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『北』の魔族と会いました

キャバルに到着したその日の夜、食事を終えて宿の部屋に戻ろうとする。

今日は一人一人個別の部屋を取っている。宿の三階すべてを俺たちで貸し切っていた。

それも一言でいえば用心のためだ。

人の集まるところには当然いろいろな思惑も集まる。

セリアはエルフの先祖返りであり、その華やかな存在は悪いモノを引き寄せる。

今日こちらを値踏みする視線ようなじっとりとした視線にさらされていた。

オズマたちがいるために直接仕掛けてくるようなことはないだろうが、

少しでも用心しておくに越したことはない。

幸いなことにそのことをジャックに話すと知り合いの宿に話をつけてくれた。

持つべきものは伝手である。


「ユウ」

俺の部屋の前で背後からセリアに呼び止められた。


「どうしたセリア?」


「ゲヘル師匠と連絡を取るの?」

ここでセリアが言うゲヘルと言うのは極北の地に存在する魔族の一柱である。

現在セリアはゲヘルの弟子である。


「ああそのつもりだ。ただ今日はゲヘルとは俺一人で話がしたい」


「…そうか、わかった。私は部屋で魔法の練習をしてるね」

セリアは自室に足を向けた。

ここ最近セリアは聞き分けが良くなったと思う。

出会ったばかりのころはもう少し我儘だった気がする。

旅をして仲間である皆と出会い、成長したということだろうか。



俺は一人になると、鏡の前で呼び鈴を取り出し、二度鳴らし鏡を三回叩く。

決められた『北』の魔族との交信の手法である。


鏡に映った自身の姿が別の者にみるみる変化していく。

豪華なローブを身に纏い、鏡の中に立っていた。

ただ一つ人間と違う点があるとすれば恐竜の頭の骨が頭部であることか。


「しばらくぶりだなゲヘル」

目の前にいる魔族はかつて人間の中でも最も有名な魔法使いらしい。

また極北に存在する魔族であり、その中でも六体いる魔神の一柱。

そんな存在が俺の目の前に現れる。


「ここしばらく連絡がぱたりと止んでしまったので少し戸惑っておりました」


「人間の同行者がいたからな。連絡を取り辛かった」

その同行者と言うのは言うまでもなくジャックである。

ジャックは感が鋭いところがある。

あの男の前では迂闊に疑われるに思われる行動はやめたほうがいいと感じた。

さすがに『北』の魔族と関わりがあるのは知られるわけにはいかない。

『北』の魔族は世界の脅威であり、それにジャックはギルドマスターと言う立場にいる。

魔族と存在とつながりがあると知られれば人間社会から排斥される可能性もある。


「なるほど。ところでセリアの奴めは魔法の自主練を欠かしておりませぬかな?」


「ああ。この間もイーヴァと言う死霊使いと友達になって、いろいろと教えてもらったみたいで

いろいろと試しているよ」

セリアが個室で魔法を試しているところを想像し、俺は無意識に表情を緩ませる。


「…ほう。死霊使いですか。人間で死霊使いともなれば高位の術者。

よい出会いをしたのでしょうな」

ゲヘルには表情はないが、その声から弟子であるセリアを気遣う気持ちが伝わってくる。

初めのころはセリアに魔法を覚えさせることにためらいを感じていたが今はそれでよかったと思う。


「ゲヘルとしては問題はないと?」


「死霊使いは元々死者との交信を目的とする魔法体系の延長線上にあります。

ただし、死者に気に入られるような純粋な魂でなければ死者からの力は貸してはもらえませぬ。

ユウ殿から見てその者のありようはどうでありましたか?」

どうやら死霊使いというのは前世の世界のイタコの延長線上にあるような能力らしい。


「性格的には問題はなさそうだったが…」


「でしたら何も心配はないかと。むしろそのイーヴァという者の周囲が問題となりましょう。

死霊使いは見た目の禍々しさから忌み嫌われるケースが多く存在しますじゃ。

社会から奇異の目で見られる中、孤独となり、利用しようと近づく者たちに悪用されるケースが

多いのが死霊使いの特徴ともいえますな」

