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プラナッタから来た男

エリスにこってり絞られた次の日の朝の鍛練には俺も出ることにした。

俺は普段たまになら見学しているが、昨日の魔族の一件もあり、やってみる気になったのだ。


キャバルでは朝の訓練は街の中の人気のない小さな公園で朝の訓練を行っている。

場所はジャックに聞いたらしい。

それというのもキャバルでは城壁を許可なく越えることは厳罰になるためだ。

ちなみに今日の鍛練にクラスタはいない。回復には睡眠も必要らしく、今日は起きてこなかった。


俺の場合は実戦形式の鍛練はしない。ひたすらに基礎訓練の繰り返しだ。

そもそも俺の力があるのと素人のために、組み手もできないという。

これにはエリスもクラスタもオズマの意見に賛成している。

(話し合った際に三人は俺を大型魔獣に例えていた。ひどい話である)


二人が稽古している横で俺はオズマから教えてもらった闘いの型を繰り返し練習していた。


「主殿は地力があるのですから知らなくても別に必要はなさそうではありますが…」


「もし相手が俺と同じぐらいの力だったら対処のしようがない、

俺は魔族と言っても体は人間だしオズマの武術が効率的だと思うんだ」


「…まあ、そういうのならば…」


「ただ、付け焼刃は良くない。やるのであれば毎日やらなければ身にはつかない。

武術というものは頭よりも体に教え込まなければ咄嗟のときに出てはこないからな。

これからユウ殿は毎日一緒に鍛練することになるぞ」

エリスの言うことももっともである。生兵法は大けがの元とも言うし。


「わかった。できる限りはや出てくるつもりだ。動くだけだから体への負担も少ないしな」

俺はエリスの眼を見て答える。

こうして俺の朝練参加が決定した。こういうのも悪くないかもしれない。


「生半可な覚悟ならたしなめるつもりだったのだがな…」

ぼそりと小声でエリス。


「なんだエリス?」


「ただの独り言だ。それにしてもユウたちが昨日戦ったという魔族はそんなに強かったのか?」


「いいや。魔力はかなり持ってたが、そんなには強くなかったな。

エリス一人でも三人相手に勝てたと思うぞ。

ただ、オズマの話では昨日の三人の魔族の上の奴がローファンよりも強いらしいんだ。

しかもそいつは魔族統治主義とか物騒な考えを主張している。

もしかしたら遭遇して戦うことになるかもしれない。その時になったら力は必要だろ」

ブリオンとかいう奴と俺の主張は全く異なっている。

少なくとも出会ったら戦闘は避けられないと思う。


「…オズマ、それは本当なのか?」

エリスは怪訝な表情を見せる。エリスはローファンとの戦闘経験がある。

ローファンと戦い、その魔族がどれほど強かったのか身を以て体験している。


「ええ」


「ならば私ももっと強くならなくてはな」

エリスはぴしりと顔を叩くと気合を入れ直し、オズマとの訓練を再開する。



訓練が終わり、宿まで来ると一人の男が宿の前に立っていた。

少しやせた顔は整っているがどことなく野性味を感じる。

どこかわからない騎士団の制服を少し崩してきている。

痩せているように見えるが露出している部分は引き締まっておりかなり鍛え上げられている。

それに隙というものが見られない。

かなりの使い手だろうと言うのが俺から見ても感じ取れる。


周囲から好奇の視線を浴びまくりだ。

不意にその男が俺たちの方を見る。


「あんたらひょっとして『渡り鳥』か」

どうやらこの男、俺たちの客らしい。


「そうだ」


「それであんたらの中でオズマを名乗るのは誰だ?」

男がそう言うとオズマが俺たちを制止し、前に出ていく。


「私におまかせください」

小さな声ですれ違いざまに声をかけてくる。


「私がオズマだ」

そう言うとオズマが男の前に立つ。


「やっぱりな」

男は直後目にもとまらぬ速さで腰に下げた剣に手を伸ばすがオズマの手に阻まれる。

そのまま男はオズマの手首を取ろうとするが、オズマは手をひっこめる。

それを皮切りに二人の組手が始まる。

突如人の行きかう道の真ん中で始まる高度な武術の攻防。

周囲の人間は足を止め、それに釘付けである。

俺もエリスもそれをあっけにとられながら見ている。

オズマは相手の拳を素手でいなし、相手の懐に飛び込み拳を襲撃者の心臓に押し当てる。


「これでもあんたと別れてから鍛練は欠かしたことがないんだがな」

男は苦笑いを浮かべる。


「安心するといい。ずいぶんと成長している」


「カッカッカ、あんたが言うと嫌味にしか聞こえねえよ」

男は笑い声を響かせる。それと同時に人だかりから拍手やら歓声が沸きあがる。

俺のような素人から見てもかなりのものとわかる攻防劇だった。


「オズマ、これは…」

俺はオズマに近寄り問いただす。


「古巣の挨拶みたいなものです」

オズマは当然のように答える。練度の高い訓練された組手。

オズマやエリス、クラスタがいつも行っているものだ。

武器は違うが、拳に置き換えただけにしか過ぎない。

俺たちの前に現れた男は体術だけを見ればフレッグというAクラスの冒険者よりも上だ。


「それにしても副団長、あんたそんな顔してたんだな。あの姫さんがぞっこんになるのもわかる気がするぜ」

男は人懐っこい笑顔をみせる。


「オズマこいつは?」


「七星騎士団、五番隊隊長『夜雷鷲』のミザールとは俺のことだ」

この男、横から聞いてもないのに名乗ってきた。しかもポーズ付きで。


「で、ミザール。なぜ私を探していた?」


「かー、なぜってあんたがいうかよ。あんた、いきなりいなくなっちまうんだもん。

団長に話を聞いても知らぬ存ぜぬで取り合おうともしやがらねえ。

俺を含めた一部の団員であんたの行方を探すことにしたんだ」


「…それで私の名を語る奴に挑んできたというわけか」


「ああ。あんたの名で冒険者ギルドへ登録した奴がいるって聞いてさ。

一番近くにいた俺が駆けつけてきたってのさ」


「おいおい、間違えていたらどうするつもりだったんだ?」


「俺が副団長を間違えるわけないだろ」

俺の声にミザールは当然のように答える。

体格やしぐさ、気配からオズマだと感じ取ったということらしい。


「俺がいなくなったところで団の運営に支障ははあるまい。俺の役職はあくまで肩書だ。

代わりはいくらでもいただろう」


「おいおい、あんたマジでいってるのか?あんたがいなくなってうちの騎士団は大変なんだぜ。

特にメグレズのやつなんか。あんたがいなくなったのをいいことにやりたい放題。

騎士団の中は一触即発って感じだ」


「…」


「オズマ副団長。親父さん亡きあと、俺たちをまとめられるのはあんたしかいねえんだ。

若団長は俺たちが説得する。どうか戻ってきてくれねえか?」

先ほどとはうって変わり、ミザールは頭を垂れる。

オズマはこれには難しい顔になる。


周囲を見渡せば俺たちの周りに人垣ができていた。

さっきの派手なパフォーマンスのせいだ。

俺は嘆息し、二人に話しかける。


「とにかく場所を変えるぞ。ここだと一般の人の通行の邪魔になる。

ミザールと言ったな。オズマは今は俺たちの仲間でもある。

先ずは俺たちにもわかるように事情を話してくれ」


「了解」

俺の声にミザールが頷く。

俺はミザールを連れ、自分たちの宿泊している部屋に向かった。

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