表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/135

出立しました

ジャックから話を受けた次の朝、俺たちはキャバルの西門にいた。

西門の周りは人であふれている。

ここから伸びる街道は西にあるコルベル連王国西部につながり、

もう少し先にあるペレッタという街が分かれ道になっており、

北に向かえばマルドゥサ神聖帝国、南に向かえばデリス聖王国に向かうことになる。

そのためにキャバルは流通の起点となっており、人であふれているのだ。


俺とエリスは昨日のジャックに言われたとおり、門の壁際に背を預け、薄汚れたローブを着て立っていた。

大きなとんがり帽子をかぶり、その帽子には赤い羽根をつけている。

たまに視線を向けられるが、一目見ると皆通り過ぎて行ってしまう。

それも俺たちが浮浪者か物乞いにしか見えないためだ。


にしても翌日に依頼を受けることになるとは思わなかった。

急いだとしてもちょっと早すぎの様な気もする。


一般の服を着た女性が俺たちの前に現れて告げる。

「どこか調子でも悪いのですか?」


「昨日赤い帽子亭で少々飲み過ぎてしまったので」

俺はジャックとの打ち合わせ通りの言葉を告げる。

ちなみに赤い帽子亭などという酒場はキャバルには存在しない。

聞く者がいるとすればただの浮浪者の妄言と思われるだろう。


「…私の後ろについてきてください」

俺たちは促されるままにその美人の背後についていく。

美人だが全く隙がない。ガウンの下から覗く、服はしわ一つない。

歩き方にもどことなく品がある。

見る者がみれば相当訓練されているのだとわかる。


「最後に確認しておきます。あなた方は誰を通して話を受けましたか?」

通りから死角になる場所で立ち止まると俺たちに話しかけてきた。


「冒険者ギルドのジャック」


「…間違いないようですね」

その女性は再び歩き始める。

その先には通りからは見えない場所にその馬車は止まっていた。

貴族用の屋根のついた馬車だ。華美な装飾は無いが、機能的ではある。

俺たちは無言でその馬車に乗り込む。


そこには小柄な少年が馬車の中にいた。


「そこにいる子供が俺たちが護衛する対象か?」

俺の言った子供という言葉に少しだけ表情にヘレネが鋭い視線を向けてくる。


「ヘレネ。大丈夫」

少年がその女性をなだめる。


「そうです。ベルガと言います。僕があなた方に護衛してもらうことになります」

少年はこちらに向き合い一礼する。

その横でヘレネといいう女性はさっきとはうって変わってハラハラしながら見ている。


「…私はここまでです。どうか御無事で」


「ありがとう、ヘレネ」

その言葉に一瞬ヘレネの表情が緩んだ。こちらを見るとヘレネは頭を下げる。


「それとそのローブはこちらで預かります」


「別に大丈夫だが…」

ぼろぼろのとんがり帽子とローブはジャックから借りたものだが、

タイミングを見計らって収納の指輪に入れて置くつもりだった。


「預かります」

ヘレネが有無も言わせないような迫力で俺に迫る。

そんな不衛生なものを主人の近くにおけないと思ったのか、

それともそんな身なりの者が主人といるのが許せなかったのか。

とにかく俺たちに拒否権はなさそうだ。


「…はい」

俺たちはヘレネに屈し、ぼろぼろのとんがり帽子とローブを脱いで手渡す。


「どうか、坊ちゃまをよろしくお願いします」

ヘレネと呼ばれた女性は馬車を出る間際に立ち止まり、深々と俺たちに頭を下げる。

動きが洗練されており、どこか良家の女中を思わせる。


「ああ、まかせておけ」

ヘレネが馬車を下りると馬車が動き出した。

このまま西門を出てデリスに向かう手はずになっている。


「まずは自己紹介からですね。俺はユウといいます」


「私はエリス」

俺とエリスは頭を下げる。


「僕はベルフォー…いえベルガとお呼びください。それとできれば敬語もやめてください」

言い間違えそうになったのは人前で偽名を呼び慣れていないためか。

ベルガは良くも悪くも良家の坊ちゃんって感じである。


「よろしいのですか?」


「ははは、堅苦しいのは抜きで。道中長いですから」

ベルガは人懐っこい笑みでそう言ってくる。


「わかった。それなら楽にさせてもらうよ」

ベルガの提案は正直助かった。

あんなしゃべり方で数日過ごすのはちょっと肩がこる。


「ところで失礼ですが…お二人のランクは…」


「ああ、一応俺たちは冒険者ギルドではAランク冒険者ってことになってる」


「Aランク冒険者!こうして会うのは初めてです」

それを聞いてベルガはキラキラした眼差しを俺たちに向けてくる。

ベルガの反応は昔の世界で憧れのプロの運動選手に出会った子供の様な感じである。


「すごいことなのか?」


「それはすごいことです。このコルベル全体でもAランクの冒険者は四十名ほどしかいません」

文字通り目を輝かせながらベルガ。


「く、詳しいな」

というか知らなかった。


「すみません。ずっとAランクの冒険者とこうして話すことは僕の憧れだったもので」

少し照れながらベルガ。

昨日なったばかりだとはちょっと言いずらい。


「道中まで暇だし何か話でもするか?」

俺は空間感知を使って周囲に気を巡らせる。怪しげな者は馬車の付近には存在しない。


「それでは、討伐した魔物の話とか是非聞かせてください」

ベルガは目を輝かせながら俺に詰め寄ってくる。

