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冒険者チームガルトハンマ1

冒険者は気性の荒い者や変わり者が多い。

ただ例外なく力に頼る馬鹿は真っ先に脱落していく。

死ぬことは当然だが、脱落というのは大けがで体の一部を失う、

魔物により恐怖を刻み込まれ冒険者として使えなくなる。

冒険者として再起不能になるのはありふれた話だ。


それでも冒険者というものには抗いがたい魅力がある。

それは身分を問わずに成りあがれる可能性があるからだ。

功績を上げ王族に恩を売り、貴族になった者もいるという。

また冒険者で豪商の護衛を担当したことにより、豪商に見初められ養子になったという話もある。


そう言った冒険者の成功例は酒場では事欠かない。

それは誰もが望む夢物語である。

良くも悪くもそういう連中はうまい話が来るのを待ちながら冒険者ギルドの前で飲んだくれている。

たまに金がなくなると仕事を受けたりするぐらいだ。かくいう俺も少し前まではその一人だった。


世の中うまい話ほど裏があるというのに。



サルメンは椅子に座りながらぼんやりと窓の外の光景を見ていた。

宿の窓からは夕闇に沈む町が見下ろせる。

こうしてみれば多少の違いはあれどどこ街も一緒だ。

現在、俺たちは街道を少し外れた魔の森付近の街ラータにいる。

この街は魔の森により栄えた町である。

魔の森の魔物を間引くための冒険者や魔物の魔石目的の冒険者がよく訪れる。

そのために冒険者を泊める施設が整っている。

かつてスタンピードも発生したこともあるようだが、そんな爪痕は全く感じさせない。


どうしてこんな街道から離れた街にいるのかと言うとうちのリーダー、ガレリアがそう命じたからだ。


「よう、サル、どうした黄昏て」

部屋に俺とほぼ同年代のファルナーダがやってきた。

お互いにBランクの冒険者であり、冒険者チーム『ガルトハンマ』に属している。

ちなみにガルトハンマと言うのはかつて存在し、焚書により失われた魔導書のひとつだという。

学のない俺にはそのあたりのことは全く分からないが。


「ちょっとな。少し昔を思い出してた」


「例の三人組、ガレリアの爺さんの言った通り本当に来たぞ」


「マジかよ。間引く前のコルギスの魔の森をよく抜けてこられたな。

普通なら入った瞬間周囲を魔狼に囲まれて餌になるだけだぜ」

魔狼の特性の中で最も厄介なところは群れることだ。

もし何も知らずに森の中に入れば遠吠えとともに複数の魔狼に取り囲まれる。

よって間引きを行う際はそれぞれに役割を決め、十名以上でまとまって狩りをする。


「だが、ここまでやってくるルートは魔の森を抜ける一つだけ。事実、奴等はここまでやってきた」

俺はその事実を口にする。

俺たちが追っている冒険者チームが魔の森を突破したのはほぼ間違いはない。

魔の森をはさんだ反対側のラータの街までこんなに早くやってこれはしない。


「何らかの薬、魔法でも使ったんじゃないのか?

さすがに間引く前の魔の森を抜けるとなると千匹以上の魔狼を相手にしないとならないぞ」

ファルナーダはコルキスの魔の森の間引きに何度か参加しているし、

かつての仲間も何人か犠牲になっているという。

ガルトハンマの中では誰よりも魔狼の怖さを知っている。

ガレリアの提案を聞いたときに最も難色を示したのはファルナーダだった。


ファルナーダの言っていることもあり得る話だ。冒険者同士の間で互いの手法は秘匿される。

自分の親にですら自分の手の内を見せることはない。

それは命に直結するし、情報が洩れればそれだけ自分の食い扶持が減ってしまうからだ。


「考えられなくはねえが…もし強引に突破してきたのなら?」


「それこそありえないな。何千という魔狼を三人で、それも護衛しながらだ?

