キャバルに着きました
中央六華国、コルベル連王国の首都キャバル。
規模からみればサルア王国の首都カーラーンより大きいかもしれない。
城門は四方に四つあり、東西南北に一つずつあるらしい。
城門の前は行きかう人が溢れていて、この分だと城中はもっと混雑しているだろう。
城門の前は兵士たちが立っていて行き交う人々を見ている。
それもそのはず、この規模も都市になると入城の審査するととてつもない行列になるからだ。
ジャックはその兵士の隊長らしき男に声をかけられる。
数言交わしジャックは何事も無いようにこちらに戻ってきた。
「それなりに知られているからな」
ジャックは気さくな笑みでそう言うものの、兵士たちからは何やら尊敬に近い眼差しを感じた。
例えるなら一般人が有名人に向けるような眼差しだろうか。
「冒険者カード発行の手続きがあるから宿に向かう前に俺と一緒にギルドまで来てくれ」
ジャックは慣れているのか混雑した場所を避け、人のまばらな場所をすたすたと歩いていく。
俺たちはジャックの後を追うように進む。
冒険者カードの発行手続きというのはAランクになったためだ。
今までの冒険者カードを一端回収し、新たに発行し直す手続きが必要があるのだという。
ちなみに現在、俺とオズマはBランクの冒険者。クラスタ、エリスはCランク。
セリアに至ってはまだギルドに登録すらしていない。
「すぐに発行できるのか?」
俺はジャックに問う。さすがに一週間もかかるのでは少し考え物だからだ。
「ここのギルドはここら辺一体のまとめ役だからな。
Aクラス冒険者の冒険者証ぐらいすぐに発行できる。
ただし、チームの登録があるから渡すのは明日になる」
「俺たちはともかく、セリアもAクラスでいいのか?」
俺やオズマ、エリス、クラスタはヒューリックの街でAランクの冒険者集団ともめた上、
戦って勝っているし、オーク討伐等の実績も上げている。
問題はないといえば問題はないが。
「魔法使いの冒険者は使える魔法の規模で評価される。
魔法使いというものは特殊な上に、魔法使いは大型の魔物を討伐する際に必須ともいえるからな。
セリアちゃんは五階梯魔法まで使えるし、それを自在に操っている。
一緒に旅をして評価基準は十分満たしていると俺は判断する。
ここまでの『先祖返り』なんだ。対人相手の戦闘はもちろんこなせるのだろ?」
「ああ」
ジャックの言葉に俺は同意する。エルフの『先祖返り』のセリアを狙う輩は多い。
一言でいえば捕まえて売れば金になるからだ。
特にセリアは文献にあるエルフの特徴そのままらしい。
まだ幼さは残るが成人すれば絶世の美女になることは誰でも容易に想像がつく。
そのため彼女を狙う人さらいから守るべく、
セリアはゲヘルに師事した際にはじめに自身を護るための魔法を学んだらしい。
カウンターマジックとかいうらしく、下手に触るなら一般人の体の部位が吹き飛ぶものである。
かなり物騒なものだがセリアの安全のために無いよりはいいと俺は割り切ってる。
「ここだ」
俺たちはジャックと話しているうちに建物の前で立ち止まる。
「ずいぶんと大きいな」
俺はその建物を見上げる。カーラーンのギルドよりもはるかに大きい。
金のあるところにはあるということか。
「みかけだけは取り繕わないとな。こうみえてこの地域一帯を統括しているからな」
そう言えば前にそんなことを言っていたっけな。
王都キャバルのギルマスは周囲のギルドを管轄しているためにギルマスに与えられる裁量は
他のギルマスより大きいのだとか。
一緒に旅しているジャックはそのギルマスであり、こう見えてかなりえらい人なのだ。
「うちのギルドにはAランクのメンバーも数十人在籍していて、
ここから人のいない地方のギルドにも派遣することもままある。
