表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡の中  作者: 霞合 りの
第六章
55/154

55 初めての出会い

デボラに会えたのは、屋敷へ滞在して二日目のことだった。


「わたくし、デボラともうしますの。おねえさまは、……リズに似た、……妖精さん?」


第一印象は、一生懸命で可愛らしい小さな女の子だった。貴族の令嬢らしい言葉遣いを覚え始めたばかり、といった印象で、その一生懸命さが微笑ましい。十歳という年齢には遅いくらいかもしれないが、態度はすでに一流で、どこへ出してもおかしくない。


茶色い髪、長い睫毛。そして、キラキラした好奇心いっぱいの目が、幼いながらも整った顔立ちを引き立てていた。


「あなたが……」


私はこの子を知っている。

数回、もっと幼い彼女を抱きかかえて、アーロンが鏡の前で指差してくれた。


『この中に妖精がいるんだよ』


真正面で話をしていると、何を言っているか、時々わかることがある。読唇術まではいかないけれど、知っている言葉を話していれば、なんとなく理解できた。


私のことを覚えていてくれたのね。


私はそれだけで嬉しかった。きっと肖像画と合わせて語ってくれた、他愛のない兄のおとぎ話を。


私はしゃがんでデボラに視線を合わせると、にっこりと微笑んだ。


「私はソフィアよ。あなたの言うように、妖精なの。でも、それは内緒ね。なんでかっていうと、人間になりにきたからよ」

「ソフィアはにんげんになりたいの?」

「そうなの。もう、妖精ではなくなりたいの」


デボラは首を傾げた。


「……わたくしにはわからないわ。ようせいのほうが、楽しそうな気がするわ。でも、きょうりょく、する」

「ありがとう」


私は微笑んだ。


デボラの言葉遣いが少し幼いのは、療養していたからだろう。社交界に出ればすぐに相応のレベルで話せるだろうし、それ以上にできる可能性もある。私のことなんてきっとすぐに追い抜くだろう。もしかしたら、鏡のこともばれて、リアンの呪いのこともばれて、果ては私の鏡の呪いのことまでわかってしまうかもしれない。


そうなったら、もうその時はデボラに任せてしまおう……ダメダメ、そんなこと。私が自分で解決しなきゃ。


「やくそく」


デボラは言うと、私の手をそっとつかんで小指を探した。私もそれに気がつき、小指を出すと、デボラの小指と絡めた。


「うん、約束ね」


私の言葉に、デボラはぱぁっと表情を明るくした。


「やくそくするの、久しぶりなの。兄様とはたくさんしたけど、いなくなってしまったし、……兄様とはしたことない」


おそらく最初の『兄様』はアーロンで、次の『兄様』はリアンだろう。リアンはどこまでいっても遠慮がちなようだ。三人で『約束』すれば良かったのに。いくらでも。


「そっか。約束好きなの?」

「うん、好き」

「そしたら、私とたくさんしようか。ノアもきっと、してくれるよ」

「そうなの?」


デボラがノアに視線を向けた。椅子に座ったままのノアが、にこりと頷く。しかし、デボラの表情は暗かった。


「どうしたの?」

「兄様は……やくそくしたのに、帰ってこなかったから……でも……また兄様とやくそくしたい」

「ノアにお兄さんになってもらう?」

「ううん。デボラ……わたくしには兄様がいるもの。兄様と同じくらい大好きな兄様が……」


私はノアと顔を見合わせた。リアンの話とずいぶん違うんだけど?


「わたくしね、大事な人がたくさんいなくなっちゃったの。すごく辛かったの……でも、泣いててもダメだって、わかったから……」

「まぁ」

「あんまりお話ししたことなかったけど、兄様のこと、好きだって思い出したの。兄様も兄様のこと大好きだったもの」


名前つけて、と言いたかったけれど、それも難しい。つまりデボラは悲しみに暮れてここにいる間に、リアンのことを好きだと思い出し、アーロンもリアンが大好きだったなと思い出したわけだ。


なるほどなるほど。


「でも、わたくしが兄様と仲良くなったら、兄様を忘れてしまう? そんなこと、絶対嫌なの。とっても怖い……そんなわたくしのこと、きっと、兄様も嫌いになっちゃう……」


リアンと仲良くなったらアーロンのことを忘れそうで怖い、そんなデボラをリアンは嫌いになる、とデボラは言いたいらしい。


「そっか。でも、本当にそうかな? 椅子に座って、お菓子を食べながら、ノアとも一緒に考えてみようか」

「いいの?」

「もちろん! いくらでも付き合うよ。私たちノアのお休みをしに来たんだけど、でも、デボラにも会いに来たんだから」


怖がらずに、素直に好きと言っていいのに。でもきっと、拒否されるのが怖いんだわ。失うのも。


でも大丈夫。リアンもデボラのことが大好きなんだから。


私とノアは、それを伝えればいいだけ。


これはもしかしたら、すごく簡単に、解放されちゃうかもしれないわ。


まぁ、アンソニーの予想が当たっていればの話だけれど。




デボラ初登場。

もう少し会話したかったんだけど、うまくまとめられなかった……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