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思惑

「ジャックさん、お時間取らせてすみません」

コルベルの冒険者ギルドの執務室の長椅子に座っている。

うららかな昼下がり。窓からは光が差し込んでいる。


「セリアちゃん、それで俺に何の用だい?」

ジャックは自身で淹れたコーヒーをセリアに差し出す。

セリアはコーヒーを受け取ると一呼吸してセリアが切り出す。


「…もしAランクを返上したいと私が願い出れば私はBランクに戻れるのでしょうか」


「やっぱりその話か」

ジャックは自身の机の上に腰を下ろす。


「ユウやオズマさん、エリスならともかく私にはAランクは少々荷が重いと感じています」

セリアなりに感じていたことでもある。

自分は今パーティの中で最も弱い。


「たしかに現時点での君には荷が重いかも知れないが、俺は君にはその資質はあると思う。

オークとの戦闘において石壁を作り出したし、サウルスリザードとの戦闘においてもそうだ。

並の魔法使いは萎縮してしまって要求する力を発揮できない。発揮しすぎてもだめなんだが。

その場その場で求めらることを察知し、適切に行えるのがAランクの魔法使いに求められることだ」


「それはユウたちがいたからです。私には自信がありません」


「自信なんて数をこなせば自然ついてくる」


「…」


「それにこれは君のためでもある」

セリアちゃんではなく君と呼んだ。私と公を分けるジャックなりの線引きである。


「…Aクラスの冒険者は居場所を冒険者ギルドに特定されるですね」


「そうだ。やはり君は賢いな。君の容姿は悪目立ちすぎる。なにせエルフに酷似した『先祖返り』だ。

君を求める貴族や商人たちは多い。王侯貴族からも狙われるかもしれない。

幾ら注意していようとトラブルがむこうからしっぽを振ってやってくる。

Aランクの冒険者になれば居場所も特定されるし、何かあれば冒険者ギルド全体が黙ってはいない。

冒険者ギルドの後ろ盾があれば少しはましになるだろう。

ユウ君たちならばキミを護れると思うが、万が一の時のための保険だよ。保険は多いほうがいい」

冒険者ギルド全体では国家にも強い影響力を持つと言われ、

面と向かっての対立を国家ですら避けると言われている。

それはもちろん武力もあるが、魔物や魔の森の管理に関して無くてはならない存在であるためだ。

それらを敵に回すということは高い維持費に軍が必要となり、国家の財政を圧迫する要因にもなる。


「どうして私にそこまでしてくれるんですか?」


「期待しているからだよ」


「期待ですか?」

セリアは怪訝な表情でジャックを見る。


「君は間違いなくAランクの魔法使いになれる」


「…何でわかるんですか?」


「ああ、職業柄、多くの冒険者を見てきた俺の感だ。

生き急ぐ奴だったり、金だけしか見ない奴、皆のために戦おうとする奴。

共通しているのは強くなる冒険者たちには動機がいる。

君はユウたちと肩を並べるようになりたいんだろう?」

セリアはそのジャックの言葉に無言で頷く。


「だったら彼らのところで精一杯背伸びをしてみるのもいいんじゃないか?

