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ドリア・ナラベラ

「何だったんだ奴は」


「動きが早すぎる。包囲していた俺たちより早く距離を詰めやがった」

七十階ではユウと対峙した者たちは感想を口々に漏らしていた。


「クロト、アレを本当に通しても良かったのか?」

四人の中の一人がクロトに話しかける。


「ああ、ファイ様はずっと退屈そうにしていらっしゃった。

それは多分、ああいう人間がファイ様には必要なのだろうと私は感じた」


「あの男、間違いなく殺されるぞ」


「それはどうだろうな」

クロトたちの前に一人の男が姿を現す。

ステッキを片手にシルクハットをつけた奇妙な恰好をした男だ。


「なんだお前は?」


「少しユウ君に用があってね」

言い終える間もなくクロトたちは男の排除に動き始める。


「残念。君たちでは力不足だ」

男のステッキが消えたかと思うと黒い剣に変化し、

取り囲んだ四人は黒い杭で拘束される。


「ふむ、君はなかなか骨がありそうだ」

五人の中でクロトだけは背後に飛びそれを躱していた。


「そちらの事情は知りませんが、お引き取り願いますか」

クロトはそう言って懐に手を入れる。


「安心したまえ、私はこの塔を攻略しに来たわけではない。彼に会いに来ただけだ」

いつの間にか男は鉈らしき武器に持ち変えていた。

武器が変化したことに気づいたクロトは身構える。

次の瞬間、突如、部屋に突風が巻き起こった。

その男の姿が消えると黒い杭も嘘のように消えている。


「アレは一体…」


「魔性の類ですか…」

クロトはその者が消えて行った階段を見てつぶやく。


「すぐにファイ様に報告を」



クロトのいた七十階を抜けると階段で襲撃を受けることもなかったし、

九十階までは何の障害にであうことなく普通にやってこれた。

ちょっと拍子抜けである。


俺の前に鉄でできた分厚い扉がある。

嫌な予感がするも、俺はその扉を力を込めて開く。


扉を開けると何もない大きな部屋に出た。


「おお、よくきたな。待ってたぜ」

扉を開けるなり俺は男に声をかけられる。

声をかけてきたのは腕を組んだ長身で筋肉質の男だ。

彼の背には武器を何種類も抱えているのが見える。


「…あ、どうも」

俺は咄嗟のことに返事をかえした。


「俺はドリアっつうもんだ。あんたがあのじゃじゃ馬のヌービアを負かしたのか。

へっ、人は見かけによらねえな」

しげしげと俺を見ながらドリアは漏らす。


「…はあ」


「しかし、仲間のためとはいえよく単騎でこれたもんだ。本当に感心するぜ」

ドリアは豪快に笑う。ドリアはこっちの事情は知られているようだ。

そう言えばクロトさんも知ってし。


「ならそこを通してくれないか?あんたとは戦うつもりはない」


「そりゃ無理な話だ。俺はここ九十階の守護者を任されてる。

先に行きたいなら俺を倒していくことだ」


「…やっぱりか」


「ハッハッハ、初めて言えたぜ。このセリフ」

初めてなんだ。だめだ、全然気持ちが締まらない。


「あんたにはある意味で感謝してる。なんだかんだ『黒の塔』にここまで死人は出してねえしな」

俺は死人が出てないことに少し安堵していた。

何せ魔族の体は力加減がわからない。


「ここまで来ることのできたあんたに敬意を表して少し話をしてやる。

どうせ始まればすぐに終わっちまうんだしな。あくまで余興だよ」

このドリアと言う男、ものすごい自信家である。


「竜骨ってのを知ってるか?」

いきなり質問され、俺は首を横に振る。


「刀鍛冶にとってそれは夢のような材料でもある。

ま、オリハルコンやアダマンタイトには劣るがな」


「ドラゴンは人間がこの星に住みつく前から存在したとされ、

現在この大陸の西と文献にしか記されていない伝説の大陸に存在しているとされる。

大型のドラゴンともなればその大きさは城壁にも達する。

だがそのとんでもない重さの体を支えなくちゃならねえ。

その上、飛ぶこともできる個体も多数存在する。なら軸となる骨格はどんなものだと思う?」

俺はドリアの問いかけの意味が全く分からない。


「下位種のコモンドラゴン、レッサードラゴンはただの大きな蜥蜴だが、

