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オーク殲滅(side:ジャック)

オークの集落は山間の開けた場所にあった。

俺たちは息をひそめ、それを観察することにした。

村の手前を護るオークは手に棍棒を手にしている。

既に段階は繁殖から武装に入ったわけだ。俺の中で脅威度が一ランク上がる。


「やっぱりか。ずいぶんと発達している。厄介だな」

オークのそれは集落規模になっていた。既に五十体は下らないだろう。

村にいる家畜はもう残っていない。それはもう間もなく外に溢れ出ることを意味していた。


ここまでくるとAランク冒険者が数チームで対処に当たらなければならない案件だ。

この規模だともしかしたらアレも出現しているかもしれない。

脅威度を引き上げなくてはならない。だとすれば個別の冒険者では戦いようがない。

本格的にコルベルの保有する軍を動かす必要が出てきた。

スタンピードよりは脅威度は低いが、打つ手を間違えれば一都市が壊滅するほどの被害が出る。


「オークはあの村に集中しているな。セリア、あの周りを土で囲えるか」

ユウはオークのいる村を指さし、セリアに指示をする。


「了解」

セリアは目を閉じ、何やら呟き始める。


「囲う?ちょっとまて、まさかお前たちオークの一団と戦うつもりか?」

俺は動揺しながらそこにいる者たちに問う。ユウの言っている意味が解らない。


「当たり前だろう?」

当然のようにユウは言う。


「おい、相手は五十以上もいるかもしれない。その上武装もしている。脅威度はかなり高いだろう。

あんたらはあんなのを倒せると考えているのか?」

俺は思わず声を張り上げる。


「放っておけば近隣の村々が被害を受ける。このまま殲滅する」

エリスが横で闘志をみなぎらせている。この正義感はさすが元勇者だろうか。


「だとしてもこの規模はいくらなんでも…」


「行くわよ」

ジャックの声を遮るようにセリアは声をかけてくる。

魔法式が地面に描かれている。魔方陣が淡い光を放つ。


あの先祖返り、魔法使いだったのか。

俺は驚愕し目を見張る。食事当番か何かとばかり思っていた。


「…大地の力を示せ」

セリアが詠唱を終え、手を地面につけるとオークの集落の三方向を囲うように巨大な壁が出現する。

魔法使い数人がかりの魔法である。それも相当早い。

この速度にこの大きさの壁、オークは逃げきることはできないだろう。


このセリアと言う先祖返り出鱈目もいいところだ。

うちのギルドの魔法使いの数人分の魔法を一発で行ってしまった。

圧倒的な魔法の力。ここまでの使い手はそうはいない。


壁が出現したことが開戦の合図になった。

武器を片手に持ったオークたちが家屋から次々と姿を現す。


「それじゃ、エリス競争な」

クラスタが跳躍すると、剣を両手にオークの群れに向かって駆けていく。


「おい、私は了承してない」

エリスが剣を抜き放ち、その後を追う。


「早い者勝ちだぜ」

オークと接するなりクラスタは両手に手にした剣で薙ぎ、門番のオークを二体同時に倒す。


「仕方がない」

オズマがそのあとに続く。


「セリア、大丈夫か?」

ユウはセリアを心配していた。


「大丈夫、あと五回は行ける」

額に玉のような汗をかきながらセリア。一人であの壁を作り上げたのだ。当然だろう。

その規模から見積もっても五階梯以上の魔法。格外。そんな言葉が脳裏によぎる。


「いいのか?行かせてしまって…」

俺はユウに声をかける。


「ははは、好きにやらせておくのがいいんですよ。どうせあいつら俺の言うこと聞かないし」

ユウは乾いた表情で笑っていた。


「あんたも苦労してそうだな」


三人が戦いを始めると見る見るうちにオークはその数を減らしていった。

俺は生唾を呑み込む。これは戦いというより蹂躙だ。

ここまで一方的なものになるとは思ってもみなかった。


「まだまだ負けんよ」

エリスの攻撃は相手の急所を的確に狙っている。

首筋や心臓を一撃で突き刺し、絶命させていくさまは感嘆するほどだ。

相手は何が起きたかわからず死んでいく。

その速度と無駄のない動きでオークの死体の山を築いていく。

職業柄、多くの剣士を目の当たりにしてきたが、ここまでの技量の剣士はそうはいない。

やはり勇者と言うのは伊達ではないと思わされる。


「くそ」

クラスタの剣技はエリスと比べまずまずだが、両手で持つはずの長剣を片手で軽々と振り回し、

オークを頭蓋ごと両断している。クラスタはその人間離れした腕力でオークを薙ぎ倒していく。

オークは筋肉質で硬いはずだ。それをたやすく片手で両断するなど人間業ではない。


「まったく。まじめにやれ」

オズマはそう言いながらその後ろから二人が撃ち漏らしたオークを狩っている。

正確に頭蓋を槍の柄で粉砕しているのだ。