彼らの元でなら君はきっと俺の…俺たちの届けなかった高みにたどりつける」

ジャックの言葉にセリアは無言でカップを握りしめる。


「…君はまだ降格する意志はあるかい?」

セリアは首を横に振る。

それを見たジャックは薄く微笑む。


「ジャックさんはずるいですね。そう言われると断れないじゃないですか」」


「…俺もかつては冒険者だった。知っての通り冒険者の世界は過酷な世界だ。

才能があるのにその場を与えられずに大けがをして引退することになったり、死んでしまったり。

冒険者になって三年たって残っているのはせいぜい二割といったところだろう。

もちろん冒険者は危険に身を置かなくてはならないのは当然だ。

高い報酬は命がけの仕事の対価でもある」


「俺と一緒に冒険者に入った連中でまだ生き残っている連中は二、三人しかいない。

俺はそれをみて惜しいと思ってた。もしうまく導けたのなら彼らはどうなっていたのだろう。

ひょっとしたら俺の届かない場所まで歩いていけたのだろうかと。

君らには俺たちの見えなかったその先の世界を見ることができるんじゃないか」


「…はい」


「…また何かあれば俺に相談しにくるといい。話は聞くし相談にも乗ろう。

セリアちゃんをAランクに任命したのは俺だからな。

キミらがキャバルにいる間は出来る限り力になるよ」

ジャックは笑ってセリアに語りかける。


「ありがとうございます。ジャックさん」



「がんばれ」

ジャックはセリアの出ていく背を見て手を振る。



セリアと入れ替わるようにリティが入ってくる。

ジャックはカップに口をつけ冷めたコーヒーを口にしていた。


「それにしても若いっていいねえ」


「ジャック、何枯れた老人のようなことを言っているのですか?」


「別に枯れてるつもりはないんだがなー」


「『影聞』からの報告です。第三王妃派と王弟派に動く気配があると」

執務室でリティの報告を聞いたジャックは頭を抱える。


「マジか」


「どこからもれたのでしょう?私にすら直前まで話してもらえませんでしたよね」


「…ガレリア爺あたりだろう。あの妖怪じじいだけは冒険者時代からどうも苦手だ。

現役時代も何度か裏をかかれたことがある。いい加減とっとと引退してもらいたいもんだ」

ジャックが気だるげな表情でぼやく。


「そもそもなぜ亡命させる必要があったのですか?」


「説明は要るか?」


「ええ。できるのならば」

リティはの言葉にジャックは少し考えた後、話し始める。


「…そうだなもういいだろう。もう俺の手から離れたことだし、順を追って説明していくとしようか。

現在コルベル連王国には知っての通り三つの勢力が存在する。国王派、王弟派、第三王妃派だ」


「はい」


「今回はそれに王位継承争いが深く関わってきている。

現在第二王子は病死し、現在王の直系は第一王子ボーフィンと病弱である第三王子ベルフォード、

そしてまだ七歳である第三王妃の子、第四王子アルクダーナ。

このうち国王派が第一王子ボーフィンを推し、第三王妃派が第四王子アルクダーナを推している。

ちなみに第三王子は妾の子であり、最も立場が低い。後ろ盾は乏しく、彼を持ち上げる人間は一人もいない。

今後激化していく王宮の中の勢力闘争で生き残れることはまずないだろう。

今のままでは第三王子ベルフォードが消される。

そう考えた依頼者は表向きは病気療養という名目で第三王子を王都から離すことにした」


「リス聖王国では法力を使った治療術の研究が盛んですからね」

リティの言葉にジャックは頷く。


「ただ現在コルベル連王国にいる冒険者ではその依頼を信用して任せることはできない。

これは優劣とかではなく単に冒険者の質の問題だ。

現在キャバルに滞在する冒険者チームはほぼ要人護衛任務には向いていない」


「たしかに…」

王都キャバルにはAランクの所属する冒険者チームは四つほどある。

その四つはキャバルの実質キャバルのトップの冒険者チームだが

要人警護という点においては向いていない。


「依頼者はそこで新しくAランク冒険者になったユウ君たち『渡り鳥』に目をつけた」


「…その依頼者というのは誰ですか?」


「現王ラーレック、その子の父親だよ」


「国王が…」

リティは絶句する。この話は国王直々の依頼だったということだ。

リティはジャックが自身にも話ができなかった理由を知る。


「…王弟派は第一王子と第四王子のどちらについてるんですか?」」


「王弟派は今のところどちらにもついてはいない。

第三王妃派と王弟派は対立している。が、王弟派は第一王子ボーフィンと仲が良くない。

王弟派の行動原理はこの国の平穏でもある。そのため王位継承の争いには関与しない方針なんだ。

俺としては最終的に第一王子派につくことになるだろうと思ってはいるがね」


「ではなぜ王位継承争いに関与しない王弟派が第三王子を狙うのですか?」


「第三王子を将来の火種と見ているからさ」


「…何の力もない王子が火種ですか?」


「仮にもしどちらか一方の陣営が倒されたとして、第三王子を中心に新たな陣営を作りかねない。

将来火種となりかねない第三王子は王弟派にとっては明確な敵になるというわけさ」


「…はあ…。共存はできないのですね」


「この国の軍と貴族は水と油だよ。

