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鏡の中  作者: 霞合 りの
第三章
26/154

26 ”仕事”についての見解は

「私は・・・ひどい侍女です」


気づいた時には、デイジーの頬は涙で濡れていた。


「ソフィア様が戻ってくる前は、エリザベス様の専属になりたくて頑張っていました。誰か、別の者がソフィア様の侍女になってほしいと。どうせ必要ないのだからと。なのに、戻ってきてみれば、私はそれを喜んでいたのです。エリザベス様がいなくても、ソフィア様がいらっしゃってよかったと、ソフィア様専属でよかったと、・・・思っているのです。・・・最低です」


「いいのよ。私も最低だから」


私はそっとデイジーの涙をハンカチで拭ってあげながら、静かに同調した。


「何がでしょう?」


「私はリアンに呼び出されて、戻って来ただけよ。鏡の中で見ていたほとんどの血縁者に会えなくて、何度、もっと早く呼んでくれなかったのかって思ったわ。でも、こういう状況でなければ、呼ばれなかったのよね。・・・それでも、私はここに戻ってこられて嬉しいの。もちろん、生きているリズたちに会いたかった。でももういないのであればそれは仕方なく、それでも私はここにいて、それが嬉しいのよ。そして、もしかしたら、そうなるとわかっていたなら、彼女たちの死を願ったかもしれない・・・ね、ひどいでしょう?」


「・・・そうですね。私たち、ひどいです」


デイジーがすすり泣きながら頷いた。


「そうよ。ひどい者同士、仲良くやっていくしかないわ」

「ありがとうございます、・・・ソフィア様」


慰めたわけではないけれど、デイジーの気持ちが軽くなればいい。私は笑顔を向けた。


「そうなのよ。だから、協力してもらえるかしら? ノアが目を覚ますまでに、私がやっておかなければならないこと、全て」


デイジーは真っ赤な目で私を見上げた。


「それは・・・何でしょうか?」

「まずは、私の部屋のスケジュール管理帳を見るところからかしら。もちろん、あるのよね?」

「あります、もちろんありますが・・・それは・・・」


デイジーは言葉を濁したが、私にとって大切なことだ。


「今回は急だったけれど・・・使えない時は代替の場所があるのでしょう。ピアニー家が代替わりする、喪に服している期間は、確かに使っていなかったし・・・予約はできたでしょう。ただ、名もなき使用人たちがいればいいのだから、きっと使いやすかったでしょうね。今のこの部屋に関して言えば、そう、あなたがね」


デイジーは黙っていたので、私はそのまま続けた。


「でも、私が戻ってきてしまったら、話は違うでしょう? 今までこの部屋を使うということで、目をつぶってくれていた人たちや、協力してくれていた人たちが、使えなくなったと知ったら? 過去の出来事を弱みとして握られたと勘違いしたら? せっかくノアが目覚めても、ピアニー家が何らかの理由で没落していては、意味のないことになってしまうわ。代替になるような何かが必要なんだけど・・・それはまた考えるとして、この部屋を永久に使えなくなったと知ったら、みんな困るかしら? 怒るかしら? 代わりになる場所は、あるのかしら?」


私の問いに、デイジーは視線を彷徨わせ、思い出しながら頷いた。


「ええ、・・・男性の密談は、高級娼館のあたりがメインですから、しばらくはそちらで全て手続きしております」


私は思わず笑った。


「ありきたりね」

「仕方がありません。そういうものですから」

「それじゃ、当面は大丈夫ね?」

「ええ。ソフィア様が戻ってらしたのをヘンリーさんが確認したのですから、もう、使えないことは伝えていると思います」


「それを確認しておいて。他の役割のことは、あなたは知らないのよね?」

「はい、知りません。他のお屋敷の使用人との間で、便宜を図るようなことはしていたようですが、詳しいことは」

「そう・・・私自身の”伝説”が関わっていなければ、それで成り立っていることなら関与しないけれど・・・でも、一度全て確認して、影響がないかどうか、調べる必要があるわね」


「・・・どうしても、確認なさりたいのですか?」

「ええ。私でもできることがあるかも知れないから。何しろ、生きている伝説ですからね。ノアのことを考えると、私がイレギュラーに戻ってきた影響を最小限にとどめておきたいでしょう」


私が肩を竦めながら言うと、デイジーは心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「それでしたら、せめて、リアン様にはご相談なさらないのですか。王宮務めですし、そういった政治ごとにはお詳しいのでは」


私は少し考えて、首を横に振った。


「やめた方がいいと思うわ。特にリアンは潔癖そうだもの。問答無用で部屋を変えると言いかねないし。でも、この部屋は、デイヴィッドが私のために作ってくれた部屋なのよね。ベランダからの景色も全て、あの子が選んでくれたものよ。だから、できるだけ、使っていたいの。戻ってきたばかりだし、まだ一度しか使っていないのよ!」


私が力説すると、デイジーは困ったように私を見た。


「・・・よろしいのですか」

「大丈夫。大丈夫よ、デイジー。この部屋の内緒の仕事は終わりなのでしょう? それなら、今までのことは永遠に私たちの秘密にしましょう。私は戻ってきてしまったから。あなたの代で、”ソフィアの侍女”はおしまい。この部屋の”仕事”もおしまい」

「はい。・・・はい・・・」


噛みしめるように何度も頷くデイジーの頭を、私は優しく撫でた。


「とにかく、いろいろやることができてしまったわ。整理し直すにしても、どうせしばらくこの家でパーティーなんてしないだろうし、時間はまだある。それに、私がいることがわかれば、きっとみんな、私が使っていることはわかるわよね? 良識のある方々だもの、様子見をしてくれるはず。その間に、何か策を考えましょう。ピアニー家が陥れられないように、味方を作らなければならないわ。あなたはその方達のことをよく知っているでしょう。きっと顔も知っていて、内密に話すこともできる。相談に乗ってね、デイジー」


私が言うと、デイジーは真剣な面持ちで頷いた。





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