旅の別れです
討伐の後、湿原から少し離れた川辺でセリアが料理したリザードサウルスの肉を頂いた。
串にさし、バーベキューのような形で焼いている。
念のため火は通してあるし、俺の始源魔法で危険な菌やウィルスがないかどうかを確認してある。
奥ではセリアが昼食の用意してくれている。
俺たちはそれぞれ座って今の戦闘の反省会をしていた。
ジャックの話ではある程度魔物討伐のパーティは巨大な魔物を狩った後に反省会をするという。
お互いの分担を決め、チームとして機能するためには必要なことであるという。
またこれはパーティの意思疎通するのも目的としてある。
そんなわけで食事が出来上がるのを待つ間俺たちは反省会をすることにした。
「心臓の位置が想定よりも右側だった」
槍を磨きながらオズマ。
「体表が思ったより硬い上に滑っていた。動き回られていたら苦戦していたな」
エリスがそれに応じる。
「違いねえ。動き回る奴の背に乗るって至難だぜ。奴が身を捩るたびに振り落とされそうだったぜ」
クラスタは近くにある木に腰かけながら呟く。
はじめはぎこちなかったものの、徐々に互いに淡々と感想を言い合っている。
こういう場所も必要だったのかもしれない。
「ああいった大型の魔物とはあまり戦う機会がなかったからな。いい経験になる。
次からの訓練には連携も訓練に取り入れるべきだな」
オズマの一言に一同頷く。
…正直俺がいなくてもこのパーティ回るんじゃないか?
「皆様方そういいはしますがすごいでありますよ。あの巨体をあの短時間で倒しきるとは。
うちのユニオンでもあそこまで短時間に仕留められる者はそうはおりませぬ」
イーヴァは感服している様子。
俺たちと同じように仕留められるものがいることに少し驚く。
相手は魔物狩りのプロなのだから当然ではあるが。
イーヴァは自身からは明かしてはいないが、三大ユニオンの一つ『黒の塔』のメンバーの一人らしい。
Aランクの冒険者も数多く在籍しており、国家にすら匹敵する軍事力をもつという。
「ところであんたさ、もう少し派手な魔法とかねえの?
もう少しズキューンとかズカーンとかしたものを期待していたんだけどなー」
横で聞いていたクラスタがイーヴァに言う。
クラスタとしてはあの魔法では不服だった様子。
「…まあ、あるにはあるでありますよ。
あまり大きなものを使って仲間を巻き込むことで昔大問題になったことがあります」
イーヴァは困ったような微笑みとともに答えてくれた。
それは大規模な広域型範囲系の魔法を使えることを意味する。
それを使わなかったのはイーヴァなりの配慮でこちらを考えてくれたのだろう。
「それに…魔力の消耗が激しく、効率を考えればあのやり方がよいのであります。
私ではムーア殿のようにはあつかえませぬゆえ」
少し照れながらイーヴァは言う。
魔石不足で困っているイーヴァからすれば魔力を大量に消費する手段は避けたいものだったろう。
「なるほどな、だからサポート役に徹したと。にしてもその会話にしてきたムーアって誰だ?」
俺は会話の中で聞き慣れない単語を耳にしイーヴァに問う。
「『魔海』のムーア。この世界の五本の指に入る魔法使いであり、
彼自身、S級クラスの冒険者『十天星』の一人でもある」
俺の問いに横に座るジャックが答えてくれる。
「ムーア殿は私よりも魔法使いとしては格上でありますな」
イーヴァよりも格上の存在が居るということに若干驚く。
「イーヴァよりも上の魔法使いって…それに『魔海』?」
「ムーア殿は魔族とのハーフとも言われ自身の体から魔力を生成できる
その上、膨大な魔力を体に蓄積できるとも言われている」
この世界の魔力は人間は体内で生成することはできない。
出来るのは魔物と魔族だけらしい。なるほど、だから『魔海』ね。
「魔法の技術も凄まじく、五階梯までならほぼノンタイムで扱うことができる。
冒険者時代に何度か一緒になったことがあるが、その知識力と判断力は突出していて
何度も窮地を救われたし、彼からは多くの者を学んだよ」
ジャックが思い出すように語る。
「そんな人がいるのか」
俺は唸った。イーヴァよりも魔法力は上で、ジャックよりも知識力が上。
世の中にはとんでもない存在がいるものだ。