さすがゲヘルさん、魔法のスペシャリスト。


「…なるほどな…」

俺はイーヴァの行動を振り返り思い出す。

イーヴァは見た限りではかなり大切にされているみたいだった。

その上、冒険者ギルドではSクラスの立場になっている。

後はユニオン『黒の塔』とやらの人間がまともであることを祈るだけしかできなさそうだ。


「話は変わるが…俺にかけられた神の呪いの解除法は何かわかったか?」


「…いいえ」


かつて俺はパールファダと言う神を殺し、呪われた。

パールファダの残した神気が俺の核を削っているという。

魔族の中心は核であり、それが消えると死ぬらしい。


魔力を使うのと同時に神力が放出されるのだという。

神力は魔族にとってはこの上ない毒。その毒は俺の躰を急速に蝕みつつあった。

そのために現在、俺は人間と同じように魔石の魔力を代用している。


「痛みは今も感じますか?」


「…いいや。今は前ほど痛みを感じない。

ただしびれが初めは左腕だけだったのが、徐々に体に回ってきてる」


痛みが鈍くなってきたために夜、眠れるようになってきてはいる。

良い兆候なのか悪い兆候なのかわからないが、自分の存在が日増しに薄れていく感じが付きまとう。


「…二段階目に入ったと思ってよさそうですな」

ゲヘルは思案気な物言いをする。


「二段階目?」


「感覚の消失」

ゲヘルは俺に告げる。

一瞬ゲヘルの一言に俺は眩暈を覚えた。


「…それは最期は五感すべてが消えるのか?」


「こればかりは個体差があるので何ともいえませぬが…」


たしかに振り返ってみれば俺の中で痛みという感覚自体が薄れてきている気がする。

確実に減っていく寿命を認識しながら、俺は俺に向かってくる死の足音を聞いた気がした。


「…怖いですかな」


「そりゃな」

俺は精一杯作り笑いをして見せる。

俺を慕って着いてきてくれる皆に無様な様は見せられない。これは一人の男としての意地だ。


「…俺に残された正確な時間を知りたい」


「残りの時間はおよそ二年。正確には八百と三日。魔力を使えばその分、寿命は減ります」

俺の予想は大体当たっていた。

以前残りの寿命を聞いた際には三年と少しだったはずだし、ローファンという魔族と戦闘をした際に

自身のもつ魔力をかなり使ってしまっていた。


「…そうか」

もう二年ちょいしかないという事実が重くのしかかる。


「ああ、そういえばラーベから話を受けておりましてな…」


あとセリアたちと一緒にいられる時間は二年という事実が頭に響く

内心、激しく動揺していたのでそれ以降のゲヘルの話は聞いていなかった。


「…ユウ殿、ですからよろしくお願いします」


「…あ、ああ。わかった、今日はすまないな」

そう言ってゲヘルと別れ、もとの部屋に戻ってきた。



俺は宿の一室に戻ってきた。真っ暗で誰もいない。一人っきりになれたのはいつ以来か。

俺はそのままベットに倒れ込む。


神を殺した自分の行動は正しかったのか。

女神パールファダは躊躇なく都市の一部を焼き払った。

その中に俺は自身の仲間もいたと勘違いし倒した。

あれほどの力を持ち、無慈悲で傲慢で傲岸不遜なモノは存在してはいけない。


一方で一人の少女を殺したことには後ろめたさを少しだけ感じていた。

もっと違う選択肢はなかったのかと。


あの女神は何かをしようとしていた。

それを理解しようとしていたのなら、結末はもっとより良いものになっていたのかもしれない。


すべては今更だ。自身が激情に駆られて動いた結果でもある。受け入れるしかないのだが。


「…ああ、死にたくないな」

自分は布団に体を埋めぽつりとこぼす。


この世界にやってきて手に入れたものは多い。

以前の世界で感じることのなかった人の温かさにふれることができた。

手放したくはない。だが、もう終わりは近づいてきていた。


ただ真っ白な地獄がそこにあった。

俺はそれから目を背けるように目を閉じ微睡の中に落ちた。

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