そんなギルドの見た目がぼろいといろいろとまずいんでな」
「ところでその支払いは地方の村とかが支払うのか?」
俺は気になったことを口にする。
「まさか。そんなことすれば小さい村は支払えずに破綻してしまう。
小さな村などには国家から予算が割り当てられている。
補助金という名目である程度は融通される。
それに今回のオークみたいな特別枠には独自の予算が設けられているんだ」
「なるほど」
思ったよりも制度がしっかりしている。
「それに国を護る兵士は街や村を護ることが目的であって魔物を狩ることが目的ではない。
また民間の商人たちの護衛とかは兵士では手を回せない。
国の機関よりも俺たち民間の方がその辺はうまくやれる」
ジャックの言う感じでは冒険者ギルドと言うのは以前いた世界でいう民間軍事会社だろう。
サルア王国にいたときはサルアの軍も魔物の討伐を行っていたが、
ここコルベル連王国ではそうではないらしい。
サルアと言う冬場は雪で交通が完全に遮断される。
そのために冒険者が少ないというのもあるのだろうが。
「そういう仕組みになっている。だから腕の立つ人間は一人でもここを拠点にしてほしい。
君らにはできればこのキャバルを拠点にしてもらいたいとは思うが」
ジャックの勧誘はキャバルに近づくにつれて多くなってきている。
「それはしないって」
俺にとってギルドは金を稼ぐ一つの手段にしか過ぎない。
手段が目的に代わっては本末転倒である。
「まあ、気が変わったらいつでも言ってくれ。それなりの高待遇を約束するよ」
ジャックはそう言ってギルドの扉に手をかける。
そして激務が待ってるわけですね。わかります。
ジャックがギルドの扉を開けるとそこは大きな待合室になっていた。
待合室には順番待ちの人間が数人座っている。
それはまるで以前いた世界の大病院の待合室を連想させた。
俺たちが入ると周囲がざわめく。
「あっ、ジャックさんだ」
「オークが発生したと聞いていたが、もう討伐は済んだのか?」
「あのジャックさんの脇にいるのも一緒のパーティなのかしら?」
「あれどう見ても荷物持ちだろ」
俺のことも言われている様子。オズマが睨むとあっと言う間に静かになる。
オズマは歴戦の勇士っぽい出で立ちだし、
エリスは凛としていて戦士であることを疑う者はいないだろう。
セリアはエルフ似の『先祖返り』であり、超絶美人である。
クラスタは双剣を背負っており、黙っていればそれなりに見えなくもない。
…この中で不釣り合いなのは…俺か。その点は自分でも認めますけどねー。
「そろそろ来ると思っていたぜ」
奥からガタイのいい男たちが出てきた。
Aクラス冒険者『熱穿』のフレッグとその仲間らしきものたち数名が俺たちの前に立ちはだかった。
ギルドの中は騒然とした雰囲気になった。
「お、またやんのか?」
嬉々としながらクラスタは双剣に手をかける。
他のメンバーも一瞬で雰囲気が変わっている。
どうしてこう好戦的なんだろうね。うちの連中。
「おい、ここでもめごとは…」
ジャックが何か言いかけると、頭を下げて頼み込んできた。
「「「オズマさん、どうか俺をあんたの舎弟にしてください」」」
一同の声がギルド中に響き渡り、全員が頭を下げる。
いきなり頭を下げられ、オズマの顔がこわばっている。
「ししょーの弟子だと…おいおい」
突然のことにクラスタは目をぱちくりさせている。
「クラスタ先輩」
一同クラスタに向けてキラキラとした目を向ける。
「先輩だと…」
クラスタは顔を強張らせる。
「こいつら見どころあるぜ…」
クラスタ、あっさり懐柔された模様。
「まてまて、私の従っているのはユウ殿だ。ユウ殿の許可がなければ…」
オズマはどんな魔物相手にも見せたことのないような表情を見せる。