オークの中には絶命したことも知らず走り続けるものもいるほどだ。

その間合いに入ったオークを急所を一撃で仕留めるさまは思わず見とれてしまう。

まるで槍が体の一部にでもなっているようなほれぼれするような槍捌きである。


屠殺場を連想させた。ここまで簡単に魔物を殺していく様を今までに見たことがない。

これならいけると思った矢先に、集落の奥から巨大な棍棒を手にした巨大な影が出現する。

「オーク・キング…」

俺はそれをみて絶望的な声を上げた。

人間の数倍の体躯。剛毛に覆われた身体。はちきれんばかりの筋肉が目の前にある。

巨大な棍棒をまるで体の一部のように振り回している。

ただの人間ではまともに打ち合うことすら難しいだろう。


俺は見通しが甘かったことを悟る。

オーク・キングが出てきたことでカテゴリー的には脅威度はすでに災厄級。

オーク・キング、それ自体も脅威度は高いが、

それ以上に厄介なのは統率者を持った群だということだ。

人間を楽に超越する力を持った魔物が群れているのだ。それは一つの国家の軍にも匹敵しよう。

もし対処するとすればAランクの冒険者チームだけではなく、軍も必要だ。

場合によってはSクラスの冒険者も必要かもしれない。


「アレは俺がやる」

オズマが跳躍し、オーク・キングの前に躍り出る。

一切の戦闘が止み、周囲の目が対峙する両雄に注がれる。


「自殺行為だっ」

いかに腕っぷしが強かろうとオークキングと真っ向から対峙して戦いになるわけがない。

セオリーとしては周囲のオークを倒しきった後に、

一定の距離を保ちながら弓矢で射殺すのが普通なのだ。

俺が身を乗り出そうとすると横から肩をつかまれる。


「見殺しにするつもりかっ」

オズマはオーク・キングと向き合っている。打ち合うつもりだろう。

オーク・キングと打ち合うとか正気の沙汰じゃない。


「オズマなら大丈夫ですよ」

ユウの横顔からはオズマが負けるとは微塵も疑っていないのが見て取れる。


「おいおい…」

背後で互いの一撃が交差し、重い音が周囲に響き渡った。

それが戦いのはじまりの合図となった。


信じられないことにオズマは自分よりも数倍も大きな相手と打ち合って一歩も引いていない。

周囲の物が二つの力の力により吹き飛び、建物が粉々になる。

まるで暴風のように二人の戦いは周囲の物を破壊していく。


俺は固唾を呑み込む。もはや人間の域の戦いではない。

巻き込まれればただの人間ならば一瞬であの世行きだろう。

十数合ほど打ち合ったあとオーク・キングの巨大な棍棒が破壊される。

オーク・キングの表情に動揺が走る。オズマはその隙を見逃さない。

オーク・キングの頭部をオズマの槍の刃が刈り取る。

ずうんという大きな音を立てその巨体が背後に倒れた。


俺は空いた口がふさがらかった。

Sクラスの冒険者でもあの巨漢と直接戦うなどという発想をするのはわずかだ。

実際に打ち勝つなどという芸当は一人しかできないだろう。


「もう少し歯ごたえがあると思っていたのだがな。所詮は獣か」

何事も無かったような表情でオズマは槍の刃についた血糊を払う。

地面にオークの血がぴゅっと飛ぶ。


「師匠ずっりいの」

クラスタが口をとがらせている。


「早い者勝ちと言ったのはお前だろう、クラスタ?」


「そうだけどよー」


「クラスタ、気を抜くな」

統率者を失ったことでオークたちは一斉に逃げ出そうとする。

かなり数を減らしたとはいえ、まだ二十体以上は残っているはずだ。

背後から倒していくもあちらから向かってきていたさっきまでとは勝手が違う。


「一匹も逃すな」

経験者のエリスが声を上げる。

視界の端に小さな一匹が壁をよじ登り逃げ出そうとしているのが見えた。


「いけない」

俺は叫び走り出す。ここから一匹たりとも逃がすわけにはいかない。

奴等の繁殖力は脅威だ。一匹でも逃したのならばまた同じことが繰り返される。


「大丈夫です」

セリアの声を聴いた気がした。直後、背後から放たれた石がオークの頭を粉砕する。


「…なんだ、いったい何をした」

俺は振り返りユウを見る。


「ただの投石ですよ」

ユウはそう言って収納の指輪からこぶし大の石を取りだす。


「ユウ、反対側にもう一体」

セリアが指を指した方向に壁をよじ登っているオークの姿が見えた。

その頭をユウの投石が吹き飛ばす。


「ただの投石で…?なんという…」

ここまで正確で威力のある投石を使える人間を俺は知らない。

他に二三体ほど壁をよじ登るオークの姿があったが

ユウはそのオークを正確無比な投石で頭を打ち抜いていた。


ほどなくオークの集落はわずか五人の冒険者によって壊滅された。

俺が知るどんなSランク冒険者のチームでもここまで鮮やかに倒しきることはできまい。

まるで夢でも見ているかのようだった。

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