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鏡の中  作者: 霞合 りの
第七章
61/154

61 書庫へ

「楽しませていただきましたよ、ソフィア様」


そのアンソニーの声で、あっけにとられていたチャーリーが復活して、声を上げた。


「兄様! 僕はまだお話中です。リアン兄様も、勝手に」

「チャーリー、これは父君のご命令だ。ソフィア様のご希望に沿うように、と。私たちがお引き留めしてはならないよ」


アンソニーが毅然として言うと、チャーリーはしぶしぶ引き下がった。その様子を、国王陛下が面白そうに見ていたが、それにも飽きると、彼は笑いながら私に言った。


「どうだろう、ソフィア嬢。ピアニー家の新しい当主が……回復をしたら、王宮での茶会に呼んでも良いだろうか? もちろん、ぜひ、君にも来ていただきたい」


新しい当主とは、もちろんノアのことだ。これは大きな名誉だ。当主復活の茶会を開催する時に、ハクがついてやりやすくなるだろう。断る道理もない。というか、断れるわけがない。


私はその光栄に頭を深く下げた。


「謹んでお受けいたします。ノアも喜ぶことでしょう」

「頼んだよ。あとは・・・アンソニーに任せよう・・・・・・・・・・


あ。交渉ごとはアンソニーが請け負うって顔してる。今はまだ知らないかもしれないけれど、外務大臣の知らないことも、リアンの知らないことも、全部知るってことですね、アンソニーが。次の国王だもの、当然か。


「はい、お任せください、父上」


なにも知らない口調で、アンソニーは頷いた。でももしかしたら知っているかもしれない。王族はあてにならない、ニコラスの時からの教訓だ。


そして、アンソニーに促され、私たちは部屋の出口へ向かった。チャーリーは黙っていたが、……部屋を出て行く私に駆け寄って、一言言って行くのは諦めなかった。


「またお会いしましょう、ソフィア様。今度は二人で」


お茶会で会うんじゃないんですか?


私は言いそうになったが、リアンの視線を見て思いとどまった。


☆ ☆ ☆


「チャーリーも積極的だなぁ」


無言でしばらく廊下を歩いた後、アンソニーが笑い出した。


「笑い事ではないよ、アンソニー……」

「いいじゃないか。勉強してくれるなら嬉しいよ。私がいるからといって、チャーリーは手を抜くんだから」

「優秀すぎる兄がいるのも、問題ですわね、アンソニー様」

「そう言われても、そんなに嬉しいものではないけどね。友達できないし」


アンソニーが不服そうに唇を尖らせると、リアンは気安い口調で頷いた。


「仕方ないさ。みんな気後れしているところがあるからね」

「そうですの?」


私は首を傾げた。アンソニーは気さくだし、面白いし、学生だったら友達もたくさんできそうなものだけれど。……でも、成績とか良さそうだし、逆に完璧すぎて近寄り難いのかもしれない。


「そんな私を、身内以外で足に使えるのは、ソフィア様だけですね」

「嫌ですわ。今回だけです。ご案内してくださるお約束でしたもの」


私は言いながら、まだ見ぬ書庫に思いを馳せていた。私の伝説、裁判の記録の原本、もしかしたら、呪いの鏡にまつわる証書なんかもあるかも。あまりにワクワクしすぎて、リアンとアンソニーの会話を完全に聞き逃した。


「リアンもついてくるんだな」

「当たり前だ」

「書庫には入れないが?」

「入るつもりはないよ。だが、お前と二人きりにするつもりもない」

「別に構わんだろ、チャーリーじゃないんだから」

「それに別の男が声をかけるかもしれない」

「気にしすぎじゃない?」

「しすぎなものか。王宮には多くの男性が勤めているし、みんなソフィアに興味がある。話しかけづらい雰囲気があるわけでなし……声をかけられる可能性もある」

「そうだとしても、問題ある? そうだ。ソフィア様はどう思います?」

「え?」


聞いてなかった。リアンが、一緒に来るけど書庫には入れない、までは聞いた。だから、一緒に探したり相談することはできないんだなと思っただけで、その後、また話は進んでしまったようだ。何か数の話をしてたような気が……


「何がですか? 書庫にどれくらい本があるか、ですか?」

「違います」


アンソニーは言うと、リアンに向いた。


「ほら。興味ないんだよ」

「ソフィアの興味があるなしではないよ」

「何? 何?」

「ソフィア様、例えば、見知らぬ男性から話しかけられたらどうします?」


アンソニーに問われ、私は首を傾げた。


「わたくしのことを知ってるんだなと思いますわ」

「それで?」

「それっぽい雰囲気で話さないとならないから、ちょっと大変かと……」

「それっぽいとは?」

「伝説の令嬢ですわ。それ以外、私に興味なんてありませんでしょ?」


私の言葉に、アンソニーは首を傾げた。


「でも見合いの話があるのは、あなたに魅力と興味があるからでは?」

「それはだから、肩書きですわね、伝説の令嬢を嫁にしましたって、すごい話題になるからですわ。子々孫々いけますわよ」

「そういうものですか」


私は力強く頷いた。


「そうです。わたくしに野心があったら嫁にしたいくらいです」

「ご自分と結婚ですか」

「私が男で野心があれば、ぜひに。だからアンソニー様は安心。リアンも安心」


私が朗らかに言うと、アンソニーは訝しげに眉をひそめた。


「安心とは?」

「私を手に入れなくても、野心は達成されるほど、優秀で有能だからです」

「お褒めいただいて光栄です」


なるほど、と一笑いしたアンソニーが立ち止まった。重厚な扉の前だ。


「ちょうどでしたね。こちらです」


アンソニーは自分の腰に下げている鍵束を持ち上げると、幾つかの鍵を順次使い、鍵を開けた。私がじっと見ていると、うっすらと笑った。


「興味深いですか?」

「ええ。それは、アンソニー様だけがお持ちの鍵ですの?」

「この束の組み合わせは、私だけです。ですが、この部屋の鍵は、何人かは持っておりますよ」

「そうなんですか……」


この書庫は、以前見かけた時より、古くはなっていたけれど、重厚さが増し、毎日磨かれた取手と扉が、つやつやと美しかった。ニコラスに一度、目の前に案内してもらった時は、美しい秘密の収まった憧れの場所だった。就職できたらいいと思い、ニコラスがそれを示唆してくれてるのかと思った。でも今は、私が生きるヒントを探す場所と化している。


その扉が、今、目の前にある。


「さぁ、どうぞ」


アンソニーの丁寧な仕草とともに、その憧れの場所への扉が開かれた。





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