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鏡の中  作者: 霞合 りの
第八章
68/154

68 ”見合い”とは

リドリーはさらに慌てふためいて、よそ事を考えていた私の手をさらに強く握った。


「私はその……あなたの部屋を使っていました。政治目的ではなく……女性との……ことで……私は言ったように病弱ですから、女性と遊ぶことでしか気が紛れなくてですね……」

「言い訳はよろしいですわ」


くすん、と鼻を鳴らせば、控えていたデイジーがしずしずとハンカチを差し出してきた。受け取る時、ちらりと見ると、異様なものを見るように私を見ていた。


……失礼だわ。私だって泣いちゃうもん。繊細でか弱い十六歳の乙女だもん。策略? 何かしら?


「で、ですが、それは過去のことです。私は公爵家の跡取りとして、それなりに威厳を持たねばなりません。家の存続の保証と、周囲の支えが必要です。それには、あなたの名声が必要なのです。女性とも遊びません。ええ、夏離宮を別の意味で使えるようになったとしても、もういきませんよ、誘われても」


夏離宮のことは、口止めしておいたほうがいいのかしら。しないほうが逆にいいのかしら。遅かれ早かれ、私の部屋がどう使われてたのかは、噂話として伝わるんじゃないかと思う。……公にはできない密談の会議室として。


私はしおらしく涙をハンカチで拭うと、リドリーと目を合わせた。


「それでは、口止めに来たわけでも、交渉に来たわけでもなく、わたくし本人を目的にやってきたということですか? わたくしが”伝説の令嬢”であるから」

「は、はい……」

「それならば、リドリー様。この国にある三つの公爵家、ワグレイト公爵ド=マガレイト家、テイラー公爵クロフォード家、ランダー公爵アーチボルド家。王族との関わりが一番少ないのは、ランダー公爵家ですわね。ですから、わたくしの名前が欲しい、そういうことでしょうか?」


それなら単純でいい。これ以上面倒ごとを抱えてなるものですか。私が言うと、リドリーは躊躇いがちに頷いた。


「ええ、まぁ、……端的に言うと、そうなってしまいますね……あなたにお会いしたかったのはそれだけではありませんよ、もちろん。でも、まぁ、それも一つの要因です。今は、ド=マガレイト家が一番強いですが、クロフォード家も姫を迎えて、とても仲睦まじくやっております。ご兄弟と仲の良い王太子殿下ですから、そうなれば、影響力も強く出せるでしょう。私の家は、それがない。でも、あなたのように、アンソニー殿下に大切にされ、陛下からもお言葉をいただいている方が、私の家に嫁いでいただけるなら、同等に扱われると思うのです」

「今現在、差別が?」

「いえ、ありません。ですが、リアン殿は現在の王太子と仲が良く、今後とも、家とのつながりがゆるくなることはないでしょう。私など、とても追いつきません。本当に……あの方は冷静で強く、厳しく、しかし、その中にも優しさを持った、確かに王家と親しくして問題のない素晴らしい方です……!」

「え、ええ、そうね……」


随分と熱の入ったリドリーに、私はうんざりした。


このパターン……今度はリアンのファンか。意外と誰にでもいるものなのね、熱心な信奉者が。


でも確かに、リドリーは頭が良くても、病弱で細くては側近にはなれないだろうし、女性受けのする性格だ。リアンのように硬派な男に憧れるのかもしれない。あれは硬派というか、単に不器用なだけとも思えるけど……だって女性と話せないって言ってなかったっけ? でもリドリーはそういうところにこそ、憧れるのかも。


そう考えていると、なんだかバカバカしくなってきた。


もしかして、リアンのことを知りたいだけなんじゃ? 私の名前云々より、憧れのリアンが囲っている|(語弊)”伝説の令嬢”がどんなものか、見に来ただけなんじゃない? 『お会いしたかったのはそれだけじゃありません』って、そういうことなんじゃ?


どうやって断ろうか考えていたけど、心配して損した。


リドリーが続けて言った。


「ですが、私の家では心配していることもあります……万が一、彼が野心を持って王太子を操ることなどないと思いますが、不安要素はなくはありません」


ほら。外務大臣みたいなこと、みんな考えてるんだわ。


私はため息をついた。


「みなさん、同じようなことを仰るのね。わたくしにはさっぱりですわ」

「そうなのですか?」

「わたくしは、しがない出戻り令嬢なんですのよ。ええ、結婚したわけではなくて、鏡の中にいただけですけれど。わたくしにはなんの望みもありませんの。ここへ戻していただいただけで満足なんです。ですから、例え、現国王から親しくさせていただいていても、わたくしになんの価値もありませんわ。おそらく、……リドリー様の思うような、政治的価値など」


せいぜい、ロマンチックさが売りの平和な国アピールの題材か、神秘さが売りの驚異の国アピールの象徴か、そんなところだろう。とにかく、ピアニー家を気に入らなかった層が、ノアのことを問題にしていなさそうなことはわかった。いつの間にか矛先は私に移ったみたい。


多分、夏離宮なんだろうな。私の指示で移動して、雇用が決まり、運営される、とそれぞれが思ってるようだから。




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