ゲヘルに匹敵しうる相手だろうか。そもそも魔神の一柱と比べるのもどうかと思うが。
「ムーア殿はこれより南の地イブリア諸島のユーセン島を拠点にしている。
カロリング魔導国に向かう途中にある。会う機会もあるかもしれないな」
これが盛大なフラグであり、ほどなく厄介なおまけと一緒にその魔法使いと出会うことを
この時の俺たちはつゆほども思わなかった。
「できたわよ」
セリアの声で皆の視線がセリアの元に集まる。
そこには野菜と肉を串に刺したものを山のように皿に盛りつけられていた。
以前に俺がセリアに教えたバーベキューそのものである。
サウルスリザードの肉は肉の臭みはなく、柔らかい霜降りだった。それでいて鳥の肉のように軽い。
そこに塩と香辛料を合わせたものをかけて火にかけていた。
火にあぶると肉汁がしたたり落ちる。絶品だった。
パーティの面々にすごく好評で串の山があっという間になくなっていた。
肉の方はかなり食べたが、まだかなりの量が残っていたあるために少し収納の指輪に入れた。
何か祝いのことがあったら出すことにしよう。今度はステーキにするのもいいかもしれない。
「イーヴァはもう行っちゃうの?」
食事の後片付けが終わった後、セリアが名残惜しそうにイーヴァに声をかける。
「こう見えて大事な研究を中断してきて出て来ておりますからな。
セリアとの語らいは楽しかったであります。
もし次に機会があれば是非またご一緒したいでありますな」
にこやかにイーヴァ。背後にはやってきたときに乗っていた巨大な恐竜の骨がある。
「それにしても…本当にもらってしまってもよいのでありますか?
私は足止めしかしていないでありますよ。仕留めたのはあなたがたでありましょう?」
イーヴァは困惑気味に俺たちに問う。イーヴァは魔石を袋に包んで背負っている。
イーヴァに渡した魔石はオーク討伐の魔石と合わせればかなりの量になる。
「イーヴァの陽動と足止めが無かったらもっと時間がかかっていたよ。
それに拘束してくれたおかげで無事に倒すことができた」
俺は率直な感想を述べる。おせじではない。
サウルスリザードの特性やこの湿地帯のことを考えると
イーヴァがいなければもう少し倒すのに時間がかかっていたと思う。
短時間に倒しきれたのもイーヴァの存在が大きい。
「イーヴァ殿がいてこその討伐だった」
いつになくオズマが頷きながら評価している。
「ああ、君がいなければもう少し苦戦していただろう。助かったよ」
エリスもイーヴァのことを認めている様だ。
「…この恩はいつか必ずお返しするでありますよ」
イーヴァが一礼するとその骨の恐竜は翼を大きく羽ばたかせる。
恐竜の背から手を振るイーヴァの姿が見える。
恐竜は俺たちの頭上を三回ほど旋回し、日の沈む方角へ飛んで行った。
セリアはイーヴァの乗り物が見えなくなるまで手を振っていた。
「行っちゃったね」
見えなくなった方向を見つめながらセリア。
「ああ」
イーヴァは最後まで自分をSランクの冒険者と名乗ることはなかった。
実力があるのに自身を誇示することもない。そういうイーヴァの態度に好感を覚える。
魔石を譲ったのはそう言う態度もあったと思う。
「冒険者をしていればすぐにまた会うだろうさ。Aクラス以上の冒険者の世界は意外と狭いんだ。
そのうち何かの討伐で一緒になることもあるだろうさ」
しんみりとした雰囲気の中ジャックが声をかけてくる。
Aクラス以上は五百人、Sクラスに至っては十名だという。
最も俺たちの目的地はここから南のカロリング魔導国にたどり着くことである。
そうそう一緒になるとは思えないが。
「俺たちもそろそろ出発しよう。
今日の内にフードリに戻ってにギルドに報告したいからな」
気が付けば既に日も傾きかけている。
そろそろ移動しなくてはフードリの街まで到着するころには夜になっているだろう。
「そうだな」
俺たちはジャックに言われるまま旅路に着く。
イーヴァと次に会うときは予想もしない別の形で会うことになるとは
この時かけらも知らなかった。
彼女がセリアを出会うことにより違う道を選択することも。
そしてこれが俺たちと『十天星』との初めての遭遇になった。
これより俺たちは望まずに中央六華国のいざこざに関わることになっていく。




