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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十一章
91/154

91 あなたの話

「リアンこそどうして?」


私は尋ねたが、そもそもリアンも公爵家の人間だ。同じ公爵家のリドリーのことは情報として入ってきていただろう。


「元々、同年代の公爵家子息としては、それなりに知っていましたから。そんなところがあっても、彼は人気がありますね。先日、お茶会でも話題になりました。あなたとの見合いの話もね。とある令嬢は、顔がとてもお好きだそうで、絵姿をいくつか持っているそうです。彼の身分もありますから、見合いも限られますし、今では遊びはやめてしまったので、舞踏会でも真面目でつまらないとぼやいておられました」

「じゃ、私が会えたのは幸運だったってことかしら」


すると、何を言ってるんだと言いたげな顔をして、リアンは私をジロリと見た。


「あなたは”伝説の令嬢”ですよ? どんな貴族より貴重な方です。王族より……あぁ、そういえば……あなたとアンソニーがかなり親しいと言う話が、度々、話題に上がっておりましたよ」

「えぇ?!」


なんですって?


「否定してくれたでしょうね?」


私が言うと、リアンは笑った。


「誰も恋人だとは思っておりませんから、ご安心ください。あなたに結婚相手の相談しているのではないか、ともっぱらの噂なのです。僕にはわかりませんでしたが、否定はしておきました。ですが、実際のところ、そうなのですか?」

「相談されたことなんてないわ」


冗談じゃない。これ以上仕事が増えてたまるもんですか。


私が否定すると、リアンはホッとしたように笑った。


「ならば、今までの答えで正解でしたね。殿下はあなた以外の方で探していると伝えておきました」

「それならよかったわ。でも、リアンが殿下の近況を聞かれてしまうなんて変な話ね」

「本当ですよ……まるで僕がなんでも知っているかのように、みなさん聞いてくるんですから」


そこで私はハタと思い当たった。


あれ? リアンが王太子殿下のお相手探しって話……これって、回り回って私のせいでは?


「ちょっと待って、それは」

「それでですね、どうも、ドウェイン殿をお慕いしてる方がいて、あなたとの見合いを気にしていましてね。こちらも、縁がなかったようだと話したのですが、良かったでしょうか?」


ドウェイン? 誰? 


私は首をひねりかけ、イーズデール外務大臣の息子だと思い出した。


あの、人の良い、仕事の早い息子ね。


「ええ、……構わないわ」

「でも、ドウェイン殿にしても、アンソニーにしても、ことあるごとに、あなたの賞賛をしているそうですよ。あなたのハードルは上がりましたが、それゆえ、あなたを手に入れたい輩も増えるというわけですね」

「えぇと……面倒なことだわね……」

「そうですか? 結婚結婚言うあなただから、選べるのは嬉しいかと」

「私は結婚なんてしないわよ? あなたに必要だと思うから、言ってるだけで」


私が言うと、リアンは困ったように眉をひそめた。本当に女性が苦手なんだわ。


「別に……必要性はありませんよ、僕の結婚は」

「え、どうして?」

「よくよく考えたのですが、別に僕である必要はありません。デボラがなればいいんです。デボラの夫でもいい。父が、家督をデボラ優先に考えればいいだけですから」

「リアンはそれでいいの?」

「デボラに確認もしないで、このようなことを考えるなんて、失望なさいますか」

「いいえ、でも……せっかく勉強しているのに、もったいないわ」


もちろん、公爵がお決めになるだろう。でも、リアンは継ぐだけの力がある。それに、女性にだってもっとモテていいはずだ。


「リアンは魅力的だもの、きっと良い方がいるはずよ! 見目はハッとするほどかっこいいし、笑顔も可愛いし、優しいし頭もいいし礼儀正しいし、ちゃんと話せばリアンを好きにならないはずがないわ! キース様や殿下よりずっと素敵だもの、リアンほどいいお相手はいなくってよ! そうよ、リアンは人見知りだから、魅力が伝わらないんだわ。殿下やドウェイン様の話なんてしてないで、あなたの話をするべきでしょう!」


立ち上がって机を叩いて力説した私に、リアンはポカンとして、掠れた声でつぶやいた。


「何の話を?」


確かにそうだ……何の話をすればいいのだろう? 


「好きなものとか……最近読んだ本とか……美味しいお菓子の話とか?」

「それは女性同士の会話ではないのですか?」

「え、そうなの?」


わからない。そういえば、男性ってどんな話をするの?


「……男性って、女性を口説くとき、どんな話をするのかしら?」


私が言うと、リアンは唖然として私を見た。


「よくご存知でしょう? されているはずですが?」


私は首を振った。


されてない。見合いしてるのに! されてない!


いつだって私には、”伝説の令嬢”の肩書きが付いていて、結局は、その話ばかりなのだ。


「……私、女性としては魅力がないのかもしれないわ」


私が言うと、リアンは目を瞬かせ、言葉を失った。


しまった。


突然の真実にはフォローの言葉も出てこないものよね。リアンに申し訳ないことをしてしまったわ。


でも仕方ない、本当のことをごまかして考えるほど、私は自分を過大評価したりできないんだから。




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