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話を受けました

いきなり妙な提案を持ちかけられて俺は少し驚く。

態度に自信が満ちている。感覚的にこの人、相当なキレモノっぽい感じである。

腕も人間にしては相当あると思われる。

その証拠にオズマがここまで警戒をしているのを見るは久しぶりなのだ。

オークの名を出してからエリスの表情に緊張感が垣間見える。


「…オーク?」

とにかく詳しく聞いてみることにする。話を聞いてみないことにはわからない。


「ユウ殿はオークを知らないのか?」

不思議そうにジャックは俺を見る。


「知らないな。少なくとも俺のいたところでは聞かなかった」

俺がこの世界に来て日が浅いというのもあるだろうが、今までオークという単語は聞いていない。

オークと聞くと前の世界でゲームなどで聞いたかなりポピュラーな生物だった。

俺が自分にかけた自動翻訳魔法がオークと翻訳しているということは

イメージ的に最もそれが近いということらしい。


「そうか。なら説明は必要だな。第一級隔離指定生物オーク。

ボア系の魔物の変異種とか魔石を口にした豚やイノシシが変化したものだと言われている。

ヒト型で体格は成長すれば人よりも少しばかり大きいぐらいになる。

だが体は筋肉質で刃を通さない。よく棍棒などの武器を使う」

そのオークには武器を扱う知性は存在するわけか。


「にしても第一級隔離指定生物って大層な呼び名だがそんなにヤバいのか?」

どうもそこまで言われている理由がわからない。

腕力だけならば以前に戦ったレッドベアの方が上の様な気がする。

たしかに棍棒を使うらしいが、危険度が高いようにはとても思えない。


「…奴等の一番怖いのはその食欲と繁殖力だ。特にその繁殖能力が突出している。

同族はもちろん、馬や家畜、人間の女性すら苗床にし、ほぼ無制限に繁殖する。

奴等の通った後には何も残らないと言われている」

ジャックは聞き捨てならないことをさらりと言う。

哺乳類なら何でもいいということらしい。想像以上に見境がない様子。

横にいるエリスの表情には嫌悪感がにじみ出ている。たしかにこれは女性の天敵だろう。

エリスがオークの名を聞いてピリピリしているのがわかった。


「今からおよそ百年以上前にある国が内戦で放置していたために、

一つの都市が犠牲になったという記録が残っている」

都市が犠牲になったねえ…。国を滅ぼすとかちょくちょく聞いてるからあまりぴんと来ないんだが。

とにかく人間からオークがかなり危険視されているのはわかった。


「そのオークをここから一山越えた北のクタの村で行商の人間が見かけたらしい。

行商にクタの村に向かったが、オークが徘徊しているのを見て驚いて逃げ帰ってきたという。

冬の間はここら辺一体は雪が多く村は外界との交信を絶たれる。

それが原因でオークの発見が遅れてしまったようだ」


「気付かぬうちに増えていたって訳か。性質が悪いなそれは…」


「オークか。そういや、うちの姐さんも嫌ってたっけな」

横で腕を組んでいるクラスタが思い出したように呟く。

ん?クラスタがここに来ているということは…。


「みんな、料理できたわよ」

セリアの声が周囲に響く。その声に皆の関心が一気に移る。


「ジャックさん、その仕事の話は一端おいておいて飯にしましょう」

セリアの声に俺たちは一斉に動き出す。


「?」

ジャックはいきなりの変化に戸惑っているいる様子。

配られてきた料理を受け取り、スープを一口、口に入れる。

その瞬間表情が驚愕のものへと変わった。

「…ほう、これは既に料理店出せるレベルだぞ。いい嫁さんになるな」


「フフフ、お口に合ったようでよかったです」

天使の笑顔でセリア。


「ジャック殿、そもそもギルドマスターならばこんな場所まで出張る必要はないんじゃないのか?」

オズマが口に料理を含みながら問う。オズマさん、行儀悪いって。


「ははは、性分でね。自分でもギルドマスターは柄じゃないと思ってはいるよ。

もともと冒険者上がりで現場の方がずっと性に合ってる。けど人がいなくてね」

ジャックは食事を口に運びながら困ったように語る。


「王都キャベルの冒険者ギルドならかなり人が居そうなものだが?」


「…数だけさ。うちの冒険者ギルドは人はいるけど慢性的な人材不足でね。

そもそも優秀な冒険者はとんでもなく稼げるし、どこからも引く手あまただ。

