表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡の中  作者: 霞合 りの
第二十一章
146/154

146 挨拶にはとても良い日

ノアは私の言葉に、肩をすくめた。


「面倒だよね、貴族って」

「ピアニー家は無縁に過ごしましょ。商人としても名が通っているんだし、経済だけにしておいたほうがいいわ」

「夏離宮を提案して、その人材を独占して請け負っていても?」


からかうようなノアの言葉に、私は澄まして頷いた。


「そうよ。二兎追うもの一兎も得ず、っていうくらいなんだから、うまくいかなくなるわよ。商売も権力も、なんて、無理だわ」


すると、ノアはあっさりと頷いた。


「まぁ、そうだよね。そのつもりもないけど、うちは権力に手を出すような家系じゃない。だって、そもそもソフィアがいるような家系だもの」


ノアはからかうように言って、私を見た。『ソフィアがいる』というのは、言わずもがな、王妃になりたいなど微塵も思わず、プロポーズさえ理解しなかった権力に無関心な先祖という意味だ。


「デイヴィッド様も賢王の友人という位置を崩さず、一度だって政治に介入したことがなかった。それがあって、今があるんだ」

「詳しいのね」

「これでも勉強したから。ちょっと早かったし、父上から直接学びたいこともたくさんあったけど……こればかりは仕方ないことだと、諦めるしかないんだよね。きっと、デイヴィッド様のように」

「弟のことはもう良いでしょ」


私が再び膨れると、目を輝かしていたノアは残念そうにうつむいた。


「伝説なのに」

「姉弟で伝説とか勘弁してほしいわ。だいたい、伝説は王家にまつわる話だけで充分でしょう。ニコラスだけでお腹いっぱいになっても良いはずよ」

「僕たちはね、物語に飢えてるんだよ。ロマンチストな人も結構多いものだから。チャーリー殿下も、”伝説の令嬢”ソフィアに一目惚れしてたじゃない」


う……それを言われるとなんとも言えない。


「きっと家族以外に会った人は、私が初めてだったのよ」

「そんなはずがないけど……でも、まぁ、そうかもね。今ではコレット様がお気に入りみたいだし。順調に行けば、婚約するんじゃないかなって言われてる」

「まぁ! それは良かったわ。喧嘩ばかりしていたし、もうちょっとかかると思ったけど、そうでもないのね?」


デボラからは今でもケンカばかりと聞いていたけれど……ケンカするほど仲がいいという関係かしら? コレットのあの美貌はもっと磨かれそうだし、なんなら今、会う度に美しさが増す頃だろう。となれば、チャーリーがそれに屈するだろうと容易に考えつく。


私は想像しながら、何度もうなずいた。


何より、チャーリーは聡明なコレットに反発しても、ちゃんと意見を聞いて、検討できる人物だ。ノアが知ってるということは、すでに周囲から縁組を固められ始めているのだろうが、コレットもちゃんとわかっているだろう。自分の力を一番に発揮できるのは、チャーリーのそばだと。


勉強嫌いで、一目惚れしてすぐに告白してくるほど、迂闊な人だったけど。でもコレットがそばにいれば、将来の立派な王弟として活躍できそうで、これは期待できる。


ノアは笑いながら楽しそうにうなずいた。


「もちろん、喧嘩ばっかりだよ! 僕もこないだお会いしたけど、素晴らしい言い合いだったよ」

「素晴らしい……?」

「うん! あれだけの反応ができるのがコレット様しかいないね。チャーリー殿下も、論破されないようにと、とてもよく勉強するようになったみたい。国王陛下もとても喜んでるそうだよ」

「……勉強ね……恋愛はどこに行ったのかしら……?」

「喧嘩するほど仲が良いって、ああいうのを言うんだと思うな」


想像と違う。


「それは、まぁ、そうね。私もそうであってほしいと思うわ」


いつか、リドリーやコレットから、話を聞けるかしら。私は想像してみた。仲睦まじいコレットとチャーリー、それを眺める笑顔のリドリー。とっても素敵。王家との縁とすれば、ちょうどいい塩梅だ。


「早くお祝いを言えるといいなぁ。でもきっと、怒ったりするんだろうな……あ」


それで思い出したかのように、ノアは私に向き直った。


「隣国のエリナ令嬢から、ソフィアにお祝いのお手紙が届いたよ。結婚式にはご招待するの?」

「どうかしら」


リアンの見合い相手だけど、結果、それも関係ないような感じだったし、呼んだ方が良いのかしら。


「リアンに聞いてみないと」

「では、ウルソン王子は? お手紙も頂いたし、今度うちにもいらっしゃるし、呼ばれる気満々だと思うけど、お見合い相手だったよね?」

「そういう意味では、国内でも私のお見合い相手だらけよ、リアンが呼ぶ人は。外務大臣の息子だって、リドリー様だって、外すわけにはいかないもの。そんなことを気にしていられないと思うわ」


すると、ノアはクスクスと笑った。


「わだかまりもないのなら、呼んで良いということで、うちからもオッケーを出しておくことにするよ」

「何が?」

「来賓リストをいただいたので。ピアニー家として、オッケーかどうか確認してたから」

「来賓リスト? 何の?」

「結婚式だね」


結婚式?


「もうリストを? だって、……えぇと、ずいぶん先なんじゃ?」

「先って? 二年も三年も待たせるつもり? リアンはそんなに先にしたくないでしょう」

「そりゃ……でも一年くらいはあるでしょ?」

「さぁ? でも、一年後の準備は今からするものだよ。リズとアーロンだって、来賓リストを吟味してたもの」


私は首を傾げた。とはいうものの、結婚式を挙げている自分など、全く想像がつかない。


「そういうもの?」

「そういうものでしょ。ソフィアにとっては、あまり馴染みのないことだから仕方ないね。僕だって初めてだけど、準備をしていた姉たちを見てたから、なんとなくは知ってるよ」

「そう……」


帰ったらデイジーとヘンリーにどうしたらいいか聞かなくちゃ。


私が考えていると、ノアがふと言った。


「だから、ほら。今日はちょうど良いでしょう」


馬車が止まった。しばらくするとドアが開き、先に降りたノアが振り返って微笑んだ。


「本当にいい天気だね、ソフィア! お父様たちに挨拶して、快く見送ってもらいなよ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