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鏡の中  作者: 霞合 りの
第二十二章
151/154

151 もたらされた休暇

最終章です。


 リアンには、この嘘発見器のような、謎の予知の力は言わない。おそらく、ノアが自分で判断できるようになれば、消えていくはずだから。


そう決めたのに、リアンに気づかれるのに時間はかからなかった。


「考えてみれば当たり前だよね。僕が必要以上に、ソフィアを呼び出すんだもの。ソフィアはリアンの家にいるのに」


リアンを待つ間、ノアがしょんぼりとうなだれた。ノアは悪くないけれど、私たちは言うなれば運命共同体だ。少しくらい甘えたくなっても仕方ない。


「寂しいからだって言ってくれればいいじゃない」

「初めはそう言ってたんだよ。でも、お茶会に行くんじゃなくて、会議に誘ってるからね……仕事の取引先と会うのに、何で連れていく必要があるの? って、思うよね」

「まぁ、……そうよね。でも私が『お茶会より会議に行きたい』って言ったっていえば、騙されてくれないかなって思ったんだけど」


ノアはにっこりと笑った。生意気だった頃のデイヴィッドそっくり。本当に、弟みたい。


「無理だったよ。うちの仕事方針は知ってるもの。厳しいんだよ、私情を挟むことは少ないんだ。温情はあってもね」

「うー……」

「僕たちの会話、しっかりと調べられてたんだ。ヘンリーに」

「まぁ」

「後見人には報告しなきゃならないからね、当然だよ」

「あーぁ……どうしよう。リアンは怒るかしら?」


いいえ、怒ってるんだわ。そうよ、”どのくらい”怒るのかが重要ってこと。婚約破棄したりする? しないわよね? ……さすがに。


「怒ってないと思うよ。心配しているだけなんじゃないかな。それより、怒ってるのは、先にアンソニー殿下が気付いてしまったことだろうね」

「どうして?」


アンソニーが? 交流なんて何もしてないのに……


私が首をかしげると、ノアは肩をすくめた。


「王太子だもの、仕事上、国の経済にも詳しいし、リアンよりも客観的に見られるからじゃないかな。あの”呪いの鏡”をうちに見に来る……と見せかけて、調べてたみたい」


無駄に優秀な未来の国王は、ここでも能力を発揮したらしい。何でもかんでも解決しようとしなくたっていいのに。私がノアのために、いい取引を選んでることなんて、知らないで欲しかった。


だいたい、この力は誰にでも使えるものじゃない。呪いの名残なんだから。


「でもこの力は、ノアのためにしか働かないのよ」


ノアはうんうんと頷いた。


「でもね、それだから余計に気になるそうなんだよ。それに、誰にも知られちゃいけないって言われた。うちの没落を狙う人がいたら、ソフィアが狙われるだろう。僕じゃなくて」

「まぁ」

「それが一番嫌だって、アンソニー殿下はおっしゃってた。リアンが使い物にならなくなるから」


そうね、大事な側近だもの。私の心配だってして……るわよね? 別にしなくたっていいけど。


「一言余計ね」

「大事なことだよ。リアンに黙ってたことがいけないって」

「でも……」

「だからね、ソフィアがしっかりリアンに怒られるようにと、アンソニー殿下はリアンに休暇をくださったんだよ。婚約式と結婚式の準備をするようにって」


私は驚いて飛び跳ねそうになった。いろいろと。休暇って? 準備って?


「まだ早いわ」

「婚約式はすぐだよ。もう三ヶ月もないでしょう?」

「でも招待状も出し終わったし、ドレスも予定も決まったし、確認は終わってるわ」

「でもそのあとの結婚式はまだでしょう? しっかり決めてね」

「そうだけど……まだ、あなたの手伝いをしないとならないわ。あなたはまだ若すぎるもの」

「不本意ながら、そうなんだよね……本当は、早く任されたいけど。でも、前に相談したように、僕がソフィアの信頼に洗いするようになったら、その力も消えると思うんだ。だから、僕は早く仕事を覚えて、場数を踏んでいきたい。それまで、協力してもらうことになっちゃうのは仕方ないね」