それが今回の任務のはじまりとなった。



ユウたちがキャバルを立ったその日の夕方。


場所はキャバルの北側。

そこは立派な貴族の屋敷が立ち並び、それぞれ豪華な門が立ち並ぶ。

コルベル連王国の貴族社会の縮図がそこにはあった。

その中の中のボルファーグ侯爵の屋敷である。

待合室では豪華な調度品が並べられている。

一人の老人がぽつりと一人、ソファに座っていた。


扉が開き一人の男が入ってくるとその老人は立って頭を下げる。

「ボルファーグ候」


「ガレリア。急に訪ねてくるのはめずらしいな?」


「ちょいと耳寄りな話を耳に入れたのでな」


「耳寄りな話?」

貴族の男は目を細める。


「第三王子が病床に伏せったと話があったのは聞いておるか?」


「…それなら王宮に送り込んだ使用人から昨日、連絡があった。

病弱な第三王子のことだ。珍しくはあるまい」

王宮にはさまざまな使用人が出入りする。そこには貴族の推薦で送り込まれたものも多い。

王宮で行われるのは高度な情報戦である。

それというのも情報の有無が貴族の隆盛に直接関わってくることもあるためである。


「陛下とジャックの小僧との面接の頻度がやけに多くなってたからの。

少し前から周囲に網を張っておった。

冒険者ギルドとつながりのある貸し馬業者の厩舎から一頭生きのいいのが消えたらしい」


第三王子と来て馬と出されれば男にはこの老人の言わんとしていることは察しがついた。

「馬…。…まさか王は第三王子を国外に逃がすつもりなのか?」


「それを裏付けるようにペレッタのある筋から今日の昼ごろ、

二人の護衛をつけた少年がデリスの方角に向かったと連絡を受けた」


「ペレッタ?…となると目的地はデリスか?」


「そうじゃ。デリスならコルベルと大きなつながりはない。

病弱な王子に法術という治療術が発展したデリス。体面としてはこれで十分じゃろう。

匿ってくれるかどうかは知らぬが、逃がす場所として考えるのなら一番じゃろうな」


「…第三王子ベルフォードの存在は我々にとって頭の痛い存在だが…」


「国外、それもデリスに逃げられれば打つ手はなくなるぞ」


「デリスの国境までは馬車で丸三日、今日を除けば二日か…時間がないな。至急、マヨッタ様に連絡を取れ」

貴族の男は立ち上がり、執事に指示をする。


「王弟派にも情報にもそれとなく流しておいた方がよいじゃろう。

王弟派は第三王妃派と同様、消そうとしておる。利害が一致している以上、敵にはならん。

王弟派は軍とつながりがある。街道を封鎖することも可能じゃろ」


「…なるほどな。それとなく情報を流しておく。そういうガレリア爺はどうするつもりだ?」


「わしはこのまま追跡に向かうとする」

ガレリアはそう言って立ち上がる。


「…王族殺しは王家の怨みを買うぞ?それもわからんガレリア爺ではないだろうに」


「年々、冒険者がしんどくなってきてるからの。ここらで最期に大きな稼ぎがほしいんじゃよ」


「…わかった。あんたとは長い付き合いだ。

成功報酬になるだろうがそれなりのものにするようにマヨッタ様に言い含めておく」


「すまんな」

ガレリアが部屋を出ていく。

ガレリアに寄り添うように二人の男が両脇を歩く。


「サルメン、馬車の手配は」


「終わってる。すでに外に待たせてるぜ」


「ポペッツィオ、装備は?」

もう片方の若い方にガレリアは問う。


「対人用一式をノルダさんが一通り馬車に詰め込みました。御者として待機中です」


「ファルナージの奴は武器屋に出していた武器を受け取りにいった。

西門で合流するっていってたよ」


「ま、仕方ないじゃろ。今回のはさすがにいきなりじゃったしの」


「護衛はどこのチームだ?『テーラマーナ』か『獣士隊』か。

さすがに護衛任務に『バーニングハート』はねえだろ」

その三つの冒険者チームはキャバルを拠点にするAランク冒険者チームである。


「『渡り鳥』というチームじゃ」


「『渡り鳥』?聞いたことのないチームだな」


「ああ、昨日付けでAランクになったメンバーが所属しているところですか」

若い方のポペッツィオが答える。


「さすがポペッツィオ、情報が早いの」


「最近キャバルで話題に上がってますし、掲示板に張り出されていましたから」

少し照れながらポペッツィオ。


「Aランクなり立てのおのぼりさんってわけかよ。どうせAランクつっても一人か二人だろ」


「それが…聞いたところでは五人全員Aランクで構成されているみたいです」


「…マジかよ」

これにはサルメンは


「サルメン、情報は冒険者にとって生命線じゃ。休日、酒におぼれるのもよいが常に収集を怠るでない」


「へいへい。それにしてもAランクとはいえ、経験も浅い連中だろ」


「あのジャックの小僧が直接Aランクに引き上げたのじゃからな。

少なくともAランク以上の実力はあるとみてよいじゃろ。

護衛についているのはそのうちの二名らしいが、

さすがに正面からAクラスの冒険者二人を相手にするのはうちらのパーティでは厳しいの」


「ならどうする」


「決まっておる。こちらの土俵に引きづり込むんじゃよ」

ガレリアはにやりと笑みを浮かべる。

三人が屋敷を出ると馬車が待機していた。


「さて、狩りの時間といこうかの」

ガレリアはそう言うと馬車に乗り込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