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(5)サン・ファン館

 オフ会一行は、仙台市博物館の近くにある駐車場に向かった。蜂須賀、藤原、結城が一緒に歩き、少し遅れてリサと下滝が続く。リサは何やら下滝に訊いているようだ。

「これから、私と下滝さんの車でサン・ファン館へ行きゃーす。藤原さんと結城さんは私の車に乗ってちょ」

 蜂須賀はリサと下滝がペアになっていたため、藤原と結城を乗せることにしたのだろう。本当はリサと同乗したかったのかもしれない。蜂須賀の口調は残念そうだった。


 駐車場に着くと、蜂須賀はリモコンキーを押した。ロックが解除され、四人乗りクーペのハザードランプが点滅する。蜂須賀の車はイタリア製の高級車だった。金色の車体に三ツ又の銛のエンブレムが誇らしげに付いている。

 藤原は、二千万円はするだろうこの車を間近にして、蜂須賀の羽振りの良さを実感した。

 蜂須賀がトランクを開けると、蜂須賀の鞄の他に、高級車に似つかわしくない物が入っていた。数丁のシャベルと折りたたまれた金属探知機だった。

 藤原が金属探知機について訊こうとしたとき、リサの声がした。

「リサ、こっちに乗る」

 蜂須賀の表情がほころんでいた。藤原は苦笑しながら、「リサさんの代わりに、私が下滝さんの車に乗ります」と言って、下滝の車の方に歩き出した。藤原は、下滝と結城の仲が良くないのを感じていたため、自分と下滝がペアになる方がいいだろうと判断したのだ。


 下滝は国産スポーツカーのトランクを開けて待っていた。藤原はショルダーバッグをトランクの中に入れようとして、大きめの折りたたみシャベルを発見した。

「このシャベルは? 穴でも掘るんですか?」

「いいえ。仙台は雪が降りますから、念のために積んでいる人が多いんですよ。そんなことより、早く乗ってください」

 藤原は下滝に急かされ、そそくさと乗り込んだ。


 藤原と下滝を乗せた車は北へと向かって走った。オーディオからは女性アイドルグループの曲が流れていた。下滝は鼻歌交じりで運転している。

 藤原は今どきのアイドルに疎かった。アラフォーなので、当然と言えば当然だ。

「この曲は、何という曲ですか?」

「『根白坂46』の『高城の兵糧攻め』という曲です。いい曲でしょう」

「根白坂46?」

「九州のご当地アイドルです。人気があるんですよ」

「好きなんですね」

「好きというより大好きです」

 下滝は上機嫌だ。

「ところで、明日行く上楯城のことですが、『城郭巡り』に載っていないですよね。何ででしょうか?」

「さあ、人気が無いからではないですか」

 下滝の返答は素っ気ない。

「あまり人が行かない城なんですか。だったら、何かを埋めるのに都合の良い場所ですね」

「何かってなんですか!」

 下滝の声は大きくなった。

「支倉常長の宝のことですよ。何のことだと思ったのですか?」

 下滝は憮然とした表情で答えない。車内に気まずい雰囲気が流れた。

 根白坂46の曲が流れる中、藤原は雰囲気を変えようと何度か話し掛けたが、下滝は生返事を繰り返すだけだった。


 石巻市にあるサン・ファン館の駐車場に到着すると、既に蜂須賀らが待っていた。藤原が腕時計を見ると、ちょうど午後一時だった。

 五人はレストランに行き、少し遅い昼食を取った後、サン・ファン館に入館した。長いエスカレーターで下りて行くと、復元されたサン・ファン・バウティスタ号が窓越しに見えてくる。

