表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/135

探る者と持て成す者

クーベ・オルタは盲目である。

そのために昔からぼんやりと相手のオーラの様なものを見ることができた。

彼女の場合は目が見えないためにその他の知覚が異様に発達し、

目が見えなくてもそこに何があるか何となくわかったのだ。

ただ両親からは目の見えない彼女は不満のはけ口として、虐待を受けて育った。

そう言った環境の中、クーベは物心つく前に彼女の親は盲目である見世物小屋に売られた。

売られた見世物小屋の待遇はさらにひどいモノだった。

目を見えないことでただ飯喰らいとののしられ、牢につながれ犬猫以下の扱いを受けていた。


見世物小屋に売られて数年後、クーベは一人の男と運命的な出会いを果たす。

それがファイという男との出会いだった。


ファイを一度見たときに一つ目の化け物に見えた。

悲鳴を押し殺し、後ずさるクーナを見て見世物小屋の主人はクーベに手を上げようとする。

ファイはそれを制止し、どうして怯えたのかとクーナに聞いてくる。

クーナはその事実をありのままに話すとファイは面白そうに笑いそして言う。


「私の元に来るというのならキミの人生に意味を与えてやろう」


クーナはその時はじめて誰かに必要とされた気がした。

服もぼろぼろで異臭すら放っていたクーベにとってそんなことは初めてだった。

ファイは彼女の人生で光だった。ファイから差し出された手を彼女は迷わずに取る。


ファイは彼女にとって神ともいえる存在であり、彼女は彼の元にいるために自身の能力を研鑽し続ける。

その結果、自身の持った真の能力を開花させるに至る。

彼女は努力の末に生命力の数値化、内臓魔力量を行えるようになった。

やがてその姿やオーラの質からその人間の潜在的な力の方向性まで知ることができるようになる。

その結果、彼女は『黒の塔』において欠かすことのできない存在になったのである。

またクーベはファイの推薦もあり、不老の呪いの対象者となっている。

百五十年も経つ今でも彼女はファイへの忠誠は変わらず、

むしろ崇拝と言っていいレベルにまでなっていた。


クーベが今まで見てきた中で最も大きな内臓魔力量はイーヴァである。

内臓魔力というのは魔力を人体にとどめておける総量のことである。

本来人間には魔族や魔物と違い、魔力の元である魔素を生み出す機関が存在しない。

それ故に外部の魔素を借りてきて使うことが一般的である。

内臓魔力量は個別にほぼ決まっていて、魔法を使う際にはそれに依存することになる。

それというのも大気中に魔素を放てば、魔法式や詠唱を終える前に

四散してしまい使い物にならないためだ。


一般の魔法使いを十とみなした場合、イーヴァの内臓魔力量は数値に直せば一万。

優秀な魔法使いでも三百に届くかと言ったところである。

この数値だけでもイーヴァがいかに規格外かわかるだろう。


今日、ファイ様の一人の少女を鑑定した。その少女はエルフの先祖返りだという。

内臓魔力量が特筆していたのもあるが、体からあふれるオーラにはとてつもない可能性を感じた。

私にもあれほどの力があったのならばと何度も思わせるものがあった。

人を羨む事は何度もあったが、その先祖返りにははそんな気も起こさせない。

それほど圧倒的な何か。人では届きえぬ神によって造られた完成された存在。

それを知覚した魂が震える。クーベはそれを見てただ美しいと感じた。



階段から響く足音が私を現実に引き戻す。

訳のわからないものが階段を上ってくる。

現在いるのは六十階である。六十階を護るはずの守護者は今は一階にいる。


話では三十階のマルドーは突破している。

五十階から上に上るには『炎魔師』バールを倒さなくてはならない。

少しばかり血の気の多い部分もあるが、彼もAランクでもあり、クーベから見て万に一人の逸材。

皆、系統は違えど、その誰もが相当な使い手のはずであり、Aランクでも上位の力を持っていた。

やってきている男はそれを退けてやってきたという。クーベには相手の姿形が全く想像ができない。

それこそファイ様やドリア様、イーヴァのような外れた者でなければ無理だ。


階段の音が少しずつ近づいてくる。大丈夫、報告では誰一人殺していないと受けている。

見るだけならば手は出されない。クーベはそう自分に言い聞かせる。


階段から一人の男が姿を現す。クーベは男の力を正面から計測する。

気配から感じるのはどこにでもいるような普通の男だ。

魔物を相手にする冒険者の集まる黒の塔にはいささか場違いに感じた。

ただ、今まで感じたことのないような違和感を覚える。


クーベはさらに意識を男に向ける。

男の周囲にはうっすらと黒い靄と言ってもいいものが溢れていた。

黒い靄、これは間違いなく魔力だ。今まで何度もそれを見てきた。違えるわけがない。

だが同時に男の周囲には白い靄がまとわりついている。

白いほうは見たことがない。感じたこともない。

魔力は今までも感じたことがあったが、白い靄が全く理解できない。

男の体を蝕んでいるようにも見える。


魔族ではない?


