(2)集合
伊達政宗公騎馬像の周りは、まだ記念写真を撮る人達であふれている。その中に、非常に目立つ人物がいた。白のオックスフォードシャツの上に赤いベストを羽織り、緑のズボンをはいている。まるで、イタリア国旗のようだ。この四十代くらいの恰幅の良い男はスマートフォンを見ていたが、ズボンで画面を拭い、ベストに仕舞って騎馬像の裏に回った。
藤原はこの人もオフ会の参加者だろうかと思いながら、少し離れた場所から時間になるのを待った。
腕時計の針が十時ちょうどを指した瞬間、騎馬像の付近で五人の手が挙がった。写真を撮るために順番待ちをしている人や仙台の市街地を眺めている人達がそれに気が付き、何事が起きたのかと手を挙げている者達を見つめる。藤原は突き刺さる視線に耐えかね手を降ろしたが、一人だけ両手を振っている者がいた。赤いベストの男だった。
(きっとあの人が呑み助さんに違いない。しかし、他のやり方がなかったのか……恥ずかしい)
藤原はそう思いながら、視線を避けるように歩き出した。
赤いベストの男の元に参加者全員が集まった。
一人は三十代前半くらいの人の好さそうな男。薄手のブルゾンにチノパンとスニーカーという服装で、リュックサックを背負っている。歩き旅に慣れている感じだ。
他の二人は、ブルゾンの男とは対照的な二十代の男女だった。
男の方はやせ型のイケメン。ゆるいパーマをかけたボリュームのある髪型で、耳にピアスをしている。革ジャンを羽織り、ジーンズの裾からは、紐の無いスニーカーのような靴がのぞいていた。
女の方はセミロングの金髪に濃い目の化粧をしていた。なかなかの美人だ。胸の膨らみを強調するカットソーとミニのフレアースカートから出る脚が目を引く。
藤原はこの男女が場違いに感じ、オフ会の参加者には思えなかった。
「皆さん、支倉常長の秘宝オフ会の参加者ですか?」
赤いベストの男が訊くと、四人が同時にうなずいた。
「私がオフ会の主催者の『名古屋飯呑み助』です。本名は蜂須賀正敏と申します。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。お互い……」
「えっ、蜂須賀正敏さんって言うんですか。もしかして、高級創作料理で有名な『大曾根屋』のオーナーさんですか?」
金髪の女が蜂須賀の言葉を遮って訊いた。
蜂須賀は話の腰を折られたことを不快に思うより、自分を知っている人物がいたことに嬉しくなった。思わず、地の喋り方が出る。
「知っていりゃーたか。『大曾根屋』のオーナーをしとります」
「たまに、お客さんと一緒に銀座店に行くんですよ」
「ご贔屓いただき、ありがとうごぜえます。私のことより、お互い初対面同士やから、自己紹介から始めてちょ」
「じゃ、私から。ハンドルネームは『アキラ』。名前は『リサ』でーす。東京でキャバ嬢をしていまーす」
リサと名乗る金髪の女は、あけすけに言った。
リサがキャバクラ嬢だと言ったことについて、藤原は見た目通りだなと納得し、自己紹介を始める。
「藤原定満と申します。ハンドルネームは名と同じ『定満』です。新潟で自営業をしています。仙台に来たのは今日が初めてで、ここに来るのにも苦労しました。最近城に興味を持った素人ですので、色々教えてください」
藤原は軽く頭を下げた後、他の参加者の顔を見た。クスリともしていない。
(城と素人を掛けたのに、誰も気付いていない。滑った。滑ってしまった)
赤面した藤原は、何事もなかったようにブルゾンの男へ自己紹介するよう促した。
「僕は『タッキー』というハンドルネームで、名前は下滝信二です。仙台在住の地方公務員です。地元ですから、わからないことがあれば何なりと訊いてください」
下滝が言い終わっても、ピアスの男はなかなか話し始めない。下滝に肘で突かれて、ようやく自己紹介を始める。
「『ドラゴン』っす。ゆ、結城竜二って名です。アルバイトやってます」
素っ気ない結城の自己紹介が終わり、蜂須賀が参加者に向かって言った。
「全員の自己紹介が終わったもんで、予定通り支倉常長像を見に行こうまい。後に続いてちょ」
蜂須賀を先頭に、一行は本丸跡を出た。




