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鏡の中  作者: 霞合 りの
第九章
78/154

78 手紙の返信

 結果、三週に渡って計六日開催されたピアニー家のお茶会は、成功に終わったと言えるだろう。


 ノアは当主として立派に役目をこなし、リアンの両親が後ろ盾となってしっかりアピールした。リアンはあくまで公爵家の代理であり、ピアニー家には関係ないとアピールできたので、財産や権利の不透明な行方が、何もかもリアンの肩にのしかかることもないだろう。



「リアンの監視がひどい」


私が文句を言うと、デイジーは呆れたようにため息をついた。


「当たり前ですわ。甘んじてお受けくださいませ」


 あれ以来、リアンは公爵代理、そしてノアの後見人として忙しく挨拶をこなす中、私を自分の視界から逃すことはなかった。庭ではブルータスを私のそばに置き、家に入ろうとすると、必ずついてくる。その時、すこぶる笑顔が優しいので、気にする必要はないと錯覚してしまうけれど、すぐに気がつくのだ。リアンは私をベタベタに甘やかそうとしている。私が自分で何かを考える暇もないくらいに。


それがようやく終わり、部屋に戻った私は、残念なような、ホッとしたような気分になっていた。


私は口を尖らせてさらに文句をいいつのった。


「前から思っていたけれど、みんなリアンに甘いわよね。この家の使用人達は、私よりリアンの方が好きだし……まぁでも、仕方ないわ。私、ここへ戻ってきて、まだ一年も経っていないもの。リアンは長いこと親しくしてきて、家のことも任されていたわけだし、信頼されるのは当たり前よね……」

「そのようなことをおっしゃらないでください。ソフィア様が私たちの仕事を全て知っていて、また理解をくださっているものですから、えーと、少しばかり、その、気安くなっていることは認めます。でも、リアン様はリアン様、ソフィア様はソフィア様です。私たちの忠誠はソフィア様にありますわ」

「そうかしら」

「信じてくださいませ」


自信を持って胸を張るデイジーを見て、確かに、そうかもしれないと私は思った。忠誠心に気安さが加わると、私には厳しく、リアンにが甘くなるのかもしれない。ご主人にはしっかりして欲しい的な。いや、私、それなりにしっかりしてると思うんだけど。


でも不満はそれだけじゃない。


私はさらにぼやいた。


「でもね、キース様だってアンソニー様だって、リアンの肩を持ってる気がするわ。普通はぁ、女性を大切にするものでしょう?! 伝説の令嬢なのよ?」


すると、デイジーは話を聞いていなかったかのように、にっこりと微笑んだ。


「チャーリー王子へのお手紙のお返事は、どうなっておりますか?」


話変えた。ひどい。しかも痛いところを突いてきた……


「どうって……まだ書いてないわ」


チャーリー王子はアンソニー王太子のやや幼さの残る弟君で、私にいたくご執心だ。一目惚れで結婚を申し込んできた彼の手紙は、美辞麗句や切なさに溢れている。やんわりと断りを入れたいところだが、いかんせん、王妃に断るなと言われている。今まで勉強に不熱心だったチャーリーが、私のおかげで勉強するようになったからだ。


家のつながりやバランスのため、よっぽどのことがない限り、私が王家に嫁ぐことはない。けれども、王妃は、おそらく、チャーリーがそのことに気づくくらいに冷静になり、聡明になるまで、私に彼を励ませと言うだろう。私も、親友だったメアリに似ているチャーリーには、おそらく甘くなっている。


だからこうして返事を書かねばと思っているのだけれど……正直、これ以上ひねり出せない。


「そろそろお書きになりませんと、次のお手紙が届いてしまうのでは?」

「無理よ……勉強の叱咤激励なんて、これ以上言葉が出てこないわ!」

「そこでソフィア様、別の方からお手紙をいただきました」

「何かしら……」


デイジーが差し出してきた手紙には、チャーリーの乳母より、と書いてある。


「……どういうこと?」


分厚い手紙を開くと、そこには、丁寧に書かれた長い文章があった。……チャーリーへ向けて、叱咤激励するあらゆる言葉を駆使した、効果のありそうな例文が。


私はそれに添えられた、別の便箋を開いて、それを読んだ。


つまりそれは、この例文を適当に書き写せば良い、という優しいアドヴァイスだった。


「”……お使いくださいませ、ソフィア様。お手をわずらわせて申し訳ありません”……ですって……書かないとならない? もう、代筆でよくない?」

「せめてソフィア様の手で書くことが求められております」

「そうよねぇ」


私は、チャーリーの手紙を開いて机に置き、デイジーに伝えた。


「手分けして探すわよ。この手紙に合いそうな例文を見つけて」

「わかりました」


二人でチャーリーの手紙を読みながら、乳母からの手紙を確認する。


覚えたばかりの甘い言葉を、これでもかと並べ立ててくるチャーリーの手紙は、正直、胸焼けがしそうなほどだし、罪悪感が半端ない。


「きっとソフィア様のために、探したり、教えてもらったりしたのでしょうね……」


デイジーがポツリとつぶやいた。感心しているような口ぶりだ。確かに、これだけの表現をよく見つけてくるものだ。


「誰に?」

「それはきっと……ご家族やお付きの者でしょう」


はいはい。王宮に知れ渡っているわけですね。


「”僕の秘密を打ち明けましょう……この離れている間、寂しくて勉強もはかどらないのです。” ……これ、秘密なの?」

「チャーリー王子がおっしゃるのですから、そうなのでしょう」

「デイジーって私に冷たい」

「秘密のお手紙を私などに見せてしまうソフィア様には、厳しくさせていただく所存です」


だってしょうがないじゃない。急いでるんだもの。




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