(7)仙台中央警察署
オフ会の参加者の四人は、仙台駅の近くにある仙台中央警察署に連行された。
取り調べは、リサ、下滝、結城の順に行われ、藤原は最後だった。藤原は六畳ほどの部屋に通され、パイプ椅子に座らさせられる。部屋の隅には、若い警官が既に座っていた。調書を取る役なのだろう。
藤原を部屋に連れてきた警官と入れ替わりに、黒田が入ってきてパイプ椅子に腰掛けた。藤原と黒田は灰色のスチールデスクを挟んで向かい合う。
「早速だが、身分を証明する物を持ているか?」
黒田に言われて、藤原は黙って運転免許証を差し出した。
「藤原定満、昭和五十三年生まれ。住所は新潟県で間違いないね」
「間違いありません」
「職業は?」
藤原は躊躇したが、正直に答える。
「探偵です」
「探偵なのか……。もしかして、オフ会に参加したのは、参加者の浮気調査でも依頼されたのか?」
「浮気調査は主な仕事ですが、今回は違います」
「趣味でわざわざ仙台に来たと言うのか。まあいい」
黒田は探偵と聞いて、藤原が何らかの調査のために参加したのかと勘繰ったようだ。しかし、事件の本筋ではないためだろう、追及せずに質問を続ける。
「藤原さんは蜂須賀さんの車に乗ってサン・ファン館を出たとの証言があるが、間違いないね?」
「はい、間違いありません」
「同乗者は藤原さん以外にいなかった。それで間違いないね?」
黒田は語気を強くして念を押した。その声には「決して嘘は吐かせないぞ」という気迫がこもっていた。
「はい、二人だけでした」
「そうか、二人だけだったんだな。それで、サン・ファン館を出た後の行動は?」
「国道を走って仙台に向かいました。私は松島で降り、そこで蜂須賀さんとは別れました。ちょうど午後四時でした」
「なぜ、松島で降りたんだ?」
「蜂須賀さんに松島観光を勧められたからです。蜂須賀さんは仕事で仙台空港に行かねばならなかったそうで、私を降ろしたかったようです」
「本当に『仙台空港に行く』と言ったのか?」
「はい」
黒田は疑いの目で藤原を見つめていた。
(蜂須賀さんが仙台空港に行ったことは、リサさんや下滝さんからも聞いているはずだ。それでも疑っているのは、私が二人に嘘を吐いていると思っているのだな。ということは……)
藤原はそう考え、黒田が現れたときから心の中にあったことを口に出した。
「蜂須賀さんは殺されたのですか?」
「なぜ、そう思う?」
「黒田さんは捜査第一課と言いましたよね。捜査第一課の刑事さんにこんな取り調べをされたら、殺人事件と考えるしかないでしょう」
黒田は頭を掻きながら言う。
「わかっているなら、話が早い。十七時五十分にどこで何をしていた?」
「アリバイですか? 五時半過ぎに松島海岸駅に入り、あまり待たずに電車に乗ったので、たぶんその時間は仙台行きの電車の中にいました」
「それを証明できるか?」
「見知らぬ土地の電車の中いたんです。知り合いに会ってもいませんし、電車で特別なことがあった訳でもありません」
「つまり、アリバイが無いということだな!」
黒田の口調は強かった。まるで、犯人は決まったかのような口振りだった。
「アリバイが無いだけで犯人扱いされるのは心外です。流しの犯行ではないですか?」
「蜂須賀さんが殺されていたのは、大郷町の支倉メモリアルパークだった。支倉常長の墓があるので、観光客が訪れることもあるが、夕方には人気が無くなる。そんな所で偶然犯行が起こったとは考えにくい。それに、蜂須賀さんの財布には手が付けられておらず、車の中には多額の現金が入ったセカンドバッグが無造作に置かれていた。窃盗目的の犯行とは考えられない。防御した様子が無く、真正面から頭を鈍器で殴られていたことからも、犯人は顔見知りの可能性が高いと考えるのが合理的だろう」
黒田の言葉には説得力があった。でも、蜂須賀と顔見知りなのは藤原だけではない。
「他の三人には、アリバイがあるんですか?」
「今確認しているが、たぶん裏付けが取れるだろう。アリバイが無いのはお前だけだ」
呼び方が藤原さんからお前に変わっていた。黒田は畳みかけるように攻める。
「蜂須賀さんは仙台空港に行っていないのだ。十七時に大郷町の道の駅で、蜂須賀さんが目撃されている。金色のイタリア車だから、店員がハッキリと覚えてたよ。それに、十六時に松島海岸でも金色のイタリア車が目撃されている。高速道路を使ったとしても、松島から仙台空港まで四十分かかる。仙台空港から大郷町までも四十分だ。わかるか? 仙台空港に行ったとしたら、十七時までに大郷町へ戻るのは不可能なんだよ! なぜ嘘を吐いた!」
「本当に『仕事で仙台空港に行く』と言っていたんです」
藤原はそう言ったものの、状況が不利なのはわかっていた。蜂須賀と二人だけで行動している。蜂須賀は仙台空港へ行っておらず、嘘を吐いたと思われている。犯行時刻にアリバイが無い。他の三人にはアリバイがある。藤原が容疑者に思われるのは当然だ。
藤原は状況を変えるべく必死に考えた。
「松島海岸で焼き蒲鉾を食べました。店員に訊いてもらえれば、私が、一人でいたことがわかります」
財布の中からレシートを取り出し、黒田に差し出す。レシートには「2019/5/18 16:30」と印字されていた。
「松島に一人でいたとしても、アリバイにはならんよ。松島から犯行現場までは三十分で行ける」
だが、藤原は諦めない。諦める訳にはいかないのだ。
(顔見知りの犯行と考えるのは、合理性がある。たぶん、顔見知りの犯行だろう。それに、蜂須賀さんは私と別行動をしたがっていた。私がいるとまずいと思ってのことだろう。加えて、蜂須賀さんは仙台空港へ行くと嘘を吐いた。私にメモリアルパークに行くのを知られたくなかったからに違いない。合わせて考えると、蜂須賀さんは、私に知られずに一人でメモリアルパークに行きたかったということになる。その理由は……密会か? それも、相手は私の知っている人物なのだろう。そうだとすると、その人物はオフ会の参加者だ。他の三人の内に犯人がいる可能性が高いと考えるしかない。黒田はアリバイが無いのは私だけと言っていたが、本当なのか?)
そこまで考えた時、藤原は気が付いた。
「十七時五十分のアリバイを訊きましたよね。なぜ、中途半端な時間を訊いたのですか?」
「その時間に、蜂須賀さんのスマートフォンから百十番通報があった。声はしなかったが、位置情報から現場に駆け付け、遺体を車内で発見したのだ。頭を殴られ、車に逃げ込んで百十番通報をしたが、力尽きたということだろう」
黒田が犯行状況を説明した時、若い刑事が部屋のドアを開けた。黒田が部屋から出て行った。
作中に登場する「支倉常長の墓」は、下記のサイトで確認できます。
●サン・ファン・バウティスタ号=【大郷町のホームページ】内の「支倉メモリアルパーク」