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鏡の中  作者: 霞合 りの
第十九章
138/154

138 魔法の研究

結局、詳しいことを正確に知りたかったら、使用人にそれとなく聞くに限る。


私は、オゼイユと話した結果、王宮からやってきたアンソニーの使用人たち、そして、アンソニーの側近であるリアンの従者ブルータスとその同僚たちに、魔法研究室について聞くことにした。


魔法研究室は、歴代王族が練ってきた構想を、アンソニーがまとめ上げて実現したものらしい。魔法の妥当性や有用性を調べたり、効果を確認し、悪影響を未然に防ぐことを目的としている。なんだかんだつまり、ニコラスが作りたかった我が国だけの専門家集団とのことだ。


またニコラスなの?


私はうんざりしたが、当時、魔法が廃れていた我が国で、私が呪いにかかり消えてしまったことで、再確認をし、研究することで、他国の魔法を使った戦略に遅れをとらなくなったというのだから、世の中わからない。


「不幸中の幸いなのです。あなた様のことがなければ、我が国は隣国に吸収されていたか、属国に成り下がっていたでしょう」


オゼイユが朗らかに言った。


「現在、魔法国家と対等に対応でき、時にはリードできるのも、ひいてはそのおかげでしょう。我が国は、魔法に対して未然の防衛を強く訴えています。時にエスカレートする魔法が人智を超え、人が制御できなくなってしまうことを見抜けたからですわ。ずっとそのスタンスを変えず、その上、それが正しいことが証明されて、他国には尊敬されるようになっているのです」

「そうでしたの」


私は頷くので精一杯で、オゼイユの顔を見ていた。少し雑談をしてみようとお茶に誘ったが、話をそらしても何度も魔法の話に戻ってしまう。もちろん、そのために来てもらったのだけど、違う話をしたっていいでしょ? なのに、ここでもずっと、やはりニコラスなのだった。


「ですから、あの鏡の研究は、私たちにとってずっと切望してきたことでした。ですが、当然ですが、門外不出の家宝として大切にされておられましたから、ピアニー家は決して許してはくれませんでした。あなた様が鏡の中にいらっしゃるからです」

「そんなこと、知りませんでしたわ」

「鏡の前ではその話はしておりませんので。あなた様に影響があっては大変だと、研究の対象になってることすら、秘密でした」


なるほど。だから私は何も知らないのか。だいたい、リアンが魔法を使えると言い出すなんて、全く思いもよらなかった。


「リアンが……魔法の練習をしていたって。本当なのですか?」

「えぇ。殿下を含め、王族近親の方で興味があれば、練習していただいております」

「みんな魔力があるものなのでしょうか?」

「魔法使いの血筋がある方なら。つまり、この辺りの王族でしたら、かつて魔法を使っていた部族が率いて国をまとめていったので、だいたい、血は継いでおられます。ただし、顕現する度合いは大きく異なるようですが」

