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面倒な依頼らしいです

ギルドに向かったのは食事の後だ。

ギルドに行くと言ったらセリアとエリスがついてきた。


「あの、なんでついてくるのでしょうか」


「私もジャックさんに話したいことがあるの。

私たちがついて来たらユウは何かやましいことあるのかな?」


「こういう理由なんだよ」

昨日留守中に部屋のドアに差しこまれていた紙を二人に見せる。

差出人はジャックからだ。至急連絡を取りたいと書いてある。


「…これって至急って書いてあるけど、やばいんじゃないかな?」


「お前が言うか」

俺はセリアの一言に頭を抱える。

昨日の深夜の説教(拷問)は深夜まで続いた。

ジャックのメモは拾ってはいたが目を通すことはなく、そのままエリスの説教に入り、

目を通したのは昨日の解散したあとだった。

ギルドが開くのを待ってから出向くつもりがオズマの一件もあり、昼過ぎになってしまったのだ。



ギルドにやってくるとリティさんにジャックのところに案内された。


「今日も両手に華か。羨ましいよ」

俺を見るジャックの顔は疲れが見えるが、なぜか機嫌が良さ気である。


「遅れてしまってすまない」

俺は神を見せてとにかくジャックに頭を下げる。

今回は全面的に俺が悪い。


「そのことに関してなら一区切りついてるから別にかまわない。

ただ、緊急事態の場合もある。スタンピードが近隣の魔の森で発生したとかな。

その場合Aクラスの冒険者は緊急招集をかけられる。

次にこんなことがあれば深夜でも冒険者ギルドを訪ねてきてほしい」

ジャックは諭すように俺に語る。


「…わかった。これからはできる限りそうするよ」


「君らはAクラスになったばかりだ。今回は大目に見る。そこの席に座ってくれ」


「…なんか今日は機嫌がいいな」

ジャックにぐちぐちと小言を言われるかと思い身構えていたが、そうはならなかった。

俺は不審に思うも俺たちは目の前のソファに座る。


「ところで今日はオズマはいないのか?」


「オズマは少し個人的な用でしばらくパーティを抜ける」


「その場合、もし拠点を定めた場合はそこのギルドに一声かけてくれ。

Aクラスの冒険者チームの戦力の増減はその街の総戦力に直結するからな。

最悪、他の街から冒険者を借りてきたりすることもある」


「わかった」

Aランクになったものの正直知らないことが多すぎる。

ジャックからのアドバイスは受けておいて損はない。


「ところで俺たちの名前が他の冒険者ギルドでも掲示板に張り出されてるって聞いたんだが」


「Aランクに上がった者の名は各ギルド支部に周知される。

これはギルドの規則でもある。昨日渡した小冊子に書かれているよ。

Aランク以上は冒険者ギルドに所在や、受けている依頼を特定される。

冒険者ギルドは各地に発生する魔物の討伐が主な業務でもある。

万が一、この近くの場所でスタンピードが発生したとして

すぐに近くにいるAクラス以上の冒険者を知らなかったり、連絡がつかないのだったらそれは大問題だろう」


「…」


「それにその逆の場合も考えれる。キミらと連絡が取れなくなった場合のことだ。

もし何らかの依頼で行方不明になった場合、すぐさま探索隊が組織される。

当然だ。Aランク以上の冒険者は貴重な戦力でもあるのだから」

こっちはある意味で好都合かもしれない。


「…わかった」


「その代わりといってはなんだが、

Aランクである限り生きていくうえで金銭面の心配はほとんどないと言っていい。

Aランクの仕事は高額なのが多い。それに冒険者ギルドからは高待遇を受けることになる。

当然だ。命がけである上に、こなせるものがほとんどいないのだから。

居場所の情報を知られることはそれに伴う責任だと考えればいい」

それはこちらの動向が逐一ギルドに報告されるということでもある。

つまりは犯罪なども筒抜けになるとも考えられる。

ただそれを指し引いてもギルドに所属するメリットの方が大きい。

反面、これでますます魔族であることがばれるわけにはいかなくなったようだ。


教えてくれるものがジャックでよかったとも思う。


「他に何か質問はあるか?」


「いや」


「それにしてもずいぶんとお疲れのようですね」

セリアがジャックを気遣う。


「昨日は疲れたよ。知ってるだろ。昨日キャバル市内で竜巻被害があってな」

ジャックは肩を回すしぐさをしてみせる。

昨日の三体の魔族に追いかけられた一件は竜巻被害と言うことになったらしい。