それこそAランク…いや、Sランクにでも匹敵するんじゃないのか?」


「だよなあ」

俺とファルナーダは腕を組んで嘆息する。

ここで幾ら議論してもそれは所詮推測の域を出ない。


「それより、今回の報酬の件聞いたか?相当な額になるらしいぜ」

俺は明るい話題を振る。


「ガレリアの爺さんは今回で引退する気らしい」


「あー、こんなことなら数日前。現担ぎに酒場で女でもひっかけておくんだったな」


「ファル、もうあきらめろ」


「お疲れじゃな」

ここで一人の歳経た小柄な白髪の老人と若い男が部屋に入ってくる。

ローブをつけて、長いひげをひもで結んでいる。

俺を含めた皆が一斉に立ち上がり、敬礼をする。


この老人の名はガレリア。

この老人が俺たち、ガルトハンマを束ねるリーダーであり、

冒険者ギルドの中でもわずか五百人しかいないというAランクの冒険者の一人である。

Aランクに二十年も居続ける最古参(Sランクを除いた)。

はっきり言って魔物よりも魔物らしい存在である。

(冒険者の仲間内からは妖怪じじいとも言われる)

かつてはカロリング魔導国において教鞭をとったこともあったらしいが政争に巻き込まれ、

魔導国から追われ、冒険者になったという異色の経歴を持つ人間である。

また貴族お抱えの冒険者であり、冒険者の中でもかなり名が知られている。

受けた依頼の達成率は八割を越えるし、全員生還している。

その代わり怪しいと感じたり、気に入らなければ絶対に任務を引き受けることはしない。

そしてどれほど優位に立とうと『確実』を得るために策を巡らすその用意周到さは尊敬に値するとも思う。


若い方はポペッツィオ。若く器用で、小回りが効き、ガレリアの爺に重宝されている。

これで見張りをしているノルダが加われば冒険者チーム『ガルトハンマ』の全メンバーになる。


「して奴等はどうなった」


「宿に三人が入ったのを確認した。一度男が買い物に外に出ましたが夕方に戻ったのを確認してる」

ファルナーダがガレリアに報告を入れる。


「ご苦労さん」

そう言ってガレリアは俺たちに食糧を手渡す。

今回の標的は魔物ではなく生身の人間だ。


冒険者同士の殺し合いはご法度とされている。

冒険者というのは建前上は魔物を狩る集団となっているが、

人護衛任務、盗賊討伐などの任務をこなせば人を殺しは誰もが経験する。

それゆえに俺たちには同じ冒険者だろうと必要ならば殺すことに抵抗はない。

ましてや今回はかなりの報酬も出る。


今回の冒険者チーム『渡り鳥』はサルア王国から出てきたばかりの冒険者チームだという。

そのためにコルベル連王国周辺に彼らとつながりのある貴族は存在しない。

一番恐れなくてはならない後見人からの報復はないことを意味する。

正直後見人の有無は大きい。


「爺さんの方はアレの調整まで終わったのか?結構ぎりぎりだっただろう」

俺は渡された食糧を口に含み切り出す。


「まあ、なんとかの」


「ポペッツィオ、対魔物用のアレを人間相手にぶっ放すのは今回が初めてだろう。行けるか?」

俺は爺さんの脇にいるポペッツィオに問う。

ガルトハンマのメンバーの中では最年少である。

ポペッツィオはいつになく緊張している様子。


「…大丈夫です」

ポペッツィオの狙撃能力は高いが、人を殺したことはない。


「それならいいが、あまり気負うなよ」

俺はポペッツィオの肩を軽くたたく。

今回の仕事の成否はこいつの腕にかかっている。


「にしても爺さん、奴等がここに来ることをどうして予測できた?」

食事もあらかた終え、仕事の前に気になっていたことを俺はガレリアに問う。


「…街道はコルベルの兵士たちだらけじゃ。

コルベルの軍と戦って睨まれる馬鹿な真似はさすがにしないじゃろうと思っての。

