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鏡の中  作者: 霞合 りの
第五章
47/154

47 本当の目的は

ノアは、屋敷の準備が整うと、すぐに家に戻ってきて、静養に入った。私は部屋への見舞いには何度も行き、少しずつだが仲良くなってきていた。


リズに似た私と、デイヴィッドに似たノア。

傷の舐め合いのようで滑稽だが、私たちにとって、充分に慰められる時間だった。


そんな折、イーズデール外務大臣から手紙が来た。


「まぁ」


私の驚きの言葉に、デイジーが首を傾げた。


「どうなさったのですか?」

「見合いよ」

「み・・・見合い?」


バーニー・イーズデールは、自身の長男と見合いをしてくれというのだ。確かに、バーニーは私と接近を試みていた。私とダンスを踊ったし、ありがたくない忠告もしてくれたし、迷惑な提案をされもした。でも、縁続きになりたいと思っている態度ではなかった。ましてや、彼の大事な跡取り息子だ。


これ、お見合いなの? 本当に? ただのいびりじゃない?


何度も何度もその文面を読み、私は考えて、結論を出した。


うん。多分これ、本当は見合いの話じゃないわ。


「ヘンリー、聞きたいことがあるのだけれど」


ヘンリーが顔を上げた。


「なんでございましょう?」

「人を雇うのに、どれくらい時間がかかるの」

「どの程度の人材を何人雇うかで決まりますが」

「用心棒みたいな人と、見た目のちょっと良い人たちと、口が固くて信頼できる人を、求められた人数分だけ・・・十人くらいかしら」


私の言葉に、ヘンリーは少し考え、答えを出した。


「それですと、少し時間がかかります」

「なら、口が固くて信頼できれば、誰でもいいわ」

「それならば、十日もあればあてがなくはないですが」

「ありがとう。そんなに早くはないと思うわ」


私が満足して頷くと、ヘンリーは意を決したように私を見た。


「尋ねてもよろしいでしょうか」

「どうぞ」

「これはどういったことでしょうか」


私はにっこりと笑い、手元の手紙をひらひらとなびかせた。


「外務大臣は私と息子さんとの見合いをご所望なの」


ヘンリーは目をパチクリとさせ、息を吐いた。


「ご・・・ご日程は」

「明後日よ」

「お受けなさるおつもりで?」

「ええ、もちろん。これはただの見合いじゃないと思うの。大臣は義理とはいえ、私を自分の娘になんてしたくはないと思うから」


すると、ヘンリーは困ったような顔をした。


「そんなことはないのでは」

「わかるわ。だって、あの方、私のことを政治的道具としか思っていないの。アンソニー殿下あたりと結婚しろと言われたし、私が”ただの貴族の娘”になることは断じて許せないのよ。たとえご自分の息子でも、彼に特筆すべき理由がなければ”ただの貴族の嫁”よ、何にもないわ」


ヘンリーは断固とした口調で私に反論した。


「ですが優秀な方ですよ?」

「でも、それだけよ。私と前世から約束されていたとか、そうね、何か呪われているとか? そういうのがない限り、受けが悪いと思うの。私は、国外の方には、神秘さや奇跡が私の売りのようだから」

「・・・そうでしたか」

「そうなの。彼にとって、私は商品だから、その価値が下がるようなことしないわ。私の価値は神秘性でもあるのだから。というわけでね、多分、仕事の話をしてくると思うわ。夏離宮の話はしたわね」

「はい」


しっかりと頷いたヘンリーに、私も頷いた。


「そこの具体的な運営について、話をされると思うの。だから、こちらはこちらで話をまとめておきましょう。国が主導だけれど、鍵はピアニー家が握る、そうしておきたいわ。あなたに交渉権を渡したいけど、今回でできるかしら? でもそうやって運営が決まれば、あなた達使用人だけでやっていけるでしょう。これから先も」

「はい、ソフィア様」

「だから、目一杯おめかしして、気合い入れて見合いに来たって感じにしないとね! 周囲にアピールだわ!」


私が立ち上がって、ルンルンとステップを踏み始めると、ヘンリーは困ったように眉をひそめた。


「・・・リアン様になんと申し上げればよろしいのでしょう」

「内緒にしておいて。知られたら、正直に見合いと言うしかないけれど」

「ですが、・・・お引止めなさるかもしれませんし・・・」


私は言いかけるヘンリーにストップと手で制し、ゆっくり首を横に振った。


「リアンだって、別に人に会うだけなんだから、そこまで気にしないと思うけど、引き止められたってなんだって行くわよ。だって家の交渉ごとだもの。秘密裏にやらなければならないから、お見合いなんてすっごくいい隠れ蓑よね。よく考えたわ、さすがあの部屋で多くの密談を整えてきただけあるわよね!」


私は嬉々として部屋をくるくると回った。


私がノアの手助けをできる第一歩だ。


「ノアにも知られないでね?」


私が言うと、ヘンリーは恭しく頭を下げた。何を思っているかはわからないけど。



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