チーム名を決めましょう
ヒューリックを出て数日、コルベル連王国の王都キャベルへの道中は順調に進んでいた。
道中は天気に恵まれ、道は新緑が生い茂り、気持ちいい。
キャバルが近いのか徐々に街道を通る人の数も増えてきている。
たまに道すがら人から挨拶を受けることもしばしば。
前の街の宿を出て数時間。幸い王都キャバルが近いこともあり街の間隔も短い。
ジャックの案内もあり、通ってきた街々で特産物や名物、名店を見逃すこともない。
さらにジャックの顔の広さで無用な争いも回避されている。
快適な旅だと思います。
ジャックの話ではコルベルまであと三つの街を越えれば着くという。
俺たちは道すがらパーティ名を考えていた。
ジャックの話ではギルドにパーティ登録をするためにはパーティ名を考えなくてはならないという。
「天下無双ってのはどうだ?」
クラスタが提案してくる。
「なんだよ、その挑戦誰でも賜りますってのは」
面倒事はごめんである。もっともパーティの中で争い事を回避したいと考えるのは俺ぐらいだろうが。
セリアも最近では観察と言う意味合いで争いを
「あ、ちなみにその天下無双ってのは既にパーティ名で登録されてるから駄目だよ」
横からジャックがさくっと否定してくる。
「嘘」
あまりの事実に俺たち全員はもる。
「ちなみに実績はあまりない様子だけどね」
苦笑いを浮かべながらジャックさん。
「いるんだ…」
セリアが驚いている。
「クラスタ並みの発想力か…。世界は広いな」
エリスはひたすらに感心している。
どう思われてるのクラスタさん…。
「いい名前だと思ったんだがなー」
クラスタは意に介していない様子。
「他にないか?」
「ブラックドラゴンとかは?」
オズマがどうでもいいといった様子で言ってくる。
彼にとっては強さと俺のこと以外はどうでもいいらしい。
だが一方でシンプルで覚えやすいモノがいいと言うのもある。
「それももうあるから。ちなみに結構有名」
ジャックは歩きながら応じてくれる。
「なんですと?」
「解りやすいモノ、強そうなものはあらかじめもう使われているぞ。
力はとにかく名前は自由だからな。ランクCの小さいところも験担ぎに大層な名前も付けるんだ。
大小合わせて三千前後は既に登録されている。
ただ最近はチーム名の売買問題も以前あってちょっと前に相当数はく奪されているし、
多少は融通は利くが…」
「ジャックさん、ひょっとして全部覚えています?」
「職業柄だいたい八割は記憶しているよ。
ただ活躍の少ない地方のCランクの連中のチーム名までは記憶していないが」
俺たちは思わず唸る。ジャックさんすげえ。
この人、やっぱり仕事ができる人だと思った。
「…集団討伐で活躍が被ったりすると面倒なんだよ。以前報酬の二重取りする馬鹿とかいてなー」
ジャックさん、このまま苦労話に入ってしまいそうなので、
無視して俺たちは再び名前を考えることにする。
「それなら冒頭にユウの名前をつけて…」
「それは断固拒否する」
セリアが言い切る前に俺は即座に拒否した。うちの仲間が聞いたら即座に賛成しかねない。
それに俺の名前のチームなんてなんか嫌だ。
セリアは不満気にこちらをじと目で見てくる。
「それじゃ、聖光騎士団とかは?」
エリスが提案してくる。勇者らしい発想であるが…。
「聖ってちょっとな…」
そう、俺とオズマ、クラスタは魔族である。
拒否反応を示している。
さて本格的に行き詰ってしまった。
ふと空を見上げれば鳥の一団が俺たちの歩いてきた北の方角に飛んでいく。
「渡り鳥なんかどうだ?」
俺は咄嗟に閃いた言葉を口にする。
「渡り鳥…」
「渡り鳥か…悪くないですね」
オズマが真っ先に同意してくれた。
「いまいちしまらなくねえか?もっとこうガツンと強い名前じゃねえとなめられねえ?」
クラスタが不満気につぶやく。
「私はいいと思うぞ」
エリスには良いと思えた様子。
「私も」
セリアもそれに同調する。女性陣には概ね好評のようである。
「ジャックさん」
「…俺の知る限り無いな。じゃ、キャバルに着き次第登録手続きをさせてもらう」
これで問題はなさそうだ。
「よし。これでチーム名は…なんだあの怪鳥は?」
その接近に初めに気づいたのは俺だった。
『天の目』で急激な接近の警鐘が鳴ったために最も早く気付いたのだ。
以前ローファンという魔族の接近に気づけなかったことへの教訓で
俺たちのパーティに急速に接近する対象に関して警鐘を鳴らすように設定してある。
骨だけの化け物が上空を飛んでこちらに向かってきている。
前世の知識では恐竜のプテラノドンに近い骨格である。
「あんな魔物みたことねえぞ?」
次にクラスタ。俺たちの中ではクラスタが最も目がいい。
長く生きる魔族のクラスタが見たこともない魔物ということは警戒した方がいいかもしれない。
「違う。アレは使い魔だ」
ジャックは緊張した面持ちでそう言い切る。
「使い魔?ジャックさんは知っているのか?」
「ああ、知っているとも。有名人だからな。あの背に乗るのは十天星の一人、イーヴァ・サシープ」
「十天星?」
俺は聞き慣れない言葉をジャックに聞き返す。
「冒険者ギルドのSランクの冒険者をそう呼ぶ。Sランクは現在十名しかいない。
Sランクは大型の魔物や魔物の群を単独で討伐しえる能力をもつ人間のこと。
その力は戦術級から戦略級。個人で一軍にすら匹敵するとまで言われる人類最強の十名。
その冒険者を我々は畏敬を込め『十天星』と呼んでいる」
…個人で一軍に匹敵する戦力か。なんかすごそうだ。
「かつて一度魔の森の鎮圧で見かけたことがある。
単騎で万に匹敵する死霊の軍勢を率いて魔の森を鎮圧していたよ。
ついた二つ名が『死群』のイーヴァ」
なんかかっこいい二つ名だ。万の死霊を使うとか。かなり強そうだ。
「他にも何度か大規模な討伐戦闘を繰り返し、その名を広めた。
間違ってでも戦おうなど考えるなよ?」
ジャックはくぎを刺してくる。たしかにクラスタ辺りは戦いを吹っかけそうだ。
「だそうだ。俺が許可するまで攻撃はするなよ」
俺は皆に釘をさす。俺の声に皆一様に頷く。
皆が警戒する中、空から俺たちの前に巨大な鳥の骸骨が俺たちの頭上を旋回し、舞い降りてきた。
その怪鳥の背から俺たちの前に漆黒のローブに身を包んだ一人の少女がゆっくりと降りてくる。
いかにも魔女と言ったとんがり帽子をつけ、分厚い眼鏡をつけている。
「あなた方がオークを殲滅したのでありますか?」
その少女が開口一番に言ってきたのはそのセリフだった。
それが俺たちとイーヴァという少女との初めての出会いになった。