上位種のエンシェント級まで行くと、物質と霊体の両方を兼ね備える。

ドラゴンは魔素を自然の骨に宿し、それにより強度を上げることもできるという。

長く魔素を浴び続けたその骨は物質自体が変質し、魔素の結晶とも言うべき別の物質になるという。

つまりは長い時間をかけ骨自身が魔石と同じか同等の存在になるのさ。

一節にはその体積すら自在に変化させることができた特殊個体も存在したという。

そんなわけで巨大で古い竜であればあるほど竜骨はその魔素の蓄積量が大きくなっていく。

かつて存在した大陸ではその研究開発が盛んだったそうだ。魔剣はその名残って話だ」

俺はぽかんとドリアの言葉を聞いていた。


「さて前置きはここまでにして、これがその竜骨で俺が作った武器だ」

ドリアの背後に三つの武器が浮かぶ。一つ一つは扇形であり、三つで円状になる。

ドリア自身も浮き上がる。


「この武器は『光塵』という。あの世へ渡るせめてもの駄賃としてとっておけ」

それがSランク冒険者『十天星』のドリア・ナラベラだと知るのはもう少し経ってからだ。

瞬間、背後の武器から放たれた閃光がユウの居た場所を焼く。

ユウは辛うじてそれを躱した。当たった足場はどろどろに溶けている。


「驚いた。初見で『光塵』を躱すことができる人間がいるとは」

ドリアの表情は狂喜に満ちていた。対照的に俺は顔を青ざめさせていた。

間違いなくビーム攻撃。しかもとんでもなく速い。

剣と魔法の世界にビーム兵器とか幾らなんでも反則である。

この数日間、人間とは思えない反則じみた攻撃を受けてきたがこれはその中でもトップクラスにやばい。

あの攻撃、この魔族の身体でもどこまで耐えられるかわからない。


「ははは、次はもっと激しく、手数を多くしていくぞ」

ドリアの背後から無数の光線が放たれる。

さっきよりは光の筋は小さいが、その光の筋は数十にもなる。

俺はそれを紙一重で躱し、壁を垂直に走りながら逃げ回る。

この男、めちゃくちゃである。


「くそ」

とても加減できる状況ではない。俺は走りながら、ドリアに向かって思い切り石を投げつける。

投石はドリアに届くことなく光により蒸発する。


「マジか」

全力で投げた石に対応され、さらに消されたことに俺は驚きを隠せない。


「おもしれえ。おもしれえぞ。もっとだ。もっと俺様を愉しませろ」

鬼の形相でドリア。壁を駆け巡る俺の背後を無数の光線が追ってくる。

遮蔽物はこの部屋にはない。石を投げ、体勢を崩した俺はそれを躱せない。

俺はとっさに巨大な岩の塊を収納の指輪から出す。


ドリアの背後の武器から放たれた光線はその塊に遮られる。

俺はその岩を背にして体勢を整える。魔族である俺が人間相手に圧倒されている。

このドリアと言う男、今まで出会ってきた人間の中で文句なしに一番強い。


「ほう、空間収納か。ずいぶんでかいのが入ってるじゃねーか」

ドリアは感心するようにそれを見る。


「だがな。溶かしちまえば障壁でも何でもねえ」

その言葉に嫌な予感を感じ、俺は岩の陰から飛び出すと、大きな岩があっと言う間に溶岩に変化する。

このドリア、幾らなんでも無茶苦茶過ぎる。


「はっはっはっは。この竜骨の元になったドラゴンはエンシェント級のものだ。

つまりは竜骨から放たれる攻撃はエンシェント級のドラゴンのドラゴンブレスそのものなんだよ。

エンシェントドラゴンのドラゴンブレスは金属であろうと容易に溶かしつくす灼熱の息。

さあ、次はどうすんだ」

『光塵』から放たれる光ですでに部屋の中の温度はありえないぐらいに上がっている。

さながら地獄の窯の中と言った感じだろう。

こいつを倒さなければ先には進めないし、この相手に少なくとも加減はできない。

さらに次にはファイと言う奴が控えている。

この状況ではおそらくファイと言うやつとも戦闘になるとみても間違いない。

ここで出し惜しみをして手傷を負うぐらいならば、寿命を削ってでもすぐに終わらせた方がよい。

俺はそう判断する。


「あんた、死んでも恨むなよ」

俺は『天月』を鞘から引き抜こうとする。


「その勝負、しばし待たれよ」

俺は入口の方に目を向ける。するとそこには見知った人影があった。

ステッキを片手に、シルクハットをかぶるその姿には以前に相手にしたことがあるからだ。

一番会いたくなかった存在でもある。奴の名は『蒐集家』のローファン。

