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冒険者チーム黒豹(ブラックパンサー)4

それは嵐のような攻防で周囲にある有象無象を破壊しつくしていく。

いや嵐などではなく、竜巻ともいうべきだろう。

周囲の物がヌービアの鞭により破壊され空に舞う。

縦横無尽に戦場を鞭の攻撃が彼女の間合いを行きかっている。


「厄介だな」

エリスは間合いの外からそうつぶやく。

攻防一体の要塞。それがエリスのヌービアに対しての感想である。

受け流そうにも鞭という武器の打ち据えるという性質上、それは困難であった。

ドラゴン・ウィップの攻撃はおそろしく重く、一撃でも受ければどうしても動きが止まってしまう。

動きが止まり、受けに入れば恰好の的になり、無数の鞭の連撃にさらされることになる。

魔剣レヴィアで作り出した防壁により、連撃で致命傷になることはないが間合いの外まで押し出される。

魔剣レヴィアを発動させ、風で鞭を防がなければ、勝負は決まっている。


この時点でエリスがドラゴン・ウィップの攻撃に推し戻されたのは三度目だ。

一度目と二度目は途中でたどり着くことなく推し戻された。

三度目、必死の思いでヌービアの懐に入ったが、鞭に加えて拳や蹴りが飛びだしてきて、

動きを止めると鞭が飛んできてエリスを押し出す。


近接戦闘のヌービアは何が飛び出してくるかわからない怖さがある。

ヌービアは達人と言うよりは天才である。こと戦闘においてそのセンスは飛び抜けていた。


「さすがと評価するよ。魔剣の力を差し引いても単身生身で私に接近しようとする人間はあんたで二人だ」

ヌービアは恍惚な表情でエリスに言い放つ。


「そうか」

表情には出さないが。法力と魔剣の同時展開はエリスに大きな負担となっていた。

訓練していなければすでに尽きているだろう。接近しヌービアに致命傷を与える意外の方法は無い。

法力と魔力の併用はとてつもなく気力を奪う。

対峙しているだけでじわりじわりとエリスは疲弊していくのだ。

このままではエリスはじり貧である。


後がない状況でエリスは剣を降ろす。


「全く、ここであれを使うことになるとは思わなかったぞ」


「他に何かあるのかい?」

エリスは脱力し、大きく深呼吸すると静かに構えを取る。

腰を落とし、剣の先を相手に向ける。


「これは私の尊敬する武人の技でもある」

エリスの闘気の高まりとともに魔剣レヴィアが風を纏い始める。

法力が視認できるほどにエリスの体の周りを駆け巡る。


「ただ私ごときが使うのはおこがましいというだけだ」

次の瞬間、エリスにまとわりつく闘気、法力、魔剣の力がふっと消える。

ヌービアは身の危険を感じ全力で鞭を振るう。


直後、エリスの姿が消える。


ヌービアの左肩に吸い込まれるように突き立てられた。


「ぐあ」

ヌービアの左肩を切り裂く。


「…少しずれたか。やはりはじめてだと扱いが難しいな」

ヌービアの背後まで移動したエリスは息をきらしながらつぶやく。

軌道がずれたのは彼女自身、その力を持て余したため。

それと鞭を受けたことで逸れてしまったのである。


エリスの使った技はオズマの扱う槍の技で『一の突き』とオズマが呼んでいるものである。

一振りの突きに全神経を集中させ、力を集約し、解き放つ。

本来ならば槍であつかうべき一撃必殺の技である。

訓練とはいえオズマのこの『一の突き』をエリスは今までに一度も防げたことはない。


「認めるよ。腕の方はあんたの方が上だ」

切り裂かれた左肩を押さえながらヌービア。

傷口からは血があふれ出ている。致命傷ではないものの深手である。


「負けを認めるのか?」


「勝負は私の負けでいい。…ただ仕事は別だ」

ヌービアの顔からは狂気ともいえる笑みが消えていた。


「皆、あたしの我儘はここまでだ」

ヌービアは大声で叫ぶ。

遠巻きで見ていた四人が木陰の陰から姿を見せ、エリスを囲む。


ヌービアの怖いところはその武力のほかに幾ら熱くなろうとも、冷静な判断ができるということ。

だからこそ彼女はプライドを捨て自身の力不足を認め、あの女勇者をチームで倒すことにした。

