表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡の中  作者: 霞合 りの
第十二章
97/154

97 あなたの幸せを

「アンソニー様にはそう見えますか? 私は仲良くなって貰えばと思っただけで、他に思惑などありませんのよ」

「リドリーのために?」


私は微笑んで、首を横に振った。


「私のためです、王太子殿下。私にとってチャーリー殿下はあくまでメアリの子孫で、少々早いような遅いような、孫なのです。その孫に、同年代の友人が増える方が、闇雲に私を追うより健全ですわ」

「隙のない方だ。リアンも苦労するわけだ」

「リアン? リアンも喜ぶと思いますけど。デボラも元気になりましたし」


それで思い出したかのように、アンソニーは私を見た。


「鏡の呪いは解けましたか」


その言葉に、私はいささか大げさに肩を落とした。


「いいえ、全く。アンソニー様はデボラとリアンが仲直りすればとおっしゃいましたけど、違いましたわね」

「うーん、違ったねぇ。ま、そうじゃないかとも思ったけど」


苦笑いをするアンソニーを見ながら、私はノアの言葉を思い出した。


『まずは、リアンの問題をすべて解決してやろうと思ってそうで』


本当にそんなこと、思っているのかしら。


「……リアンに問題なんてあります?」


私が言うと、アンソニーは不思議そうに私を見た。


「そう思います?」

「いいえ。でも、……アンソニー様はご自分の腹心の部下として、リアンを重用しておられます。リアンが仕事に集中できるよう、問題は全て排除するつもりなのではないかと」

「うーん、そこまで無粋ではないつもりなんですけどね。私はあなたのことを気遣ってるだけですよ、ソフィア様。あなたは大変な運命を背負っておられる。だから、幸せになっていただきたいんです。ソフィア様の幸せは、なんですか?」

「私の幸せ?」


急に尋ねられ、私は思わず復唱した。


幸せ?


「私は……何をしていても幸せです。今、生きているのですから」

「リアンのそばにいたいと思いませんか?」

「リアンの役に立ちたいとは思っています。でも、……それがリアンのそばにいることなのかどうか、わかりませんもの」

「それでは、あなたがリアンのそばにいることが、リアンの幸せなら?」

「そんなこと……ありえないわ……」


言葉が小さくなってしまった。アンソニーはきっと気づいただろう。本当はそうであったらいいと思っていること。そして、でも、期待したくないこと。失望するのが怖い。


アンソニーが穏やかに口を開いた。


「ねぇ、ソフィア様。あなたはあなたの好きなように生きていいんです。もちろん、国家として、”伝説の令嬢”はとても大事な役割で、あなたのおかげで、法整備も進むでしょう。でもそれと、私が願う、あなた個人の幸せは別です。私はあなたにかなりの無茶を言っています。ですが、あなたが今後生きる上で必要だと思ったことだけですよ。そして、あなたが全ての決まりごとから解放されたら、あなたが望むように、生活して欲しいと思っています。街で暮らしても、チャーリーと結婚しても、リアンのメイドになっても構いません。あなたが本心でしたいことなら、私達がサポートいたしますよ」

「したいこと……」

「ソフィア様は、呪いから解放されたら……どうしたいんですか?」


呪いから解放される時。それはきっと、リアンが私を必要としなくなる時だ。私はそれでも、リアンのそばにいたいのかしら? どうして私はリアンがいいのかしら? リアンが私にこだわったように、私も誰かの信奉者なのかしら? 


「アンソニー様。私はそもそも、呪いから解放されたいのか、わかりませんの」

「それは……どういうことですか?」

「リアンの望みがデボラとの仲直りじゃないとわかった時、私、嬉しかったんです」


私の口からポロリと出れば、それは驚くほど滑らかに流れ出した。


「そして、リアンが私と一緒にいたいと言ってくれて、ホッとしました。いついらないって言われるかわからないのに、逆らえないのに、嬉しかったんです。変ですよね?」

「ご自分で、わからないんですか?」

「わからないんです。こんな気持ちは初めてで、……すごくもやもやして、不思議な気持ちです」


すると、アンソニーは初めて柔らかく笑った。


「……そんなことはないと思いますよ。もっとご自分の気持ちに耳を傾けることです」

「自分の気持ち?」

「これ以上、私がお助けできることはありませんけどね」


嬉しそうにはしゃぐ声が、テーブルから聞こえた。見ると、デボラが両手を顔の前で合わせている。


「そうですわ、チャーリー殿下! まだまだ他に令嬢がいらっしゃいましてよ! 先日お会いした伯爵令嬢は、チャーリー殿下を素敵とおっしゃってましたし、周囲に目を向けてくださいまし」


まだその話をしてるの?


「でもわたくしが思いますに、コレット様が一番美しくて聡明な方ですわ! あっ……チャーリー殿下は、ご自分よりお美しく優秀な方は苦手でしょうか……?」


デボラが酷すぎる。


ちらりとアンソニーを見ると、吹き出すのをこらえていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