「市街地の民家はかなり破壊されていたし、この国の象徴の一つ大聖堂にも多くの被害が出た。

ちなみに市中で落下物も多数あったが奇跡的に死人やけが人はいないそうだ」

ジャックはこちらを見ずに淡々と報告書を見ながら呟く。

俺の背中を冷たい汗が零れ落ちる。


「…へー」

うまくごまかせる気がしない。


「今日の聞き込みでわかったんだが、その被害の会った周辺では令嬢を抱いた黒ずくめの男と

ドレスを着たを背負った男が何者かに追われて屋根を飛んでいくのが目撃されたそうだ」

表情を変えることなくジャックは続ける。

俺はジャックに真綿で首を絞められている気がしてきた。


「しかもその背負っていた令嬢の服装が午前中にギルドにやってきたのと酷似してるんだ」

意味深な笑みを浮かべジャック。

だめだこりゃ。完全に特定されてる。

しらばっくれる選択もあったがキレモノであるジャック相手にそれは無謀かなと思う。

あの二人を見つけ出すのは無理だろうが。


「正直竜巻のあった場所に人間がいるわけがない。いるはずのないモノを追うことはできない。

誰にでも見間違えはある。今日の午前中に王宮に提出した報告書にはその記載を俺の方で外しておいた」


「…わかった、わかったよ。そっちの要求はなんだ?」

俺は両手を上げて降参のポーズを取った。この人相手じゃ、これ以上とぼけ通せない。


「話が早くて助かるよ。実はキミらに指名依頼が来ている」

笑顔でジャックさん。この人、笑顔で人を殺す人だ。


「指名依頼、なんか嫌な予感しかしないんだが」


「一人の男をデリスの国境まで運んでほしい。ちなみに馬車はこっちで用意する」

俺の声を無視してジャックは続ける。


「護衛任務か」

護衛任務は二度三度経験したことがある。

ここからデリス聖王国の国境までということは歩いて片道七日ぐらいだろうか。馬車を使えば三、四日。

エリスの故郷でもあり、ひょっとしたらと思い気には留めていたのだ。


「依頼主は誰だ?」


「すまない。俺からは守秘義務で対象の情報は一切教えられない」


「おいおい、情報ぐらい教えてくれないのか?」


「…ああ」


「俺がやめると断った場合は?」


「その時は依頼主に断られたと連絡する。ユウ君たちには昨日の件は他の件で穴埋めしてもらうさ」

ジャックは昨日の一件で脅してくるかと思ったが拍子抜けである。


「かなり厄介な仕事ではある。指名依頼だからランクはつけられないが、

つけるとすれば間違いなくAランクだろうな」

冒険者ギルドが冒険者にあっせんする仕事内容に応じてランク分けされている。

ちなみに俺たちが最近引き受けたものはオーク討伐とサウルスリザード討伐がAランク任務だったらしい。


「報酬は?」


「依頼料金は白金大金貨二枚。前金で支払う」

ジャックはそう言うと俺に二枚の金貨をテーブルにおく。

白金大金貨は金貨千枚分に相当する。つまり金貨二千枚と言うことである。

国家間でやり取りされる通貨のためにその価値は地域では安定しているし、偽造防止も施されているらしく、

その価値は不変に近いとのこと。


以前サルア王国である依頼の報酬として五枚ほど報酬としてもらっている。

あまりに価値が高いために両替ができる場所がほとんどないのが欠点ではある。

たった一人の護衛、それも馬車で三、四日でいける距離に法外な料金である。


「きな臭いにおいしかしないんだが、事情はどうしても説明してくれないのか」


「先方からの依頼の条件の一つでな。俺の口からは言えない」

俺は嘆息し考え込む。

そう言われてしまえばこれ以上はジャックから情報を引き出すのは無理だろう。


オーク討伐すでに十分な金は受け取っているし、

それにサルアで稼いだ額もまだほとんど残っている。

金はあることに越したことはないが、これ以上危険を冒す必要はない。


一方で時期的には悪くない。『渡り鳥』はキャバルに二週間滞在すると言ってある。

一人の人間を護衛してデリスまで連れて行く。うまくいけば往復で六から八日で済む話である。

それなら昨日決めたキャバル滞在期間中に終わらせることができる。

報酬もいいし、条件も悪くない。ただ、報酬が異様に高いのが引っかかる。


この間の討伐で相当な報酬をもらっているのはジャックも知っている。

もし俺たちに受けさせようとするなら高額な報酬は逆効果である。

とすればジャックの目的は何か。


ジャックは断られるつもりでこの依頼を持ちかけている感じがした。

断った場合、次の依頼は断りづらくなる。次の依頼がこれよりもいい条件である保証はない。

なによりジャックへの借りはとっとと返しておきたい。


受けてみるか?