「リアンは……どのくらいの魔力が?」

「そんなに多くではありません。数回、練習していただきましたので、少しお使いになられるのではないでしょうか。忘れていなければ」

「少し使えるのですね。わかりましたわ」


あの時言っていたのは、戯言ではないわけだ。でも、少し使えるくらいであの鏡の魔力に対抗できるはずがない。リアンったら、無茶なことを言うんだから。


私が頷くと、続く私の質問がわかったのか、オゼイユは話を続けた。


「……私のことになりますが、私は王族とは遠縁になります。ですが、顕現率が高く、魔力も高いそうなので、こうして研究室の室長を務めさせていただいています」

「あなたは、どうやってわかったのです?」

「幼い時にはまだ研究室がありませんでしたし、専門家の多いウルソン王子の国へ出向き、検査してもらいました」

「まぁ。勇気があるのですね」

「恐ろしいところではありませんわよ、ソフィア様。行く前も、不思議と怖くはなかったのです。ただ、我が国では珍しい方なので、多くの検査がありました」


なるほど。アンソニーがあれだけ焦ったのは、リアンにも微量の魔力があることがバレたら、鏡のことでまたややこしくなり、さらに帰るのが遅くなると思ったからだろう。


「大変だったでしょう?」

「それほどでもありませんわ。彼の国では魔法が根付いていて、どこでも使えるようになっていました。素晴らしい環境でした」

「それじゃ、帰ってくる方が難しかったのでは? 帰りたくないってなりませんでしたか?」


私が言うと、オゼイユはふふふと笑った。


「一瞬、思いましたけれど……でも……私は我が国の魔法のあり方も気に入っています。それに、やはり、ニコラス賢王が打ち出してくださった、未然の防衛と妥当性と有用性、自分を守るための魔法……その方針が素晴らしいと思うのです。道端に溢れているだけでは、魔力もただの魔力。簡単に魔法を使うことをためらうからこそ、正しい使い方、みんなのための魔法、そういった前向きな広がりの可能性を見出せるのです」

「それじゃ、私はどうなるのでしょう?」

「どう、と申しますと?」

「私自身が、魔法を体現しておりますのよ。私自身には魔力はないのに、魔力が注がれて、魔法に縛られてしまう。今はそうでもなくなりましたが、私の部屋は魔力で満ちている。きっと、あなたが初めて会うような、大きな力が」


私の言葉に、オゼイユは考え深げに頷いた。彼女もそれについてはかなり考えていたようで、返事はそう遅くはならなかった。


「そうですね……ソフィア様のお部屋は、とても重く……強く……美しい魔力で満ちていて、魔法がそこらじゅうでかかっているような状態でした。あの力を、魔法使いただ一人が持っていたなんて、とても信じられません」

「私もそう感じました。でも百年前に生きていた私が、こうして傷もなく、まともにあなたの前にいるのは、そのおかげなのですよね」

「えぇ……」


オゼイユは頷き、感嘆のため息をついた。


「本物の魔法は素晴らしい力がありますのね」

「恐ろしいとお思いにはならないの?」

「え?」

「私は恐ろしいのです。鏡の中にいる時は、何も疑問に思いませんでしたけど……戻ってきて、気づいたんです。この鏡の魔力はあまりにも強く、影響力が大きい。そんな風に思えました。私がここにいるのは奇跡でも何でもありませんが、逆にそれが、のちに悪事を引き起こしかねません」

「便利な力だとは、思いませんでしたか?」


私はオゼイユの言葉に首を横に振った。


「いいえ、残念ながら。もちろん、素晴らしい力だと思いましたわ。魔法の可能性がたくさんあるんですもの。研究すれば、もっと可能性が開けるに違いありません。平和的に使いこなせる日もくるでしょう」

「それでも、葬り去る方をお選びになった」

「ええ。私は国のためや世界のためなど、考えないからです。私と、私の家族のためならば、こんな力はない方が望ましいです。なくても生きていけるのですし、きっと楽しいでしょう」


私はノアの、デボラの、私の、リアンの、そして使用人たちの未来を思い描きながら言った。さらに、かつてのデイヴィッドの、ニコラスの、父の、母の未来を。


「断言なさるほど、簡単な力ではありませんよ」


オゼイユは魔法研究室の室長らしく、慎重で穏やかだった。私は否定されないことを感謝しながら、それでも、一人の人間として、考えを述べておきたかった。


「そうでしょうか? 遥か昔、……その当時はもしかしたら、この程度の力の魔法使いはたくさんいたかもしれません。でも今は、魔法は貴重なものになっています。研究を重ねられている国でもです。この力を制御できるとは思えません。本当は、責任を持って私が消そうと思っていたんですけど……鏡の魔法を解除した後のことは、考えておりませんでした。まさか部屋に残るなんて、思いませんでしたもの」

「そうですね。初めてのことです。ですが、……そのおかげで私は古い魔法に出会うことができ、消す方法を学び、それまで研究することができます。私たちに委ねていただけたことを、深く感謝いたします」

「こちらこそ、ご助力を申してでいただいて助かります。私の利己的な願いのために……人様を巻き込むのは心苦しいのですが、ぜひ……ご協力お願いします」


私が頭を下げると、オゼイユは恐縮したように頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」





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