「もちろんよ。いくらだってするわ。あなたの幸せが一番の願い事だもの」


するとノアは少し怯んだような顔をした。


「リアンの幸せを願ってくれる?」

「それは当然よ。準備だってちゃんとするわ。でも、リアンに怒られる休暇って?」


そりゃ、”秘密”はないね、と確認はされたけど、あの時は嘘ではなかったもの。


「僕もしっかり言われたからね。ソフィアの秘密は規格外だから、せめて、僕からでもリアンには言うようにして欲しいって、アンソニー殿下から」

「アンソニー様が……」


私の秘密は規格外だと……


「秘密じゃないし、規格外じゃないし」

「あんなに懇願されるなら、今度から僕はリアンに言うよ……王太子殿下に悩ましいぐらいに懇願された上に、頭を下げられるなんて、考えられる? しかも、人目につくところで。僕なんかのために」

「夏離宮があるでしょう。遅かれ早かれ、アンソニー様はあなたに頭をさげていたんじゃないかしら?」

「理由は、一つでも少ない方がいいんだよ。言ってたでしょう、ソフィアも。僕たちピアニー家は政治には無関係で、よって、未成年の後見人以外では、後ろ盾やつながりは極力持たないんだって。それに僕はまだ、後見人のいる未成年だよ」

「あなたたち、友達じゃないの」

「それとこれとは別だよ。わかるでしょう?」


私は舞踏会でのアンソニーとのダンスや、チャーリーのことを思い出した。


「……そうね。チャーリー様ならともかく、アンソニー様は策を練ってくるから怖いわね。あなただってリアンに言うって決めちゃったんだもの。家族の秘密だったのに」

「もうすぐリアンがあなたの一番の家族になるんだから、そっちが先だよ? 間違えないでね」

「でもあなたも家族は家族でしょう?」

「そうだけど……リアンに嫉妬されちゃ、敵わないよ。僕、リアンも好きだもの」

「嫉妬なんて」


その時、部屋のドアが開いた。


「ソフィア?」

「リアン」


私が名を呼ぶ前に、リアンはスタスタと居間へ入り、私の手を取った。丁寧な仕草に胸が踊る……が、これはどのくらい怒っているのだろう? 頭ごなしに怒鳴らないくらいに怒ってる、もしくは、呆れるくらい怒ってる、もしくはこの後すぐに激昂する……


「アンソニーが休暇をくれたんだ。なんでだろう?」


首をひねるリアンを前に、私とノアは顔を見合わせた。これだけ考えたのに、当のリアンはこれだ。私はノアとまずは安堵で肩を落とし、リアンを見上げた。


「……どこか、遊びに行く?」


私が言うと、リアンは嬉しそうに私を自分に引き寄せた。


「行きたいところはある?」

「うーん……久しぶりに遠乗りに行きましょうか。私、ちょっとだけ馬に乗れるようになったのよ」

「それもいいけど……」

「なぁに?」

「結婚式を挙げる教会を探そう」


私は驚いて目を瞬かせた。


「どうして?」

「わかってる、遅いって言いたいんだろう? でも、なかなか決められなくて」


でも、来年より先でしょう? 具体的に話していた気がするけど、まだだからと思ってちゃんと聞いてなかったわ。私はノアに視線を向けた。そういうものなの?


「ノアもそう思う?」

「そうだね……遅いと思うよ。ソフィアが勉強で忙しいから、リアンが選ぶって聞いてたから、とっくに決まっていると思ってた」

「候補は絞ったよ。全部押さえてある。もう一度回って決めようと思ってたんだ。でも、その中からソフィアが選ぶなら、そんなに難しくないだろう? 時間ができたんだから。どう?」


リアンが魅力的に微笑む。私は頷いた。どうしてそんなに急ぐのかと、聞いても仕方がない。


「それなら、行きたいわ。あなたが選んだんだもの、きっと素敵なところばかりなんでしょうね。なかなか選べないかもしれないわ」


すると、リアンは笑って言った。


「だといいけど。すぐに準備をして、出かけようか?」

「今から?」

「うん」


怒られるのはどうなったのかしら? 私は思ったけれど、聞くこともできなかった。結局、リアンは怒ってるのかしら、怒ってないのかしら?


「馬車の中で、聞かせてもらうよ。例えば、……ノアの仕事についていった理由なんかを」

「まぁ」


やっぱり怒ってるんじゃない? 誰よ、安堵したの?


振り向くと、ノアがにこやかに手を振ってくる。


急に行きたくなくなってきた。でも仕方ない、逃れられないことは私だってわかってる。だってこの休暇は、確かに、私がリアンに釈明をする時間なんだもの。






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