 ドックに出る。藤原が後ろを振り返ると、リサと結城の姿が無い。下滝も気付いたようだ。

「リサさんが結城さんの電話番号でも聞き出しているんでしょう。しばらくしたら追いついて来るでしょうから、先に行きましょう」

 と下滝は言って、船に向かって歩き出す。

 リサの営業活動は結城にも及んだようだ。藤原は、リサのノルマがきついのだろうと思う一方で、自分だけ誘われないことに複雑な気持ちを抱いていた。


 藤原、蜂須賀、下滝の三人が船の甲板でマストを見上げていると、リサと結城が現れた。

 下滝はマストの上ではためいている旗を指し、リサに言う。

「旗の紋章を見てください。見たことあるでしょう」

 リサは、二本の矢と逆卍が書かれた旗を見つめて考え込んだ。

「そうだ! 博物館にあった証明書に描かれていた紋章だ。そうでしょ」

「正解です。常長の紋章です」

「やったー! 正解の賞品の代わりにお店に遊びに来てね」

「それは、ちょっと……」

 下滝は困ったような態度を見せたが、満更でもない様子だった。リサはなかなかのやり手なのかもしれない。

 下滝の言葉が途切れるのを待っていたように、結城が進み出る。

「ここには、帆船以外にシアターや展示室があるみたいっすよ。俺、そっちを見たいんで、バラバラに行動しませんか?」

「賛成! そうしようよ。ロビーに集合したらいいんだし」

 結城の提案に、リサが真っ先に賛同した。更に、リサは蜂須賀の腕をつかんで同意を求める。

「お二人がそう言うならそうしますか?」

 藤原は、蜂須賀が賛否を示す前に同意した。藤原も、五人全員で行動するよりバラバラに行動する方が好ましいと思っていたのだ。

 蜂須賀も賛成し、下滝は仕様が無いといった感じで首を縦に振った。

「じゃ、三時にロビーで」

 結城はそう言い残して船から降りて行った。

 リサは蜂須賀の腕を引っ張りながら船体の中に入って行く。藤原と下滝だけが残された。

「皆さん行ってしまいましたね。下滝さんは、ここに来たことはあるのですか?」

「ええ、ありますよ」

 下滝の返事は、どことなく元気が無い。

「申し訳ありませんが、案内してくれませんか?」

「いいですよ」

 下滝は素っ気なく答えて歩き出した。


 午後三時を少し過ぎた頃、藤原、下滝、結城の三人がロビーで待っていると、リサと蜂須賀が現れた。リサは手に袋をぶら下げている。蜂須賀に何か買ってもらったのだろう。

「お待たせしてまって申し訳にゃー。ほんなら仙台に戻りやーすか。そうそう、来た時と同じ組み合わせというのも能がにゃーで、同乗者を入れ替えやーすか?」

 蜂須賀が思わぬことを言い出した。

 結城が「いいですね」と賛成し、リサも続いた。下滝に異議を唱える理由はない。

 藤原は蜂須賀とリサの間に何かあったのかといぶかしがったが、詮索するようなことはせず、黙って従った。


 藤原と蜂須賀が乗ったイタリア製高級車は、三陸自動車道を走らず、国道を仙台へ向かって走った。藤原は、震災の傷跡を残す町並みが窓の外を流れるのを助手席から眺めていた。

「藤原さんは仙台に初めて来たと言ってりゃーしたなも。松島に行ったことはありゃーすか?」

「残念ながらありません」

「松島は日本三景の一つだで、絶対見るべきだがや。この先に松島がありゃーすで、寄りやーすか?」

「蜂須賀さんに、ご迷惑をお掛けする訳にはいきません。それに、親睦会に間に合わないと困りますし」

「親睦会までには時間がありゃーすで、問題にゃーで」

「しかし……」

 藤原が渋ると、蜂須賀は顔をしかめた。

「正直に言うだがや。仕事関係で仙台空港に行かんでならんことを忘れとった。申し訳にゃーが、松島から仙台までは電車を使ってくれにゃーか?」

 藤原は蜂須賀が執拗に進めてくることに違和感を感じていたが、理由を知って納得した。

「遠慮なく言ってくれればよかったのに。松島観光をさせてもらいますので、松島で降ろしてください」

「本当に申し訳にゃー」

「こういう事がなければ松島を見ることもなかったでしょうから、良い機会でした。気にしないでください。それより、親睦会には参加できるのですか?」

「親睦会には間に合うようにするで」

 蜂須賀は、口調が明るくなり、多弁になった。せき止められていた水がダムの決壊で流れ出した様に、とりとめない話を絶え間なく続けた。

 藤原が蜂須賀の話に相槌を打つのに疲れた頃、松島海岸に着いた。藤原はそこで降り、蜂須賀と別れたのだった。

 作中に登場する「サン・ファン・バウティスタ号」は、下記のサイトで確認できます。

●サン・ファン・バウティスタ号=【サン・ファン館|宮城県慶長使節船ミュージアム】内の「サン・ファン・バウティスタ復元」

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