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冒険者チーム黒豹(ブラックパンサー)1

空は晴れていて、雲一つない。

レーレン街道には馬車が一つあるだけだ。

人通りの多い街道ではあるがこの時期となると通行量ががぐんと下がる。

それというのも街道脇にある魔の森を警戒してのことだ。


間引きのされる間際の魔の森からは魔物が溢れることは珍しくない。

事実、魔の森からあふれた魔物により商隊が絶滅したという話はよくある。

商人たちも命あっての物種である。

この時期は急ぐ理由がないのならば皆、遠回りをしてもハッサーム街道を使うか、海路を使う。


街道脇の魔の森は海岸沿いから北西に伸びており、魔の森を排除し街道を通す計画も何度か持ち上がったが、

そのたびに魔の森から現れる魔物に邪魔され頓挫してきた。


馬車が近づくと駐留している騎士団が動き出す。


「そこの馬車止まれ」

半ば強制的に馬車が引き止められると、すぐさま馬車の周りを武装した兵士たちが取り囲む。


「ご苦労様です」

御者をしている男がそう言って頭を下げる。

男の名はパドックという。長身でひょろっとした感じの男だ。


兵士たちの隊長らしき一人がパドックに話しかける。


「…商人と言うわけではないな。お前たちは何処へ向かっている?」

パドックは懐から銅の冒険者カードを取り出し、兵士にみせる。


傍から見れば冒険者集団は移動する武装集団であり、盗賊と区別がつかない。

そのために身元を特定する証として冒険者カードは一般的に広く使われている。


「…なるほどCランクの冒険者か」

隊長らしき男は冒険者ギルドカードを見て納得する。

冒険者ギルドカードはS、A、B、C、Dの順にプラチナ、金、銀、銅、木となる。

ちなみに移動可能な冒険者はCランク以上となる。

銅の冒険者カードを持っているということは分類ではCランクの冒険者になる。


「この先の街のホエントまで。知り合いの商人から護衛を頼まれましてね。今はその仕事の帰りなんですよ」

パドックは愛想笑いを浮かべながら兵士の問いに答える。


「護衛か…今の時期は商隊は北のハッサーム街道を使うが…」


「急な取引が入ったってことでこちらを使うことになりまして。私も吃驚ですよ。

ここを今は盗賊よりも魔狼ですからね。何しろ間引き前だ。いつ森を飛び出して襲ってくるかわからない。

おかげでこっちは稼げるってわけです。…にしてもこんなところで検問ですか?」


「…盗賊団がこの街道を使って西に向かったという通報があってな…」


「さっきからじろじろとなんだ?」

背後の馬車から言い争う声が聞こえてくる。

パドックと話していた兵士は馬車の背後に向かう。


「何をしてる」

その後、兵士たちは離れたところで何か話し合っている。

しばらくすると御者をしているパドックのところに先ほどの兵士が寄ってきた。


「引き止めて悪かったな」


「へいへい」

パドックは馬に鞭を入れると馬車が動き出す。



「王国の兵士ともめごとは厳禁。そんなんだといつまでたってもBランクのままだぜ。ホールズ」

兵士たちの姿が点になるとパドックは背後にカーテンごしに声をかける。


「あいつらの視線がきみが悪かったからだ」

少年のホールズが口をすぼめて愚痴る。


「そりゃ、俺たちと同じ奴を探してるからだろう」


「…俺をじろじろと見てたのは王子と年頃が同じだからか」

ホールズははっとした表情を見せる。


「魔の森監視役として駐留しているというのは建前で本当の目的は街道封鎖だろう」

兵士たちが見えなくなったところで御者をしている大男のセルスが呟く。

甲冑だとわからないように上からマントをつけている。


「にしても軍を動かしたのかよ。お得意様はやることが派手だな」

パドックが手綱を握りながら皮肉を口にする。


「あの方なら軍に強いパイプがある。考えられないことではない」

腕を組みながらセルスが仏頂面で答える。


「依頼主が同じなら少しは協力してくれてもいいのによ」

ホールズは口をとがらせる。


「あのな、俺たちがここにいることは極秘だぜ。

いつもと同じような魔物相手じゃないんだ。

何のために偽装や尾行なんてまどろっこしい手段をとってると思ってる」

パドックは手にした銅色の冒険者ギルドカードを懐に忍ばせる。

金色の冒険者ギルドカードが懐から覗く。


Bランクの冒険者ギルドカードまでならばAクラスであれば作ることは難しくない。

一部のAランク以上の冒険者はそれを利用することもある。

それというのもAランクの冒険者ギルドカードは良くも悪くも周囲に与える影響力が大きいためだ。

