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鏡の中  作者: 霞合 りの
第七章
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59 謁見の日

初めて拝見する国王陛下は、アンソニーとは似ておらず、記憶の中のメアリとよく似ていた。


「頭をお上げください、ソフィア嬢。私の代で出会えるとは、私は幸運ですな」


顔を上げると、優しげな瞳が私をじっと見ていた。柔和で柔らかく、可愛らしい印象なのに、強く、輝く威圧感があった。


鏡の影響かしら。陛下には中てられてしまうわ……


謁見の間で、私は他の王族と家臣たちに見守られ、陛下とお会いしていた。私の後ろにはリアンが立ち、同じように頭を下げている。


「リアンも頭を上げて。君と会うのは久しぶりだな」

「……はい、国王陛下」

「可愛い甥っ子なのに堅いなぁ。それも仕方ないのだろうね、こんな場所では。私だって、くつろぐことは難しい。さて、妻を紹介しようか」


陛下が言うと、スタンバイをしていたらしく、すぐに王妃が駆け寄ってきた。そして、両手を広げて私を抱きしめた。


「素敵なお嬢さん! お会いできて本当に光栄だわ! 私たち国民の憧れなのよ! いつも素敵なドレスですし、古いドレスも着こなしてらして。それにね、あのね、」


思ってた展開と違う。


王妃はとても可愛らしくて、いい匂いがした。が、私は彼女の言葉を頭の中で反芻させ、リアンに向いた。


憧れですって? そんなの聞いたことがないわ。それに続く、王妃の賛美の長いこと。謁見して挨拶して、ちょっと喋ったら終わりなんじゃないの? そしたらすぐにアンソニーに案内してもらって書庫に行って、調べ物を……


リアンがにっこりと微笑んだ。


それだけで十分だ。私に拒否権はない。


興奮した王妃は会えた感激を一通り話し終えると、急に王妃らしく毅然と顔を上げた。


「今日いる子供たちを紹介いたしますわね。長男のアンソニー……は知っているわね、兄弟の中では三番目なのだけど、王太子よ。そして次男のチャーリー、次女のシンディに、三女で末っ子のマーガレットよ。長女は他国に嫁いでいるものだから、なかなか帰ってこられなくて、今日も無理だったの。とても残念がっておりましたわ」


シンディはアンソニーに、ひいてはニコラスによく似ており、チャーリーとマーガレットは、逆にメアリに激似だった。他の人にも似ているのだろうが、私にとって、彼らしか知っている顔はいない。特に、メアリに似た顔には感慨深いものがあった。


「ご挨拶は私からしようかな」


アンソニーが一歩前に出た。それと同時に、王妃が玉座の隣の自分の椅子へ戻っていく。


「何度かお会いしておりますね、ソフィア様。アンソニーです。いらしていただき、光栄に存じます。なかなか来ていただけなくて、いやはや、困らせていただきました。リアンが一緒なら来ていただけるなら、最初からおっしゃって下さればよろしかったのに」


そう言って、にこりとした。


まったく、嫌な人だ。そんなこと、一言も言っていなかったのに。それすらも、わかっていて言うのだから。


私が当たり障りなく挨拶すると、今度はシンディが一歩前に出た。


「初めまして、ソフィア様。お会いできて光栄ですわ。シンディ・クロフォードと申します。今はテイラー公爵家に嫁いでおります」


そう言ってしとやかに頭を下げたシンディは、とにかく美しかった。さすが女顔、アンソニーが女性になるとこうなるのね……目の保養だ。顔もそうだけれど、身のこなしも惚れ惚れしてしまう、お手本のような人だ。


私が礼をする前に、マーガレットが跳ねるようにシンディの前に飛び出した。


「お会いしたかったですわ、ソフィア様! わたくし、マーガレットと申しますの。兄様から、先日までデボラのところへ行っていたと聞きましたわ。時々お手紙をしますの。デボラはお元気?」


マーガレットの性格は、王妃に似ているらしい。メアリに似ているという点でも私は彼女を一目で気に入ってしまったし、淑女らしさの中に天真爛漫な様子があり、とても可愛らしかった。こんな妹欲しかった。


最後に、チャーリーが促されて一歩前に出た。彼もメアリに似て、それだけで好印象だ。どんなに性格が悪くても許してあげよう。お前なんて伝説の令嬢じゃない、と言われても構わない。だってメアリの子孫なんだもの。


彼は緊張した面持ちで、何を言おうか迷っているようだったが、ようやく口を開いた。


「……チャーリーと申します。リアンがお迎えしたという……ソフィア様、ですよね? リアンがきっと連れて来てくださると思っていたんです。お会いできて嬉しいです」


声は硬いが、強い親しみを感じた。私はくるりとリアンに振り向いた。


「リアンは仲がいいの?」

「そうですね……いとこの中では、アンソニーの次に」

「僕はリアンをアンソニー兄様より兄と思っております!」


急に元気に声をあげたチャーリーは、さらに緊張した様子だった。


「あら。それは面白いですわね」

「そして今! 僕は宣言します!」

「はい、なんでしょう?」


なんだかちょっと嫌な予感がよぎったが、確信を得る前にチャーリーは宣言した。


「ソフィア様、僕が大きくなるまでお待ちくださいね! 父に許可を得たら、すぐにお迎えに行きます! 結婚してください!」


その瞬間、アンソニーが吹き出した。



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