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鏡の中  作者: 霞合 りの
第六章
50/154

50 案の定

寝込んでいた。


もうこれで五度目だ。いい加減、自分でもうんざりするし、デイジーも呆れているのがわかる。


「何かお食事でもいたしますか?」


デイジーが何度目かに私の顔を覗き込み、にこりと笑った。私はようやく声を出した。


「……そうね」


私はデイジーの心配そうな瞳に慰められながら、再び目を閉じた。それでもデイジーは優しい。嬉しい。


そして、ぼんやりと思い起こした。ここ数日のことを。


具合が悪いまま、お見合いに行って帰ってきた私は、結局、その晩は、寝込んでしまった。


そして十数日が経った今日には、だいたい諦めを感じてきた。帰ってきてからわかった信じがたい事実を、私は今でも納得できない。でも、せざるをえないと、嫌々ながら理解するようになった。


鏡が言っていたことを箇条書きでまとめてみよう。


一、事もあろうに、私は鏡と話せる。

二、こうして鏡から出てきても、鏡と魔力が繋がっている。

三、私は鏡を体現しており、”願った者”の願いを叶える存在になってしまった。

四、些細な願いや望みも叶えないと具合が悪くなり、寝込むこともある。

五、一番の望みを叶えないと、一生続きかねない。

六、”願った者”とはリアンである。


それも全て、私が長いこと鏡の中にいて、みんなが大事にしていてくれたから。


以上。


嬉しいやら悲しいやらで、感情の整理はつかないが、それより困ったのが、リアンの願い事がわからないことだ。


私が彼の前に姿をあらわすことだけじゃなかった。

そして、私が幸せになることでもなく、楽しく生きることでもない。

リアンのメイドになることでも、親代わりになることでも、独り立ちすることでもない。


一体なんだろう?


私には本心は教えてくれないかもしれない。


でも、私は鏡。


リアンの気持ちをそのまま反映し、リアンに返さないと、”鏡”としての機能を果たせず、故障、つまり具合が悪くなる。


だから、リアンに逆らえない。


『願いが叶うまで、彼の望みには逆らうのは大変な魔力と体力の消費を伴うだろう』


鏡の言葉を思い出しては反芻する。


「どういうことよ……」


つぶやきながら、私は鏡との話の続きを思い出していた。


☆ ☆ ☆


鏡は言った。


『本心を探るのは難しいことだ。隠す場合もあれば、自分でわかっていない場合もある。願いを叶えるものは、それを引き出してやらねばならない』


「そんな高度なことを」


『できないならば、一生、願いを聞き通すまでだ』


「それは……嫌だというか……困ります。困るったら困る。私はリアンを助けたいもの。何かあった時に、リアンを守れなかったら……」


『どういう意味だ』


「リアンが私に逃げろと言ったら、本心なら、私は逆らえないということでしょう? でも私は、逆らいたいの。リアンを助けたいの!」


例えば命を狙われたり。泥棒に襲われたり。火事の被害にあったりした時に。私はきっと、リアンを助けられるはずなのだ。この”鏡”の力がなければ。


『知らぬ。決まりは決まりだ』


「ひどいわ。リアンに恩返しを……したいのに……」


私は猛然と抗議をしたかったが、その前に、疲れと頭痛に負けて、気絶するように眠り込んだのだった。


翌日、リアンが青い顔で私の顔を覗き込んでいたのも、悪いなとは思ったけれど、リアンの”お願い”を断ってみた。


「お昼をご一緒しませんか」


たったそれだけの言葉を、断るのがこんなにしんどいなんて思わなかった。医者の見立てでは、食事もとれて、私は元気だった。リアンもそれを知っていて、実際、一緒に食べたかったのだと思う。きっと見合いの話も聞きたかっただろう。


それでも私は、具合が悪いからと断った。……そしてさらに具合が悪くなった。


これはきっと、リアンが必要以上に元気のない私を心配していて、元気な私の姿を見たいだけ。そう思うことにして、私は庭に出られるようになるまで回復すると、今度は次のリアンの誘いを断ってみた。


「気分転換に、僕と庭を散歩しませんか」


一人で考え事をしたいと思っていたのも事実だけれど、リアンとの散歩くらい、わけはなかった。今までなら。でも、やっぱり鏡のことを一人で考えたいと自分を納得させ、木漏れ日を窓から眺めていたいの、と断った。……頭痛が起きて、少し寝込んだ。


そんなことを繰り返した。


今まで、何も考えずに了解していたけれど、それは私の意志だけではなく、本能的に私が感知している、私の呪いにもあるのだと思うと、すごく複雑だった。かといって、リアン本人に向かって、本当の望みは何? などと、聞けるはずもなかった。


もちろん、具合が悪くなるのはリアンには内緒だ。私はさらに考えた。断る内容によって、もしくはリアンの希望度によって、症状の重さが変わってくるのではないだろうか。それとも、私もしてみたいと思うのに断るからいけないの?


私にとって、嫌なことを頼まれるわけでもない。本当に、些細なことだらけ。こんな状態で、リアンの願いに関するヒントが出てくるとは限らないけど、やってみて損はないはず。


でもその後、惨敗だった。断っては倒れ、結局、リアンに見つかってしまった。実際はブルータスにわかってしまったのだけれど、それまで気づかれなかったのは、私が倒れるのはリアンと別れてからだったからだ。多分、今日倒れたのも、リアンにわかってしまうだろう。


結局、リアンの願いはわからないけれど、ブルータスは優秀な従者だということは改めてよくわかった。嫌になってくる。


ただ、少しだけいいことは、ノアを理由にすると少し軽くなるということだ。でもノアの話し相手になるのは当たり前のことだし、私の今の生活の、自由時間のほとんどを占めている。リアンの誘いを断るために使うのには気がひけるし、あまり意味をなさないし、具合が悪いままノアに会わないとならなくなるので、総じていいものではなかった。


リアンは私に何を叶えて欲しいと思っているんだろう?


ああ、知りたい。


でも絶対に教えてくれない気がする。だって時々秘密主義なんだもの。


久しぶりですが、よろしくお願いいたします。


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