魔族でありながら人間の武器を集めるのが趣味だという変わった奴だ。

ただ、その能力はオズマにも匹敵するという。今の魔力の使えない俺では勝率は低い。

俺は咄嗟に構えを取る。


「なんだ?てめえは?」

戦いに横槍を入れられたドリアが男に殺気を向ける。

だが、ローファンはそれを気にせずに俺の元につかつかと歩みよってくる。

…そして、俺の前で土下座した。


「以前は失礼いたしました」

大声で俺に詫びてくる。あまりに突然のことに俺もドリアも事態を呑み込めず硬直する。


「…にいちゃん、そ、そいつはあんたの連れか?」

先程まで鬼の形相だったドリアが顔をひきつらせてドン引きしている。


「…違います」

真剣勝負をしていたドリアに申し訳なくなり俺は思わず敬語になる。


「ユウ様、どうかお助けください。

あのお方たちの怒りを買い、私の命よりも大切なコレクションのメンテナンスもままなりません」

そう言うローファンは滂沱で俺にしがみついてくる。

以前、魔神との飲み会の席での魔神の連中が物騒なことを口走っていたのを思い出す。

正直かつての強敵のこんな姿は見たくなかった。


対戦していたドリアはというと自分の武器をいじくり始めている。

どうやら話がつくまで待っていてくれるということらしい。


「魔道具はすぐに傷つくのです。メンテナンスせずにほっておけば痛む一方。

これではあと数千年で私のコレクションはただのガラクタになってしまいます」

数千年って…あんた。俺は大声で突っ込みたくなった。

魔族の常識は人間の非常識らしい。


「…それでどうしてこのタイミングなんだ?」


「注意は削がれていて今ならばアレからの眼もかいくぐれましたし…」

ローファンは人差し指を天井に向ける。ローファンの言うのは『天の眼』だろう。

やはりローファンは知っていたようだ。ちょっと納得。


「それに…一番必要としてくれる時に出て行ったほうがよいかと思い…」


「打算かよ」

俺は顔面を覆った。


「なめろというなら靴でもなめます。ですからあの方たちへの口利きをなにとぞ、なにとぞ…」

俺の服の裾をつかみ俺に懇願するローファン。その姿には哀愁すら覚える。

俺は頭を抱える。強敵のこんな姿はマジで見たくなかった。

命より大切な自身のコレクションがかかっているから必死なのはわかるが。


「…もういい。わかった。口きいてやるから、あいつの相手を頼めるか?ただしここでは誰一人殺すな」

俺はローファンに念のために釘を刺しておく。

それというのもこいつは人殺しなどなんとも思っていない。

事実、以前に貴族とその貴族の雇った私兵を皆殺しにしていている。


「お安い御用」

地に膝をついていたローファンはそう言うとすっと立ち上がる。


「ようやく話がまとまったのか。待ちくたびれちまったぜ。二人がかりでもいいぜ、さあ…」

ドリアの眼前を矢が通り過ぎる。


「何か言いましたかな?」

ローファンは手に弓矢を手にして語りかける。ローファンの持つ弓矢は『紅貫弓』パルミッサ。

ローファンのその姿は一度対峙した半年前の姿に重なる。

ローファンは収納の指輪からほぼノンタイムで取りだせる。

武器の入れ替えに時間がかからず、魔道具の力を最大限引き出した攻撃を連続で撃ってくる。

俺はこのローファンの戦術に俺は一度苦しめられている。

敵にすれば厄介だが、味方にすれば頼もしい。


「光栄に思いなさい。あなたの相手はこの私がいたしましょう」


「ローファン…思い出したぜ。お前『蒐集家』ローファンか。

一度会いたいと思っていた骨董品マニアと会えるとはな」

ドリアの顔が喜色に染まる。


「ほう、私のコレクションを骨董と呼びますか。あなたには少しばかり教育が必要ですね」

ドリアの一言にローファンもかちんと来たようだ。

売り言葉に買い言葉である。今のやり取りで二人を取り巻く雰囲気が重くなる。


「ここはそいつに免じて通してやる。気が変わらねえうちにとっとと行きな」

ドリアは俺に一瞥をくれ、そう言い放つとローファンと対峙する。

二人とも既に俺など眼中にない。

再び鬼の形相となったドリアを傍目に俺はそそくさと階段を上っていった。

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