしねえ。不安定過ぎるからな」

収納の指輪の中では魔力を持つものの時間は止まらない。

魔道具から漏れる魔力で中の空間が最悪壊れることもあるためだ。


「この指輪はそうならないようにこれは作ってもらいましたからね」

ローファンは手にした収納の指輪をちらりと見せる。


「そんなのを作れる奴もいるのか。間違いなく国宝クラスだぞ、それ。

あんたの使うカムギムラン・コレクションよりもそっちの指輪に興味が湧いてきたぜ」


「そういうあなたの武器は反則ですな。なんですかその武器は。

パワーも、スピードも、リーチも、ストロークも全部兼ね備えた武器なんて初めて見ました。

言葉を返すようですが、幾らなんでも盛り過ぎでしょう」


「言っておくがいくら強かろうがファイには絶対に勝てねえ。おまえさんもあきらめることだ。

奴は人間の中でも格別だ。死んじまったらあんたの約束も守ってもらえねえんじゃねえのか?」


「さあてそれはどうでしょうかね」


「ハッハッハ」


「フフフ」

自然と二人から笑い声が出る。


「さて、再開するか」


「ええ」

二人は互いを認め合い、純粋に戦いを愉しんでいるのだ。

八十階で再び戦闘が再開される。




俺は百階にたどり着いた。下の階での戦いの音がここまで響いてくる。

ローファンとドリアの戦いが続いているのだ。


俺の前には今までとは違い装飾が施された大きな扉がある。

間違いなくここにいるのは『黒の塔』の主。

その男に解らせなくてはならない。自分たちに手を出すことがどんな意味を持つのか。

自分たちに二度と手を出させないために。


俺はそう決意し、その扉を開く。

すると今までとは違う感じの雰囲気が漂ってくる。


玉座の間と言った感じだろうか。足元には赤いカーペットが玉座まで敷かれ、

荘厳、その単語が最もその場所には似合う。

さながら王宮にでも来たかのような印象を受ける。


玉座に座り、頬杖をつき、こちらを見下ろす男。人間だというのに威圧感で空気がぴりついている。

今までの連中とは明らかに存在が違うことを本能が告げていた。

間違いなくこいつが親玉。この塔の主。


俺は真っ直ぐに歩いて玉座に座る男の前に立つ。


「まさかここまで来るとはな。…ドリアはまだ交戦中か。

まさかドリアと戦闘をできるほどの伏兵を持っていようとは」


「あんたがセリアをさらった黒幕だな」


「人さらいとは言葉が悪い。私は保護しただけだ」

こちらを睥睨しつつ男は語る。


「本人の同意もなしすることを保護とは言わない。セリアを返してもらう」


「同意など必要ない。私には彼女が必要だ。正確には彼女の力だが。また彼女にも私の力が必要だ。

彼女は原石だ。磨き上げることができればイーヴァやムーアに匹敵する魔法使いになるだろう。

私なら彼女を磨き上げるにふさわしい場所を彼女に提供してやることができる。

お前は彼女を、彼女の才能を生かす場所を与えてやれるのか?」


「セリアがあんたを選ぶかどうかはセリア本人が決めることだ。あんたが決めることじゃない」


「才能は一種の力でもある。それを正しく磨ける場所を与えられねば腐らせてしまう。

それはとても残念なことだ。そしてそれはとても悲しむべきことだ。

なぜならそれは人類にとって大きな損失でもあるからだ」


「たとえそうだったとしてもあんたが何でそれを決められる」


「力があるからだ」


「は?」

男の予想だにしなかった答えに俺は言葉を失う。


「力なき者は力ある者の下で無ければ生きられない。

だからこそ人は強き者の下につく。そして強き者はさらに力を増し、周囲を取り込んでいくのだ。

これはこの世界の真理でもあり、人が歩んできた営みでもある」


「それは傲慢だよ」


「驕れるほどの力がなければ誰もついては来るまいよ」

男は薄ら笑う。幾ら説得したところでこの男は揺るがない。そんな気がした。


「ならどうする?」


「貴様を強制的に従わせる」

俺がそう言った直後、男の眼が赤く光ったかと思えば、ちくりと目に痛みを感じる。


「今何かしたか?」

俺は目を押さえる。一瞬目から何かを流し込まれた感じがした。


「…やはり『魔眼』は効かぬか」

男はつぶやく。男の言葉から俺はすべてを察する。

魔力を自身の体の一部のように扱える上位の魔族には『魔眼』は通用しない。

ただユウの場合は事情が少し違う。ユウを蝕んでいる神力がファイの『魔眼』の効果を阻害したのだ。


「…お前『魔眼』保有者だったのか」


「そうだ」

男には微塵も隠す様子も見られない。

どうして『黒豹ブラックパンサー』が『魔眼』をかけられたことに

気づいたことが解らなかったがこれでわかった。

彼女たちの親玉である男が『魔眼』所有者だったのだ。

ヌービアたちが一度経験しているというのは考えられることだ。


「自分のことを棚に上げて俺のことを非難してきたのか」


「私はこの目を持って二百年、人類を守護してきた。その歴史が私が正しいと裏付けてくれる。

私ならばこの目の力を正しく使うことができる」

男が語る言葉には自負が込められている。


「言っておくが俺は『魔眼』使いじゃないぞ」


「白々しいな、私の『魔眼』が効かなかったことが何よりの証拠ではないか。

他にヌービアたちの意識を奪うがあるとでもいうのか?」


「それは…」

俺は言葉を詰まらせる。

俺の使った『魔眼』はラーベからもらったネックレスによるものだ。

口に出せばこいつはそれを俺に引き渡すように言ってくるのは見えている。

俺に魔道具を託してくれた魔族たちに対し、その道具を他者に譲渡するなどあってはならない。

そもそも魔族たちの道具は人の世に出してはなぬもの。

だからこそ、その存在を口にすることはできない。


「『魔眼』とは目と目を合わせることによりパスを作ることにより、

強制的に相手に自身の魔力を流し込む力だ。

流しこんだ魔力に指向性を持たせることにより、相手を意のままに操ることができる。

これが国の首脳クラスに使われれば一瞬で国を乗っ取ることもできる。

貴様はそれを悪用しないと言い切れるのか?

私はただの人間がそんな大それた力を持っていたとして、持て余すだけだと思うがね」


「俺はそんなことはしない」


「口ではいくらでも言える。人は状況によって変わる生き物だ。

今日行った言葉が明日は嘘になる。私はそう言う人間を何人も見てきたよ」

男は思った通り揺るがない。


「なら俺はどうやって証明する?」


「証明する必要はない。『魔眼』は二つもいらない」

俺は男の言葉を聞いてやはりと俺は思う。

この男は俺がもうここへ来る前から答えはでていたのだ。


「…回りくどい言い回しをしないで初めからそうすればよかったんだ」


俺と男は無言で見つめ合う。先に動いたのは男の方だった。


「…貴様との戦いは場所を変える必要がありそうだ。できるだけこの玉座の間を壊したくはない」

俺を前にして男の態度には余裕がある。この男は毛ほども自身の絶対的な優位を疑っていない。


「好きにすればいい」

俺は男の後についていく。この男が基づいているのは自身の力。ならばそれを打ち砕くまで。

二度とセリアを攫うというなどということが起きないように。


男は扉の前で足を止め俺に話しかける。


「そうそう、そう言えばまだ名乗っていなかったな。私の名はファイ。

この塔の主にして『黒の塔』を統べる者だ」

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