お仕事です
その日の夜、俺たちは次に訪れた街フードリの宿に泊まった。
宿の一階は酒場になっており、俺たちはその酒場で食事を取ることにした。
ジャックが言うにはこの酒場、地元民が知る穴場ということだ。
そのジャックだけは今はここにはいない。
この街のギルドで用があり遅れてくるらしく、先にはじめててほしいとのこと。
俺たちはジャックの言葉通り、先に食事をはじめていた。
ずらりと俺たちの前にテーブルを埋めるほどの種類の料理が並ぶ。
目の前に郷土料理やら名産品などがテーブルの上に所狭しと置かれている。
イーヴァの歓迎も兼ねてちょっと財布のひもを緩めたのだ。
それに少し多くてもほとんどエリスがまず残さない。
最悪喰いきれなくても収納の指輪に収納するし。
周囲からの視線を気にすることなく俺たちはその料理を食べていた。
「へー、イーヴァはここから西の塔に住んでいるのか」
ユニオンが黒の塔と呼ばれる所以だろう。
「にしても辺鄙なところに住んでるな」
食事をしながらクラスタがイーヴァに語る。
「住めば都でありますよ」
料理を食べながらイーヴァ。
「塔か…。そう言えばデリス聖王国の西の貴族領群に塔の古代遺産があったと聞くな。
晴れて乾燥してる日なんかはデリスの西側からも見れた」
エリスが思い出すように声を上げる。
「多分そこでありますな。塔からデリス方面も見れるでありますよ。
晴れの日に塔の上から見渡せる景色は最高であります。
たまに風鳴りすごいでありますが、雑踏も少なく研究にはもってこいの場所であります」
イーヴァは酒が入ってかなり饒舌になっている。
「それどうやって上るんだよ」
クラスタが肉を片手にイーヴァに問う。
「私にはこの子がついております」
イーヴァは自身の頭の後ろにあるフードを指さす。
イーヴァのフードの中には小さな姿になった恐竜の姿がある。
魔物と勘違いされて騒ぎになるといけないので体の体積を小さくしているのだそうだ。
大地から身体を構成する物質は魔法を使えばいつでも補充できるとのこと。
便利な能力である。
「イーヴァはそれでいいだろうが他の奴は階段を使って上り下りするのか?」
俺はイーヴァに尋ねる。
「魔石で乗っている箱を動かす魔道具があります。私が壊れたのを直したのでありますよ。
その箱の中に乗ればぐいーんと最上階までもすぐでありますよ」
ドヤ顔でイーヴァは語る。
「そんな便利な魔道具があるの」
「使えるのは黒の塔だけでありますが」
「…エレベーターが存在するのか…」
俺は小さくつぶやく。
「えれべーたー?」
皆食事する手を止め、不思議そうに俺の顔を覗き見る。
「俺の故郷ではイーヴァが言ったような装置があったんだよ。
あっちは魔石じゃなくて雷が動力源だけどな」
原理不明の魔力がエネルギーの主体である世界において電気コイルなどを説明するのは難しい。
それも魔石から取り出せる魔力というエネルギーがこの世界のすべてのエネルギー源であるためだ。
人間とはそれに満足すればそれ以上の進化は無い。
「へー…電の力でありますか」
一同感心の声を上げる。
まさかこの世界にエレベーターが存在するとは思わなかった。
これは俺にとって少しだけ衝撃的なことだった。
ひょっとしたら同郷の人間が作ったものかもしれない。その塔に少しだけ興味が湧いた。
俺たちが会話に花を咲かせているとジャックが遅れてやってくる。
「ジョッキ一つ追加ね」
ジャックは空いた席に当然のように座る。
「ここのギルドでチームの名を申請してきたよ」
「すまない。ありがとな」
俺はジャックに頭を下げる。
「いいって。一応ここら一帯をまとめるギルドマスターだしな。
にしても渡り鳥で本当によかったのか?」
ジャックは酒のつまみを頬張りながら俺に聞く。
ジャックはコルベル連王国の王都キャバルのギルドマスターである。
後で聞いた話だが王都などの国家の首都のギルドマスターはその地区のギルドマスターを
監視、監督する役割も兼ねているという。
「別に名前にこだわっていないしなあ」
いかにもからまれそうな中二ネームは勘弁である。
「それはそうと南の湿地帯に巨大な魔物が住みついているんだ。
名はリザードサウルス。すでに付近の村に農作物の被害が出はじめている。
まだ奇跡的に人的な被害こそ出ていないがな。君らにその討伐を依頼したい」
ジャックは仕事の話を切り出してくる。
「いきなり来て討伐依頼かよ」
俺はジャックに突っかかる。
「討伐報酬はノルド金貨二百枚。どうだ?」
俺はジャックの提示した金額に驚く。
ノルド金貨二百枚…。一回の仕事でもらえる報酬としてはかなり破格である。
しかもキャバルのギルドマスター直々の依頼である。
怪しい話ではないし、立場上ピンはねするようなケチなことはないだろう。
「放っておくと繁殖して手に負えなくなる可能性がある」
近くにある手羽先に似た料理を手を片手にジャック。
「俺たちで引き受けてしまっていいのか?」
冒険者ギルドはランクに応じて請け負える仕事が決まる。
俺たちはBランクの冒険者チームである。
それがそんな巨大な魔物討伐とか普通に考えれば引き受けること自体無理だろう。
「そこはあれだ。俺の名前で申請してきた。A級冒険者のチームが複数で対処する案件だ。
オークの集落を殲滅した君らならばそれほど苦ではない案件じゃないか?」
まあジャックの言う通りなのだが。
そこら辺にいる魔物相手ならうちのパーティなら負ける気がしない。
「付近の村の人々のためにも是非頼むよ」
村人のためと聞いてエリスはかなりやる気になった様子。
人一倍正義感強いエリスだからしょうがない。
「面白そうな話だな」
戦い好きのクラスタも乗り気である。
「うーん…」
受けること自体は構わないが、どうもジャックに乗せられている感じがしないでもない。
「イーヴァは魔石を手に入れ、ユウ君たちは旅費を手にする。ウィンウィンの関係じゃないか」
ジャックは俺の肩に手を回してくる。まあ、その通りなのだが。
「よいアイデアでありますな」
魔石の話を出されイーヴァも賛同する。
「それにだ。ユウ君、見てみたくないか?Sクラス冒険者の力をさ」
ジャックは耳元でそう囁く。
「まあ…」
ジャックの言うとおり目の前に座るイーヴァという少女がどんな戦いをするのか興味はあった。
死霊使いと言うのだから今で見たこともない戦い方。それにこんな少女がSクラス冒険者だという。
今後の戦いの参考になるかもしれない。
「…俺は引き受けてもいいと思うが、みんなはどうだ?」
俺は皆に問いかける。
「主殿がそうおっしゃるのであれば」
「言うまでもねえ」
「問題ない」
「いいわね」
俺の問いかけに皆異論はない様子。
このパーティの財布を預かる俺としても、今後の旅の資金としてもノルド金貨二百枚はおいしい。
一日でノルド金貨二百枚を稼げる仕事などこれから先、道中でほとんどないかもしれない。
そんなわけで急遽リザードサウルスの討伐が決まった。
「よし、この酒は俺のおごりだ。今日はじゃんじゃん飲んでくれ」
酒場中がジャックの一言で盛り上がる。
酒盛りは夜更けまで続いた。




