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鏡の中  作者: 霞合 りの
第四章
32/154

32 リアンのお迎え

舞踏会、当日、続きです。


コンコン、と扉を叩く音がして、私の部屋にリアンが顔を出した。


「遅くなりまして、申し訳ございません、ソフィア。こちらにいらっしゃいますか」

「遅いわよ、リアン」


部屋に足を踏み入れた途端、リアンはぽかんと口を開けた。


「これは・・・その、とても・・・お美しい」


私は肩をすくめた。


姿を見せたリアンは、王宮での礼服をバッチリと着込んでいた。目にも鮮やかな白のセミロングコートに金モールに金ボタン、そして胸元に止めてある勲章や役職のバッヂがキラキラと眩しい。なんかこう、全体的に眩しい。しばらく会っていないうちに、忘れていた。リアンはとても美丈夫なのだった。


ニコラスに似ているのに。

ニコラスに似ているから。


いいえ、この人は、違う人だ。

違う人なのだ。

そう。だから、似ているからといって、プロポーズなどされないだろう。

アンソニーと同様に。


私にとって、ニコラスのあれは若干のトラウマになっている。


ただ存在するだけでモテる男がいるのは知っていたし、自分だって目を奪われてはいたのだ。

なのに私ときたら、見目麗しい殿方にプロポーズされたのも気づかず、恨まれて、鏡の中に引き篭らされ。


むしろ、私がニコラスに惹かれていれば。


そんな風に思うほどに。



「なんだかとってつけたような言葉だけど、まぁ、いいわ。それなりに見えるなら、ヴェルヴェーヌとデイジーのおかげね。特に、ドレスを見立ててくれたヴェルヴェーヌに感謝して」


盛装した自分が少し恥ずかしく、私が一気に言うと、リアンはそれすらも可愛らしいと言いたげに頬を緩め礼をした。


「はい。そうすることにいたします」


何だか張り合いがないわね。私は思いながら、ふと思い出し、話題を変えた。


「そういえば昨日、ノアのところで会ったそうね」

「ええ」

「私は怖くて行けないから、・・・リアンが行ってくれてホッとしているの。頼りにならない”伝説”でごめんなさいね」

「そんなことはありませんよ。ノアのために頑張っておられるではありませんか。ソフィアが今日、舞踏会に出るのも、ノアのためなのですからね」


「そうね。生きる意味を与えてくれたリアンに感謝するわ」

「僕ですか? ノアではなく?」

「ノアのために生きて欲しいと言ってくれたのはあなたよ、リアン。それまで迷っていたけれど、あなたが言ってくれたおかげで、落ち着けたの。だから、とても感謝してる」

「そうですか。・・・僕が、呼び出す以外に、あなたのためにできることがあったのですね」

「もちろんよ。何もかも、リアンのおかげよ。このご恩は、一生をかけてでも返させていただくわ」


私が言うと、リアンはびくりとし、戸惑った顔をした。


「一生なんて、・・・そんなことは言わずに、自由に生きてください。あなたが元気で暮らすことが僕の望みなんですから」

「それでも、返させて。何しろ、リアンが嫌と言うまでは、私はそばにいると約束したんですから」


「・・・嫌になることなど、一生ありえませんが?」

「そんなこと分かるの?」

「あなたにお会いした時点で、予感は確信に変わったのですよ」

「それなら、あなたの目の届く範囲にいるまでよ。・・・メイドにでもなった方がいいかしら?」

「そんなことはさせられませんよ」

「あら。でも」


私が言いかけると、リアンは若干イラついたように言葉を遮った。


「そんなことより、今日は大丈夫なんですか? あなたはピアニー家の希望なんです。ノアが継げる状態になるまでの間、手出しはできないと、知らしめる大事な舞踏会なんですよ?」

「わかってるわよ。とにかく、今日はみんなに印象付けなければならないことは。綺麗なエリザベスに似た私、同じ血筋の私、ソフィアという私を。そして、ノアでなければ私が継ぐと、納得させればいいのよね?」


私が不服そうにそっぽを向けば、リアンはクスリと笑った。


「はい。お願いします」

「せいぜい頑張るわ」


リアンと話すうち、私は自然と落ち着いてきた。


うん、大丈夫。私はノアの代わりを務められる。


私は自分の侍女たちに振り向いた。


「それじゃ、行ってまいります、デイジー、ヴェルヴェーヌ。先に寝ていていいわよ」

「ありがとうございます。行ってらっしゃいませ」


居間を出ると姿を見せたヘンリーが忙しそうにしていたが、リアンを見るとあからさまに驚いた顔をした。


「リアン様? まだいらしたんですか? もう一時間も前からブルータスがやきもきしておりましたよ」

「ヘンリー!」


リアンの悲痛の叫びはなんのその、さっぱりわけがわからない、と言う顔でヘンリーは去っていった。おそらく、私の初めての舞踏会のため、手配することが多く、気が回らないのだろう。家族同然のリアンならなおさら。私がリアンの後ろにいることも気づかない様子だ。


「・・・ずいぶん前から来てたのね」


私がリアンの顔を見ると、私から顔をそらした。


「実は・・・その、・・・お迎えに行ったのですが、あまりにお綺麗で、息が止まりそうで・・・ちょっとすぐにはお声かけできませんでした」

「あらぁ・・・」


ずいぶんとピュアなことだわ・・・

こんなことで大丈夫かしら?


「リアン、そんなことではご令嬢とお知り合いになれても、お心を勝ち取れないわよ。私ごときの姿で息が止まりそうだなんて」


私が言うと、リアンはじっと私を見つめた。


「・・・なぁに?」

「いえ・・・」


言いながら私の頬を優しく撫で、耳飾りをいじった。そして私の額にかかる髪をすくい上げて結い上げた髪になじませると、ほぅ、と感嘆混じりのため息を漏らした。


「あなたはお美しいですよ、誰より」

「そんなこと言ってたら、結婚相手を逃してしまうわよ」


私がハラハラして言うと、リアンは諦めたようににこりと笑った。


「いいんです、僕は」




次回はついに舞踏会の会場へ。


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