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剣鬼が来ました

俺は屋根の上を軌道を変えつつ、三人の魔族から遠ざかる。

相手は魔力の塊を弾丸のようにしてこちらに放つ。

魔力の塊が俺たちのいた屋根を破壊していく。


「思ったよりも早いな」

オズマの横にぴたりとくっつく。

背後の魔族どもの気配は俺たちに徐々に近づいてきている

こっちは攻撃を避けながらであり、明らかに分が悪い。


魔族たちは下には人間もいるというのに魔族どもは全く気に留めてはいない。

どうするも何もこんな人の多い場所で戦いを始めたらどれほど犠牲が出るかわからない。

ここはひとまずこのキャバルから出ることが優先されるだろう。


「…とにかくキャバル外壁まで走る」

この俺の判断にはラーベの子供を背負っている俺たちに手荒な真似はしてこないだろう

という打算もある。奴等はラーベの娘たちを捕らえようとしてここにきているのだから。


「相手はどこの魔族なんだ?」

俺は走りながらオズマに問う。

『北』の魔族は六人の魔族の元で六つの勢力に分けられる。

事を構えるにしてもそのどこかぐらいは知っておきたい。


「ラーベ様の元配下の魔族です。実力は並の魔族よりも上でしょう」

ローファンといいラーベの元配下はどうしてこう攻撃的なのか。


「元か。なら今は関係ないし、ちょっとやそっとじゃ死なないな?」


「ええ?」

予想もしない俺の言葉にオズマの語尾が上ずる。

ストレス解消にこちらもささやかな抵抗をさせてもらう。

俺は意地の悪い笑みを浮かべる。


「収納の指輪よ」

俺は走りながら収納の指輪を発動させた。


収納の指輪は村を一つ収納できる能力を持っているという。

実際に以前一つの豪邸をそのまま収納したこともある。

つまり俺がゲヘルからもらった収納の指輪の効果範囲はとてつもなく広い。

モノを収納する範囲はそのまま取りだせる範囲にもなる。

この指輪の収納する範囲は村一個分ほどある。距離にしておよそ三百メートルほど。


収納の指輪から迫ってくる魔族たちの目の前に岩を出現させる。

パールファダとの戦いにおいてはそれを足場や目くらましに使っていた方法である。


ゴン


直後、大きな音が周囲に響き渡った。


あまりに予測しえなかった出来事に俺もオズマも足を止め振り向く。

のっぽとちびは躱していたが、小太りの魔族にはものすごい音をたてて顔面に直撃していた。


三人の魔族の中で一際大きな体躯の魔族の顔面に巨大な岩があった。

小太りの魔族の頭部に直撃した岩は粉々に砕け散った。

速度もあったので相当な威力になったようだ。


その場にいる俺もオズマも驚いて声も出ない。

魔力すらこもっていない上に視界は良好。


あくまで牽制だぞ?アレをまともに喰らうのか?

