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けじめをつけに行くそうです

俺たちはミザールとともに宿に取っている俺の部屋に移動した。

皆で入るには少し狭いがここしか落ち着いて話し合える場所がない。

昨日のこともあるし、こんなことなら大部屋を借りておくんだったと俺は今更ながら後悔していた

セリアとエリスに手を出す馬鹿はいないし、仲間内でほとんど隠し事は無い。

これからは大部屋を借りることにしよう。


セリアは起きてきていたが、クラスタは未だ爆睡中である。

クラスタは放っておくことにして、俺たちは昨日と同じように俺の部屋に集まった。

そこでミザールと俺たちは簡単な自己紹介を交わす。


「もう一人はクラスタ。昨日飲んでまだ寝てる」

俺は酔いつぶれたということにしておいた。

実際は昨日受けた傷が原因であり、それを回復するためにはいつもよりも多くの睡眠を必要とするという。


「初めて見たけどエルフの『先祖返り』ってすげーきれーなのな」

セリアの姿にミザールは驚きを隠せない様子。


「ありがとうございます」


「セリア…セリア…まさかあんたも『渡り鳥』のパーティの一人なのか?」

ミザールはセリアの名を口の中で反芻する。


「そうですけど?」


「どう見ても冒険者のAクラスって感じじゃないんだが…」

ミザールの疑問はもっともである。

その可憐な風貌からAクラスといっても信じる人間はまずいないだろう。


「魔法使いなので」


「なるほどな。たしかに冒険者は魔法使いは評価が違うって聞いたことがある」

セリアの一言にミザールは納得した表情を見せる。


「それにしてもどうして私の名を御存じなのですか?」

セリアは疑問を口にする。


「昨日付でAランクになったっていう冒険者の名前がヒューリックの冒険者ギルドの掲示板に

張り出されててさ。そこで一通り『渡り鳥』のメンバーの名前は見たからな」


「マジか」

俺はそれを聞いて頭を抱える。すべて後の祭りである。


「Aランク以上の追加はすべての冒険者ギルドの掲示板で告知されるんだ。知らなかったのか?」


「全く知らなかった」

これで俺たちは一躍有名人になってしまったようだ。とんだトラップである。

冒険者ギルドのある町で仕事を請け負えば一発でばれるだろう。

最悪魔族であることがばれる場合もある。そのためにもできるだけ目立つことはしたくなかったんだが。

まあ、なんだかんだ今でも十分目立ってはいるが。


ただ悪い話だけでもない。Aクラスになったことでセリアにちょっかいをかけてくる馬鹿は劇的に減るだろう。

それだけが救いかもしれない。救いだと思おう。


「ミザールさんはどうしてプラナッタからヒューリックまでいらしたのですか?」


「オーク関連の情報でちょっと気になる噂があったからそれを確かめに来たんだ。

ま、そこで探していた副団長の名前を見つけられたのは幸いだったけどな」


「オーク関連か。そう言えば少し前にヒューリックでオーク討伐の報告をしたっけな」

ジャックの頼みでわざわざ戻って報告する羽目になったのだ。忘れようがない。


「報告?まさかオーク討伐って、あんたらがやったのか」


「ああ」


「丁度良かった。その話を聞いて調査にやってきたんだよ。

本当にオークキングも出現してたのを一チームで殲滅出来たのか?」

ミザールが前のめりになって俺に顔を近づける。


「あ、ああ」

ミザールは俺を見た後、オズマをちらりとみる。


「…なるほどな」


「納得したのか」

ミザールがあっさりと納得したのがちょっと意外だった。


「副団長なら一人で殲滅できそうだなと」

