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鏡の中  作者: 霞合 りの
第三章
30/154

30 デイジーの仕事

私はもたげた不安を払拭するように、肩をすくめた。


「大丈夫よ。出なければならないのなら、前向きに考えたいし、前の生活では舞踏会なんて出たことないんだもの、きらびやかな世界を楽しみにはしているわ」

「なら、良かったですわ」

「・・・リアン様に後で伝えてもらえるように・・・」

「・・・そうですわね、ヘンリーさんに・・・」

「聞こえてるわよ」


私が突っ込むと、二人、ひゃ、とびくりと身を縮ませる。私はため息をついた。


「わかったわ。ドレスを一つ、私に似合う赤で作って貰うことにする。リアンが気にいるかは、気にしないことにするわ」

「どうしてこだわりになるんですか?」

「リアンには、ちゃんと感謝とお礼を示さないとならないと思っているのよ。一番わかりやすい形でね」

「とても、よろしいと思いますわ」


デイジーが微笑む。


肯定され、なんとなく、少しだけ、気分が軽くなった。


「・・・私、明るい薔薇みたいな、きらめくダークレッドのドレスがいいな。優しくて、柔らかい色の」


すると、ヴェルヴェーヌが目を輝かせた。


「それにしましょう。ええ、とてもお似合いになると思いますわ! もちろんそうしましょう! そうと決まれば、早速、話しに行ってまいります!」


叫ぶと、部屋を出て行ってしまった。


「ジュニエーとヘンリーさんに伝えに行くのだと思います」


デイジーの言葉に、私は頷いた。


「ありがとう。ヴェルヴェーヌは衣装が好きなようだから、任せて大丈夫そうね。それならデイジー、お願いがあるの」

「なんでしょう?」


「リアンの話だと、舞踏会は半年後くらいに開催されるものを想定しているみたいだわ。それまでに、デイジーには、私が何をしていいのか、してはダメなのか、教えて欲しいの」

「なんのことです?」


デイジーが驚いた顔で私を見た。


「接触してはいけない人と、話してはならない話題・・・とか? お作法は知ってても、この家のことはリアンに話していないし、話すつもりもないから、リアンに聞くわけにいかないし。誰もリアンには聞いてこなかったみたいだけど、きっと気にはしてると思うの。あの部屋のこと。そして、それを私がどこまで知っているのか、知りたい人はいると思うの。そういう時、はぐらかしたり、やり過ごすのにコツが必要でしょ。アドバイスが欲しいの」


「・・・わかりました。もし、必要とあれば、ヘンリーさんにソフィア様のことをお伝えしても?」

「今まで言ってなかったの?」

「はい」

「だって、仕事でしょう?」


すると、デイジーはにっこりと笑った。


「一番はソフィア様の侍女の仕事です。伝えていいと言われていないのに、言うはずがありませんわ」

「そう・・・そうね。ありがとう。私、てっきり知られているかと思ってたわ。知らんふりをするのは得意そうだし」

「そうですね」


デイジーは笑った。


「ですが、とても信頼できる上司です。ソフィア様のことを相談してみます」

「・・・それでも、私に”秘密の仕事”の全貌を教えてもらえるようになるわけじゃ、ないわよね?」

「わかりません。ヘンリーさんがいいと言えば。ソフィア様は気にしておいでなのですね」

「ええ、もちろんよ。私はこの家の整理をする義務があるんだと思うの。何しろ、私が原因なようなものですからね」


そう。結局、元凶は私だ。自分で回収しないとならないだろう。


「ソフィア様は、ヘンリーさんの代わりに、私たちの上に立つことをお考えになったことがありますか?」

「え? どうかしら。最初はね、そのつもりであなたに話したの。そもそも、あなたがルイス様に認められてやってきたんだと思っていたんだもの。でも違ってたことを知った今では、そのつもりはないわ」


デイジーは困ったように笑った。


「ソフィア様・・・ソフィア様は、例えピアニー家のご当主とはお立場が違っても、私たちがお仕えする方です。そのお立場の方の手を煩わせたいとは思っておりません。ですので、もし、ソフィア様がお知りになりたくて、何らかの動きをしたいと思っておられるのなら、時間が必要です。もしくは、ソフィア様が関わりにならなければならないような、出来事が。私は、そうならないようにと願っておりますが」


デイジーの話には納得できる。私は素直に頷いて、話を進めた。


「・・・ソフィア様が舞踏会に出席なされて姿をご披露なさったら、おそらく、みなさんの認識が変わるでしょう。そして、ノア様がお目覚めになったら、ソフィア様を含め、みなさんの立場や状況が変わります。その時までに・・・私たちは策を練りながら、仕事を待たねばならないのです」

「私の舞踏会と、ノアの目覚め・・・なるほどね」


「はい。それまでは、私たちは策を練るのみです。下手に動くと、国王にも迷惑がかかってしまいますから。もともと、そのつもりはありません。そのつもりがあれば、早々に当主に伝えていたでしょう。あくまで、この仕事はピアニー家のためにあり、ピアニー家のため以外にはやらない仕事です。ことが大きくなりすぎて手に負えないとすれば、手放しても過去の亡霊に脅かされることはありません。所詮、”秘密”の仕事ですもの」


デイジーは軽く肩をすくめ、私の笑いを誘った。


「そう・・・言っておくとね、私の時代は、この家は十分の一にも満たないような、小さなお屋敷で、使用人も執事とメイド一人だけ、それでも大変だったから、私も掃除から何から、全部やってきたの。女王になるような教育を受けてきたわけじゃないのよ。だから、・・・あまり持ち上げないでね」


私が言うと、デイジーはかすかにはにかんだ。


「それでも、ソフィア様は誰よりも淑女であらせられますわ。お仕えすることができて、大変嬉しゅう存じます。それはヴェルヴェーヌも、ヘンリーさんも同じです。以前がどうであれ、お手をわずらわせたくないのです」


誉め殺し・・・!


私は諦めて両手を挙げた。


「わかったわ。でも私はね、あくまで、ノアが目覚める前に何もかも落ち着かせておきたいの。ひとまず、舞踏会までに、なんとか策を練りたいと思うのだけど」

「承りました。ソフィア様のお望みとあれば」

「ああ、リアンには絶対に知られないように」

「もちろんです」


デイジーは共犯者のようににっこりと笑顔になった。



次章、舞踏会へ向かいます。

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