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鏡の中  作者: 霞合 りの
第八章
70/154

70 見合いのあと

 リドリーが去った後、改めてお茶を飲みに行くと、驚いたことに、ドローイングルームにはリアンがいた。リドリーとの見合いの間、書類を届けにやってきていたらしい。


驚いて足を止めた私を、ソファに座っていたリアンも驚いて見返してきた。


私には会わずに帰る予定だったようなのは、その様子からもわかる。


「……お茶を……ご一緒してくださいます? リアン」


私が言うと、リアンは読んでいた書類を膝に落とすと、苛立ちを含んだため息をついた。


「……ええ、まだ馬車が来ないそうですから、そういたしましょう。……早く帰りたかったのに……ブルータスがあれこれと……」

「どうなさったの?」


私はリアンの隣に腰掛け、デイジーが淹れてくれる紅茶を待ちながらリアンに向いた。向こう隣に立ったブルータスが、嬉しそうに書類をリアンから受け取っている。きっとリアンが忙しすぎて休憩する時間もないから……私とお茶することで休憩させようという魂胆だろう。


「え? いいえ、なんでもありません。随分と楽しそうですね」

「そうかしら?」

「そうですよ、頬がバラ色で、まるで恥じらった後のようです」

「それは……」


言いかけてハタと止まった。


何を言えばいいのやら? リアンのことをからかわれたから? いや違う、みんな忠誠を誓いすぎるから? だいたい何であの人、からかったりするの? 当たり前のことだわ、リアンは特別よ、だって私を戻してくれたんだもの、願いを叶えなきゃならないんだもの、恩返しをしなきゃならないんだもの。


「リドリー殿は、どうでしたか?」


固まっていた私に業を煮やしたように、リアンは改めて、言葉を変えて感想を聞いてきた。


「ええっと……」


彼は、あの部屋を使ったことがあるけれど、もうしないと言っていた。だからと言って信用できるわけではないけど、それなりに野心もあって理想もあって、面白い人だった。もしかして、断ってしまってまずかったかしら? リアンに憧れているようだし、イマイチ押しの弱い家柄だというなら、協力してあげてもいい。リアンが許せば、だけれど。


それをまとめて言うには勇気がいる。


「悪い人ではなかったわ。話も面白かったし」

「そうですか。それでは、もう一度、お会いになられますか?」

「……また会ったほうがいいの?」


私が紅茶を飲みながら聞くと、リアンは無の表情になって、テーブルの上のティーカップに手を伸ばした。


「ご自分でお考え下さい。ニコラス様より、お会いしたくなる方でしたか?」

「ニ……ニコラス? 関係あるの?」


紅茶を噴き出すかと思った。何でここで? 意味ある? 私の動揺に、リアンはさらに嫌そうに眉をひそめて紅茶を飲んだ。


「伝説が多少違っていたとはいえ、あなたにとって、理想の恋人であるニコラス様より合うお相手がいるとは思えませんので」

「ニコラスはどうでもいいでしょ」

「どうでもよくありませんよ」

「なんとも思っていなかったし、第一、もういないじゃないの?」

「いないからといって、お相手を見極めないのはいかがかと思います。ニコラス賢王のかつてのお相手として、恥ずかしくないお相手を……」

「うるさいわ、リアンったら、本当にうるさいったら!」


私は思わずティーカップを勢いよくソーサーに置いた。ニコラスニコラスって、私は私だ、ニコラスは関係ない。


「せっかくリアンとゆっくり話せると思ったのに、面倒なことばっかり言うのね! もう話したくない!」


リアンがどう思ったのかなんて、その場を離れてしまった私にはわからない。でも追いかけてこなかったのだから、これ以上小言を言いたいわけではないことはわかった。言いすぎたと後悔しているかもしれない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