その上、この国だけでも三十人ほどしかいないために容姿だけで名前まで特定するのは容易い。

任務次第ではこれは大きな障害にもつながる。


この馬車に乗っている五人の内、ホールズを除いた四人は冒険者ギルドにおいて

Aランクに分類される冒険者たちである。


「Aランクなら冒険者ギルドに場所を特定されるんだろ?偽装してもあまり意味ないんじゃないか?」

ホールズが問いかける。


「ほう、よく知ってるな」


「それなりにベンキョーしてるからな」

ホールズが胸を張る。


「ギルドマスターの『星見盤』はスタンピードが発生した時などの非常用の時だけだ。

それに使うにはかなり高価な魔石が必要になる。普段から使えるものではない。

知っていても第三者に居場所を教えるようなことは本人の許可が必要になる。

それを破れば冒険者と冒険者ギルドと戦争だ。

それに場所の確認と言っても定期的な連絡を取っていれば何をしてようと構わないのさ」


「しかし極秘って」


「今回の場合は王族殺しは無用な怨みを受ける。

それは拠点を近くにおく私たちにとって大きなマイナス」

コリットが抑揚のない声で呟くように横から会話に入ってくる。

銀色の髪をした外見はあどけなさを残すも美少女だが、表情には喜怒哀楽と言った感情が見られない。


「そう、コリットの嬢ちゃんの言うとおり。王族や貴族を敵に回すのはいろいろと面倒なんだ。

国家の中枢から嫌われるのってかなり厄介なんだぜ。

貴族連中の後見はびびってつかなくなるし、大口の指名依頼からも除外される。

王侯貴族に嫌われて国にいられなくなった冒険者の話は事欠かない」


「パドックはよく知ってるな」


「同業者の間では有名な話だ。まつりごとには関わるなってな。

これでホールズ君も一つ物知りになったな」


「くそ、馬鹿にして」

口では悪態をつきつつホールズはメモを取っていた。


「にしても不可解」

杖を持った少女コリットは一人つぶやく。


「何がだ?」


「…ホールズを見ていたと事はまだ見つかっていないということ。標的はどうやって検問を突破した?」

右手には平野が広がり、左手には魔の森。この場所ではいくらなんでも隠れようがない。

だが昨日まで三人はこの道を進んでいた。

それは今日の朝彼らの泊まった宿屋を確認している。

追っていた標的と冒険者の行方がつかめなくなったのは今日になってからだ。


「ああ。その件に関しては俺も引っかかってた。

肝心なヌービアの姐さんもさっきから外を見ながらだんまりだ」


パドックの視線の先にはヌービアと呼ばれる女性は馬車の外を見つめている。

黒くウェーブのかかった長い髪に青い瞳。

大柄だが、太っているというわけではない。筋肉は必要なところについている

着飾った服装をすれば人の目を惹きつける容姿だろう。


「馬車を止めな」

ヌービアの声が馬車中に響き渡り、馬車は急停止する。


「どうした姐さん」

ヌービアは一人魔の森を見つめていた。


「やっぱりだ。違和感の正体はこれか」


「違和感?」


「魔の森が静かすぎる…間引きは一か月後のはずだ。それなのに子供の魔狼一匹いやしない」


「たしかに…」

間引きを前にした魔の森ならそれに接する街道から一つ二つ魔物が見えてもおかしくはない。

だが今日は魔物が全く見られない。魔の森のほうに目を向けても気配すら全く感じない。

それはあきらかに不自然なことだった。


「みんなどこかに引っ越したとか」


「おいおい。馬鹿ホールズ、そこにあるのは魔の森だぜ?そんなことあるわけねえだろうが」


「パドック、馬鹿ってなんだよ。さっきから言わせておけば…」

パドックとホールズが喧嘩を始める。


「あっはっはっはっは、そうか、そういうことか」

突然ヌービアが大声で笑いだす。

突然の笑い声にパドックとホールズは喧嘩をやめて固まる。


「…ヌービアが狂った」

ヌービアのあまりの変貌ぶりにコリットはぼそりとつぶやく。


「…こりゃ、面白くなってきたようだね」

ヌービアはさも愉快そうな表情になる。


「どーする、セルス。姐さんが面白くなってきたって言うのは大抵マジでろくでもない時だぞ」


「パドック…言うな」

パドックの声にセルスは苦虫をかみ殺したような表情を見せる。


「大の男どもがこそこそ話し合ってるんじゃないよ」

ヌービアに叱咤され、パドックとセルスはぴんと背筋を正す。


「さて、私らも行くとしようか」

ヌービアは自身の武器を手に持って立ち上がる。


「姐さん、行くってどこへ」


「魔の森に決まってるじゃないか」

ヌービアの一言にパーティ『黒豹ブラックパンサー』全員の表情が一斉にこわばせた。

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