俺は違う意味で動揺していた。

突然のことに躊躇はするだろうが俺やオズマなら間違いなく躱している。


「フフフ…アハハハハハハハハ」

時が止まった俺たちの間でアルバの甲高い笑い声が響いた。


「馬鹿が、一度見ているだろう。警戒を怠るから」

のっぽの魔族が小太りの魔族に声を上げる。


「馬鹿にしやがって、もう許さねえ」

転移してきた岩をもろに顔面に喰らい、小太りの魔族は鼻から血を流している。

今ので青筋を立ててもろにキレていた。

小太りの魔族は大きく息を吸い込むと魔力を腹に溜める。


「まさか魔砲?一帯が吹き飛ぶぞ?」

オズマの顔が引きつる。


「おい、プルエン、やめろっ」

のっぽの魔族が小太りの魔族を制止しようとするが、小太りの魔族は全く耳に入っていない様子。


「粉々になりやがれ」

小太りの魔族は周囲の制止も聞かず、魔力の塊を口から吐き出した。

周囲の屋根やら煙突やらを破壊し、黒い魔力の塊が凄い勢いでこちらに向かってくる。

この街の一区画が消し飛ぶイメージが俺の脳裏によぎる。


「くそっ」

俺は即座に収納の指輪から幾つかの魔石を取りだし、それを片手で割る。


俺は魔石から出た魔素を使って、魔法を発動させる。

直後、黒い魔力の塊の軌道上の空間がねじ曲げられる。


俺の使える魔法は始原魔法。この世界のあらゆる物事に思い通りに干渉できる魔法である。

ただし、物事に干渉しようとする行為に伴う代償(魔力)は大きなものになる。


魔力の塊が暴風とともに俺たちを逸れて頭上に向かっていく。

魔弾の軌道を変えることに成功したようだ。

空間を捻じ曲げることには結構魔力を使うが、継続時間と効果範囲を可能な限り絞れば

それほど魔力を消費しない。弾道をそらすには魔石でも十分なのだ。


黒い塊は上空に向かって一直線上に向かっていき、

爆音とともにキャバル上空に黒い花火が出来上がる。

爆発の余波が周囲に吹き荒れる。

あんなものが街中で炸裂していたらと思うとうすら寒いものを感じる。


「オズマ大丈夫か?」


「はい」

俺はオズマとアルバの無事を確認すると再び走り出した。


「くそ、久しぶりで制御をミスった次は…」

小太りの魔族は地団太をふむと、再び腹に魔力を溜めていく。

小太りの男が構えるとのっぽとちびの魔族が小太りの魔族の後頭部をそれぞれ殴る。


「あほがっ。逸れたからいいモノの、もしあの双子に何かあればラーベ様に俺たちが殺されるぞ。

手心は加えるなとは言ったが、双子を傷つけろとは言っていない」


「お前、あの人の恐ろしさまで忘れちまったのか?」


「…すまねえ」

二人の魔族に責められ、小太りの魔族は頭を垂れる。


「もういい。また短気を起こされては困る。お前は別行動だ。もう一つのプランに移れ」


「わかった」

小太りの男は踵を返して、別の方向へ向かっていく。


「にしても…そこまでやる相手なのかねえ」

小柄な魔族がつぶやく。


「これは保険だ。あのオズマと新入りの魔族がこちらの想定以上の力を持っていた場合を考えてのな。

何せこっちは二千年ぶりに起きたばかりでその間何があったのかわからん」


「そりゃ、杞憂ってもんでしょうよ。魔族の力は生きてきた年数が多い者ほど力が強い。

ぽっと出の新入りの魔族とオズマのガキでは八千年生きた俺たちに及ぶわけもない」


「だが…いや、まさかな。杞憂で済めばそれに越したことはない」

のっぽの魔族は今の魔砲の軌道を思い返していた。

一瞬だけ明らかに不自然な動きを見せた。


のっぽの魔族は不自然な動きをした場所を見つめる。

ただあの二人の魔族は両手がふさがれている状況である。

ほんのわずかに魔力を感じたが、あんな少ない魔力で何かできるとは思えない。


のっぽの魔族は標的のいる方向を見る。

標的との距離はかなり遠ざかっていた。


「ずいぶんと離されたな。…ゲルゴル、翼を広げろ。とっとと捕まえるぞ」


「了解」

蝙蝠の様な翼が小さな男の背に広がる。



「ったく」

俺は走りながら舌打ちする。

ラーベの子供がいるからあまり強い攻撃はしてこないと思っていてこれである。

ただ相手の位置を見れば、今ので相手は足を止めているようだ。

魔力の膨張も感じられない。

のっぽの魔族が制止したのは聞こえていた。

それから考えるにあの行為はあの魔族たちにも予想外の行動だったのだろう。


俺はそれを幸いとして、三人の魔族との距離を離していた。

このまま行けばキャバルの外に三人の魔族を誘導することができそうだ。


「…ずいぶんと他の人間をお気遣いなさるのですね?」

俺がほっとしている脇からアルバた問いかけてくる。


「何のことだ?」

俺は走りながらアルバの問いかけに答える。


「砕かれた屋根瓦が歩いている子供の頭上に落ちたのを収納しましたわね」


「気づかれていたか」

オズマが驚いた表情で俺の顔を見る。


「街の一区画を意識下におくなんてずいぶんと無茶をなさるのですね」


「こんなことで犠牲が出るなんてごめんだからな」

俺としてはこちらの都合である魔族のいざこざに他の人間を巻き込むのはごめんだった。


「自身たちが犠牲になってもですか?」

アルバは真剣な表情で俺を見据える。


「仲間に犠牲がでる時は仲間をとる。だがそうでない時は…」


「…ずいぶんと傲慢な発想をなさるのですわね…」