だからと言って、気分がむしゃくしゃするのは変わらない。


何よ、もう。

なんなのよ。


魔法の話も、呪いの鏡への願いの話もできなかったじゃないの。


イライラしながら今度は居間に入ると、ノアとアンソニーとキースが、テーブルを挟んで頭を突き合わせて話していた。


「ソ……ソフィア?!」

「ソフィア様!」

「うわっ、ソフィア様だ」


慌てる三人に、私はすぐにイライラをぶつけた。


「こそこそ何しているの?!」


そんなことしちゃいけないのはわかってる。淑女らしくないし、”伝説の令嬢”らしくもない。でも、この怒り、どうしたらいいというのよ。


「あ、いや……今度、こ……今度、ピアニー家でお茶会をするから……その話を」


ノアが小さく言ったので、私は眉をひそめた。


「お茶会? この家で? ……女性は私しかいないから、私がテーマ考えるんですけど? それに何でリアンがいないの?」

「いや、うん、リアンは忙しくてね」

「さっきドローイングルームにいたけど?」

「えっ そうなの? 気づかなかったなぁ……?」

「アンソニー様がここにいるのに? 部下が何しているか、そんなにもわからないものなんですか?」

「それはその……」

「まぁ、別に、どうでもいいですわ」


私が放った言葉は、随分と冷たかったらしい。三人の顔色が蒼白になったからだ。


「ソフィア、ごめんなさい。ソフィアはお見合いで忙しかったから、先に招待客など考えようと思って……そろそろ、お茶会をしないとならないと、公爵様に言われたものですから……」


ノアが半分泣きそうになって言った。


「あら……」


私は急に気持ちが落ち込んでしまった。


「私こそ、ごめんなさい。ちょっと苛立ってしまって……」


話を始めながら、私は手近な椅子に座った。


「私、リドリー様と結婚したほうがいいのかしら?」

「はぁ?」


アンソニーが呆れたように言い、三人は顔を見合わせた。


「何でそのような話に?」

「リアンがもう一度会うかって。会って欲しいのかしら。おすすめってこと?」


ノアが困ったように口を開いた。


「ソフィアは結婚したいの? いい人だった?」

「悪い人じゃないけど、結婚したいわけじゃないわ。リアンやノアと話してるほうがずっと楽しいし」

「そう……」

「どっちにしろ、リアンとノアが認めた人じゃないと、私は結婚したくないわ。まぁ、リアンに関しては、リアンが勧めるなら誰であっても結婚しないとならないんでしょうから、ちょっと不利な気がしますけど」


若干プリプリしながら私が言うと、三人は顔を見合わせて疲れた顔をした。


「えー、一通り、話を聞きましたけど」


キースがため息まじりに言った。


「リアンの本当の望みって、ちゃんと考えたほうがいいですよ」

「でもわからないんだもの、だからみんなに聞いたのに。まだデボラの件は解決してないからわからないし、次期公爵の心構えかもしれないし……」

「えーっとですね、話は変わりますが、ソフィア様って、リアンのことをどう思ってるんですか」

「私?」

「はい」

「そうね……リアンは……」


私のような負担のことは忘れてくれていい。願いを叶えて恩返しできればいいのは私で、リアンには前を向いてほしい。


「早く結婚したほうがいいと思うわ。そうすればワグレイト公爵家は安泰ですもの」

「あー……ソーデスネ……」


キースは魂が抜かれたように頷いた。アンソニーは乾いた笑いをした。


「……リアンはそれなりにモテるのに最後の最後でだめになるんだよなぁ。いつもそうだった」

「まぁ。なんでかしら?」

「私たちは知りませんよ、そんなこと。聞いてみたらいいんじゃないんですか?」

「まぁ。聞かなきゃダメ? 無理よ……」


だってあんな言い合いをしてしまったし、リアンは私がなぜ怒っているかわからないだろうし、リドリーにからかわれたせいだとは言いたくはない。いいえ、からかわれてなんかない。リドリーは正しい。だからと言って、頬が熱くなる理由はわからない。


「……どうしたんですか?」


アンソニーが目を丸くして私を見た。


「何が?」

「顔、真っ赤ですよ?」

「それは……怒っているからです」

「これまた、どうして」

「リアンと今喧嘩したんです、だからもう喋らないんです! 質問なんて、しません!」

「……今度は願いを聞きたくないからではなく、喧嘩ですか」


呆れたようにアンソニーが言う。


「だから私たちに当たったんですか」

「ち……違います! 当たってなんていません! リアンなんて……リアンなんて、ニコラスと結婚すればいいんだわ!」


それは無理じゃないすかね、いろいろと。つぶやくキースに、手近にあったお菓子を投げつけると、キースはパクリとそれを食べた。



第八章はこれで終わりです。


第九章は、今回の話で言っていた、ノアの回復祝いのお茶会です。


ちょっと間が空いてしまうかもしれません。


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