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冒険者チーム黒豹(ブラックパンサー)3

夜明け前の森の中、一人の冒険者と五人の冒険者が対峙していた。


五人の冒険者はチームであり、冒険者チーム黒豹ブラックパンサー

身を伏せ獲物が隙を見せた瞬間に相手の首下に食らいつく。

大型の肉食獣。冒険者チーム、黒豹ブラックパンサーという名の由来はそこからきている。

コルベル連王国周辺で名を轟かせるAランク冒険者でほぼ構成されたチームであり、

『黒の塔』というユニオンに所属している。


対するエリスは前日にコルギスの魔の森を抜けている。

彼女は勇者ではあるがその前に人である。

それだけの強行軍をしつつ、睡眠もそれほどとっていない。

ベストコンディションとは言い難い状況である。


「セルス任せていいかい?」

ヌービアが背後の大男のセルスに話しかける。


「ああ」


「なんだ、お前はやらないのか?」

エリスは怪訝な表情でヌービアを見る。


「残念だけどあたしの武器はチームプレーには向いてないんだ。

万が一、セルス達を倒すことができたら戦ってあげてもいい」


「なるほど面白い。あなたを引きづり出すとしよう。風よ、我が剣にまとわりつけ」

エリスが魔剣を発動させると風が発生し、彼女にまとわりつく。

彼女の手にしている剣は魔剣『レヴィア』。

風を操る魔剣であり、『極北』の魔神ゲヘルからエリスが譲り受けたもの。


「ほう、その手にしているのは魔剣か。それもかなり強力な…」

セルスはひもを通して首にかけられた収納の指輪を使う。

ちなみにユウたちは普通に使っているものの収納の指輪自体は高価なものである。


「なら相手にとって不足なし。こい、我が剣よ」

セルスがそう言うと彼の眼前に巨大な剣が目の前に現れ、地面に刺さる。

その長さは身の丈ほどあり、幅はセルスの肩幅ぐらいある。

それはその重さゆえに使う者が限られている武器である。

セルスはいつもつけているが今回の任務は移動が主体のために収納の指輪に入れておいただけだ。

セルスはそれを軽々と持ち上げる。


「『大蝶剣』よ、その力を開放せよ」

巨大な剣がそれを包む鋼を広げる。それはまるで蝶が羽ばたくようだと言われる。

その剣が『大蝶剣』と呼ばれる所以である。


魔道具がその力を発揮し、セルスの全身にまとわりつく。

それはセルスの全身を覆う、強固な鎧となる。


「なるほどな。攻防一体の魔剣か。マルドゥサ帝国に三本あると聞いていたが」


「よく知っている。パドック、コリット、ホールズ。先ずは俺がやる。手出しはするな」

エリスとセルスは互いに示し合わせたように互いの距離を詰めていく。


互いの間合いが重なった瞬間、エリスとセルスの間に低い破裂音とともに火花が散る。

セルスの背後ではパドック、コリット、ホールズがそれを見守っている。


五合打ち合った時、セルスがその体勢を崩した。


「法力使いか」

周りに聞こえるようにセルス。

法力と言うのは内在する生命力を力に変えるという手合いである。

デリス聖王国に伝わる闘術であり、法力を使えば何倍もの力を引き出すことができる。


「取りあえず一人目…」

エリスが体勢を崩したセルスにとどめの一撃を繰り出そうとすると

横からホールズの放った弾丸がエリスを襲う。

エリスがたまらず背後に飛ぶと着地点に複数の暗器が闇に交じって落ちてくる。

エリスは動じることなくそれらを剣で振り払う。


「マジか。あの女、俺の暗器を全部払いのけやがった」

驚愕の声を上げつつパドック。

パドックは木々の合間を縫ってエリスの周りを滑る様に走る。

彼の戦い方はじっくり相手の体力を削り、弱ったところに致命傷を与えるというものである。

その性格とは真逆の堅実な戦い方をするのがパドック。

それがまるで相手と戯れているように見えたために『惨戯』という二つ名である。


パドックが直感で頭を下げた瞬間、メキメキと木々が音を立てて倒れていく。


「おいおい、このゴリラ女、木ごと両断しやがった。それになんだこの出鱈目な間合いはっ」

足を止めることなくパドック。彼の後ろの木々が次々に倒れていく。

間合いを広げているのはエリスの手にした魔剣レヴィアのの能力である。

大気で刃を延長させているのだ。


「離れてっ」

ホールズの放つ無数の石とコリットの放つ氷の刃がエリスに向けて飛ばされる。

エリスはムサビのように木々の間を飛び、それを躱す。


「コリット前に出過ぎだっ。ホールズ、怯むな、石を薙げつ続けろ」

セルスが大声で叫ぶ。


