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鏡の中  作者: 霞合 りの
第五章
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49 副作用

家に帰ると、急に力が抜けた。


私は随分と、頭痛と胃痛を我慢していたらしい。緊張の糸がほぐれたようで、部屋に入ったところで、私はめまいを起こし、ベッドの上に倒れ込んでしまったのだ。デイジーが何か言ったが何も聞こえない。


体が重くて頭も痛い。気持ち悪い。熱っぽい。


慌ててデイジーが部屋を出て行くと、なぜだか声がした。


『呪いの副作用だ』


私はハッとしてベッドから顔を上げると、鏡を見た。合わせる目など持っていないのに、鏡と目が合ったようで、余計に気分が悪くなる。


「・・・何か言った?」


『副作用だ』


うわぁ。本当に鏡が話している。


「副作用?」


私が鏡の言葉を復唱したところで、デイジーとヘンリーが入ってきた。


『呪いだ』


初めて鏡の言葉を聞いたヘンリーが青い顔をした。よかった、聞こえてたのは私だけじゃない。でも私はそんなことに構っていられなかった。


「呪いって・・・誰の? ノアの? 図書館司書の?」


『お前をここへ戻した者』


「リアン?」


リアンは私を戻しただけで、むしろ呪われているはずなんだけど?


『正確には、お前は、お前を望んだ者に呪われることになっている。つまり、そいつの望みが、お前への呪いになる。願いを叶えた者の願いを叶えないことには、お前の呪いは解けぬ』


何を言っているのか、さっぱりわからない。願いを叶えた者の願い? 欲は尽きないってこと? 呪いって何? 私、とっくに呪われてるんですけど?


「どういうこと?」


『お前が鏡だということだ』


「違うわよ」


私はすぐに否定したが、鏡の言い分は、どうにも間違っていない気がした。言葉の意味はわからなくても、感覚的に意味がわかってしまう。鏡の言いたいこと・・・・・・・・の意味が。


『お前は私の影響を受けて、つながっている。魔力がお前に流れているのだ。お前は、その影響で、願いを叶える存在になったのだ』


いつの間に・・・って、この百年の間ですね。なんてこと・・・


『願いをかけてもいないのに、私の声が聞こえるのがその証拠だ。お前は私の中に長いこといて、結果的に私の魔力が高まるように作用した。そして、私の影響も受けた。だから私の声が聞こえるのだろう。そしてお前の影響で、周りの者にも聞こえている。思ったよりも影響しているな』


私が振り向くと、デイジーとヘンリーが反対側の壁で固まっている。


「ごめん・・・」


私が謝ると、二人は思い切り首を横に振る。鏡は話し続けた。


『鏡は相手の考えを反映するもの。相手の望むように動くのがお前の仕事。そして、望みに反することをした時、相手の不快さがお前に反映される。その副作用で、お前は・・・多少・・・調子が悪くなるということだ』


「多少?」


この気持ち悪さは多少って表現では足りないわ。ひどいじゃない。


だが、今の鏡の説明でよくわかった。ドウェインとの見合いに張り切りすぎたわけではなかった。そのせいで判断が鈍っていたとか、落ち着いて対応できてなかったこともなさそう。これならきっと、話を聞いてなかったということもないだろう。


私はほっとしたと同時に、意味がわからなかった。


「なら・・・リアンの望みは・・・叶っているじゃない」


『ほう?』


「私が鏡から出てきてここにいること・・・じゃ、ないってことね」


私は軽く頭を押さえた。


よく考えよう。リアンは鏡に願いをかけて、呪われている。彼が私に幸せになって欲しいと思うなら、リアンには幸せになる呪いがかかることになる。そして、私がノアが幸せになるように願いをかけているから、私は幸せになるわけだから、リアンの願いは叶っている。


なんだかこんがらがってきたけれど、叶っていないということはつまり、リアンの本当の願いは私が幸せになることではないということだ。


・・・少し残念だけど、まぁ、それくらいはよくわかる。確かに願ってはいても、それが一番の願いになるわけではないのだろう。彼は私の希望を叶えると宣言しているけれど・・・それはきっと本心なのだろうが、また別の本心があるのも人間だ。


それでは一体、リアンは私にどうしてほしいのかしら?


私の希望を叶えてくれると言ったけれど、それが彼の望みなわけじゃない。それなら、私がしたいことに反対するはずがないもの。


というか、なんで反対したんだろう? 


私は思いを巡らせたが、さっぱりわからない。そもそも頭が痛すぎるし、具合が悪すぎる。


『願いが叶うまで、彼の望みに逆らうのは大変な魔力と体力の消費を伴うだろう』


鏡の言葉に納得した。


「なるほど。元気でいたかったら、ずっとリアンに逆らえないってことなのね?」


そして結論を出した。・・・やっぱり、私が兄や叔父かれらの代わりだから、離れてしまうのは嫌なんだろう。少しでもその可能性を減らしたいのだ。心配性すぎる。


私はリアンを安心させてはいないらしい。まだまだ。


私はベッドに横になりながら、くらくらする頭を押さえた。


なんてことだろう。


家のことだってノアのことだって、まだ落ち着いていないのに、その上、リアンの願い事ですって?


鏡の中にいたせいで、私はリアンの言葉に逆らえないようになってしまったなんて。


リアンはそんなこと、きっと望んではいないのに。


だって、私に幸せになってほしいという言葉も、それは本心だと感じられるから。



第五章、終了です。


第六章は年明けになりそうです。


よろしかったらまたお付き合いください!



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