ミザールの一言に俺を含めたオズマ以外が一斉に頷く。


「いくらなんでも俺一人で一匹も逃さずに殲滅するのは難しいが」

横で聞いていたオズマが反論する。


そこで皆一斉に噴き出す。

オズマは何で笑われているのかわからない様子。


出来ないと言わないところがオズマらしい。

オズマならば実際一人で出来るんだろうなと思う。


「ミザール殿、少しその剣を見せてもらえないか?」

エリスはミザールに剣を見せるように切り出す。


「いいぜ」

ミザールから渡された剣をエリスは鞘から引き抜きまじまじとその刀身を見る。


「ずいぶんと使い込まれた剣だな。手入れもきちんとされている。…だが魔剣の類ではない」

エリスは剣を鞘に戻すとミザールにその剣を戻した。


「おうよ。うちらの七星騎士団は魔剣や魔法に頼らねえ。

純粋な武器だけで戦う集団だ。カッカッカ、つっても俺の専門は弓術だがな」


「弓兵だったのか」


「そこのオズマに弓兵も武術を知っておくべきだってしこたましごかれた」


「戦場では何が起きるかわからん。知っておいて損はない」

オズマなりのスパルタ教育だろう。サルア王国でもやってたな。


「すごいな。今度是非に弓の腕を見せてもらいたいものだ」


「あんたの剣の腕と引き換えな。あんたも若いけど相当の使い手だろ?」

ミザールはにやりと笑う。


「ほう、どうしてそう思った?」

楽しげにエリスは目を細める。


「気配でわかるよ。あんたは冒険者っていうより俺たちに近い気がする。

実力も相当だな。うちにいる団員でも勝てる奴がいるかどうか。

…出来ることなら今この場で手合せしたいところだ」

剣呑な空気が辺りに立ち込める。


「私も今この場で…」


「ストップ、ここではやめろ。どうしてもなら外でやれ」

俺の言葉に二人はしぶしぶ引き下がる。

釘を刺しておかなければ、こいつら宿の中でも喜んで戦い始めかねない。


このミザールと言う男はオズマに相当鍛えられたのだろう。

武術への自信がにじみ出ている。こういう手合いは経験上かなり強い。

オズマとオズマの言う老将が作り上げた純粋な武闘派集団。

どんな思いで作り上げたのか。オズマにとってどんな集団なのか。

俺はオズマと七星騎士団の関係が気になった。


「ところでオズマはあんたらの組織…七星騎士団でどんな存在だったんだ?」


「そうだな。なんつうか。副団長は顔を覆う甲冑をいつも着けてた。

食事の時も祝勝会のパーティのときも、王との謁見の時もだ。

いつの間にかそれが当然のようになってたな。

全くその顔を見せないんで本当はいないんじゃねえかとか

実はどこぞの王族なんじゃないのかとか、

人に見せられないようなひどい傷があるんじゃないかとか噂されたこともあった」

オズマは居心地の悪そうにしている。


人と違って魔族は老いない。

オズマが素顔をあらわにしなかったのはそれが理由だったのだと思う。


「うちの副団長はそれらの噂を全部力でねじ伏せてきた。

アルカとベネトの双子を一度に一人で相手するし、

うちの団で副団長の腕っぷしに憧れて入ってきた連中も多い。

なんつうか、副団長はうちの団のシンボルみたいな感じだったんだよ」

ミザールは懐かしそうに回想する。

ミザールの話しぶりからも七星騎士団はオズマにとって決して悪い場所ではなかったようだ。


「シンボルはバルトフェルトだろう」

オズマが懐疑的な視線をミザールに向ける。


「でももういない」

二人の間に沈黙が流れる。


「バルトフェルドってのはひょっとしてオズマを誘った老騎士のことか?」


「そうです」

昨日オズマと話した時に出てきたオズマが騎士団に入るきっかけを作った人物だ。


「あんたに昔のことを語らないオズマが話したのか?