魔族は魔力をその体から発生させるものだと聞いたことがある。

魔族ならば黒い靄が内側からあふれてくるはずだ。

確認はできなかったが、ファイ様に襲い掛かってきた男もそれに近いものを感じた。

だがもう一つの白い靄はそれに取りついているようにも見える。


こんなものは今までに見たことがない。

私は能力を極限まで使い、それに深く、深く入っていく。


クーベのいる場所が変化する。真っ暗な荒野の中、クーベはその中心に立っていた。

これは世界…。あるいは自分がそう錯覚させられるほどの何か。

今まで『見た』だけでここまで鮮明なイメージを与えてくるものはなかった。

頭上では日蝕のように黒い太陽を白く丸い何かが覆い隠している。

クーベはそれをただ凝視することしかできない。


不意にその白い何かに巨大な目が出現する。ギョロリとこちらを覗き込むように。

クーベは目を離したいがそれから目を離せない。


理解のできない得体の知れないものがそこにある。


力に意志など存在しない。

力に思考性など存在しない。

力に感情など存在しない。


だがそこにあったものからは意志を感じた。思考性を感じた。感情を感じた。

ただ一つ、拒絶という感情を。


「うああああああああああああああああ」

そこでクーベは絶叫し、意識を飛ばした。



この塔には十階置きに人が配置してあるようだ。


二十階では鉄球を振り回すおっさんが待ち受けていたので

投げられた鉄球を受け止め、投げ返した。おっさんはあまりのことに戦意喪失したらしい。

茫然と立ち尽くしている横を俺は通り過ぎた。


三十階は一階の男が言ってた通り、部屋中が妙なガスで溢れていた。

そもそも魔族である俺には普通の毒は効かない。

そもそも俺は魔族の持つ空間感知で直感的にやばいモノがあるかどうかはわかる。

一回目は無味無臭の毒のようで始源魔法を使って分解し、

二回目は可視できるほどの毒霧だったのでばれるとまずいのでそれが届かないように

薄い魔力の膜を張って遮断する。

三回目はこれは別に大丈夫な気がしたのでそのまま突っ切った。


四十階では百名以上の冒険者がひしめいていた。

十以上の冒険者チームが集まったとか。俺一人にご苦労な話である。

全員を相手にするのは面倒だったので収納の指輪から丸太を取りだし、

丸太を振って、壁や天上に片っ端から叩きつけた。

おそらく死んではいないと思うが…。骨折ぐらいは大目に見てもらおう。


五十階では炎を操る魔法使いが待ち構えていた。

ものすごい暑苦しくノリノリな男でだった。

服が燃えるのは嫌だったので開始直後、

収納の指輪にサルア王国にいたときに作っておいた手りゅう弾のようなものを

後頭部辺りに出現させ、爆発させると狙い通り気絶してくれた。


他には階層間の階段とかでいきなり襲ってくる連中はいたが、大した実力もなかった。

徐々に高階になるにしたがって、そういう連中との遭遇は少なくなってきてる。


六十階は何もいなかったがその途中の階段の踊場に目に眼帯をつけた女性がいて、

俺を見るなり絶叫し気絶してしまった。

放っておくのもまずい気がして、俺はその女性を壁沿いに寝かしつけておいた。


階層は七十階。

今まで各階層は三十階以外は同じ造りである。


俺は大広間の扉を開くと五人の執事のような服装の人間たちが立っていた。

丁寧なことに一斉に頭を下げて来たので、反射的に俺も頭を下げる。


「あなたがユウ様でありますね」

真ん中の長身の男が俺に語りかけてくる。

三十代の容貌であり、身綺麗な装いで、動きに無駄がなく洗練されている。

今まで下の階層で遭遇してきた武骨な冒険者の様な感じではなく、

洗練された執事といった感じの佇まい。


「そうだ」


「私の名はクロト・アルベイック、この七十階を守護する者です」

クロトは笑みを絶やさない。


「あんたら、俺と戦うつもりなんだろ」

殺気が全く感じられないために取りあえず聞いてみる。


「そのつもりでしたが八十階を守護するドリア様から戦わずに通すようにと釘を刺されております」

クロトは俺の問いににこやかに返答する。

ドリアという名には聞き覚えがある。ジャックの話した要注意人物だったか。


「そうか」


「ですから私どもはあなたを試させていただきます」

そう言うと俺と話した男以外の他の四名は俺の周囲に散る。

俺を包囲するつもりらしい。

俺は横に散った男たちが俺を囲み終える前に、俺は真っ直ぐに駆け、中央にいるクロトの首に手をかける。

息をのむ声が周囲の男たちから聞こえてくる。


「これで合格か?」

相手は戦わないと宣言しているのだから危害を加える必要はない。


「…合格です。八十階にいるイーヴァ様は現在別件で行動しております。

そのままドリア様のおられる九十階までお進みください」

クロトは顔色一つ変えずにそう言う。

すると全員立ち上がり俺に向かって頭を下げ、横にそれてくれた。

なんかマラソンとかスタンプラリーの途中にいる誘導員みたいだと俺は思った。

ただこいつら武器を全く見せていないし、力の片鱗すら見せていない。ちょっと不気味でもある。


「この塔ってひょっとして百階まであるの?」

クロトとは話ができそうなので俺は試しに問いかけてみる。


「はい」


「俺はあんたらに連れ去られたセリアを返してもらいに来ただけなんだけど」


「その件に関しては私たちでは答えることはできません。ファイ様と直接話すのがよろしいかと」

頭を下げつつ、クロトは俺の問いに丁寧に答えてくれる。


「そのファイって奴はどこにいるんだ?」


「百階の玉座の間です」


「わかった。教えてくれてどうもな」

今まで会話の通じない相手ばっかりだったので少しばかりうれしい。


「あなたならばひょっとすればファイ様を満足させることができるかも知れませんね」


「?」

俺はそいつらの前を素通りし、階段にむかう。

クロトがアルベイック家というファイの側近を任せられる二百年続く家系であり、

クロト自身もヌービアに匹敵する冒険者であるということは後で知る。


こうして俺は塔の七十階を越えた。残るはあと三十階である。

この分だと楽勝かなとこの時までは思っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