中央の軍を強くし、国の防衛を充実させようとする軍と、

高度な自治権を求める貴族は事あるごとに対立し反目しあっている。

派閥というのはそう言う二つ勢力の抑止にもなっていて、現在の均衡は危ういバランスの上に成り立っている」


「第三王妃派から見れば第三王子は目の上のたんこぶ。

王弟派からみれば第三王子は消しておくべき将来の火種。

二つの勢力から見て第三王子は共通の敵になるわけだ」


「二つの勢力にも折りあうところはあったわけですね」


「王宮外に出るこの機会を二つの勢力が見逃すとは思えない。

最悪、どちらの陣営からも刺客が送り込まれてくるだろうとは思っていたんだが…」


「どうなると思います?」


「この場合、王弟派がもっとも厄介だな。軍と大きなパイプを持っている上、

三大ユニオンの一つ『黒の塔』とつながりがある。武力という点では三つの陣営の中でも最も高い」


「ジャックは『黒の塔』まで出てくると思いますか?」

『黒の塔』とはイーヴァと言う死霊使いが所属するユニオンである。

コルベルより北西に位置する黒の塔と呼ばれる遺跡に拠点を持ち、

ユニオンは冒険者でありながら、独自の運営を任された集団。

権限という点においてはキャバルの冒険者ギルドマスターであるジャックと同じ権限を持っている。

同格なために直接命令は下せないし、武力はあちらの方が上である。


それというのも現在、『黒の塔』には彼女を含め三人のSクラスの冒険者が所属しているためだ。

冒険者ギルドが認めた十人のSクラス『十天星』。それが三人も所属しているという。

十天星は戦術級から戦略級の力を持つと言われている。

そんな存在が怪物が三人だ。一人でも国家ですら避けて通る連中である。


「ああ。王弟派が動いたならば必ず『黒の塔』が動く。

『黒の塔』の要人抹殺を担当するのは豹と蛇の二つのチームだ。

リティ、君が任せるとすれば豹か蛇のどちらかのチームに任せる?」


「そうですね…私なら豹を選びます」


「なぜか聞かせてくれるか?」


「この場合、隠密性が高く、特殊性の秀でた蛇よりも、

機動性が高く、武力が優れた『黒豹』の方が確実かと」


「ああ、俺もそれには全くの同感だ。『黒豹』には特Aランクのヌービアがいる。

あいつらは単純に力という観点から見ればSランクを除いた上位の冒険者の中で実力的に頭一つ抜けている。

それにチームとして見てもAランクの冒険者ばかりで固められた相当な実力者ぞろいでもある。

もしチームとして戦うことになればSクラスでも苦戦するかもしれない」


「今更ですが、例の一件、オズマの抜けた『渡り鳥』に依頼しても良かったのでしょうか」

さすがにジャックの話を聞いて心細くなった様子だ。


「俺の見立てでは少なくとも今のキャバル、いやコルベルの冒険者ギルドの中では彼らが最も適任だよ」


「ジャックが『渡り鳥』が最も適任と考える理由とは?」


「俺が適任と呼ぶ理由は二つある。

並の冒険者ではすぐに消されてしまうだろうし、懐柔されるおそれもある。あてにならない。

その点、『渡り鳥』はまだこの国で知名度も薄く、彼ら自身も貴族等に関係を持ちたがっていない」


「…なるほど」

相手の背後にはこの国の貴族もいる。

このキャバルを拠点とする冒険者チームにとって貴族の後ろ盾を得られることは安定にもつながる。

たとえ任務を失敗したとしても貴族の後ろ盾を得られるのならば将来的にプラスになる。


「二つ目、Aランクの冒険者のいるチームを派遣し、衝突した場合、死傷者が発生する可能性がある。

最悪の場合、キャバルのAランクの冒険者チームが一つ機能しなくなる。

そうなったとしたらコルベル全体の冒険者ギルドの総戦力は大幅ダウンだ。

これから三か月の間にいくつかの魔の森の討伐も控えている。

今後のことを考えるのならばできる限り手持ちの冒険者チームは使いたくない。

この二つの理由で適任と考える。もちろん俺の打算もあるがな」


ジャックの所属する王都キャバルの冒険者ギルドはコルベル連王国すべての冒険者ギルドにおいて

監視、監督する責任がある。

もしその中の一つが使えなくなれば、キャバルの戦力は大幅にダウンすることになり、

厄介な魔物やスタンピードなどが発生した場合、対処できなくなる危険があった。


「…たしかにそう考えれば『渡り鳥』が適任かもしれませんね」

リティはジャックの言葉に納得した様子。


「実のところこの依頼はオークの一件の少し前からあったんだよ。…正直俺も受けるかどうか迷っていた。

今回は政治的にいろいろと絡み過ぎているし、

さっきも言った通り手持ちの冒険者チームはこういう類の仕事には向いていない。

ただ冒険者ギルドは万人に開かれていなくてはならないという原則上無視もできない」

愚痴をこぼすようにジャックは語る。


「…」


「とにかく尽くすべき手はすべてうち、もう賽は俺の手からはなれた。

俺たちにできることは祈ることぐらいしかない」


「そうですね…。あとは『渡り鳥』次第ということですか」


「…それに彼らなら案外どうにか切り抜けられそうな気がしてね」

そう言っていたづらっぽくジャックは微笑んだ。

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