アルバは呆れたようなため息をつく。


「それが俺のやり方だ」


俺たちが走りながら話している最中に、相手は追跡を再開した様子である。

『天の眼』で確認したところ、三人の内一人は反対方向に向かっている。

離れたのが誰かまでは確認できないが二人になったことは喜ぶべきことだろう。

どうも速度がさっきより倍近く上がっている。


俺は『天の目』を使って相手の様子を上空から伺う。

さっきの小太りの魔族が離脱し、小さな魔族は背中に蝙蝠の様な翼を広げていた。

このままではすぐに追いつかれてしまう。


「まずいですね…」

オズマも相手の移動速度が上がっていることに気付いた様子である。


『天の目』で狙い撃つ手段はあるが、躱されればキャバルの街に被害が出る。

かといってキャバルで戦うとなればどれほどの被害が出るかわからない。

さっきみたいに岩を障害物にする方法もあるが、地上にいる人間に被害が及ぶ場合もある。

八方ふさがりである。


「何かいいアイデアはないか?」


「ではその指輪に奴らを封じ込め、外まで連れて行くというのは」


「それはできない。指輪が破損する可能性があるからな」

それは俺も考えていたことだ。力のあるものは封じられないとゲヘルから聞いている。

万が一、この収納の指輪が壊されでもしたら周囲に収納物がまき散らされる危険がある。

生き物を収納できるのは実験済みだが。中には瓦礫もかなり入っている。

それらが指輪が破壊され、外に出たのなら最悪この一帯は壊滅する。


だが外壁まで走ると言ってもここはコルベル連王国の王都キャバルの中央付近である。

ここから外壁までは十数キロ。逃げるにしても距離があり過ぎである。


「…破損ですか。そうゲヘル様は説明なさっているのですね」

アルバが神妙な表情をみせる。


「?」


「…誰にも知られずに戦うのでしたら、そこにいい場所がありましてよ?」

アルバの指さす方向には巨大な礼拝堂があった。

意識を向けると周囲にも中にも人がいる気配はない。

あの中ならば人に見られることなく、全力で戦うことができる。


「オズマ。あそこに向かうぞ」


「はいっ」

俺とオズマは大きな礼拝堂に足を向けた。



ユウとオズマが三人の魔族に追われる少し前の話である。

オリシアはキャバルの冒険者ギルドから出る。

『渡り鳥』その一団の情報は意外と多く存在していた。

さらにその冒険者集団の者たちがAランクに昇格したことが幸いした。

Aランクの冒険者の動向は冒険者ギルドが把握している。

彼の持っているSクラスの権限を使えば冒険者ギルドが持っているAランクの位置情報は

請求すれば強制的に開示させることが可能である。

虚偽の情報を出したり、秘匿すれば罰則対象になる。


「パーティ名は『渡り鳥』か。宿は中央の通りのホテル『バラクーダ』」

オリシアは逸る気持ちを押さえつつ、『渡り鳥』の滞在するホテルに向かっていた。

ここに来るまで『渡り鳥』はオークの一団を殲滅し、

さらにAクラスの冒険者パーティを一ひねりしたという。

『渡り鳥』の話を聞けば聞くほど彼の興味は掻き立てられた。

あのバルハルグを倒したというのも嘘ではあるまい。


早く会いたい。あって死合いたい。殺し合いたい。


キャバルの宿にオリシアは足早に向かう。

その男がここにいるという事実が彼の心を急かす。


もうすぐだ。もうすぐ会える。


その宿の受付から半ば脅すような形で『渡り鳥』のメンバーのいる部屋を聞き出す。


一歩一歩男はその場所に近づいていく。

男はその部屋のドアを叩く。

ドアの向こうから人の気配が近づいてくる。

ドアごと叩き斬りたい気にさせられるがオリシアはそれを辛うじて押しとどめる。


「あんたは?」

宿の中から出てきたのは一人の若い男だった。

風貌からしてオズマではない。


「こちらにオズマという冒険者がいると聞いてやってきたのですが」

オリシアは丁寧な口調でいいつつ、ドアから出てきた男を観察する。

若さから見て十代後半。

露出する筋肉の付き具合と取り巻く雰囲気から見て戦いに対する備えはありそうだ。

手のカタチから察するに剣術を手にしてから一年以内。

男の歩き方、重心の位置から判断するに未熟。

どう見ても自身の相手にはならない。


「あいにくだったな。ししょーは今ここにはいねえよ」

そこの言葉にオリシアはがっくりと肩をうなだれる。

だが、この男は今はここにはいないと言った。

自身の求める男はここにいたのだ。オリシアは落ち込む気持ちを奮い立たせる。


「…師匠?あなたはオズマの弟子なのですか?」


「まあな」

オリシアはその言葉に少しだけ興味をそそられた。


「それで何の用だ?」


「少々オズマさんと手合せをしてみたく思いまして」


「へー。なら俺と一戦やらねえ?さっきから物騒な殺気が垂れ流しだぜ」

殺気は一般の人間には感じられないほどにはしているつもりだった。

それを見破られ少しだけ目の前の男にさらに興味を覚えた。


「…僕は強いですよ?」


「望むところだ」

その少年のような風貌の男はにやりと笑む。


前菜にはいささか物足りないが、今はこれで我慢することにしよう。

オリシアは歪な笑みを浮かべた。

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