それにAランクならば魔の森を突っ切ることぐらいはできるかと思っておった」

白ひげを手で撫でながらガレリア。

一番若いポペッツイオが尊敬のまなざしをガレリアに向けている。


フランクな態度とは裏腹にこのガレリアの爺さんは手段を選ばないし、

仕事に関して非情であり、報酬に関して貪欲である。


「だが逆にそれは油断にもつながる。魔の森を抜けてくるとはだれも思わないじゃろう。

裏をかいてやったとな」


「そこに油断が生まれると」


「そうであってくれるといいんじゃがな」


「珍しく自信なさげだな。まあ踏み込んで乱戦になればあっと言う間だろう」


相手の冒険者は魔の森を抜けてきたために疲労している。

魔の森を抜けるというとんでもない手段を使ったのだから。


ガレリアの回答は俺、いや俺たちの予想をこえたものだった。


「いいや。今回は念を入れて部屋ごと爆破する」

いきなりの言葉にその場にいる俺たち三人の表情ががらりと変える。

今までそこまで強硬な手段を取ったことはほとんどなかったからだ。


「おいおい、さすがに散らばった肉片を一つ一つ確認するなんてマネは嫌だぜ?」


「それで終わりならこちらの被害もない、安いモノじゃ」


「犯罪者になるつもりはないぜ」

俺は疑問の声をガレリアにぶつける。

今まで一緒に仕事をしてきたが、ガレリアは宿の部屋ごと爆破するなど強硬な手段はとってこない。

宿が利用できなくなるためだ。宿を利用できなくなれば冒険者として致命的である。

少なくともコルベル連王国では仕事を受けられなくなる。

さらに犯罪者として指名手配されれば冒険者として文字通り終わる。


「フォフォフォ心配はいらぬ。この時期宿には奴等しか客はおらぬ。

爆風は上に逃がすようにするつもりじゃし、ここの領主とは魔の森の討伐任務でコネもある。

お主らの思い描くような最悪にはならんわ」

俺たちは肩を竦める。ガレリアは話を通しているようだ。


「ならいいけどよ。そこまでする必要があるのかよ」


「相手はコルギスの魔の森を抜けて来ておる。その相手にし過ぎるということはない」


二人ともなったばかりとはいえAランクの冒険者だという。

もしその情報通りだったのなら、同じAランクであるガレリアの爺さんはともかく

Bランク以下の俺たちでは束になったところで勝てる見込みはゼロだ。


Aランク冒険者になれる人間を何人か知っているがどれも及びもつかない。

不意を突いたとしても万に一つも勝てるとは思えない。


「…にしても爆破か。標的は子供だけなんだろ。アレだけじゃだめなのか?」


「わしの隠居もかかっておるのじゃし、可能な限り安全策をとりたいからの」

ガレリアの言葉に皆眉をひそめる。

隠居するとかマジかよとか皆思っているが、誰も口には出さない。


「というのは半分冗談じゃ」

茶目っ気たっぷりに舌を出して見せる。


「…何故か二人の冒険者はやばい感じがするのじゃよ」

ガレリアの話に皆が押し黙る。

ガレリアがこういう時、決まってその予感はほぼ当たる。それも悪いほうに。

ガレリアの予感で命を救われたのは一つや二つではきかない。


「それにしても手際がいいな。符はいつ仕掛けた?」


「昨日の夜、着いたときにノルダに頼んでな。この村のすべての宿の部屋に符を仕掛けておる」


「すべての宿の部屋にか」

俺はガレリアの言葉に舌を巻く。


「他に質問はないかの?なら今夜の配置を決めるとする」

ガレリアの眼がきらりと光り、部屋の緩んだ空気が引き締められる。

そこにあるのは今まで何度も見てきた獲物を狙う狩人の眼だ。


俺は絶対にこの爺さんだけは敵に回したくないと思う。

悪いが『渡り鳥』の連中には俺たちの餌になってもらうことにしよう。

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