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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十章
80/154

80 ピアニー家の書庫

ため息のように独り言が出た。


「さて……」


ピアニー家の書庫で、私は途方に暮れていた。


……無造作に置かれた本が多すぎる。


 ノアの回復祝いのお茶会が無事に終了して数日後、私はデイジーに書庫を案内してもらった。


主に蔵書の置かれている部屋は三つ、図書室、書庫、重要書類の書庫だ。書斎にも本は置いてあるが、主に仕事用だ。家人が集めた本を置いてあるわけではないので、おそらく違う。


誰もが好きなように本を手にとっていい図書室、丁寧に扱う本や収集目的の本が置いてある、心得た人が入れる書庫、そして、当主と認められた人しか入れない重要書類の書庫。


当然ながら、私が注目したのは、重要書類の書庫だった。そして今日、改めてやってきたのだった。


ここへは、使用人は入れず、掃除も家人がいる時だけとなっているらしい。と言っても、最近入った人は少なく、歴代当主とその妻、そして許可された興味のある者、つまり、リアンのような人だ。つまり、現在、ほとんど手入れもされておらず、埃がたまるばかりになっている。ところどころ埃が払われているのは、リアンやルイスが通った跡なのだろう。


私は途方に暮れながら、うろうろと歩き回った。


「”領地関係の帳簿”……”ピアニー家 家系図”……”魔法の様々な形”……”魔法をかける”……”魔法にかかるということ”……”騎士のための魔法学”、これは翻訳ね」


大半は、かつての手紙のやり取りや、日記、帳簿、家の歴史、そういった、かなりプライベートでデリケートな書類や本で、確かに、興味本位で入られると困る資料ばかりだ。


しかし、それ以上に、多くの特定分野の本があった。魔法に関する本だ。


デイヴィッドは、正気に戻った後、魔法についての文献を片っ端から手に入れていたようだった。その中でも、呪いについて、そして術具としての鏡について、それらの本があちらこちらに山積みになっている。


「……”魔法の”……何かしら。埃で題名が読めないわ」


私はため息をついた。


これを全部確認するつもり、ソフィア? 無理じゃない?


私は自分に問いただし、しばし考えた。


でも誰かに手伝ってもらうわけにはいかない。ノアにもリアンにも、他の誰にも。


私がここにいて喜んでくれている彼らに、もしかしたらショックな出来事があるかもしれないから。


しかし、頼れるデイジーたち使用人は、この部屋に入ることは出来ない決まりだ。私の権限で入れてもいいと思うけど、今は無理したくない。誰かに、ここに何かがあると思われてはいけないのだ。特に王族関係者なんかには。


この部屋には貴重な資料が所狭しと置かれている。おそらく、デイヴィッドはニコラスの目さえ盗んで、この部屋に本を集めたのだろう。そして、鏡の呪いの『かけ方』を把握した。


では、『解き方』は? 


デイヴィッドは知らなかったと思っていい。知っていたら、リアンが使っていたはずだ。リアンがしたのは、自分に呪いもかかる『かけ方』だ。


ニコラスも同じように鏡の呪いを解きたかったはずだ。私を鏡から出すために。だから、魔法の研究をしたのだろうし、熱心だったんだろう。だから例えば、ニコラスが王宮に置いておけない本をこの家に置くとか、そういうことならわかる。別にわかりたくないけど。


それなのに、どうして? なんで一緒に見なかったんだろう?


その答えは、割と早く見つかった。


デイヴィッドのメモ書きだ。


それは窓際の床に置かれた本から、はみ出ていたメモ書きだった。そのあたりには、メモ書きが挟まれた本が積み重なっていた。


「あら?」


私はそれを見て、デイヴィッドの癖を思い出した。デイヴィッドは、床に座って、陽の光で、ゆっくり読みながら、メモ書きを挟んで本を読むのだ。


その一角は、まさしく、デイヴィッドが座り込んだ跡がまだ残っているように、小さな空間と、その脇に本があった。もうずっとこのまま、動かしていないように。


きっと、誰も知らなかったのだ。当時の当主デイヴィッドだけが知っている、この部屋の意味と安らぎ。


座る時、背中に当たるその後ろの木の板が、わずかに外れた。私がその中に手を入れると、何か四角いものに当たった。取り出してみると、果たして、それは本だった。


また新しい禁書だ。本当に、これだけの量、どうやって手に入れたんだろう。


私はうんざりしながら本を開いた。そして、そのメモ用紙に気がついた。


『鏡とつながること 衰弱 ーー死?

姉は繋がってる可能性 戻しても無理?

鏡を作る時、人が犠牲になる。

鏡には人が宿っている? 本当に?

姉もその中に? 一部になったとしたら?』


「鏡に……人が宿る?」


私は鏡の中にいて、長いこといたけれど、誰にも出会ったことはない。


でも、私がいた暗闇は、鏡には”誰か”を入れておける容量がちゃんとあるということを示している。


もしかしたら、私より以前に、誰かがいたのかも。


むしろ、ずっといたのではないかしら。出会ったことはなくても、あの中に。


考えてみれば、あの黒い空間が突然できるわけがない。あの”呪いの鏡”は、作る時に、とんでもない空間魔法を使って、別空間を無理やり作り出したのかも。


だから、私をその空間に閉じ込めることができた。


……でも待って、膨大な魔力があれば、あの時、彼女の”願い”を聞いて作ることはできる。


なんでも叶えられる魔法の鏡、呪いの鏡。


もしかして作る時に魔力のある人を閉じ込めて、その生命力を魔力として使っているのかしら。私のように成長しないように閉じ込められるなら、その人は永遠に生命力を維持できる。でも、それは自分の魔力の働きだ。


そんなことが可能なの?


魔力のある人を入れておく空間を作るのが術師の仕事だったの?


そして私は一度、鏡の中に入った。今、鏡の呪いを叶える立場にいる。


ということは……私、術具の一部になってしまったのかしら?


でも、デイヴィッドの考えが合っている保証はない。この考えは全て間違いかもしれない。それでも、彼が考えたってことは、どこかにヒントがあったのだろう。


私はここにある本を読んで、それを見つけないとならないわけだ。


私は積み上げられた本を眺め、目を瞑り、願った。


……全部読み尽くす前に、ヒントが見つかりますように。




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