その上、冒険者という人種は報酬も少ないこういう面倒な仕事は受けたがらない。

なかなかこっちの条件のあう人材は出てこないんだ」


「それは大変ですね」


「…上の下の板挟みで大変だよ。

ギルドマスターの仕事もさすがに変な奴に貴族や商人との交渉は任せられないし、

強面の冒険者たちに怯んでるようじゃ話にならない。

ここに来る前もちょっとトラぶっててね。文句言う冒険者連中を懲らしめてきた」

ジャックはそう言って苦笑いを浮かべながら差し出されたスープにパンをつけ口に入れていた。

この人、相当の苦労人っぽい。


「ありがとう。おいしかったよ」

ジャックは空の食器を返してくる。


「それじゃ。食器を片づけるか」

俺の前に使われた食器が集められる。


「汚れを除いた食器を収納せよ」

洗うのも手間なので食器だけを収納する。食器の汚れが地面に落ちた。

横着はよくないが、水場も近くにないのでこっちの方が手っ取り早い。

本当にこのゲヘルからもらった収納の指輪は便利である。


「収納対象を指定したのか?にしてもこれは…」

ジャックは信じられないといった表情をみせる。


「水辺が近くにないもので簡易的な手段です。もちろん次に使う際には洗っていますよ」

何度か試してみたが汚れを完全に落しきれるものでもないらしい。

収納の指輪の中は時も止まっているみたいなので腐ることもない。


「そういう話をしているんじゃないんだが…」


「?」

ジャックは何やら難しい顔を見せる。


「…その君の収納の指輪は容量も相当のようだな…」


「…ええ。まあこのぐらいなら」

しまった。やり過ぎたか。俺は今になってようやく気付く。

対象を絞った収納は他の収納の指輪にはない効果だった。

以前、魔道具を扱う女性から聞いた話では魔族からもらった魔道具は

人間社会では値がつかないものだと言われている。


「それは一体どこで手に入れたんだ?」


「…これは知り合いの魔法使いから譲られたものです」

魔法使いじゃなくて魔族だけどね。ゲヘルは元魔法使いみたいだから嘘は言ってはいない。


「ずいぶん高位の魔法使いが知り合いにいるもんだ。今度紹介してほしいものだな」


「そこの詮索は抜きでお願いします」

俺は丁寧に断る。相手が魔族だとばれたらちょっと大事になりそうだ。


「…そうだな。相手の手持ちの詮索はマナー違反だ」

ジャックはにこやかにほほ笑む。話の分かりそうな人でちょっと安心。

節度を守っているし、この人には好感が持てる。

少し話してみたがこちらに対しての悪意は感じられない。

まあ、もしこちらをどうこうしようとするならそれなりの代償は払ってもらうが。


「ちょっとだけお手洗いに抜けるがいいか?」

ジャックは俺たちに一言断る。お手洗いだろう。


「構いませんよ」

ジャックが席を立つと見計らったようにエリスが俺に声をかけてきた。


「さっきのオークの件だが…できれば引き受けて欲しい。オークは倒さなくてはならない害獣だ。

連中を野放しにしておくことは断じてできない」

エリスの表情からは固い決意のようなものが感じられた。

エリスの養父は魔物に殺されているという。その決意はそこから来ているのかもしれない。


「わかった。俺はこの話、引き受けようと思う」


「…ユウ殿、すまない」

エリスは深く頭を下げる。正義感の人一倍強いエリスのことだ。

もし俺たちが行かないと言ったら一人でも行くつもりだっただろう。

エリスは俺たちの大事な仲間だ。一人で戦いに行かせるわけにはいかない。

エリスがこの話を切り出してきた時に答えはすでに決まっていた。


「エリスは頭を下げなくてもいい。俺たちは仲間なんだから。

引き受ける決定に異論のあるのはいるか?」

俺は皆に声をかける。


「私も話を聞いてみて正直やってみたいと思っておりました。

オーク相手ならば良い訓練になりましょう」


「俺もいいと思うぜ。魔物ばかりで少し歯ごたえってもんがなかったからな」

オズマとクラスタは快諾する。戦闘狂の二人は案の定と言ったところか。


「セリアもアタもそれでいいか?」

俺は残る二人に語りかける。


「異議なーし」


「ええ」

セリアとアタも了承してくれた。


ジャックが戻ってくると俺はジャックをその話を切り出す。


「ジャックさん、さっきのオークの話ですが受けさせてもらってもいいかと思います」

こうしてオーク討伐が決定したのだった。

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