自らに課せられた義務を遂行するために。

幾ら熱くなろうとも現実的な判断を下せる。

だからこそヌービアという存在は『黒の塔』のリーダーであるファイにも一目置かれている存在である。


「あたしらは決闘が目的じゃない。卑怯だとは思わないでおくれよ」


「思わないさ」

エリスの放った言葉にヌービアは口端を釣り上げる。


「最高の敬意と持ちえる最大の全力をもって、黒豹ブラックパンサーはあんたを倒させてもらう」

ヌービアがそう宣言すると五人は一斉に行動を始める。

ホールズとコリットが投石と魔法で牽制し、セルスとパドックが接近戦で陽動。

そして、ヌービアが鞭でトドメというのが彼らの狩りの本来のスタンスである。


ホールズとコリット、パドックの遠距離からの波状攻撃。

エリスは防御に徹するもそれらを躱すことで体勢が大きく崩れる。

それというのもエリスは連戦続きで動きが明らかに鈍っていたためだ。

そこを狙いヌービアの鞭の重い一撃。エリスは剣の腹でそれを辛うじて受けるも足が止まる。


「今だ」


「きしゃああああ」

セルスがとどめとばかりに上段の構えから掛け声とともに巨大な剣を勢いよく振り下ろす。

『大蝶剣』と呼ばれるその剣は刀身の重量もかなりのもの。

それに加え、セルスの豪力を乗せている。鋼すら切り裂く全身全霊の一撃。


ガキン


それを受けたのはエリスではなかった。


そう言って一人の男が俺と女勇者の前に現れ、俺の大剣を手にした剣で受け止めていた。

手には鞘のついた剣が握られている。


「遅くなったな」

セルスの全力の一撃を受けつつ、何事も無かったかのようにユウは背後にいるエリスに声をかける。



セルスは表情に出さないものの動揺していた。その一振りにセルスは全力を込めている。

だがセルスの前にいる男の剣は文字通りぴくりとも動かない。

セルスはまるで巨大な岩にでも斬りつけた感覚がした。


セルスは一介の剣士である。剣と剣を交えれば相手のことが大抵の事はわかる。

ただ、セルスの目の前の男からは不思議なことに殺意はおろか敵意すら感じない。

戦場ともなればそれらを感じるのは当然である。


不意にユウとセルスの視線が重なる。

セルスはその瞳に俺は幼いころに覗き込んだ井戸の底が思い出す。

永劫に続くかと思えるような昏く深い穴。

一度そこに足を踏み入れれば二度と戻っては来れないと錯覚するような深い闇。

深淵とでもいうのだろうか。


こちらをなめているわけじゃない。この男、俺を全く見ていない。

セルスは心底ぞっとした。


「セルス、引け」

ヌービアからかけられた声で俺は我に返った。

セルスはおそるおそる剣を引き、後退する。


「セルスの旦那、どうしたよ。らしくねえぜ」

横にいるパドックがセルスに声をかけてくる。


「あ、ああ」

気が付けばセルスは全身汗まみれであった。

このことが彼に冒険者チームの命運を分けるある選択をさせるのだがそれはもう少し後の話だ。



「エリス、怪我はないか?」

ユウは背後にいるエリスに声をかける。


「…全くユウ殿はいつも狙ったように登場するな」


「助けに来て非難されてるのか、俺は」

ユウは困った表情を見せる。


「いいや。私は大丈夫だ。ベルガは」


「あいつは安全な場所に置いてきた」


「な…」

エリスは言いかけた言葉を呑み込む。

護衛を森に置き去りにするなど、冒険者としてユウのことを叱るのが筋だろう。

ただ、エリス個人としては来てくれて心強いという面もあった。

今のまま続けていればほぼ負けは確定的だっただろう。



「少々熱くなり過ぎちまったようだね」

ヌービアはそう言って肩を竦め、仲間と顔を見合わせる。

標的が二人になった以上、仕切り直す必要があった。

ユウと言う男の力は今のところ未知数。

さっきまではエリスだけを狩る戦い方をしていた。

二人になった以上、もしそのままの戦い方を続けていれば足をすくわれる可能性がある。


上位の冒険者であれば、被害を少なくするために状況の変化に対しては敏感になる傾向がある。

仕事となれば死と隣り合わせであるがゆえに、

生死を共にし、信頼のおける仲間を失うことは致命的であるためだ。