そう言えば主殿って…ひょっとしてそこのユウって男が副団長の主なのか?」


「…ああ、ユウ殿は私の主だ」

当然のようにオズマは断言する。


「マジかよ」

ミザールはそれを聞いて目を丸くする。

この男がここまで驚いた顔を見せるのははじめてかも知れない。


「あんた、ユウっていったっけ。こっちからも一つ質問させてもらってもいいか?」


「ああ」


「あんた、国家が金や権力を積んでも、

どんな美姫にも靡かなかった究極の堅物をどうやって懐柔したんだ?」

ミザールの意見は至極ごもっともな意見です。


というか究極の堅物って…背後でセリアとエリスが笑いをこらえている。

ここで魔族の上司から命令されたとか口が裂けても言えない。

かといってミザールに偽りを話すのも気が引けた。


「私が望んだのだ」

俺が返答に困っているとオズマがストレートに答える。


「マジ?」


「ま、まあそういうことだ。あんたはオズマに戻ってきてほしいと言ったな。

そんなわけで結論から言えばそれはできない。オズマは俺たちの大事な仲間でもある」


「…まあそうなるわな」

ミザールは肩を落とす。


「ただし、貸し出せるかどうかは別だ」

俺はオズマに向き合う。


「オズマ、オズマがどう思っているのかはわからない。

昨日も言ったが、俺たちはカロリング魔導国のある南の大陸に向かっている。

ここで南の大陸に向かうならばこの大陸に戻ってくることは数か月以上先になる。

もしオズマが少しでも思うところがあるのならば、俺はそれを清算してくるべきだと思う」

俺の言葉にオズマはしばらく考え込む。


「…一週間以上かかるかもしれません。ひょっとしたら半年…いえ一カ月ほど。

それでもよろしいのですか?」


「オズマがそれで納得した答えを得られるというのなら俺はいつまでも待つよ。それとこれは俺からだ」

ポケットから取り出すふりをして収納の指輪から金貨を取りだし、袋に入れてオズマに手渡す。

結構な量が入っている。今までオズマが稼いできたが受け取りを拒んできた金だ。

今まで渡すタイミングを考えてきたが渡すのなら今だろう。


「ですが…」

オズマはそれを拒もうとする。


「旅に金は必要だ。その代わりと言うのはなんだが…必ず帰ってこい」


「…はい」

オズマは俺の前で膝をつき、深々と頭を下げる。


「ユウっていったか?あんた何者?ここまで副団長を心酔させるとかマジで考えられねー。

何?そんななりでとてつもない豪傑とかだったりするのか?俄然あんたに興味がでてきたわ」

ミザールは俺の顔をまじまじと見る。

オズマには悪いが俺自身そんな大層な人間ではないのであまり知られたくはない。

オズマは立ち上がるなり反転し、歩き始める。


「行くぞ、ミザール。すぐにキャバルを立つ」


「おいおい、俺は今日キャバルに着いたばかりなんだが」


「安心しろ、動けないというのなら麻袋に入れて担いででも連れて行ってやる」


「あー、俺に拒否権は無いわけね。わかりましたよ」

諦め気味の表情でミザール。俺たちに一礼するとそのままオズマの後に続く。

ミザールが少し楽しそうに見えたのは気のせいかもしれない。


「…行ってしまったな」

こうして俺たちはオズマは俺たちのパーティから一時的に離脱することになった。


「オズマなら大丈夫だろ…」

俺が言い終える前に部屋中にぐうーというお腹の音が響き渡る。


「…エリス」

俺とセリアはエリスに生暖かい目を向ける。

エリスは真っ赤にしている。さっきのまでの辛気臭い雰囲気はどこへやら。


「し、仕方ないだろ。朝練終わって朝食食べてなかったんだ」

言い訳がましくいうエリスに俺とセリアが爆笑する。


「し、失礼な。笑うことはないだろう」

真っ赤にしながらエリス。安定のポンコツ勇者である。


「悪い悪い。そうだな、そろそろ昼も近い。クラスタも起こして皆で外に食べに行こう。

クラスタとアタにもオズマのことも話したいしな」


「本当か?」

エリスは目を輝かせる。


「昨日エリスたちはこの街を食べ歩いたんだろ。おすすめのところを教えてくれよ」


「ほ、本当か?…あそこも…しかし、満腹亭も捨てがたい…ちょ、ちょっと考えさせてくれ」

エリスは横で本気に思い悩み始めた。


「セリア、エリスを連れて着替えて一階で待っててくれ。

俺はクラスタを起こして連れて行くから」


「フフフ…わかったわ」


この時俺たちは知らない。

現在プラナッタ王国で起きている出来事も。

そしてそれは大きな災の渦となり、多くの者を巻き込む形で俺たちに大きく関わってくることも。

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