ふと俺にそんな考えがよぎる。


ただ案内役は絶対に必要だ。

案内役にするならばデリス聖王国出身であるエリス以外に考えられない。

ただし、エリスはデリス聖王国から抜け出てきている立場である。


半年前に聖王カルナが崩御してからのデリス聖王国の混乱は収まっていない可能性がある。

聖王カルナがエリスを俺に任せたのも暗殺を恐れてのことだ。

カルナは『予知』という能力を持っており、自身の死後エリスがデリス国内の争いに巻き込まれるのを危惧し、

俺にエリスを託してきたという経緯がある。


デリス聖王国には彼女をよく思わない者たちも多くいる。

事実エリスがデリス王国から出国する際に、彼女をよく思わない聖騎士たちからの襲撃を受けた。


デリスに近づくのならばエリスが狙われる可能性も考えなくてはならない。

と言っても勇者であるエリスは相当な実力を持っている。

そんなエリスに危害を加えられるとすればほんの一握りの人間なのだが。


俺が悩んでも仕方がない。問題なのはエリスがどうしたいかだ。

思い切って俺はななめ後ろにいるエリスに向き会い、問いかける。


「エリス。ここからデリスまでの案内役、頼むと言ったら引き受けてくれるか?」


「私は構わない」

エリスは頷いてこちらを真っ直ぐに見据えてくる。

その表情からは受けられるのならば受けて欲しいと言っているようにも読み取れた。

エリスが断るならば依頼も断るつもりだった。

だが、こうなれば断る必要はない。


「ジャック、その依頼受けるよ」


「わかった」

俺の返事を受け、ジャックは淡々とそう言って頷いた。

「それじゃ、明日の話をしようか」




ユウたちとの打ち合わせが終わり、ジャックは一人執務室で書類と向き合っていた。


「やれやれカマをかけたつもりが。本当に関係者だったとはな」

一人になったジャックは頭をかく。


爆発事件に関することは、ジャックなりのブラフである。


人影の報告は上がっていたし、謎の令嬢と共通する点があったが、

ジャックには直感的に関わっているかもというだけで確証はなかった。

ユウたちと爆発事件の関係性には少し興味があったが、ユウはあきらかに知られるのを嫌がっていたし、

これ以上は藪蛇だろう。


世の中知らないことの方がいいことのほうが多いということをジャックは知っている。

折角手に入れたAクラスの冒険者を自身の興味で失うのは馬鹿げている。


「…ただまあ、これで一番厄介な問題が一つ片付いたな」

ジャックは口元を緩ませる。


コンコン


「どうぞ」

リティが入ってくる。


「リティ、体の方は大丈夫なのか?」

ジャックはリティを労わる。

昨日はSランクとまともに対峙することになった上、キャバルを包んだ謎の殺気に当てられ倒れた。

繊細な彼女にとって昨日は人生において十指に入るほどの最悪の一日だっただろう。

ジャックは彼女に休みを取るように命じていた。


「おかげさまで。ところでオリシアは…」


「オリシアはどうゆうわけか昨日中にキャバルから離れたようだ。

緊急用の『星見盤』を使ったから間違いはない。

昨日の夜から今日の昼にかけてここから北へ三十キロの地点から動いていない」


「北へ三十キロ?荒野と森しかないじゃないですか。なぜそんな場所に?」


「何が起きたかはわからんが、反応はある。生きているのは確かだな。

動く気配がないようだし、ひとまず『渡り鳥』との衝突は回避できたとみていいだろう」

ジャックの言葉にリティはほっと胸をなでおろす。


「…ですがあれだけオリシアは『渡り鳥』に執着していたのに…信じられません…」

リティは腑に落ちないと言った表情をしている。

それというのもリティはオリシアと直に対面し、その覇気を受けたためである。

リティは感が人一倍強い。彼女なりにオリシアから感じ取ったのだろう。


「さあな。『十天星』の考えることはわからん。下手に探ろうとしても藪蛇になる。

彼らは天災のようなものだ。こればかりはそう言うものだと受け入れるしかない」


「そうですね…。それと一つ報告が」


「なんだい?」


「今日の正午過ぎに七星騎士団の五番隊隊長を名乗る男と『渡り鳥』のオズマが

東の城門から出ていったとのことです」

ユウから話のあったオズマがパーティから離れると言う件だろうとジャックは思った。


「…東門…七星騎士団がらみとなるとプラナッタか。あの人と鉢合わせするかもな…クックック」

ジャックは笑い声を噛み殺す。


「ジャック、どうしたんですか」

リティは笑い始めるジャックを怪訝そうな表情で見る。


「つくづく『渡り鳥』と『十天星』とは縁があると思ってね」


「はあ?」

意味がわからずリティ。


「リティ、明日までに馬の手配を。それも内密にだ」

表情を変えるとジャックはリティに命じた。

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