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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十一章
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90 リドリーの妹

 リハビリの時間がやってきたので、ノアが席を外した。その席に、リアンがゆったりと座る。ティーセットを新たに持ってきたデイジーが、心なしか嬉しそうだ。やっぱり、リアンは私より使用人に人気がある。


「そういえば、今日はどうなさったの?」

「何がでしょう」

「今日はお茶会だったのではなくて?」

「いいえ、仕事でしたよ、さっきまで。今、帰ってきたところです」


リアンが”帰ってくる”と言うと、なんだか少し嬉しい。


「そうなの?」

「まさか、僕が毎日お茶会に行っているとでも?」

「違うの?」

「そこまで行ってないですよ」

「そうでしたの」


私は何も言うまい、と思い、静かにニコニコと笑顔を振りまいた。ひとまず、紅茶を飲んでやり過ごす。


「今日は、何があったのか聞かないのですね」


リアンが不思議そうに言った。


「王宮の話はわりと聞いたもの。新しい話はあって?」

「……最近、ランダー公爵家のリドリー公子と会話をすることが増えました」

「あら」

「今まで、あまり仕事熱心じゃないと勝手に思っていたのですが、そんなことはありませんでした。とても賢い方ですね。先日の見合いで、あなたとお話して、僕と話してみたいと思ったとか……」


私をダシに使うとは、リドリーも面倒な男だ。


「そうね、そんなこともおっしゃってたわ。リアンは優しい人よ、と伝えただけよ」

「へぇ、そうですか」

「だって、リアンが恐れ多くて話しかけられないと言っていたから。リドリー様は、あなたのファンなんですって。とても尊敬しているそうよ」

「……冗談ではなかったのですか」

「リドリー様はどうでした?」


ちょっと過剰にリアンのことをよく知ってたり? 細かいことを知りたいと思いすぎたり? リアンフリーク全開で語り尽くしたり? そんなことなかった?


「良い方でしたよ」

「それだけ?」

「妹さんがいらっしゃるそうで、……勧められました」

「あら」


妹だなんて! 知らなかった。それはさぞかし美しいんでしょうね。リアンと並んだらきっと目もくらむに違いないわ。


きっと私の目が輝いたのだろう、リアンはうんざりした顔で肩をすくめた。


「でも、十歳ですよ? デボラとほとんど変わりません。無理な話です」

「それは……そうね」


なるほど、リドリーの妹はまだ十歳なのね。それなら、ノアと五歳差くらいだし、会わせてみるのもいいかも……


いやいや、公爵家から嫁をもらうなんて、きっと面倒だわ。伯爵家や子爵家からがいいんじゃないかしら。そして、賢くて秘密を守れる、しっかりした子かな。ピアニー家は何かと面倒だから。優しいお嬢様もノアには合いそうだけどね!


うん。まだまだ考えられないわね。ノアもきっと、夏離宮のことを知るだろうし、何しろ、こちらから従業員を出さないとならないんだもの。だから、だめだわ。公爵家なんて……しかも、ランダー公爵家なら、王宮の中でつながりがきっと欲しいはずだし。


でも、リドリーの妹を知ることができたら、楽しいだろう。そう、きっと、デボラが。


「そう言ったら、ランダー公爵夫妻だってそれ以上に離れていると、屁理屈を言われました」


リアンの声に、私は慌てて現実の話に戻った。


「そうなの? 随分、年が離れてらっしゃるのね」

「そんなに珍しいことではありませんがね、歳の差があるだけなら。ただ、現在のランダー公爵夫人は、後妻で、本当に、かなりお若い方なんですよ。現在は、成人していない母親違いの弟が二人、妹が一人いらっしゃいます」

「実のお母様は、どうなさったの?」

「リドリー公子の実の母は亡くなっています。体が弱い方でしたから、……ランダー公爵はそれは大切になさっていましたが、息子であるリドリー殿には厳しい方ですね」

「亡くなったって……もしかして、リドリー様の……比較的若い頃に?」


私は不意に思い出した。


会話だけで盛り上がった逢瀬。顔よりも印象的だった手。あの美青年な日々。


「ええ、まぁ、そうですね」


リアンが頷くのを見ながら、私は感慨に浸った。


母の死と厳しい父、これまた典型的だ。


家で寂しかったんだわ。


だから、誘われるままに私の部屋で、女性たちと会ったのだ。私はきっと、だから、覚えたくなかったのだろう。彼の顔を、その表情を。私の家族たちを見ているようで。


喪失の連鎖は恐ろしい。私はノアを失いたくない。リアンだって。


「ノアは……」

「はい?」

「両親と姉と妹が亡くなってるけど、今の所、他で寂しさを紛らわそうとか、してないわよね?」


リアンは目をパチクリとさせた。


「えぇ、比較的笑顔で過ごしていますよ。当主としての勉強もありますし……新しい従者の見習い期間が」

「リアンも大丈夫? やけになったりしてない? アーロンが亡くなって、次期当主の勉強したり結婚をせっつかれたり、私のせいで王宮で色々言われたり、なんかこう、むしゃくしゃして、女性で解決してやろうなんてことは。こないだのこと、覚えてるでしょ? もめるわよ?」

「ありません! 僕をなんだと思ってるんですか。ありません、絶対に。お相手探しも慎重にしていますよ。ただ、あなた以上に……いえ、とにかく、あなたの世話でも忙しくて、大変なんですから」


怒らなくても……でも、まぁ、家族みたいで嬉しいものだわ。リアンは私の弟、そう、弟なんだもの。


「わかったわ。ちょっと取り乱してしまってごめんなさい。若い頃のリドリー様みたいになったらどうしようかって思って」


私の言葉に、リアンは驚いたように目を見開いた。


「リドリー殿がおっしゃったんですか? 若い頃遊んでいたと?」

「ええ、……まぁ……、そうね」

「本人だって隠しているわけではありませんが……あなたに言うとは驚きですね」

「そう? でも、彼は私の部屋を使っていたから、私がその資料を持っていて、既に知ってると思ってたみたい。彼が私に会いに来たのは、それもあったのよ」


まぁ、私が見てたのは知らなかったけど。




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