セルスは一度の接触で対するエリスの力をほぼ正確に読み取っていた。

目の前にいる存在は見目麗しい女のなりをしているが化け物だ。

セルスは大型の魔物と対峙しているような錯覚すら受けていた。


「手加減なんてしなくていい。大型の魔物と戦っていると思え」

そう叫んだ直後、セルスの前に剣を振りかぶったエリスが現れる。


セルスは風圧を纏わせたずしりと重い一撃を剣で受ける。


一瞬、そのまま膝をつきそうになったがセルスは何とか踏みとどまる。

か細い腕から放たれたとは思えない怖ろしく重い一撃。

まるで全身の力をそのまま持っていかれそうな感じすら受ける。

セルスは法力使いとも何度か戦ったことがあるがこの女の力は今まで戦ってきたどれよりも上である。

俺も一対一で打ち合ったらこの剣をまともに受けられる気がしない。

女性の使う剣と侮れば一瞬で意識を刈り取られる。


「先ずはお前だ」

セルスと剣を交えながら低い声でエリス。

セルスを盾にされエリスを標的とした遠距離攻撃が一時的に止む。


「俺を簡単に取れると思うなっ」

セルスはそう言ってエリスの剣を押し返す。


間が開くとエリスから斬撃が繰り出される。

半分以下の体躯の女性に大柄で重装備をつけたセルスの重心が揺さぶられる。


「うおおおおおおお」

セルスは叫び声を上げ、その暴風の様な攻撃に耐えきる。


セルスは内心舌打ちする。

相手の法力が弱まる気配は感じられない。

セルス自身も法力をつかえるもののこの女の使えるのはセルス自身のそれよりもはるかに強い。

一般的に法力は長時間の運用が難しいとされる。それというのも法力は体への負担が大きいためだ。

それゆえに法力は使いどころを限られ、大型の魔物と対峙するときのための切り札にもなる。

その常識を覆すような戦い方をこの女はしている。


この女、この細身の体にどれだけの生命力を内蔵しているというのか。


「引いて。魔法式が完成したわ」

セルスの背後からコリットが大声で叫んでくる。


「弾幕だ」

セルスが背後に飛ぶと複数の石と暗器がエリス目がけて降り注ぐ。

エリスは魔剣『レヴィア』を発動させ、風の流れを作りそれを逸らす。


「大気ごと凍りつくがいい。第六階梯魔法ブルーファイヤ」

コリットがそう言うと、エリスの周囲に冷気を纏った蒼白い炎が現れる。

コリットの使う最大の氷結魔法。青い炎を形どったそれは空気すらも凍らせていく。

触れた者は例外なく血液を凍結させ、死んでいく。

大型の魔物ですら仕留めることが可能な絶死の魔法である。

本来この魔法は対人に使う魔法ではない。

それを使うことを判断させたのは指揮をとっているセルスから大型の魔物と思えと言われたためである。


目の前には青い炎がうねりを上げている。


「殺してしまうのは少しやり過ぎたか」

セルスは青い炎を眺めながら小さくつぶやく。


「ありゃ、仕方ねえってセルスの旦那、やらなきゃやられてたのはこっちだ。

まさか木が障害にすらならないとかあんな法力使い見たことねえ。

元聖騎士だったにしてあれだけの法力を長時間行使をできる奴はいねえぞ。

加えて魔剣だ、確かにAランククラス相当の実力はあったんじゃねえの?」

セルスの横からパドック。


「だとしたら惜しいな。あれほどの実力者、もう一度騎士として正面から戦ってみたかった」


「まったく、セルスの旦那は…」

途中まで言いかけたパドックの顔色が見る見るうちに変わっていく。


「なんだ?」

セルスが振り向くと青い炎の内に人影が立っていた。

青い炎を纏った人影は青い炎の中から飛び出してくる。

それは一薙ぎでセルスを木まで吹き飛ばす。


「ぐはっ」

鎧越しに衝撃を受け、セルスは吹き飛ばされる。


「そんな…私の魔法が全く効いてない…嘘…」

青い炎の中か飛び出してきた人影を見てコリットは戦慄する。

魔法が効いていないそんなことがあるわけがない。

魔法は確かに発動している。その証拠に青い炎の近くの地面や木々は氷で覆われている。

事実、どんな生物もあの魔法の前には血液ごと凍りつき、無力化できた。

まして相手は魔物より質量も体積もない人間だ。

凍らしきれないはずがない。


「セルスの旦那」

青い炎を纏った人影は次の標的をパドックに標的を定め、剣を振りかぶる。

その時、鞭がその間に割って入る。


「そこまでだ」

鞭で横槍を入れたのは傍観を決め込んでいたヌービアだった。

青い炎を身に纏わせながらも人影、エリスは自由に動き続けている。


「魔法が効かない人間…聞いたことがある。…あんたまさか、エリス・ノーチェスか」

