幕間 黒の塔
周囲には闇のとばりが降り、空には星が瞬いている。
空を突き刺すように天高くそびえたつ黒い塔が立っている。
闇にまぎれ骨の恐竜がその塔の窓に取りつく。
イーヴァは足音を消し、窓からその部屋に足を踏み入れた。
「遅かったね。心配したよ」
物影から本を片手に持ち、黒いコートを羽織った一人の男が現れる。
端正な顔だちでどことなく冷たさを感じさせる。
「ファ、ファイ様」
背後からの声にイーヴァは体を硬直させる。
「魔石を取りに出かけていたのか」
ファイはイーヴァが背負う荷物を見てつぶやく。
「…はい」
「水臭いな…。言ってくれれば君が研究に使う魔石などこちらで用意したものを」
「…」
「私は心配しているのさ。キミは他のSクラスと違い咄嗟の不意打ちに対処できない。
悪意を持った第三者が突然君に害を成そうと攻撃して来たら対処できるのかい?」
ファイはイーヴァに囁く。
「…すまないであります」
「謝らないでおくれ。君は黒の塔のナンバースリーでもある。ただ君にはもう少し自重してほしい。
どうしても出たいというのならばAクラスの冒険者チームを幾つか君の護衛につけよう」
ファイはイーヴァの頭を優しくなでる。
「…はい、これからはそうするであります」
イーヴァはうなだれる。
「解ってくれればいいよ。それでオークはキミ一人の手で討伐し終えたのかい?」
にこやかにファイと言う男は微笑む。
「それならば私がその場にたどり着いたときにはすでに
ある冒険者の一団が私よりも早く討伐を完遂していたのであります」
ファイと呼ばれた男は少しだけ目を見開く。
「…その冒険者たちについて私に詳しく教えてくれないか?」
ファイは近くにある椅子に腰かける。
広い部屋の中心には円卓が置かれている。
その真ん中にファイが座っている。
その脇の席では一人の大柄な男が座っていた。
「魔石ぐらい俺たちでどうにかしたのによ」
男が腕を組み不満を漏らす。
その背には無数の武器があった。
「それを彼女は気に病んでいるんだ」
「…そこまであいつに優しくする必要があるのかね。あいつのせいで塔の連中は上へ下への大騒ぎだ。
派遣していた冒険者たちを呼びだしたせいでいくつかの仕事は他の冒険者に見送った。
このユニオン全体でかなりの損失を出したはずだろ?」
少し呆れ気味に男は語る。
「彼女の死霊魔法はそこまでする価値がある。そして感情は時に何よりも強固な手綱になりえる。
力でヒトを縛ろうとするのは愚か者のすることだ」
歪な笑みを浮かべながらファイは語る。
「俺は回りくどいのは嫌いだぜ」
男は冷ややかに言い放つ。
「クックック。私は効率的なのだよ。…それより彼女の話に出てきた冒険者の一団が気になる。
オーク共の相手は冒険者一チームで対処できる案件ではない。
ましてオーク・キングまで出現していたという。ドリア、君なら対処できたか?」
「カッ、俺ならオーク程度、束になっても一人で蹴散らしてやる」
ドリアと呼ばれた男は豪快に笑い飛ばす。
「そのチームには彼女が目をかけるほどの魔法使いもいるという。
戦術級、戦略級に匹敵する魔法使いは我々の目的のためにも一人でも多く欲しい。
魔法使いは少数精鋭の我々にとって数を覆す最大の武器になる」
「手っ取り早く俺がさらってきてやるか?」
ドリアが当然のように提案する。
「…いいや少し様子を見ることにする。オズマとエリスという名の冒険者が気になる。
まさか本人でないとは思うが…だが話から聞いた戦力を考えれば本人の可能性も十分にあり得る。
実際に少し前からその二人の名をぱたりと聞かなくなった。
下手に手を出してデリスとプラナッタと敵対するカタチになることだけは避けたい。
…とにかく今はその冒険者チームの情報を集めることに専念する」
「…なら俺らはは当面待機ってことでいいんだな」
ドリアは立ち上がる。
「ああ、用があればこちらから呼び出すさ」
ドリアは部屋から出ていきその広間にファイだけが残された。
「…『渡り鳥』か。果たして彼らは私にとって有益な存在かな」
彼のつぶやきは闇に消えた。