「オズマ…ここは任せた…」
俺はオズマの肩をポンと叩いてセリアとエリスを連れてその場から立ち去る。
残されたオズマは顔をひくつかせている。俺としてはこれ以上同行者を増やしてもらいたくない。
同行するには魔族であるとかのもろもろの秘密を共有できなくてはならない。
同行する人間は少なければ少ないほうがいいのだ。
その辺はオズマもわかっていてくれるだろう…多分。
「…いいのか?放っておいて」
ジャックがオズマの方を見ながら俺に聞いてくる。
「当人たちの問題だし、俺が割って入ってもこじれるだけだよ」
あの冒険者の奴等にしても俺は第三者だし、絶対に言うこと聞いてくれないだろうし。
その証拠にフレッグたちの目にはオズマたちしか見えていない。
オズマが巻いた種だ。ここはオズマに刈り取ってもらうことにする。
「ジャック」
ギルドの職員の一人がジャックに近寄ってきた。
二十代だろうか。かなり若く、服にはしわ一つ見られない。
髪を背後でまとめ上げており、眼鏡をかけた凛とした美人さんである。
「リティ、俺のいない間。代理を任せてしまってすまないね。何か変わったことはあったかい?」
にこやかにジャックがその職員に問う。
「いえ。…本当にこんな短期間で報告書通り本当にオークの集団は殲滅されたのですか?」
「俺がその証人になる。そしてそれをなした冒険者たちも連れてきた」
「そちらの方々が…」
リティはジャックの周囲にいる俺たちに視線を向ける。
ちなみにオズマはフラッグたちにもう少し背後で絡まれている。
「失礼しました、私の名前はリティ・アリーサ。ここのギルドのサブマスターをやっています」
リティはにこやかにほほ笑む。
俺たち(オズマ、クラスタを除く)は会釈をし、それぞれ自己紹介を行う。
もちろん背後にいるオズマとクラスタは俺から伝えた。
「リティはこう見えて俺の相方で元Aランクの冒険者なんだ。怒らせると怖いぞ」
からかうようにジャックは笑う。
「もう、ジャックは一言多いんです」
少し顔を赤らめリティが反論する。
いちゃついているようにしか見えないのは気のせいだろうか。
「見事な討伐劇だった。ついでにホルズ湿原のサウルスリザードの一件も彼らが討伐してくれたよ」
「問題になっていたアレを?…単一のチームがですか?」
リティは目を丸くする。リティさんの言い回しだとやっぱり問題になってたらしい。
なんだかんだ乗せられて退治してしまった。
このジャックはやはり抜け目ない。
「…まあ一人イレギュラーもいたけどな。そっちの報告書は今日の午後にでもここに届くはずだよ。
俺はこれからギルドマスター権限を行使して彼らをAランクに引き上げようと思う」
ジャックのその一言に部屋中がざわめいた。
「Aランク?全員をですか…」
ジャックの言葉にリティは顔を強張らせている。
当然だろう。Aランクの冒険者と言えばすべての冒険者ギルドで五百人しかいないという。
一般の冒険者から見れば化け物のクラス、その存在は雲の上のヒトである。
この時の俺はそのことを全く知らなかった。
「ああ。そうだ。彼はユウ・カヤノ殿。
このパーティのリーダーであり、この『渡り鳥』の最強の冒険者でもある。手続きは彼と行う」
おいおい最強って…。幾らなんでもジャックさん俺のこと買いかぶりすぎだろ。
「ちょっとそれは…」
俺はジャックの言葉を訂正しようと声を上げる。
「失礼しました」
リティは俺が抗議の声を上げるより先に言葉をかぶせてきた。
この世界の人達、人の話を聞いてくれない。
「それじゃ手続きに入ろうか。奥の部屋に来てくれ」
にこやかにジャックはギルドの奥に歩いていく。
背後を見ればオズマが困惑した視線を投げてくるが、
俺はそれを無視してジャックの後についていった。