ユウがやってきたことにより、戦闘は文字通り小康状態に陥る。


冒険者同士では暗黙の了解がある。

冒険者同士の衝突は出来るだけ話し合いで解決すること。

ぶつかったとしても殺し合いはご法度。

依頼で衝突したとしても冒険者を殺すことはあまりよろしくない。

冒険者同士で争っても大した双方あまり得にならないからだ。


魔物の溢れるこの世界の人の命は軽い。

ヌービア自身、ここまで来るのに人を殺めたことがないわけではない。

だが、冒険者ギルドは魔物の討伐を目的として作られた組織のためである。

そのルールを無視して依頼とはいえ冒険者を殺し過ぎれば同業者殺しとしてレッテルを張られてしまう。

もしそのルールを破れば冒険者にとっての命に等しい情報を入手しづらくなる。

金になる魔物の発生や、依頼の実際の難易度、請け負う仕事の裏事情などなど。

ギルドを通してではなく、同じ冒険者からもたらされる情報は馬鹿にはできない。


かくいうヌービア本人も駆け出しのころ、嫉妬を買って何度かやばい情報を掴まされた経験がある。

その時ヌービアは情報と言う者の価値を知った。

事実、情報は身一つで稼ぐ冒険者にとって死活問題に直結する問題である。

また報復めいたことで仕事中に背後から刺される場合もある。


特にAランク以上は厄介なことに有事に備えてその受けている依頼や居場所の情報をギルドが握っている。

もし殺したのならば真っ先に疑われかねない。


今目の前にいるのは女勇者のリーダー。

女勇者の実力は相当なものだ。これでこの男が並みのAクラスの実力を持っていた場合、苦戦は必至。

あのキャバルのジャックが推薦したほどだ。少なくとも並のAクラス以上はあるとみて間違いない。


なにせ女勇者一人だけでもかなりきついのだ。これ以上は純粋な殺し合いになる。

ヌービアはそこで交渉という手段を試みることにした。


「少し話し合いをしないか?」


「話し合い?」


「そうさ。話し合いだ。あたしたちの所属する『黒の塔』は知ってるかい?」


「知らないな。あいにくサルア王国の田舎から出てきたばかりなんでね」

サルア王国と言えば辺境。

冬の間は雪で閉ざされるために出稼ぎが多く、冒険者ギルドもこことは違ってそれほど大きくはない。

そのため拠点を置く冒険者チームは限られてくる。

ゆえに冒険者たちからは田舎とも揶揄される。


「はっはっは。なるほどね。道理であたしらを知らないわけだよ」

ヌービアは気前良く笑う。


「対峙したあんたなら私らの実力はわかるだろう?」


「相当なものだと思うよ」

それを効いてヌービアはさらに笑う。


「ああ、その通りだ。同情するよ。

折角Aランクになったばかりだっていうのにとんだ貧乏くじを引かされたあんたらに」


「全くだ」


「改めて交渉しようか。あんたには二つの選択肢がある。

あの男を私たちに差し出すか、それともここで私たちと戦い続けるかだ。

前者を選択してくれるなら今後こっちもそれなりに融通を効かせよう。

『黒の塔』としてあんたらに貸しを作っておいた方が冒険者を続ける上でのちのち有利になる。

後者はお互いに死ぬまで殺し合いだ」


「前者はベルガを殺すのだろう?」


「それが依頼だからね」


「だとしたらその提案は呑めない」

即座にユウと言う男は否定した。ユウと言う男の言葉に気まずい沈黙が周囲に流れる。


「優しく言ってやったつもりなんだがね」

ヌービアは虚仮にされたと受け取った様子。仲間たちが息を飲むのが気配から感じ取れる。

ヌービアの場合、冷静な反面、キレると手におえないためだ。


不穏な空気が周囲に立ち込める。

一触即発の状況の中、ユウは懐に手を入れる。

皆一様に身構えるも、ユウが懐から取りだしたのは真っ黒なネックレスだった。


「それを私らにくれるっていうのかい?」

ヌービアは訝しげな表情でユウに問う。


「丸一日眠ってろ」

ユウがそう告げると目の前の五人が倒れ、意識を失った。




足元には『黒豹ブラックパンサー』のメンバーが寝転がっている。

『魔眼のネックレス』は彼らを完全に眠らせたようだ。

『魔眼のネックレス』は魔力を持たない人間に対し命令を強制できる。