ヌービアの一言に皆、驚愕の表情を浮かべる。

デリス聖王国にいるはずの存在であり対魔の人間側における最強の切り札。

『勇者』というのは手の届かない存在とも言われている。


「そうだ」

エリスはただ短くそう返事をする。


「フフフ…アハハハハハハハ」

狂ったようにヌービアは笑い始める。


「まさかデリスの勇者様だったとはね」

デリスの勇者。それは魔と戦うために聖剣に選ばれた存在。

勇者は太古の昔より存在し、人類において希望であり、

はるか昔からその功績をたたえた物語や、文献は数多く存在する。

その存在は他と隔絶した力を持っているとされており、魔力を媒介とした攻撃は効かないと言われている。


それならばこの女がそれだというのならば今までの並外れた力や、

コリットの必殺の魔法が効かないというのも納得がいく。


「気が変わったよ。あんたの相手はあたしがする」

ヌービアが鞭を振りぬくと、周囲の木々が破裂する。


「これはカムギムラン・コレクション。『ドラゴン・ウィップ』」

その形状は鞭であり、その伸びた先は五つに分岐している。

その名の由来はその鞭でドラゴンを倒したためとも、その威力がドラゴンの攻撃に匹敵するとも、

ドラゴンの部位を加工したためだとも諸説あるが定かではない。

とある文献では敵対する一軍を消滅させたという。

少しでも制御を間違えれば自分の身を引き裂くと言われているが、ヌービアはそれを完璧に制御できる。


「セルス、あたしの理性のあるうちに皆を引かせな。巻き添えにしない自信がない」

ぞっとするような表情でヌービアは指示してくる。


「わ、わかった」

セルスはよろめきながら他のメンバーを連れてその場から立ち去る。


夜明け前の暗い森の中にヌービアとエリスが対峙している。

森は死んでしまったように静まり返っている。


「私はね。あんたみたいな強者とガチでやりあってみたかったのさ。

ある程度名が知られるようになるとみんなあたしの名を聞けば

どんなはねっ返りもしっぽを丸めて逃げ出しちまう」

ヌービアが彼女の背後にある木々が音を立てて消失した。


「魔物はわんさかいるが、魔物とは駆け引きなんてものは楽しめないからね。

…久しぶりに会う人間の強者だ。少し任務を抜きにして楽しもうか」

ヌービアは獰猛な笑みを浮かべる。

それは戦闘という緊張状況に身を置く戦闘狂の笑みがする独特の笑みである。


「同感」

対するエリスも笑みを返す。彼女もまた戦闘狂である。



俺は暗い森の中をベルガを背負って移動していた。

そろそろ周囲は白んできている。夜明けが近い。


『天の眼』で確認すると相手の冒険者チームの五人は場所を動いていない。

エリスが引き付けてくれているのだ。


背後から音を聞きつけ足を止め振り返れば、あろうことか複数の木が根っこごと宙を舞っていた。

まるで竜巻でも起きているかのような光景に俺は目を疑う。


「なんだあれは?」


「相手は冒険者の中でも特Aランクのヌービアです。あのぐらいできても不思議ではありません」

背中からベルガが声をかけてくる。


「特Aランク?」


「冒険者の中でももっともSランクに近い存在のことを指します。

その戦力は軍隊にも匹敵すると言われています」


エリスが負ける場面など想像できないが、エリスはその前に魔の森の魔狼を狩りつくしている。

勝つとも断言できなかった。不安だけが心の中で膨らんでいく。


「僕はもう大丈夫です。ユウさんはエリスさんを助けに戻ってください」

背後からベルガが俺に提案してくる。


「…いいのか」

まだほの暗い魔物の徘徊する森の中、ベルガを一人きり置き去りにすることになる。

結界と言う手段はあるが護衛としてそれは避けるべきだと思う。


「それにユウさん、さっきから心配で仕方がないって顔してますよ」

ベルガは強がって笑って見せる。


「…我ながら情けないな」

びびってエリスに逃がされた上に、自分より十以上も歳の離れた子供に諭されるとか

この世界に来て今日ほど自分がふがいないと感じた日はない。


俺はベルガを背中からおろし、『天の眼』と魔族の空間認識で周囲に人や魔物がことを確認する。

収納の指輪から魔石を取り出し、結界を張った。

凶悪な魔物ならば破られることもあるかもしれないが、

大抵の魔物ならばこれでシャットアウトすることができる。


「ベルガ、そこから絶対に動くなよ」


「はい」

俺はベルガを残し、その戦いの方向へ向かった。

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