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鏡の中  作者: 霞合 りの
第五章
46/154

46 信頼できる友人・・・?

「キース様、どうもありがとうございます」


私が自室に足を踏み入れ、礼を言うと、キースは扉の前でビシッと背筋を伸ばし、敬礼をした。


「たいしたことはありません、ソフィア様。妖精のようなあなたのお手に触れることができるのは名誉なことです。許していただき、ありがとうございました」

「・・・踊った時に触れているではありませんか」


「舞踏会と日常じゃ、全く違いますよ。それでどうですか。お加減の方は。だいぶ顔色は良くなったようですが」

「ええ、かなり良くなった気がいたします。送り届けていただいて、感謝いたしますわ」


幸い、楽になったので、部屋に戻る必要はなくなった気がする。でも大事をとってこのまま横になろう。


なんだけど。

でも。


私、キースに部屋の場所を伝えたかしら?


デイジーだって慌てていて、私たちの後ろからついてきただけだったのに。アンソニーは知らなかったのだし、普通は知らないはずだ。それなのに、緊急事態とはいえ、あっさり来てしまうなんて、ちょっとツメが甘いんじゃないのかしら・・・


私は思いながら、その話をしようかと迷っていると、突然リアンが現れた。


「まぁ、リアン。どうしたの、そんなに息を切らして」

「・・・追いかけて、きたんです。どこへ、消えてしまったかと、思い、まして」


「俺は何もしてないよ。気分が悪くなったから部屋へ送っただけだし、部屋にも入ってないよ」

「それは・・・信じている」

「じゃ、どうしたの?」

「心配だったんですよ・・・信じていても、あなたの方はわからない」

「・・・はぁ、・・・?」


信じていてもわからないとは、何を信じているのかわからないということ? それとも、わからないけど信じてる? あ、私のことは信じてないってこと? まぁ、いつ消えるかわからないし、呪われてるし、存在自体が割とデタラメな気もするし、確かに信用ならないけれど。でも何を?


私がはっとしたところで、リアンは息を整えて先を続けた。


「アンソニーのように、キースにも心をお許しになったことはわかっています」

「それは・・・そうなの?」


私が思わずキースに向くと、キースは肩をすくめた。アンソニーにも心を許した覚えはないのだけど。


「俺に聞かれても困りますよ」


私はリアンに向き直った。


「でもリアン、それは、リアンの友達で、あなたが信頼している相手だからよ。そうじゃなければ、知り合いになりたいとも思わないわ」

「でもあなたが選ぶのは僕ではないでしょう?」

「選ぶ?」

「それに、・・・まだ早すぎます」

「ええっと、何を選ぶのかわからないけど、今日のお茶菓子だったら、タルトにしてもらったわ。タルトかクッキーのどちらがいいかと聞かれたから、タルトを・・・選んだの。クッキーの方が良かった?」


私が首をかしげると、リアンが深く息をついて肩を落とした。


「いいえ、・・・タルトもさぞかし美味しいでしょうね」

「だったら、着替えていらっしゃいよ。お茶にしましょう?」


私はリアンとキースの腕を取った。


するとキースは私の手をそっとはずし、その手の甲にキスを落とし、手を離した。


「お二人でどうぞ」


あらまぁ、なんてスマートな動きかしら。


「まぁ、キース様。あなたも同席なさってくださいな。リアンにお話があるのでしょう?」

「すぐに終わります。お茶の準備にお時間がかかるでしょうから、その間に話を済ませておきますよ。着替えている間に終わるようなことです」


「わかりましたわ。しつこいのもよくないでしょうから、今日はお引止めはいたしません。ですが、今度、是非いらしてくださいませね」

「ええ、・・・リアンが許してくれるなら、是非」


その言葉に、私はリアンをちらりと見た。リアンが、ウッと詰まるように身を引いた。


「・・・僕の許可なんているんでしょうか?」

「あら。誰でも勝手に呼んでいいの?」

「誰でもは困ります」

「そうでしょ。突然アンソニー殿下を呼んだりしても、びっくりでしょ」

「呼びたいんですか?」

「まさか。むしろ会いたくないわ」


私が言うと、キースはやれやれと言いたげに肩を落とした。


「名誉なことに私を呼んでいただけるなら、リアンに睨まれたくはありませんから、リアンに許可を得てからにしてくださいね」

「キース様なら、いつだって大丈夫でしょう。リアンの友達なのだし・・・きっと、よく遊びに来てらっしゃるのでしょう?」


「全く来ない訳ではありませんが・・・。公爵邸には行かせていだたきますけど、こちらにはあまり来たことがないですね」

「そうなの? でもここでのお茶会はよくいらしてたでしょう」

「はい、それはもう、もちろんですよ。リアンを訪ねて遊びに来たことはないのです」

「そうですの。わかりましたわ」


わかる、わかるわ・・・キースはまたあの情事の部屋作ってくれないかなって思ってる。だって顔に書いてあるもの。


私の部屋はもう使えないけれど、他にも空いてる客室はたくさんあるんだし? 部屋だけならいくらでも? またお茶会があればどこぞの未亡人とお約束をして・・・


「でも、しばらくお茶会はしませんのよ。ノアが家に帰って来れば、するかもしれませんけど」


私がキースの希望的妄想を断ち切るように言うと、キースはがっかりした顔になった。


「そう・・・ですか・・・」

「キース様は私がお誘いするより、家をあげてのお茶会の方が嬉しいご様子ね。それまでお呼びしない方がよろしいかしら? お友達になれたかと思いましたのに、残念なことですわ」


「え? いえいえ、そんなことはありませんよ? リアンの大事な方ですから、ええ、もちろん、お友達に思っていただけるなんて光栄です!」


キースが慌ててリアンを見た。リアンの表情はつかめず、私をじっと見ている。


・・・失言したかしら。それとも、何か変だった?


「キースとお友達になってはいけなかったかしら」

「そんなことはありませんよ。キースは信頼できる人間です」


私はキースをじっと見た。キースが困ったように手を振る。


「そう? そうは見えないけど」

「なら何で友達に?」

「別に信用できるから友達になるわけじゃないでしょう?」

「そうですが・・・」

「逆に、信用ならないからかもしれないわよ?」


私が言うと、キースは情けない声で訴えた。


「俺がですか?」

「私のしたいことを妨害するかもしれないし?」


部屋の使い方とか夏離宮への移行とか。


キースが三男だからって甘くみてはいけない。彼は、継承権は低いとはいえ王族の一員であるリアンと親しくしているし、そこからすれば、彼の家はそれ相応の立場だと考えられる。本人の職だってかなり良さそうだ。


外務大臣の提案に反対できるかもしれず、反対されたらうまくいかないかもしれない。逆に、正式に私の部屋を使えるように指名するかもしれないし・・・今日の様子からするとあまり考えられないけど。


私の冗談に、リアンは硬い表情で即答した。


「ありえませんよ。その前に僕がキースを阻止しますから。僕がソフィアの希望を全て叶えますから、遠慮なくおっしゃってくださいね。呼び出したのですから、当然です」


真面目だなぁ。そんなに責任を感じなくたっていいのに。


「それは無理というものよ」


私が笑うと、リアンは一瞬ムッとしたように私を見たが、すぐに私につられるように微笑んだ。


私の希望を全て叶えることなんて、できやしない。


誰であっても。


たとえ、鏡であっても。


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