その上、命令する前後のことをきれいさっぱり忘れるという効果がある。

効果は一日、この冒険者チームをここで一日足止めできるというのは何より大きい。


今が『魔眼のネックレス』の使い時だったと思う。

エリスも消耗していたし、このまま続けていれば間違いなく殺し合いになっていた。


「魔物に食い殺されるとか寝覚めが悪いし、一応人払いと魔物払いの軽い結界を張っておく」

魔眼の強制力で眠っている最中に襲われたらひとたまりもないためだ。

俺は収納の指輪から魔石をいくつか取り出し、割って結界を張る。

強い魔物なら結界を壊せるだろうが、その時は運が悪かったということだ。

エリスが唖然としてこちらを見ている。


「エリス、行くぞ?ってまさか今のにかかったのか?」

エリスは勇者としての特性で魔力関連の一切を受け付けない。

魔眼の効果を受け付けないはずのエリスが背後で固まっていた。

俺はエリスの目の前に手を近づけてひらひらさせる。


「ユウ殿…それは一体なんだ」

黒いネックレスを指さしエリス。


「…ああ、そういえばエリスには言ってなかったな。ラーベからもらったネックレスだ」

俺はとぼけたふりをして答える。

それというのもあえて教えていなかったのは問われるのが面倒だったためだ。


「見たところそれは強制的に人に命令を聞かせる能力…それは伝説に聞く『魔眼』と同じ効力か」

この『魔眼のネックレス』、伝説級らしい。

機会があればゲヘルやラーベたちの常識というものを根本から追及なければなるまい。


「そうみたいだな。効力は一日。使用回数は二回。魔力の多い奴には効果がないって話だ。

そこの魔法使いっぽいのに効くかちょっと心配だったんだが」

ユウは足元に転がる魔道士風の姿のコリットに視線を向ける。

魔族基準で魔力が高いのには効かないと話を聞いているが、人間相手にはほとんど効くんじゃないのか。

実際、セリアも人間のなかではずば抜けた魔力を持っているようだし。


「本当に規格外だな。…うまく使えば国ですら背後で牛耳れるんじゃないか?」


「できるんじゃないか?やらないけど」

というかそんな面倒なことこっちから願い下げだ。


俺は倒れている黒豹ブラックパンサーの面々を見下ろす。

本格的に戦いになったら面倒なことになっていただろう。


人間と戦うこと自体が嫌だというか遣り辛い。

魔族である俺の投石の威力ならば魔物の頭を吹き飛ばすことができる。

俺の投石は銃弾というよりは大砲の弾のようなものだ。

ホールズという男が木に石をめり込ませていたが、俺の場合は投石で木を薙ぎ倒すことができる。

これを人間に向けた場合、どこにあたっても致命傷になる。

回復手段がないこの世界で投石で人間の腕とか足を吹き飛ばすのはさすがに抵抗がある。


他の手段もあるが人間相手には加減がわからない。

実のところ、抱きしめることや手を握ることですら相手を傷つけないかどうか心配だ。

この体になって半年以上経つがたまに加減がわからなくなる時がある。

魔族の体は過剰もいいところだと思う。


「フフフ…全くあなたといると退屈しないな」


ぐううううう


腹の音が森の中に鳴り渡る。誰の腹の音なのかは言うまでもない。


「ユウ殿…何でもいいから何か食べるモノを…」

エリスは真っ赤になってうつむき俺に手を伸ばしてくる。

羞恥の念はあるが、彼女にとって空腹のほうが重大らしい。

法力は生命力を使う。それを今の戦闘でエリスはかなり使っている。空腹はその代償らしい。


エリスがポンコツなところは出会った時から変わらない。

俺は笑いを呑み込み、エリスに提案する。


「ベルガが心配だ。ベルガのところに向かいながらでいいか?」

俺は収納の指輪にしまってあるサンドウィッチを二三個エリスに手渡す。

念のためにベルガのところにも結界は張ってはいるが、大型の魔物だとそれを壊せる場合もある。


「…ああ。それでかまわない」

そう言うと俺とエリスは歩き始める。

俺はこのとき知らなかったのだ。このときのことが今後の火種になることに。

空を見えれば青く澄んだ空が広がっていた。

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